ハワイ・ミッドウェイ大海空戦 太平洋の嵐(日本映画・1960年) |
<シネ・ヌーヴォ>
2014年5月31日鑑賞
2014年6月4日記
故松林宗恵監督の『連合艦隊』(81年)は名作だったが、それより21年前に同監督が、真珠湾奇襲からミッドウェイ作戦まで6カ月間の「連合艦隊」の「活躍」を、ある飛行士の視点からイキイキと。
南方作戦とは?ミッドウェイ作戦とは?そして、連戦連勝の連合艦隊はなぜ敗北したの?
「これが戦争だよ」。そんなセリフを反芻しながら本作を鑑賞し、今の時代の生き方を考える一助としたい。
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監督:松林宗恵
第二航空戦隊空母飛龍
北見中尉/夏木陽介
松浦中尉/佐藤充
梅崎軍医中尉/太刀川寛
友成大尉/鶴田浩二
深瀬大尉/小泉博
谷川一飛曹/西條康彦
飛行長/平田昭彦
機関長/小杉義男
通信参謀/伊藤久哉
機関参謀/大友伸
航空参謀/土屋嘉男
先任参謀/池部良
加来艦長/田崎潤
山口多聞(第二航空戦隊司令官)/三船敏郎
連合艦隊
山本五十六(連合艦隊司令長官)/藤田進
第一航空戦隊空母赤城
整備参謀/堺左千夫
通信参謀/宝田明
戦務参謀/小林桂樹
航空参謀/三橋達也
作戦参謀/加東大介
草鹿参謀長/上原謙
南雲忠一(第一航空艦隊司令長官兼第一航空戦隊司令官)/河津清三郎
民間人
啓子(北見の婚約者)/上原美佐
サト/三益愛子
藤作/志村喬
マサ/三田照子
校長/榎本健一
村長/林幹
在郷軍人/勝本圭一郎
村会議員/土屋詩朗
東宝配給・1960年・日本映画・118分
<追悼!松林宗恵監督!>
人生にはいろいろな出会いがある。弁護士家業を40年もやっていると、法曹界だけではなく、実業界、マスコミ、映画界、音楽界、落語界等々、人の縁を通じて時として著名人と直接知り合い(単なる名刺交換?)になることもある。2009年8月15日に満89歳で亡くなった松林監督もその一人だ。ある人が主催する著名人の集まるゴルフコンペではじめてお会いした時、その名前を聞いて、「えっ、あの映画監督?」と思った分だけ偉いものだ。
中井貴一のデビュー作となった『連合艦隊』は1981年公開だから、私が弁護士として独立後、最も忙しく活動していた時期。したがって、公開時に劇場で観た記憶はないが、その後のTV放映で何度も観たから、その内容はよく知っている。また、カラオケ大好き人間の私にとって、谷村新司が歌う『群青』という『連合艦隊』の主題曲は、ちょっと長すぎるため歌うと大体嫌がられるものの、私のスタンダードナンバーになっている。ちなみに、2014年2月18日以降、デアゴスティーニ・ジャパンは「東宝・新東宝 戦争映画 DVDコレクション」と題して全30作のラインナップを発表したが、その第1作目がこの『連合艦隊』だ。1作目は990円という特別価格になっていることもあって私はすぐに購入し、60インチのTVで鑑賞したが、そりゃいいものだった。とりわけ、海辺に立った森繁久彌が死亡した息子をしのんでいる最後のシーンで流れる主題歌は、最大のボリュームにして聞いていると思わず涙が・・・。
その松林監督が1960年に監督したのが本作だ。松林監督には、本作と『連合艦隊』の他、『人間魚雷回天』(55年)、『潜水艦イー57降伏せず』(59年)、『太平洋の翼』(63年)もあるが、やはり『連合艦隊』が彼の戦争映画の集大成だ。
<本作が描くのは、開戦からの6カ月間>
