激戦 ハート・オブ・ファイト(中国、香港・2013年) |
<シネ・リーブル梅田>
2015年1月29日鑑賞
2015年2月5日記
『ロッキー』シリーズ、『シンデレラマン』(05年)、『ザ・ファイター』(10年)、そして『あしたのジョー』(11年)や『百円の恋』(14年)など、ボクシング映画の名作は多いが、K-1とよく似たMMA(総合格闘技)映画の名作がここに初登場!
3人(いや4人)の男女の接点を描く前半を経て、後半は弟子と師匠が闘う2つのメインイベントが楽しめるので、アーモンドグリコと同じように「1粒で2度おいしい」ところがミソ。
必殺パンチを持っていても、関節技を決められてしまえばアウト。しかして、最後にスクリーン上であなたが目撃する奇跡のパンチとは・・・?
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監督・脚本・ストーリー:林超賢(ダンテ・ラム)
程輝(チン・ファイ)(元ボクシング王者、今は借金王)/張家輝(ニック・チョン)
林思齊(リン・スーチー)(元御曹司、今は日雇い労働者)/彭于晏(エディ・ポン)
王明君(ウォン・ミンクワン)(元幸せな主婦、今は愛を失った孤独な女性)/梅婷(メイ・ティン)
梁佩丹、小丹(リャン・ペイタン、シウタン)(クワンの一人娘、母親の苦労を一身に背負う健気な少女)/李馨巧(クリスタル・リー)
李子天(リー・ズーティエン)(MMAの初代チャンピオン)/安志杰(アンディ・オン)
林園興(リン・ユエンシン)(スーチーの父)/高捷(ジャック・カオ)
楊慶新、太歳(ヤン・ヒンサン)(ファイの旧友、ボクシングジムの経営者)/姜皓文(フィリップ・キョン)
ココ/李菲兒(リー・フェイアル)
陳總(チャン)(スーチーの友人、裏稼業の2代目)/王寶強(ワン・バオチァン)
江志華(ロック・コン)/劉耕宏(ウィル・リウ)
サンディ/盧覓雪(ミシェル・ルー)
梁長安(リャン・チャンオン)(シウタンの父、クワンの夫)/陳嘉輝(チャン・カーファイ)
2013年・中国、香港・116分
配給/カルチュア・パブリッシャーズ、ブロードメディア・スタジオ
<ボクシング映画、レスリング映画に続いてMMA(総合格闘技)映画が!>
ボクシング映画の代表は何といっても『ロッキー』シリーズだが、他にも『シンデレラマン』(05年)(『シネマルーム8』218頁参照)、『ザ・ファイター』(10年)(『シネマルーム26』35頁参照)等がある。日本でも『あしたのジョー』(11年)(『シネマルーム26』208頁参照)等があるうえ、近時の女性ボクシング映画(?)の名作として『百円の恋』(14年)(『シネマルーム35』参照)がある。
他方、レスリング映画の代表は『レスラー』(08年)(『シネマルーム22』83頁参照)だ。これらは、ボクシングやレスリングへのこだわりの中で、主人公とそれに絡まる男女の人間ドラマを描いた名作だったが、今、ボクシング映画、レスリング映画に続いて、マカオを舞台とするMMA(総合格闘技)映画の名作が誕生。
ストーリー構成は基本的に『ロッキー』シリーズや『レスラー』と同じで、かつての栄光からどん底に叩き落された男を軸とした再起物語と、それに絡む人間模様を描く映画だが、基本的に私はそういうのが大好き。そのうえ、本作は格闘技映画はヒットしないと言われていた香港で、2013年8月に公開されるや、心に沁みるストーリーとして話題を呼び、大ヒットしたそうだから、こりゃ必見!
<MMAとK-1との異同は?>
昨年2014年大晦日の『年またぎスポーツ祭り!史上最大の限界バトルKYOKUGEN2014』のテーマはボクシングだったが、かつてはK-1が大人気だった。MMAはそのK-1によく似た競技だが、さてMMAとK-1との異同は?
