イコライザー(アメリカ・2014年) |
<御堂会館>
2014年10月16日鑑賞
2014年10月20日記
イコライザーとはハリウッド版「必殺仕事人」のことだが、元CIAの凄腕がそんな「天職」に目覚めたきっかけは?それが、『タクシードライバー』(76年)や『レオン』(94年)と同じく、少女娼婦との出会いというところが、本作のミソ。もっとも、それは藤田まこと扮する中村主水のような社会的な役割ではなく、あくまで個人的な役割だから、彼の「秒殺」にはどこまで正当性があるの?そういうことを考えると、いろいろ難しくなってくるから、本作では少しバカになって、その鮮やかなワザの数々を楽しみたい。
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監督:アントワーン・フークア
原案:マイケル・スローン、リチャード・リンドハイム『ザ・シークレット・ハンター』(TVシリーズ)
ロバート・マッコール(ホームセンターで働く元CIAエージェント)/デンゼル・ワシントン
テリー(娼婦の少女)/クロエ・グレース・モレッツ
テディ(ロシアン・マフィアの用心棒、元KGBの異常性格殺人者)/マートン・ソーカス
マスターズ(ボストン警察の汚職警官)/デビッド・ハーバー
ブライアン・プラマー/ビル・プルマン
スーザン・プラマー/メリッサ・レオ
プーシキン(ロシアン・マフィアの総元締め)/ウラジミール・クリッチ
ペダーソン(汚職警官)/ジェームズ・ウィルコックス
リマー(汚職警官)/マイク・オディア
ラルフィ(ホームセンターで働くマッコールの部下)/ジョニー・スカーチス
2014年・アメリカ映画・132分
配給/ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
<なぜ、イコライザー(=必殺仕事人)に?>
私の理解では、藤田まことが演じた『必殺仕事人』シリーズにおける中村主水は、それなりの社会的使命感を持って「悪」と対峙していたし、それを職業(天職)にしていた。しかし、本作に見るロバート・マッコール(デンゼル・ワシントン)の本質は、元CIAであったことを忘れたいと願い、ホームセンターの一従業員としてひっそり働こうとしている男。
そのマッコールが、本作のタイトルとなっている「イコライザー」(本来の意味は平行、平準化、平衡化。転じて音質の平均化や改善に使用される音響機器。ここでは社会の悪を抹消し平穏を保つ仕事人としての意味を持つ)として再び活動し始めるのは、ロシアン・マフィアから酷い仕打ちを受けている16歳の娼婦テリー(クロエ・グレース・モレッツ)の姿を見たことがきっかけだ。そのストーリーを見ていると、まさに、『タクシードライバー』(76年)で当時14歳のジョディ・フォスターが演じた少女娼婦アイリスと主人公の殺し屋(?)、トラヴィスとの関係、『レオン』(94年)で当時13歳のナタリー・ポートマンが演じた少女娼婦マチルダと主人公の殺し屋レオンの関係と同じような設定の関係だが、さて、マッコールが活動を再開することについての、その説得力は?
男なら誰だって、可哀相な女の子を見れば救ってやりたいと思うのは当然。そしてそれがテリーやアイリスやマチルダのような娼婦に身を落としている可憐な少女であれば、なおさらだが・・・。
<少女娼婦との信頼関係はどこから?それが最大のポイントに!>
プレスシートには、「クロエ・グレース・モレッツは、赤毛のショートボブのウィッグに真っ赤なルージュで初の娼婦役を体当たりで熱演。16歳の肢体をボディコン風の黒いドレスに包み、新境地を見せている」と書かれている。『キック・アス』(10年)で観たクロエ・グレース・モレッツは、「ヒット・ガール」という特殊な役で当たりを取り、人気急上昇した(『シネマルーム26』未掲載)が、ナタリー・ポートマンほどの美人ではないし、ジョディ・フォスターほどの演技力を持っているとも思えない。他方、昼間はきちんとホームセンターで働いていながら、不眠症のため(?)、夜中(午前2時過ぎ)にはいつも近所の24時間営業のダイナーへ行き、決まった席で1人静かに読書をするのがマッコールの生活パターンだが、ホントにそんなことが可能なの?ナポレオンでも毎日3時間は眠っていたはずだから、そもそもそんな設定自体が非常識。しかし、まあ映画なら、それでもOK・・・。
それはともかく、テリーが同じダイナーを利用しているのは束の間の休憩と客との連絡待ちだが、その間にみせる、「夢は歌手になること」と語るテリーとそれを真正面から受け止めるマッコールとの会話が、本作導入部の見どころになる。単なる哀しい境遇にあるだけのバカ女なら、マッコールもこの女のために何かをしてやりたいと思うはずはない。したがって、外見はド派手なだけの少女娼婦が持つ内面の魅力と、マッコールの目を見ただけでマッコールの心の中を読み取る洞察力に注目!
マッコールとテリーの会話はそれほど多くないし、ストーリーが本筋に入っていくと完全にテリーの存在はスクリーン上から消えてしまい、その再登場はラストだけになる。したがって、導入部でのマッコールとテリーの会話の中で2人の間にどれほど深い信頼関係が形成されたかが、本筋のストーリー展開の説得力に大きく影響することになるから、それに注目!
