グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札 |
<GAGA試写室>
2014年8月25日鑑賞
2014年8月29日記
ハリウッド女優が華麗にモナコ公妃に転身!シンデレラ物語にできそうなそんなグレース・ケリーの人生だが、本作はそうでもなければ、伝記でもない。ピッタリのハマリ役になった、ニコール・キッドマン演じる人間グレース公妃の像をしっかり確認したい。
ちなみに、モナコの位置は?面積は?人口は?そして、政治・経済・軍事は?そんな勉強もしっかりやりながら、『英国王のスピーチ』(10年)にも並ぶ、グレース公妃の世紀の名スピーチを堪能しよう。
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監督:オリヴィエ・ダアン
グレース・ケリー(モナコ大公と結婚した元女優)/ニコール・キッドマン
モナコ大公レーニエ3世/ティム・ロス
タッカー神父(グレースの相談役で後見人)/フランク・ランジェラ
マリア・カラス(オペラ歌手、オナシスの愛人)/パス・ベガ
マッジ(公妃の秘書)/パーカー・ポージー
ルパート・アラン/マイロ・ヴィンティミリア
デリエール伯爵/デレク・ジャコビ
アリストテレス・オナシス(世界の船舶王、大富豪)/ロバート・リンゼイ
アントワネット(レーニエ3世の姉、グレースの義姉)/ジェラルディン・ソマーヴィル
ジャン・シャルル(アントワネットの夫)/ニコラス・ファレル
シャルル・ド・ゴール(フランス大統領)/アンドレ・ペンヴルン
アルフレッド・ヒッチコック監督/ロジャー・アシュトン=グリフィス
2013年・フランス映画・103分
配給/ギャガ
<ニコール・キッドマンに、いかにもぴったりの役が!>
ハリウッドのオスカー女優グレース・ケリーの名前は有名だが、彼女はマリリン・モンローと同時代の人気女優だから、いかに中学生の時から映画館に通っていた私でも銀幕の中で彼女の顔を観ることはなかった。中学時代の私があこがれたハリウッド女優は何と言っても
①『誰がために鐘は鳴る』(43年)のイングリット・バーグマン
②『ウエストサイド物語』(61年)のナタリー・ウッド
③『ローマの休日』(53年)、「麗しのサブリナ』(54年)、『昼下がりの情事』(57年)等のオードリー・ヘップバーンなどだ。
アルフレッド・ヒッチコック監督のお気に入り女優だったグレース・ケリーは『ダイヤルMを廻せ!』(54年)、『裏窓』(54年)、『泥棒成金』(55年)などでヒロイン役を演じているが、私がグレース・ケリーの美しい顔を見たのはテレビの洋画劇場だけだった。
他方ニコール・キッドマンは、映画評論を書き始めた2000年頃から私が最も好きなハリウッド女優。『ムーラン・ルージュ』(01年)の熱演もよかった(『シネマルーム1』17頁参照)が、私にとっては『コールドマウンテン』(03年)での美しさが際立った演技が最高だった(『シネマルーム4』139頁参照)。ニコール・キッドマンは1967年生まれだから、すでに47歳。グレース・ケリーがモナコ公妃として1982年に死亡したのは52歳の時だったから、ニコール・キッドマンにとってはまさにグレース・ケリーを演じるのに最高の時期。もっとも、『真昼の決闘』(52年)でゲーリー・クーパーと共演した時のような若き日のグレース・ケリーを今のニコール・キッドマンが演じるのはさすがにしんどいから、本作のスタートは1956年4月18日にモナコ大公宮殿で行われたモナコ大公レーニエ3世(ティム・ロス)との結婚式のシーンから。この時のグレース・ケリーは27歳だから、現在47歳のニコール・キッドマンが演じるのは少し無理があるが、それくらいは天下の大女優として悠々とクリア…。
<モナコはどこに?大きさは?政治経済は?軍事は?>
私は本作を見るまでは、①モナコはモナコ大公を「元首」とする立憲君主制の国家であるため、正式の国名は「モナコ公国」で「モナコ」は通称名であること、②その位置は、南面を地中海に面し、それ以外の周辺をフランスに囲まれており、面積はバチカンに次いで世界第2の小国であること、③主な産業は観光で、19世紀の一時期はカジノが国家収入の9割も占めていたこと(現在は5%以下)を知らなかった。すると、モナコの軍事(安全保障)は一体どうやって維持されているの?
