セイフヘイヴン(アメリカ映画・2013年) |
<テアトル梅田>
2013年11月9日鑑賞
2013年11月12日記
恋愛小説の旗手ニコラス・スパークス作品、8本目の映画化はミステリーに挑戦!?冒頭のスリリングな緊張感と、その直後に訪れるオーソドックスなラブストーリーとの落差が面白い。自分の恋人が一級殺人罪で指名手配されているのを知った時のショックは、あなたなら・・・?ヒロインのキュートな魅力がベースだが、もう一人の隣人の女性にも注目!ちょっとおせっかいだが、いいお友達と思っていると・・・?ああ、やられた!その心地よさをタップリと!
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監督:ラッセ・ハルストレム
脚本:ダナ・スティーヴァンス、ゲージ・ランスキー
原作:ニコラス・スパークス『セイフヘヴン』(SBクリエイティブ刊)
アレックス(2年前に愛妻を亡くした雑貨店の店主)/ジョシュ・デュアメル
ケイティ(レストランのウェイトレス)/ジュリアン・ハフ
ジョー(ケイティの隣に住む女性)/コビー・スマルダーズ
ケヴィン(ケイティの元夫、警察官)/デヴィッド・ライオンズ
レクシー(アレックスの娘)/ミミ・カークランド
ジョシュ(アレクッスの息子)/ノア・ロマックス
ポニーキャニオン配給・2013年・アメリカ映画・116分
<この作家の小説は8本も映画に!>
村上春樹の小説は全世界で翻訳されて読まれているが、「現代恋愛小説の旗手」と呼ばれているアメリカの作家ニコラス・スパークスも著書のすべてがニューヨークタイムズのベストセラー・リストに載り、出版された本の数は、全世界で9000万冊、全米だけで5000万冊以上にのぼるというから、すごい。さらに村上春樹の小説は『ノルウェイの森』(11年)(『シネマルーム25』未掲載)が映画化されただけだが、スパークスの小説は第2作の『メッセージ・イン・ア・ボトル』(98年)がケヴィン・コスナー主演で映画化された他、本作で8本にのぼるというから、すごい。私が観た『きみに読む物語』(04年)(『シネマルーム7』112頁参照)も彼の原作だ。
ネブラスカ州出身のスパークスはアメリカ東部を好んで作品の舞台にしているそうだが、その場合、マンハッタンやワシントンD.C.、フィラデルフィア、ボストンなどの大きな都市を避け、本作の舞台となったサウスポートのような小さな町を取り上げているらしい。それはきっと、そんな小さな町の方が良くも悪くも人間と人間との繋がりが濃密なため、人間ドラマとして描きやすいためだろう。それは、狭い空間を舞台とせざるをえない「潜水艦モノ」の面白さは人間ドラマの濃密さにあると、私が常々言っていることとイコールだ。さらに、ニューヨークの摩天楼はメグ・ライアンお得意のラブコメの舞台には適しているが、スパークス流のしっとりとした恋愛ドラマの展開には、東部の小さな町、しかも風光明媚な港町の方が向いているということだろう。
もっとも、本作でサウスポートが舞台となったのはほんの偶然。それは、本作のヒロイン、ケイティ・フェルドマン(ジュリアン・ハフ)が、『風と共に去りぬ』(39年)の舞台であり、『タラのテーマ』で有名なアメリカ南部の都市アトランタ行きの長距離バスに乗ったにもかかわらず、15分間の途中休憩のために立ち寄ったサウスポートの町を見て一目で気に入り、目的地へのバスの権利を放棄してしまったためだ。しかして、ケイティはなぜ一人でバスに?また、このサウスポートの町でなぜ途中下車を?
<出会いのパターンは?なるほど、こういう出会いも>
小説はすべて作りものだから、恋愛小説の場合、作家の想像力によって男女の出会いのパターンは何万通りでもつくり出すことができる。本作に見る雑貨店(今どき、コンビニでないこんな店があることに驚き!)の店主アレックス・ウィートリー(ジョシュ・デュアメル)とケイティとの出会いは、アレックスの小さな娘レクシー(ミミ・カークランド)を介したものだが、なるほど、なるほど・・・。アレックスの商売を雑貨店と設定したことによって、森の中にひっそりと建つ古いキャビンを借りて一人で住むことになったケイティと、アレックスとの接点が日常的に生まれることになる。
2人の出会いがそれなら、その発展の契機は、車を持たないケイティが重い買い物に苦労しているだろうと考えたアレックスがケイティに対して中古の自転車をプレゼントしたこと。これもきっかけづくりとしてはうまい方法だが、ここでスパークス流の「ヒネリ」を効かせているのが、ケイティのすぐ隣のキャビンに住んでいるという女性ジョー(コビー・スマルダーズ)の登場だ。いくら興味があるからといって、留守中に他人の家の中をのぞき回るというのは悪趣味だが、ケイティとジョーはそんな出会いからお友達になっていくから不思議なものだ。これは、2人とも女一人で森の中のキャビンに住んでいるという互いに謎の部分を感じ合い、それに魅かれあったためだろうが、この女同士の「距離感」が現実離れしていながら何となく居心地がいいのがスパークス流だ。
ジョーの言葉によると、「南部では要らないものでももらうのが礼儀」だそうだ。その結果、かたくなにアレックスから自転車のプレゼントを拒み、必要以上に地元の人と親しくなるのを避けようとしていたケイティは態度を改め、「サンキュー」と言ってアレックスから自転車を受け取った。しかして、その日以降の2人の(男女)関係の進展は・・・?