まず、MMA(総合格闘技)はウィキペディアによれば次のとおりで、近時アジアや世界で人気が高まっているらしい。
①打撃(パンチ、キック)、投げ技、、固技(抑込技、関節技、絞め技)などの攻撃法を駆使して勝敗を競う格闘技の1つ。
②英語では「混合格闘技」を意味する「Mixed Martial Arts」、略称は「MMA」と呼ばれるが、この言葉は1984年ロス五輪のレスリング金メダリストで、プロレスやの解説も行っていたジェフ・プラトニックが日本の「総合格闘技」という言葉を参考に造語したといわれる。
③ボクシングのように世界的に統一されたルールがなく、ルールの大半は世界共通だが、枝葉末節の部分では大会を主催する団体により異なる部分がある。
④試合場は金網で囲った「ケイジ(Cage)」が使用されることが多いが、大きさや形(八角形・五角形・円形など)が異なる場合が多い。本作で見る限り、マカオでは八角形のケイジが使用されているが、当然金網も攻撃の材料の1つとして使われていた。
他方、K-1はウィキペディアによれば次のとおりだ。
①Kは「空手」、「キックボクシング」、「カンフー」、「拳法」、などの立ち技格闘技、あるいは「格闘技」そのもの、そして「KING」の頭文字を意味し、1はナンバーワンを意味しており、空手やキックボクシングなどの打撃系立ち技格闘技の世界一の最強の格闘者を決める大会を行うというのが設立のコンセプトであり、命名者は全日本新空手道連盟創師の神村榮一。
②「K-1」の商標権は元々は創設者である石井和義が所有していたが、2011年7月に不動産デベロッパーのバルビゾンに移管。2012年1月にEMCOMホールディングスがバルビゾンの持つ商標権を買収することを発表し、最終的には当時EMCOMの子会社だったK-1 Global Holdings Limitedが諸権利を取得するに至っている。
抑込技、関節技、絞め技におけるMMAとK-1の異同は素人にはわかりにくい。しかし、試合場が日本のK-1は見慣れた通常のマットであるのに対し、本作に見るマカオのMMAでは八角形の金網で囲ったケイジである点が大きく異なっていることは、すぐにわかる。また、K-1のマットではロープに逃れることが可能だが、MMAのケイジではそれもないようだから、やられ始めるとボコボコにされてしまうため、試合前に出場者による死傷者免責約款へのサインが不可欠らしい。
<3人の主人公の人物像は?>
本作の主人公になるのは、①栄光を失った元ボクシング王者・程輝(チン・ファイ)(張家輝(ニック・チョン))、②破産した元御曹司・林思齊(リン・スーチー)(彭于晏(エディ・ポン))、③愛を失った孤独な女性・王明君(ウォン・ミンクワン)(梅婷(メイ・ティン))の3人。パンフレットには「そんな三人が出会い、人生のやり直しを賭けた勇気ある一歩が、奇跡を生む!」とある。
もう少し詳しく3人の人物像を述べると、次のとおりだ。
①かつてボクシングのチャンピオンだったファイは、マフィアがらみの八百長事件に関与したことによって服役。出所後は、しがないタクシー運転手として香港で生計を立てていたが、ギャンブル好きなせいで借金がかさみ、ある日、借金取りに襲撃されてしまうことに。
②富豪の息子だったスーチーは大学卒業後、中国各地を放浪していたが、今は工事現場で働きながら、破産した父親・林園興(リン・ユエンシン)(高捷(ジャック・カオ))の面倒を見ていた。自暴自棄になり、毎晩酒場で酔いつぶれる父親を連れ帰るのがスーチーの日課だ。
③2人の子供と共に夫・梁長安(リャン・チャンオン)(陳嘉輝(チャン・カーファイ))に捨てられたクワンは、酒浸りとなった挙句に、幼い息子をバスタブで溺死させてしまったことが原因で心を壊してしまうことに。精神病院まで経験したクワンは、今10歳の娘・小丹(シウタン)(李馨巧(クリスタル・リー))から面倒を見てもらいながらマカオで暮らしていた。
<3人の主人公たちの接点は?その1>
そんな3人の主人公たちが出会うのはマカオ。ちなみに、私はマカオにはまだ行ったことがないが、是非行ってみたいところの1つだ。3人の主人公の接点は、次のストーリーの中から生まれてくる。
まず、マカオでボクシングジムを営む旧友・楊慶新(ヤン・ヒンサン)(姜皓文(フィリップ・キョン))の好意によって、ファイが雑用係の仕事にありつくとともに、クワンの家を間借りしたことによって、ファイとクワンの接点が生まれてくることになる。そこでは、精神的に不安定なクワンに代わって、「バスタブの蓋は絶対に開けるな」等々の間借り人の規則を事細かに説明するおしゃまなシウタンが、4人目の主人公として重要な役割を果たすことになる。
