アイアン・フィスト(アメリカ映画・2012年) |
<テアトル梅田>
2013年8月15日鑑賞
2013年8月17日記
19世紀の中国。猛獅会と群狼団が対立する叢林村に、なぜか黒人の鍛冶屋が!そして、何とラッセル・クロウ扮する謎の白人が!彼らが狙うのは5万両の金塊だが、売春宿の女主人も結構なしたたか者・・・。そんな設定で、タランティーノ流の、無国籍・無原則・何でもあり、さらにお色気もほど良くまぶされた極彩カンフー活劇が炸裂!まさに、これぞ最強の拳!
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監督・原作・脚本・音楽・出演:The RZA(本名:ロバート・ディグズ)
脚本・製作:イーライ・ロス
プレゼンツ:クエンティン・タランティーノ
ジャック・ナイフ(謎の白人男)/ラッセル・クロウ
ブラック・スミス(アイアン・フィスト、鍛冶屋の黒人男)/The RZA
マダム・ブロッサム(娼館・粉花楼(ピンク・ブロッサム)の女将)/ルーシー・リュー
ゼン・イー(金獅子の息子)/リック・ユーン
レディー・シルク(売春婦、ブラック・スミスの恋人)/ジェイミー・チャン
金剛(ブラス・ボディ)(特殊な皮膚を持つ怪人)/デヴィッド・バウティスタ
金獅子(猛獅会(ライオン会)首領)/チェン・カンタイ
銀獅子(金獅子の子分)/バイロン・マン
銅獅子(金獅子の子分)/カン・リー
毒剣鬼(ポイズン・ダガー)(謎の男)/ダニエル・ウー
ゴードン・リュウ(僧院長)/リュー・チャーフィー
ハイエナ族首領/レオン・カーヤン
ジェーン/パム・グリア
2012年・アメリカ映画・96分
配給/シンカ
<さすがタランティーノ!あの顔この顔!あの国この国!>
私は、無国籍、無原則(?)、何でもあり(?)のクエンティン・タランティーノ監督の映画が大好き。『キル・ビル~KILL BILL~Vol.1』(03年)(『シネマルーム3』131頁参照)、『キル・ビル~KILL BILL~Vol.2』(04年)(『シネマルーム4』164頁参照)はもちろん、最新の『ジャンゴ 繋がれざる者』(12年)もメチャ面白かった(『シネマルーム30』41頁参照)。また、タランティーノ監督の影響を多分に受けている(?)日本の三池崇史監督が、タランティーノ色を全面に押し出した(?)『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』(07年)もメチャ面白かった(『シネマルーム16』14頁参照)。本作はそんなタランティーノ監督のプレゼンツ作品だが、本作の監督・原作・脚本・音楽を担当したうえ、本作の事実上の主役「アイアン・フィスト」役で登場するThe RZA(本名:ロバート・ディグズ)って、一体ダレ?パンフレットによると彼は、ウータン・クランのカリスマ的なリーダーとしてヒップホップ界に君臨しながら、映画界でもそのマルチな才能を発揮しているらしい。カンフーの熱狂的マニアである彼が、タランティーノ監督の全面サポートを受けてつくった極色カンフー活劇が本作だ。
しかして、本作にはタランティーノ映画の常連女優(?)ルーシー・リューが出演する他、なんとハリウッドの大スターであるラッセル・クロウもメインキャストとして名を連ねている。さらに、銀獅子(バイロン・マン)によって殺された猛獅会(ライオン会)の首領である金獅子(チェン・カンタイ)の一人息子ゼン・イー役には、韓国のイケメン俳優リック・ユーンも・・・。本作で使われる言語は英語がメインだが、さすがタランティーノ監督プレゼンツ作品らしく、中国語もあちこちで。知ってるあの顔、この顔だけではなく、知らないあの顔、この顔もあっちこっちに。本作は19世紀の中国における叢林村(ジャングル・ビレッジ)が舞台だが、そこに群がってきたあの国、この国の男たち、女たちが織りなすハチャメチャな物語とは・・・?
<奇妙な黒人と奇妙な白人に注目!>
19世紀の中国は清の時代で、西欧列強が帝国主義的進出をしてきた時代だが、ここ叢林村では旧態依然とした武装集団同士の主導権争いが続いていた。その基本構造は、猛獅会(ライオン会)と群狼団(ウルフ団)の抗争だが、その前に猛獅会では銀獅子と銅獅子(カン・リー)の2人が、首領の金獅子を殺害してしまうという波乱が発生。村から離れて恋人とイチャイチャしていた一人息子のゼン・イーが、父親の敵討ちのため叢林村に戻らなければならなくなったところから、ストーリーが展開してくる。銀獅子が送った刺客は簡単に返り討ちにあってしまったため、新たに銀獅子が雇った殺し屋は、戦いになると全身が黄金のメタルに変化する金剛(ブラス・ボディ)(デヴィッド・バウティスタ)。これでは、全身に武器を仕込んだX刀を操るゼン・イーも歯が立たず、今や絶体絶命のピンチに・・・。こんな風に叢林村で起きる主導権争いは、平家と源氏が争った『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』と同じだが、本作が大きく異なるのは、そこに奇妙な黒人と奇妙な白人が混じることだ。
映画冒頭「武器づくりに必要なものは3つある。“良質な鋼”、“1400度を超える炎”、そして“命を狙う者”。叢林村にはそのすべてが揃っていた。」とのナレーションによって、本作の「テーマ」が示される。そして、頭部をマントで被ったまま黙々と武器づくりに精を出す黒人ブラック・スミス(The RZA)の姿が映し出される。他方、「ハリウッドの至宝」ともいうべき名俳優ラッセル・クロウ扮する謎の男ジャック・ナイフが、本作冒頭ではこれ以上スケベな西洋人はいないのでは?という風情でマダム・ブロッサム(ルーシー・リュー)が経営する娼館・粉花楼(ピンク・ブロッサム)を訪れ、3人の女を注文。彼が操る武器も奇妙なものだが、西洋式だけに殺傷力は強そうだ。本作では、そんな奇妙な黒人と奇妙な白人に注目!