東宝は1967年から1971年まで①『日本のいちばん長い日』(67年)、②『連合艦隊司令長官 山本五十六』(68年)、③『日本海大海戦』(69年)、④『激動の昭和史 軍闘』(70年)、⑤『激動の昭和史 沖縄決戦』(71年)と「8・15シリーズ」を続けたが、残念ながらそれ以上は続かなかった。しかして、その後10年を経過した時点での、再度の「戦争大作」の企画が『連合艦隊』で実現した。『連合艦隊』というタイトルにしたため、そこで描かれる日本海軍の戦いは①ハワイ、②珊瑚海、③ミッドウェイ、④マリアナ沖、⑤台湾沖、⑥レイテ、⑦坊の岬沖と多岐にわたっている。もっとも、①ハワイ奇襲、②ミッドウェイ戦は、本作を含むかつての戦争映画の流用カットが散見される等、多少手を抜き(?)、メインは⑥レイテ沖と⑦大和特攻作戦とされている。2時間の映画ですべての海戦を描くことができないのは当然だから、そんな構成はやむをえない。
そんな『連合艦隊』に対して、本作が描くのは、①真珠湾奇襲作戦の成功から、②南方作戦の展開、そして③ミッドウェイ海戦での敗北までの約6カ月間だ。真珠湾奇襲作戦の成功後、連合艦隊が「南方作戦」に従事したのは、艦隊の運用に不可欠な石油を入手するためであることが本作を見ればよくわかるが、なぜ連戦連勝だった連合艦隊はミッドウェイ海戦で敗北したの?そこらあたりの(つらい)現実を本作からしっかりと学びたい。
<あちらが兵学校のエリートなら、こちらは?>
『連合艦隊』の主役は、いかにも初々しい中井貴一扮する小田切正人と永島敏行扮する本郷英一。彼らは海軍兵学校を卒業したエリート軍人だが、松林監督は、小田切正人については、兵曹長で戦艦「大和」に乗船する父・小田切武市(財津一郎)とのつながりを、英一については婚約者の陽子(古手川祐子)との結婚、兄に続いて兵学校を目指す弟の眞二(金田賢一)とのつながりを描いた。そして、そのことが、『連合艦隊』を単なる戦争映画とは大きく異なるものとしていた。その意味では、英一の父親を演じた森繁久彌も含めて、松林監督は「現在の日本の繁栄は無名の英霊達の犠牲の上に成り立っているのではないか、息子達を戦場に送り出した父母の思いは如何だったのか?」との想いを、色濃く『連合艦隊』に反映させている。
それに対して、同じ松林監督がその21年前に作った本作の主人公は、空母「飛龍」の艦載機、九七式艦上攻撃機に乗る飛行士・北見中尉(夏木陽介)だ。九七式艦上攻撃機は3人乗り。機長の友成大尉(鶴田浩二)とタイミングをあわせて、魚雷や爆弾を投下するのが主な任務だ。同じ「飛龍」に乗る北見中尉の友人・松浦中尉(佐藤充)と共に、『連合艦隊』に見るエリート軍人に比べると陽気そのもので、何事もイケイケドンドンの雰囲気がある。
もっとも、『連合艦隊』の小田切や本郷と同じように、本作の北見も東北の田舎出身で、母一人だけの手によって息子を兵学校に入れたのだから大変だ。北見はその故郷に住む啓子(上原美佐)との結婚が秒読みだが、いつ死ぬかもしれない飛行機乗りの身では、素直に結婚に踏み切れないのが悩みらしい。しかし、南方作戦の帰路、機上で友成大尉に相談すると、結論は意外にあっけなく・・・。
ここでよく考えてみると、『連合艦隊』に見る小田切と本郷も、本作に見る北見も共に20~25歳くらいの若者。要するに、今ドキの大学生や法科大学院生たちと同じ年頃だ。しかして、あの時代、彼らはそこまで考え、そこまで勉強し、そこまで行動していたのに・・・。
<南方作戦の意味は?ミッドウェイ作戦の意味は?>
ハワイ真珠湾への先制奇襲攻撃は連合艦隊司令長官・山本五十六(藤田進)が固執した作戦だったが、本作ではそこに見る華々しい大戦果の後、連合艦隊の主力空母が「南方作戦」に従事する様子が要領よく説明されていく。そして、真珠湾奇襲から約半年後の6月5日のミッドウェイ作戦に移るわけだが、さてそのテーマはナニ?