グレース・ケリーの物語はシンデレラ物語として描くこともできるかもしれないが、オリヴィエ・ダアン監督は本作をグレース・ケリーの伝記とすることもシンデレラ物語とすることも避け、人間グレース・ケリーを描くことを目指した。そのため、本作前半では、ロイヤルウエディングから6年後、2人の子供にも恵まれて後継ぎの心配がなくなったグレースが、自分の意見をハッキリ言いすぎるために否応なくおきるさまざまなトラブル、軋轢の様子が描かれる。モナコ公民にとって元ハリウッド女優のグレース公妃は所詮よそ者。そんな公妃に私たちの気持ちがわかるはずがない。そんな風に思われている以上、いくらグレースが赤十字活動に精を出してもそれは空回り・・・?
他方、国土の大きさは日本の皇居の約2倍で、経済はカジノだけで成り立っているモナコは、今フランスのドゴール大統領から、モナコに入っているフランスの企業から税金を取り立てる他、モナコの企業も税金をフランスに払うよう要求してきたから大変。
近時、南シナ海のパラセル諸島(西沙諸島)の所有権をめぐっては、この周辺海域での石油掘削のために海底油田掘削装置を設置した中国とベトナムとの間で対立が激化しているが、両者の軍事力には大きな差がある。すると軍事力ゼロのモナコが、アルジェリア紛争のため財政強化が不可欠だとするフランスのドゴール大統領から、高圧的な要求をされると・・・。
<ハリウッドへの復帰はあり?なし?>
日本では絶頂期の1980年に潔く引退し、三浦友和の妻としての役割に徹している山口百恵の生き方が絶賛されているが、グレース公妃のハリウッドへの復帰を狙ったヒッチコックは、今グレースの元を訪れ、新作『マーニー』の脚本を手渡していた。これは不感症の女が暴れ回るという物語(?)らしいから、そんな役をグレースが演じれば、モナコ公国は一気に世界の笑いものに?それとも、モナコ公国の外資獲得に一躍貢献することに?
レーニエ3世は当初こそ女優復帰を願うグレースの気持ちを「自分ですべての責任をとること」を条件に自由な選択を認めていた。しかし、今やドゴール大統領からの「フランスの要求に従わなければモナコをフランス領とする」との声明をバックにした強硬な姿勢への対応に忙殺されていた。そんな時こそ、妻が「内助の功」で支えてくれなければ・・・。レーニエ3世はそう考えていたはずだが、よりによってそんなときに、グレースの銀幕復帰話がマスコミにスッパ抜かれたからアレレ・・・。これはきっと内部にいるスパイの仕業だが、一体誰が?疑われたのは公妃の秘書マッジ(パーカー・ポージー)だが、まさか・・・?
グレースが悩む時にいつも相談に乗ってもらうのはタッカー神父(フランク・ランジェラ)。今や行き場のない怒りをグレースにぶつけ、「映画は完全に引退すると公表しろ」と迫るレーニエ3世との離婚さえ考え始めたグレースに対するタッカー神父のアドバイスは、「人生最高の役を演じるためにモナコに来たはずだ。君ならできる」というもの。なるほど、こりゃ教科書通りのアドバイスだが、さて肝心のグレースは・・・?元ハリウッド女優、グレース・ケリーのハリウッドへの復帰はあり?それともなし?
<裏切り者は誰だ!経済封鎖にどう対抗?>
ガザ地区をめぐるパレスチナの原理主義組織「ハマス」とイスラエルとの抗争は長年にわたって繰り広げられているが、ウクライナをめぐる、ウクライナ政府VS親ロシア派武装勢力+ロシア軍という対立は、つい最近起きたものだ。また、イランにおける「イスラム国」VSアメリカの対立も最近起きたものだが、イラクへの1部空爆に続いて、オバマ大統領が「イスラム国」の拠点への空爆を決断するか否かが注目されている。
しかして1962年、アルジェリア戦争での戦費の肥大化に苦しむフランスのド・ゴール大統領は、遂にモナコに対して経済封鎖という強硬手段に出たから大変。現在、アメリカのオバマ大統領はヨーロッパのEU諸国や日本と連携してロシアへの経済制裁を強めようとしているが、それは容易に進むものではない。しかし、モナコというちっぽけな国への経済封鎖なら、大国フランスの力を持ってすればたやすいものだ。しかも、モナコ公国の中にはフランスと意を通じる内通者(裏切り者)がいたから、レーニエ3世の立場は苦しくなる一方だった。
来たる9月3日の内閣改造を控え、安倍晋三首相は石破茂幹事長の処遇に苦労しているが、それは党内を1つにまとめていくためには不可欠な作業。しかし、本作に見る裏切り者は誰だ!その解明が進んでいくと、やはり権力闘争はどこにでもあるうえ、身内ほど危険だということがよくわかる。しかして、内通者を通じたフランスからの経済封鎖にモナコはどう対抗するの?そこで発揮される、なんとも意外なグレース公妃の外交手腕とは・・・?