<純愛あり!友情あり!そしてアイアン・フィストへ!>
売春宿で働く可憐な女と、その女に恋い焦がれ、身請けのために必死で働く男。そんな構図は日本でもよく小説や映画で描かれるが、19世紀の中国でなぜ黒人の鍛冶屋がそんなことを?そんな歴史的ストーリーは、本作後半に白人と黒人の連合軍が形成される中でブラック・スミス自身の口から語られるので、それを自分自身の目で。本作には多くの屈強でキャラ豊かな男たちが登場するが、顔を見ればおおむね善人と悪人が峻別できるからありがたい。しかし、父親の敵を討つために叢林村に戻ってきたのに、あっけなく銀獅子の用心棒たる金剛に敗れてしまったゼン・イーを、なぜ鍛冶屋が助けたのかについてはイマイチ説明不足。また、叢林村の中で、猛獅会の武器も群狼団の武器も注文のままにつくり、独立独歩のスタンスで生きているブラック・スミスは立派だと思っていたが、ゼン・イーをかばったことがバレて銀獅子のもとに拉致されると、意外にもブラック・スミスは無力。本作の登場人物の中でカンフーができないのは、ひょっとしてこのブラック・スミスだけ?本作はR-15指定されていないが、このブラック・スミスの左右の両腕がひじのところで切り落とされるシーンは、思わず目をそむけてしまうほどだ。この後はねずみのエサにされてしまうらしいが、さてその後のブラック・スミスの運命は?
ゼン・イーもやられ、それをかくまったブラック・スミスもこんな風にやられてしまったが、そんなブラック・スミスを救い出したのが、なぜか謎の白人ジャック・ナイフ。その後の対面の中で、もともとアメリカで奴隷生活をしていたブラック・スミスが、なぜ中国の叢林村にやってきて鍛冶屋をやっているのかが語られるが、その人生は壮絶!そんな男なればこそ、純愛あり、友情ありの生き方に納得できるうえ、その後アイアン・フィスト(鉄拳)に変身していく本作後半のストーリーにも納得!
<5万両の金塊の強奪戦の行方は?>
タランティーノ監督の『キル・ビル~KILL BILL~Vol.1』は美しい日本庭園を持つ日本料理店「青葉屋」を舞台としたさまざまな死闘が売りモノだったが、5万両の金塊を巡る本作ラストの決戦の舞台は、粉花楼。そこには意外にも清代特有の秘密の地下通路があり、銀獅子たちが奪った清政府の金塊5万両はそこに隠されていた。すると、マダム・ブロッサムは銀獅子たちとツーツーの仲?輸送中の大金をめぐる強奪戦や埋蔵金をめぐる強奪戦は昔からよく映画のテーマとされているが、本作もそれ。そんな争奪戦の中、クライマックスに向けて少しずつ明らかにされる白人ジャックの正体は?
輸送中の5万両の金塊には双飛(ジェミニ)夫妻という剣技の達人が護衛についていたが、銀獅子と銅獅子が率いる猛獅会との戦闘中に、謎の男・毒剣鬼(ポイズン・ダガー)(ダニエル・ウー)が放った吹き矢によって死亡。お色気たっぷりのホットパンツ姿の妻と2人で舞いかつ戦う双飛夫妻のアクションは面白いが、ジャックが調べたところ、この吹き矢の毒には水銀が含まれているらしい。しかして、あの時期に水銀を操れる男とは一体何モノ・・・?
<クライマックスは重量級の激突!>
他方、権力争いの中マダム・ブロッサムが悠々と売春宿を経営しているのは、うまく権力者と結託しているから、と普通は相場が決まっている。しかし、The RZAの脚本はそんな通り一遍のものではなく、マダム・ブロッサム率いる売春宿の女たちも、かつて日本で一世を風靡した「くの一」忍者のような男殺しの秘技を駆使して5万両の金塊に迫ってくるから、それにも注目!カンフーを中心とした本作のアクションはどれも楽しいが、クライマックスの見モノは金剛とアイアン・フィストとの重量級の激突。ブラック・スミスの武器はアイアン・フィスト(鉄拳)だけだから、全身鋼鉄の金剛には太刀打ちできないのでは?一瞬そう思わされるものの、黒人ながら中国の僧侶たちの下で精神と武術の修行を積み、「解脱」までしたブラック・スミスのカンフー技は並の人間のものではない。
クライマックスではそんな鉄と鉄とのぶつかり合いの迫力をスクリーン上でたっぷりと堪能したい。そして、ラストに見るジャックの姿は冒頭のあのスケベおやじから、一変して・・・。なるほど、こうなりゃ、めでたし、めでたし。
2013(平成25)年8月17日記