山本長官にしても、本作で重要な役割を担う第二航空戦隊を率いる山口多聞司令官(三船敏郎)にしても、真珠湾で米戦艦はたたいたものの、空母群がいなかったことが気がかりだった。そこで、これをたたくためには、ミッドウェイ島への上陸作戦を決行することによって、空母群をおびき出し、これを一気に殲滅する作戦が不可欠だったわけだ。
ミッドウェイ作戦に動員された日本海軍の総力は、それまでの海戦史に類を見ないものだったが、開戦以来半年間も連戦連勝が続く中、やはりどこか気が緩んでいたのでは・・・?南方作戦の狙いは石油の確保。山本長官との打ち合わせの中でそれを確認し、いよいよアメリカ空母たたきとミッドウェイ島の制圧というミッドウェイ作戦に移ったわけだが、よく考えてみれば、これは二兎を追うことになるのでは・・・?
<失敗の原因は?山口多聞司令官に注目!>
『永遠の0』(13年)は戦争映画としては異例の長期上映となったうえ、約86億円という予想以上の興行収入を挙げたのは喜ばしい限り。他方、「日米開戦70周年」を記念して作られた『聯合艦隊司令長官
山本五十六』(11年)(『シネマルーム28』91頁参照)の興行収入は、15億3000万円だった。『永遠の0』では、何としても生き延びたいといつも主張しているゼロ戦乗りの宮部久蔵(岡田准一)が、「ミッドウェイ作戦」における雷装→爆装→再度の雷装に猛反対していたが、一介のゼロ戦搭乗員にすぎない宮部にそんな発言をする権限などない事は『シネマルーム31』134頁で指摘したとおりだ。
ミッドウェイ海戦の展開において、『聯合艦隊司令長官 山本五十六』でも、飛龍・蒼龍という2隻の空母を中心とした第二航空戦隊を率いる阿部寛扮する山口多聞司令官がいい役割を演じていたが、本作でその役割を演じたのが三船敏郎。したがって、本作における三船敏郎+飛龍の加来艦長を演じた田崎潤と、『聯合艦隊司令長官 山本五十六』における阿部寛と飛龍艦長のコンビをしっかり比較したい。他方、赤城・加賀という2隻の空母を中心とした第一航空戦隊の司令官兼第一航空艦隊司令長官の南雲忠一や、草鹿参謀長らのバカさ加減に『聯合艦隊司令長官 山本五十六』ではうんざりだったが、さて、本作ではその点を松林監督はいかに描いているの?
<これが戦争!これを機にDVD全号申し込みを!>
真珠湾奇襲攻撃の時は敵の反撃はほとんどなく、被害も微少。それは南方作戦でもほぼ同じだった。しかし、ミッドウェイ作戦ではミッドウェイ島の軍事施設をたたくべく、友成機長と共に九七式艦上攻撃機に乗った北見中尉は、地上からの火砲の量にビックリ。また敵戦闘機の反撃もこれまでにないものだった。そこで、友成が打電したのが「第二次攻撃の要ありと認む」だったが、空母赤城に乗る南雲司令長官はこれをどう判断?ミッドウェイ作戦では「敵空母がどこにいるか?」が最大のポイントだったが、その発見が少し遅れたことが致命的欠陥だったし、敵空母発見の報告を受けた後の南雲司令長官の判断ミスがミッドウェイ作戦失敗という結果を招くことになったわけだ。
北見中尉の乗った九七式艦上攻撃機も右翼に被弾していたが、再度魚雷を積んで敵空母に向かうくらいは問題なし。そう思って準備していたが、友成機長を失い、松浦中尉を失い、あげくの果ては赤城、加賀、蒼龍の他、飛龍までも失い、自らは海中を泳いで駆逐艦に救助される結果になろうとは・・・?友成機長はよく「これが戦争だよ」と言っていたが、まさにそんな現実が北見中尉の目の前に広がったわけだ。しかして今、北見中尉はあの時の戦友たちと共に病院の中にいたが、以降の大本営の情報操作方針に沿ったミッドウェイの生き残りたちの処遇は・・・?
本作の鑑賞を契機として創刊号だけ購入していたデアゴスティーニ・ジャパンの「東宝・新東宝 戦争映画 DVDコレクション」全号を購入することにしたので、ヒマを見つけて片っ端から鑑賞しなければ・・・。
2014(平成26)年6月4日記