オール・ユー・ニード・イズ・キル(アメリカ映画・2014年) |
<TOHOシネマズ西宮OS>
2014年7月6日鑑賞
2014年7月8日記
日本人作家・桜坂洋の原作がハリウッドで、しかもトム・クルーズの主演で映画化!そんな「吉報」に喜ぶのもいいが、そもそも「タイム・ループもの」は映画に適しているの?
何度死んでも生き返る。そんなことができれば学習効果は絶大だが、観ていて何となくバカバカしくなることも・・・。
ラストのあっけなさも含めて、この手の「ハリウッド大作」には違和感が・・・。
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監督・製作総指揮:ダグ・ライマン
脚本:クリストファー・マッカリー、ジェズ&ジョン=ヘンリー・バターワース
原作:桜坂洋『All You Need Is Kill』(集英社スーパーダッシュ文庫刊)
ウィリアム・ケイジ(米軍のメディア担当将校、J分隊に転属)/トム・クルーズ
リタ・ヴラタスキ(「ヴェルダンの女神」と称される女性兵士)/エミリー・ブラント
ファレウ曹長(J分隊を指揮する百戦錬磨のベテラン兵)/ビル・パクストン
ブリガム将軍(統合防衛軍の司令官)/ブレンダン・グリーソン
スキナー(J分隊の一人、抜け目ないイギリス兵)/ジョナス・アームストロング
キンメル(J分隊の一人、運動神経が鈍そうな男)/トニー・ウェイ
グリフ(J分隊の一人、ズケズケものを言うエキセントリックな男)/キック・ガリー
フォード(J分隊の一人、分隊最年少で傲慢な男)/フランツ・ドラメー
クンツ(J分隊の一人、寡黙で観察力が鋭い男)/ドラゴミール・ムルジッチ
ナンス(J分隊の一人、野性的な紅一点)/シャーロット・ライリー
ワーナー・ブラザース映画配給・2014年・アメリカ映画・113分
<消極的選択で本作を鑑賞>
本作については予告編を何度か観ればそれで十分と思っていたが、TOHOシネマズ西宮OSまで行って『トライセンデンス』(14年)を観るついでに、本作を鑑賞。どうせついでに観るなら、ケヴィン・コスナー主演の『ラストミッション』(14年)と思っていたのだが、ネット情報によると、これはあまり評判がよくない。そこで、急遽本作に乗り換えたわけだが、新聞評論における前評判はかなりグッド。『キネマ旬報』7月下旬号でも、『ラストミッション』は4、3、2点(計9点)だったが、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』は4、3、5点(計12点)と評価は高かった。
映画冒頭における、地球乗っ取りを企むエイリアンの群れである「ギタイ」を殲滅するべく、東からは「中・ロ軍」が、西からは「統合防衛軍(UDF)」が挟み撃ちの作戦を遂行するという設定も、それなりに納得。トム・クルーズの将校姿も、『ワルキューレ』(08年)(『シネマルーム22』115頁参照)と同じようにやっぱりカッコいい。しかし、統合防衛軍司令官・ブリガム将軍(ブレンダン・グリーソン)のもとに出頭したウィリアム・ケイジ(トム・クルーズ)が命じられた任務とは?
<タイム・ループ(能力)とは?>
本作におけるケイジは、『ラストサムライ』(03年)におけるネイサン・オールグレン大尉のような真の勇者(『シネマルーム3』137頁参照)ではなく、メディア担当将校で、実戦経験など一度も無いうえ、血を見ることすら耐えられないというヤワ男。トム・クルーズの演技力は折り紙付きだから、本作導入部におけるブリガム将軍とケイジとの「掛け合い」に見るユーモラスなシーンは映画としてはそれなりに納得だが、さて、肝心のストーリーは?