<仕事のやり方は?真の敵はどこに?>
マッコールは、「仕事」を行うについて、「武器を持たない。正確には武器、銃火器を常時携行しない。速やかに闇から闇に葬る任務を数多くこなしてきた経験から、武器を携行することは、証拠、物証を持ち歩くことでもあり、足がつかないための彼独自のリスク回避法なのである」。本作のプレスシートにはそのように書かれてあり、スクリーン上ではあくまでクールなデンゼル・ワシントンがそれを鮮やかなお手並みで実行していく。
ロシアン・マフィアが隠れ蓑としているロシア料理店に単身乗り込み、持参した「9,800ドルでテリーを自由にしてやってくれ」とあくまで紳士的に交渉したにもかかわらず、マフィアの男たちがそれをせせら笑い拒否したのは、この男たちがバカなせい。したがって、「その責任はお前たちにある」と判断したマッコールは、部屋の中にある灰皿、ペーパーウェイト、グラス、花瓶、コルクスクリューなどを一瞬にして「スキャン」したうえ、それを武器に変えて5人の屈強な男たちをまさに「秒殺」。その鮮やかさにはホレボレしてしまう。
しかしよく考えてみれば、いくら元CIAの腕利きだとしても、「必殺仕事人」でもない一介の市民にすぎないマッコールが、いくらテリーを救うためだとしても、また5人の男たちが社会のクズだとしても、それを殺してしまうのはちょっとやりすぎでは・・・?しかも、本作では5人を殺した後、テリーをどのように救うのかが具体的に示されないまま、後半はロシアン・マフィアの総元締めであるプーシキン(ウラジミール・クリッチ)と、プーシキンが派遣した腕利きの部下テディ(マートン・ソーカス)とマッコールとの対決がストーリーの主軸になっていく。したがって、マッコールとテリーとの出会いと、そこから生まれた2人の「信頼」は、元CIAのマッコールが「イコライザー」=「必殺仕事人」に変身していくための「きっかけ」にすぎない。
現場のVTR等から冷静にマッコールを割り出したテディは、後半以降、元KGBの異常性格殺人者たる本性をさらけ出しながら、マッコールとの対決に臨むが、さてその展開は・・・?
<サブストーリー(1)にも注目!>
本作にはサブストーリー(1)として、前半には汚職警官のリマー(マイク・オディア)とペダーソン(ジェームズ・ウィルコックス)が登場し、ロシアン・マフィアと結託して善良な飲食店経営者たちから、いわゆる「みかじめ料」を搾取している姿が登場する。それを、ちゃんと払わなかったために店を焼かれてしまうという被害にあったのが、ホームセンターで働くマッコールの部下のラルフィ(ジョニー・スカーチス)の母親だ。太っちょのラルフィはホームセンターの警備員の職に就職するべく、マッコールの指導よろしくを得ていたのに、突如「就職をやめた」と言い始めたのは、そのためだった。つまり、母親の店が火事で焼かれてしまった以上、その再建のためにはどうしても自分が店に入り、母親を助けなければならないということだ。しかして、この火事が失火ではなく、リマーやペダーソンたちの仕業であることを知ったマッコールの、汚職警察官たちへの必殺仕事人ぶりは・・・?
さらに、後半から本作の準主役として登場する悪役テディの部下として働いているのも、ボストン警察の汚職警察官マスターズ(デヴィット・ハーバー)だというから恐れ入る。去る10月18日には、大阪府警曽根崎署総務課の30代の男性巡査長が、事件の証拠品として保管していた1万円札1枚を盗んだとして、府警が窃盗容疑で捜査しているというニュースが報道された。府警は、証拠品の捏造や紛失などの続発を受けて今年4月、全65署の総務課に証拠品係を新設し、巡査長は担当者の1人だったというから、いやはや・・・。このように大阪府警も曽根崎署もひどいが、ボストン市警の汚職ぶりもひどいものだ。本作に見る、そんなサブストーリー(1)にも注目!
<サブストーリー(2)にも注目!>
本作に見る元CIAたるマッコールのイコライザーぶり、必殺仕事人ぶりを見ると、いかにも冷静沈着(=クール)という言葉がピッタリ。他方、少女娼婦テリーへの親切ぶりやラルフィへの応援ぶりを見ていると、マッコールの心の優しさが浮かび上がってくる。警備員になるためには太っちょのままではダメ。そこでマッコールがラルフィに命じたのが減量作戦だが、スクリーン上にみるその徹底ぶりは面白い。このように、マッコールは夜の顔でも完璧な仕事人だが、昼の顔でも人格円満で誰からも慕われる存在という、つくりものの映画ならではの設定になっている。
もっとも、それはマッコールのいい面であると同時に、テディから見ればマッコールの弱み。つまり、マッコール自身にはどこにもつけ入るスキがないが、ラルフィたちを人質にとれば、完璧な人格のマッコールはその救出のために向かってくるから、そこでマッコールを捕獲できるという計算が成り立つわけだ。したがって、テディの指示どおりにノコノコと指定の時間に指定の場所に赴いたマッコールには相当な危機が迫ってくるのは必然だが、さてそれをマッコールはどのようにひっくり返すの?そこには、たくさんマッコールのお世話になったラルフィの意外な活躍の場が用意されているので、本作ではそんなサブストーリー(2)にも注目!
2014(平成26)年10月20日記