ラブ&ピース(日本・2015年) |
<GAGA試写室>
2015年4月21日鑑賞
2015年4月30日記
鬼才・園子温が“血が出ない”“誰も死なない”“エロくない”、奇想天外な世界観をスクリーン上に!
25年前のオリジナル脚本は自分自身を投影したものだが、『ゴジラ(1954)』(54年)に観たゴジラとは大違いの、巨大化したピカドンをあなたはどう見る?
ロックミュージシャンとしての大成功は喜ばしい限りだが、そこに到達した主人公が『ラブ&ピース』の名曲を引っ提げて、東京オリンピックを控える東京にそして世界に伝えようとするメッセージとは・・・?
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監督・脚本:園子温
特技監督:田口清隆
鈴木良一(楽器の部品会社で働くサラリーマン)/長谷川博己
寺島裕子(良一が想いを寄せる同僚)/麻生久美子
謎の老人/西田敏行
稲川さとる(マネージャー)/渋川清彦
良一の会社の課長/マキタスポーツ
田中透(良一の会社の同僚)/深水元基
科学者/手塚とおる
Revolution Q
奥野瑛太
長谷川大
谷本幸優
IZUMI
良一の会社の同僚A/小倉一郎
女子高生/真野恵理菜
ユリの母/神楽坂恵
記者/菅原大吉
良一のアパートの住人/波岡一喜
松井(レコード会社のプロデューサー)/松田美由紀
司会者/田原総一朗
コメンテーター/水道橋博士
コメンテーター/宮台真司
コメンテーター/津田大介
コメンテーター/茂木健一郎
声の出演
PC-300/星野源
マリア/中川翔子
スネ公/犬山イヌコ
カメ/大谷育江
スーツアクター/横尾和則
2015年・日本映画・117分
配給/アスミック・エース
<25年前の園子温のオリジナル脚本が今スクリーンに!>
『愛のむきだし』(08年)(『シネマルーム22』276頁参照)を観た後、熱狂的な園子温のファンになり、『冷たい熱帯魚』(10年)(『シネマルーム26』172頁参照)、『恋の罪』(11年)(『シネマルーム28』180頁参照)に大いに興奮させられた私だが、近時の『TOKYO TRIBE』(14年)(『シネマルーム33』未掲載)はハッキリ言ってつまらなかったし、『新宿スワン』(15年)もイマイチだった。今でこそ園子温監督といえば大御所だが、彼にも鬱屈してくすぶっている時代があったらしい。そんな彼が、25年前の鬱屈しくすぶっていた1990年に書いたオリジナル脚本が、今スクリーンに登場することに!
プレスシートにある園子温監督のインタビューによれば、本作の主人公となる、楽器の部品会社で働くうだつのあがらないサラリーマン・鈴木良一(長谷川博己)は、25年前の彼自身らしい。すなわち、当時ビルの管理人をしていた彼の、そこで働く人たちにぞんざいにあしらわれていた時の気分や雰囲気をそのまま脚本にしたわけだ。また、『ゴジラ(1954)』(54年)(『シネマルーム33』258頁参照)ほどの迫力ではないが、一種の怪獣映画ともいえる本作に登場するミドリガメも、彼自身がある日、仕事帰りにデパートの屋上でボーッとしながらミドリガメを売っている人を見つめていた時に、こいつと一緒に暮らす台本を書いてみようと考えたらしい。
そんな脚本が25年を経てスクリーン上に登場してきたのは、彼自身が「とても素晴らしいシナリオだったからどうしても実現させたかった」ため、らしい。園子温監督をしてそこまで自信があると言わせているシナリオなら、かなり楽しみ。今までの園子温ワールドのイメージとは一線を画した、“血が出ない”“誰も死なない”“エロくない”園子温監督作品なんて観たくもない。そんな気もしなくはないが、園子温監督らしい「超展開」はそのままらしいから、やはり期待大!