その後、ファレウ曹長(ビル・パクストン)率いる「J分隊」の一員に無理矢理入れられ、機動スーツを着せられて最前線に出撃させられたケイジは、否応なくスティーヴン・スピルバーグ監督の『プライベート・ライアン』(98年)における「ノルマンディー上陸作戦」ばりの激しい戦闘シーンに参加することに。しかし、開戦5分でケイジはあっけなく戦死。アレレ・・・。そこから、桜坂洋原作の本作の特徴である、タイム・ループの世界に入っていくことになる。
謎の侵略者ギタイの血を浴びたためケイジが身につけた、ギタイが持っているというタイム・ループ(能力)とは、「蓄えた知識と経験を過去にフィードバックし、過去の事象を改変させる能力」のこと。と言われても何のことかよくわからないが、現象面だけわかりやすく言えば、死ぬ度に過去の情報を持ったまま何度でも生き返るということだ。これなら、死んでも生き返る度に前の失敗をしないで済むから、戦いに勝つのは当たり前。一度じゃんけんに負けても、もう一度同じ相手とじゃんけんできれば勝つのは決まっているわけだ。しかして、それを観客にわからせるためか、スクリーン上では何度も何度もケイジが殺されては生き返り、J分隊で曹長とやり合うシーンが再現される。もちろん、それは少しずつ違っているわけだが、そんなシーンをくり返しくり返し何度も観ていると、いい加減うんざり。
<アイデアは面白いが・・・>
何度も観た予告編では、エミリー・ブラントもトム・クルーズと同じように「機動スーツ」を着て戦場でケイジを鼓舞激励しながら戦っている姿は印象的だった。しかして、「ヴェルダンの女神」という称号を持った、リタ・ヴラタスキ(エミリー・ブラント)の勇姿が大写しになっている「兵士募集」の看板は、ジャンヌ・ダルクを彷彿させるものがある。ストーリーが進行するにつれて、リタもケイジと同じようにタイム・ループ能力を身につけていたのに、ある日負傷して輸血を受けたため、その能力が失われたらしいことがわかる。そんなリタだからこそ、誰にも理解できないケイジのタイム・ループ能力を理解し、その「活用」を図ろうとするのが本作の本筋だ。なるほど、なるほど・・・。
他方、このクソややこしい現象を理論的に説明する男がグリフ(キック・ガリー)だが、この説明を聞いていると、だんだん鬱陶しくなってくる。何度も何度もケイジを殺すことによって、ケイジが次第に屈強で知略に富んだ最強の兵士に成長していく過程はよくわかるが、その最終目標として、ギタイの中枢部とどのように戦うのかは、その手のテクノロジーに弱い私にはチンプンカンプン。したがって、アイデアは面白いが、その戦略・戦術の立て方が全く理解できないため、いい加減うんざり。
<敵は本能寺!ではなく、敵はギタイ・オメガ!>
NHK大河ドラマ『軍師官兵衛』は、来週7月13日の日曜日に中盤の山場となる「本能寺の変」となるが、私は落語家の春風亭小朝が演じている明智光秀にどうも違和感がある。私のイメージでは、明智光秀は理知的でシャープな男だから、あのような小太りな中年男とはイメージがかなり違うわけだ。それはともかく、明智光秀が織田信長への謀反を決意し、「敵は本能寺にあり!」と行動した理由について、近時は「四国『征伐』回避説」、つまり、信長の四国「征伐」を回避するために本能寺の乱を起こしたとする説が有力に主張されている。これは、近時新たに発見された、明智光秀の家臣・斎藤利三が姻戚関係にある四国の長宗我部元親に宛てた書状という新証拠にもとづくものだから、きわめて興味深い。その説が有力になれば、今後の織田信長をテーマとしたドラマは、筋書きが大きく変わってくるはずだ。
しかして、本作ではタイム・ループをくり返す中でケイジはギタイに関するさまざまな情報を集め、ギタイを倒すための方策を練ったが、その結果辿り着いたのは、ギタイの中枢部であるギタイ・オメガを発見し、それを倒さなければ何にもならないということ。ギタイ・オメガとは、全ギタイの管理中枢部=司令塔。つまり、織田軍団の司令塔たる織田信長と同じだ。しかして、ケイジとリタが辿り着いた結論は、「敵は本能寺!」ではなく、「敵はギタイ・オメガ!」だが、さて、ギタイ・オメガはどこに身を潜めているの?そして、ケイジはどのようにしてそれを発見し、撃滅するの?
<戦争のゲーム化!その感覚に違和感あり!>
地球を襲ってくるエイリアンに対し、地球防衛軍を結集して対抗。最終的に、エイリアンを撃滅するというストーリーは荒唐無稽だが、多少なりともその現実性はある。日本人作家・桜坂洋の小説『All You Need Is Kill』は、そんな近未来に起きるかもしれない物語を軸にタイム・ループを取り入れたものだから、独創性に富んでいる。そんな小説が人気を得た理由の一つは、戦争ゲームとしての面白さにある。機動スーツも現在の技術の延長だから、近い将来、国連軍の精鋭はこれと同じような機動スーツを着ている可能性は高い。
他方、本作のようなSF映画の面白さの決め手になるのは、ギタイのクリーチャー。近々公開されるハリウッド版『ゴジラ』(14年)は、1954年に日本で公開された『ゴジラ』に敬意を表してそのクリーチャーを踏襲している。しかし、視覚効果アーティストによって綿密に描かれたという、本作に登場するギタイはやはり違和感が強い。日本では、去る7月1日に安倍内閣の閣議決定によって「集団的自衛権の憲法解釈の変更」が行われたが、その内容についてはマスコミの説明も不十分だし、国民的議論も不十分。私は今後の自衛隊法等の法改正作業の中で、感情論ではなく、どれほど理性的な議論ができるかに注目しているが、そんな時代状況下、本作のような戦争のゲーム化、その感覚に違和感がある。こんな映画を観て楽しむのも悪くはないが、少なくとも同じくらいの時間を集団的自衛権の憲法解釈変更について勉強し、議論しなければダメなのでは・・・。
2014(平成26)年7月8日記