<本作はラブストーリー?でも、冒頭のシーンは・・・?>
バスに乗って一人サウスポートの町に降り立ったケイティは、短い金髪でどこか謎めいたところはありながらもイキイキとした美女だから、アレックスならずとも興味を示すのは当然。男女の出会いのパターンが何万通りあっても、やはり魅力的な女性でなければ男が興味を示すのは無理というものだ。ところが、本作冒頭にはケイティが長い黒髪で黒いドレスを着たままどしゃぶりの雨の中を血相をかえて走り出し、とある家の中に入っていくシーンが登場する。そして、警察が厳重に検問を敷く中、髪を短く切り、ブロンドに染め、妊婦のような変装をして慌ただしくバスの中に乗り込んでいくシークエンスが描かれる。動いているバスも警察官が停めて乗客をチェックしているから、アトランタ行きに乗ったケイティが無事検問を突破できたのは奇跡に近い。しかして、なぜ本作冒頭にこんなシークエンスが・・・?
近時の日本では警察官の不祥事が相次いでいるが、ハルストレム監督が必要に応じてチラチラと見せていく本作の裏ストーリー(?)が、警察官の夫ケヴィン(デヴィッド・ライオンズ)とケイティとの「もめごと」らしい。私は本作の予告編を3回観たが、そこでは金髪のショートカットの女ケイティが一級殺人罪の容疑者として指名手配されている写真をアレックスが見て驚くシーンが印象的だった。似顔絵入りの指名手配の用紙を掲示板に貼り出すためには、当然警察の組織挙げての承認・決済が必要だが、さてケヴィンはそれをとっているの?犯人逮捕の執念を燃やし、命の危険も顧みず、また公私混同も辞さずに捜査に邁進する警察官の姿は映画によく登場するが、自分の妻を一級殺人罪で指名手配するのは一体どういうこと・・・?ペットボトルの中にウィスキーを入れ、それを飲みながらの捜査は如何なものだから、そんな警察官のケヴィンが署長から「停職!」と言い渡されたのは当然だが、一体ケイティとケヴィンとの間には何があったの?
<ラブストーリーは定番どおりに・・・>
年齢も65歳近くとなり、かつ弁護士生活を40年間も続けていると、男女間のラブストーリーの展開の手法についてはある程度見えてくる。自転車のプレゼントが「南部では要らないものでももらうのが礼儀」という問題ではないことは最初から明らかだが、アレックスの側からの破れた床をペンキで塗ることに対するアドバイス、海水浴やカヌーへのお誘い、そしてケイティの側からのペンキ塗りの出来ばえチェックのお願い、等のやりとりを見ていると、まさにラブストーリーの定番がてんこ盛り。カヌーでのデートの際の「どしゃぶり騒動」なんぞは、デートの盛り上げ方の王道そのものだ。それもこれも当然「ケイティがいい女だから」という前提がつくわけだが、こんな風に2人の仲が盛り上がり、ベッドインも済ませ、アレックスの2人の子供もケイティに懐きいよいよこれからハッピーなことばかり。
そんな状況下で、アレックスがケイティの指名手配書を見たから、アレックスはビックリ!「君は一体何者なんだ?」、「これ以上僕や僕の家族を巻き込まないでくれ!」、「何も言わず目の前から消えてくれ!」と、叫んだのはある意味当然だが、さてそれは本心?それとも・・・?
<亡き妻を愛していても、なおかつ・・・>
本作は、最後の最後に登場するあっと驚く展開が最大のポイント。しかし、それをここで明かすことができないのは当然だから、それはあなたの目でしっかり確認してもらいたい。もっとも、少しうがった(疑いの目?)で、本作の展開を見ていると、あちこちに少し不自然なところ(?)が目につくはずだ。インド人監督M・ナイト・シャマラン監督の『シックスセンス』(99年)では、作品に隠されている「ある秘密」に観客がいつ気付くかがポイントだったが、さて本作では・・・?
それはともかく、アレックスの妻がなぜ亡くなったのかはストーリーの中では全然明かされないが、アレックスが亡き妻を深く愛していたこと、そして今は2人の子供と共にその喪失感から立ち直ろうと必死になっていることはまちがいない。そんな状況下で美しい金髪の女性ケイティと出会い、深く愛するようになると、アレックスは亡き妻に対して申し訳ないという気持と、きっと許してくれるだろうという気持が錯綜していたはず。その結果、今もそのまま残している亡き妻の部屋の中に入り、その引き出しの机の中に妻が〇〇や△△の節目の時に開けるように指示している「手紙」を開けようとしたが、さてその手紙の中には一体何が書かれているの?また、母親を深く愛していた父親が、母親死亡後別の女性と結婚し、新しい母親が登場してくることに幼い子供たちが敏感に反応するのは当然。母親の記憶の少ない妹のレクシーはケイティの登場を喜んでいたが、今なおアレックスと同じように母親の喪失感から抜け出せない長男のジョシュ(ノア・ロマックス)はケイティと仲良くなっていくことにいかなる感情を・・・?
このように、本作は深く愛していた亡き妻の姿を全く登場させないまま、亡き妻の存在感が大きいところがミソだ。しかして、アレックスはケイティとのベッドインも済まし、ケイティを深く愛するようになった今、亡き妻への気持をどのように整理していくの?そんな点に十分興味を持ちながら、スパークス原作の本作のラストに迎える、あっと驚く展開をしっかり確認したい。
2013(平成25)年11月12日記