<公妃の変身ぶりに注目、そのねらいは>
2010年にイギリスのウィリアム王子と結婚したケイト・ミドルトン嬢(キャサリン王妃)は、すぐに世継ぎたるジョージ王子を産み、幸せな皇室生活を送っている。しかし、1993年に皇太子徳仁(なるひと)親王と結婚した旧姓・小和田雅子さんは、皇太子妃となってから第一子の愛子様誕生までに8年余りを要したうえ、皇位継承者となるべき男子を産んでいない。さらに、2000年7月頃からは、体調不良を理由とする公務や祭祀への欠席が目立つようになり心配されているが、さて今後は・・・?
他方、1956年に世紀のロイヤルウェディングを挙げたグレース・ケリーは世継ぎにも恵まれ、レーニエ3世との結婚生活もほどほどにうまくいっていたが、ハリウッドへの復帰話とフランスからのゴリ押し政策によって、レーニエ3世が大変な状況に陥る中、夫婦の間にはすきま風が・・・。
しかし、タッカー神父からのアドバイスに納得したグレースは、自分が女優であることを再認識し、本来の前向きの姿勢を取り戻した。そこでグレースが演じようと決意したのは、モナコ公妃としての本来あるべき姿の実現だ。グレース公妃が取り組み始めたのは、モナコの歴史、王室の仕組み、完璧なフランス語、公妃の作法、正しいスピーチ等々であり、また赤十字活動を中心とする各種チャリティーへの参加だ。モナコの人口はわずか3万6千人だから、一度動き始めるとその影響が広がるのは早い。それまでは所詮ハリウッド女優とみられていたグレースは、たちまち国民の支持を集め、モナコ公妃としての存在感が認められてきたから大したものだ。しかして、今グレースが企画しているのは世界各国の首脳をモナコに招いての赤十字舞踏会の開催だが、さてグレースの真の狙いはどこに?
<世紀のスピーチの名作を、また1つ追加しなければ・・・>
去る6月22日に見たインド映画『マダム・イン・ニューヨーク』(12年)では、家族の中で1人だけ英会話ができず劣等感に苛まれていたヒロインが、ラストに行う結婚式スピーチのシーンがハイライトになっていた。名スピーチが映画のラストを飾る映画の代表は、『チャップリンの独裁者』(40年)と『英国王のスピーチ』(10年)の2つだが、『マダム・イン・ニューヨーク』を見た私は、同作をその1本に追加した。しかして、本作のラストにみるグレース公妃が行うスピーチも、それに肩を並べられる立派なものだ。
『マダム・イン・ニューヨーク』は私的なスピーチであったのに対し、こちらは『英国王のスピーチ』と同じく公的なものだから、そのスピーチの持つ意味は大きい。したがって、「戦争スピーチ第1号」として歴史に残る名演説となった、英国王ジョージ5世と同じように、グレース公妃の責任感は相当大きかったはずだ。日本では皇室が政治的発言をすることは憲法で禁じられているが、さてモナコ公国では?それはよく知らないが、グレース公妃のスピーチを聞いていると、露骨にフランスの経済封鎖を非難するものではなかったが、明らかにそれを意識していることは誰の目にも明白だった。したがって、舞踏会冒頭での世紀の歌姫マリア・カラス(パス・ベガ)の歌声には誰もがうっとりして聞き惚れ、終了後は拍手喝采だったが、さてグレース公妃のスピーチ後の出席者の反応は?
それはあなた自身の目ではっきり確認してもらいたいが、その数日後、フランスがモナコの経済封鎖を解いたという字幕を見れば、いかにグレース公妃の果たした役割が大きかったかがよくわかる。伝記物でもなく、シンデレラ物語でもない本作が高く評価されているのは、きっとこのためだろう。
2014(平成26)年8月29日記