クワンを演じたメイ・ティンは、北京の中央戯劇学院で章子怡(チャン・ツィイー)らとともに1996年のクラスで輝く「金花7人」の1人と称された美女で、『追憶の上海』(98年)(『シネマルーム5』238頁参照)にも出演していた女優だが、残念ながら本作ではその魅力はかなり抑制されている。そんな母親の苦労を一身に背負う健気な少女シウタンがクワンに代わってストーリーを牽引するが、このシウタンも当初はかなりイヤな女の子。しかし、当初は互いに水と油のように思えたクワン、シウタン母子とファイとの心の交流が深まるにつれて、シウタンは次第に10歳の女の子らしい笑顔を取り戻すとともに、クワンにも新たな生きる希望が湧いてくることに・・・。
<3人の主人公たちの接点は?その2>
他方、ある夜父親をおぶって帰ろうとした時、酒場のテレビでMMAの人気マッチ「ゴールデン・ランブル」の出場者募集を知ったスーチーは、270万ドルもの優勝賞金があれば父親を立ち直らせることができると考え、ファイが働くジムに入門することになる。そして、元ボクシング王者のファイにMMAの師匠になってもらうことを依頼することによって、ファイとスーチーの間に師弟の関係が生まれてくることに・・・。
ニック・チョンは林超賢(ダンテ・ラム)監督の『ビースト・ストーカー/証人』(08年)(『シネマルーム28』81頁、『シネマルーム34』453頁参照)の演技で、第28回香港電影金像奨最優秀主演男優賞等を受賞した、1967年生まれのイケメン俳優。彼は本作で見事、第33回香港電影金像奨最優秀主演男優賞を受賞し、亜州影帝(アジアの映画王)と呼ばれるトップスターになったそうだ。
彼がMMAのファイターとして本作に出演するについては、体脂肪率を5%まで下げたうえ、“脱水”時期には丸1日トイレに行く必要がないくらいで、例え尿意をもよおしたとしても黒っぽい尿が1、2滴出るだけだったというからすごい。これは、『明日のジョー』における伊勢谷友介、『シンデレラマン』におけるラッセル・クロウ、さらには『G.I.ジェーン』(97年)におけるデミ・ムーアと同じように、プロの俳優なら誰でも達成すべき義務だが、それにしても撮影3日前から白米だけ(調味料不使用)の食事に切り替えるとともに水分摂取を制限する“脱水”を敢行したとはすごい。
<弟子の仇討ちのため、師匠が復活!>
本作の前半は、3人(いや4人)の主人公たちの人間ドラマがメインだが、後半は2つのメインイベントの迫力をタップリ楽しむことができる。『百円の恋』でも、やっとの思いで試合に出場することができた安藤サクラ扮する斎藤一子は試合に敗れてしまったが、本作でも1回戦、2回戦はかろうじで勝利することができたスーチーは、最強の挑戦者・李子天(リー・ズーティエン)(安志杰(アンディ・オン))のブレーンバスターをくらって首を骨折し、瀕死の重傷を負ってしまうことに。もっとも、これによって自暴自棄になり、毎晩酒場で酔いつぶれていた父親との父子の絆が回復したのはラッキーだが、さて彼の再起は?
普通の映画ならストーリーはこれで終わりだが、本作はそこで師匠のファイが、ボクシングからMMAに転向してリーに挑戦するストーリーになるから、アーモンドグリコのように「1粒で2度おいしい」ところがミソ。もっとも、誰が見てもファイはスーチーより体格が劣るから、ボクシングのように体重別になっていないMMAの試合では圧倒的に不利。しかし、ベテランのファイには何よりも大切な経験がある。さらに、右腕の脱臼グセに悩んでいたファイは、自らの力でそれを瞬時に治す能力を身に付けていたから、本作ではリーから絶体絶命の関節技を決められている時、そのワザ(?)が意外な効用を発揮することに・・・。元ボクシングチャンピオンだったファイの必殺パンチは左フックだから、関節技から逃れた後、瞬時にその必殺のパンチがリーの顔面に炸裂すれば・・・。
2月1日に観た『KANO 1931海の向こうの甲子園』(14年)が後半でみせた、嘉義農林学校(嘉農)VS中京商業の決勝戦の実況中継も面白かったが、本作もアナウンサーの実況中継を参考にしながら、関節技の数々を研究すればメチャ面白い。「弟子の仇討ちのため師匠が復活」などというストーリーはマンガの世界だけかと思っていたが、意外にも本作ではそれがリアリティを持って迫ってくるから、それをしっかり自分自身の目で確認してもらいたい。
2015(平成27)年2月5日記