<主人公はロックスターを夢見るさえないサラリーマン!>
NHK大河ドラマ『八重の桜』で八重の最初の夫・川崎尚之助役を丹精に演じた長谷川博己は、周防正行監督の『舞妓はレディ』(14年)では、『マイ・フェア・レディ』(64年)のヒギンズ教授を少し優しくかつ若くハンサムにした京大学の言語学者・京野法嗣センセ役を見事に演じ、『スペインの雨』ならぬ『京都の雨』を堂々と歌っていた(『シネマルーム33』286頁参照)。本作冒頭ではそんな俳優・長谷川博己が、楽器の部品会社で働きながら、「お前はピース(部品)にすらなっていない」と日々バカにされている、さえないサラリーマン鈴木良一役に挑戦!
同僚の寺島裕子(麻生久美子)に思いを寄せながら、まともに話しかけることすらできない良一。ロックミュージシャンを夢見ながら、現実は会社でバカにされ続けるだけの良一。そんな良一だったが、ある日デパートの屋上で売られていた1匹の小さいミドリガメと目が合うと、運命的な出会いを直感!購入したミドリガメをピカドンと名付けた良一は、その日以降、何をするのもピカドンと一緒。ロックスターになる夢を毎日ピカドンと語り合うことに。これによって、ピカドンは良一の人生を取り戻すために必要な最後の欠片<ピース>となり、孤立した会社内でもピカドンと一緒に居さえすれば幸せだったが、ある日同僚たちにピカドンを発見されてしまった良一は、泣く泣くピカドンをトイレから流し、お別れしてしまうことに・・・。
<奇想天外な世界観その1-地下世界の老人と動物たち>
水洗トイレから流された汚物はどこへ流れていき、どのように処理されるの?その現実は誰でも知っているが、鬼才・園子温監督の世界観によれば、良一が泣く泣くお別れを告げて水洗トイレに流してしまったピカドンは、『オペラ座の怪人』(04年)でお馴染みの、怪人(エリック)が住むオペラ座地下に広がる広大な水路空間(『シネマルーム7』156頁参照)や、『レ・ミゼラブル』(12年)でお馴染みの、ジャン・バルジャンとジャベール警部が追いつ追われつの死闘をくり広げる広大な下水道空間(『シネマルーム30』48頁参照)とよく似た(?)下水道を通り、何とも幻想的な「地下世界」でポンコツの動物たちと暮らす謎の老人(西田敏行)の下へたどり着くことに・・・。
この謎の老人は、持ち主や飼い主から廃棄されてしまった①フランス人形のマリア(声:中川翔子)、②PC-300(声:星野源)、③スネ公(声:犬山イヌコ)らたくさんの廃棄物と共に暮らしていたが、何より面白いのは、この地下世界の廃棄物たちは人間の言葉がしゃべれること。とはいえ、謎の老人は常々外の世界の厳しさを説いていたから、廃棄物たちはこの閉ざされた地下空間で我慢(満足)していた。そこに新規参入してきたのがピカドン。謎の老人も仲間たちもピカドンに対して親切だったが、さてピカドンはこの閉ざされた地下空間の中で満足することができるの?そして、謎の老人はなぜこの地下空間でポンコツたちと一緒に住んでいるの?本作では、まず第1にそんな園子温監督の奇想天外な世界観をタップリと堪能したい。
<奇想天外な世界観その2-巨大化するピカドン>
ピカドンは人間の言葉をしゃべることはできなかったが、ある日謎の老人が間違って変な薬を飲ませた(?)ことによって、日々巨大化していくことに。こりゃ、昔観た『世紀の怪物/タランチュラの襲撃』(55年)のタランチュラと同じだ。もっとも、タランチュラは怖かったが、日々巨大化していくピカドンは、タランチュラともゴジラとも、さらにポン・ジュノ監督の『グエムル 漢江の怪物』(06年)(『シネマルーム11』220頁参照)に観たグエムルとも異なり、愛嬌の良さが売りモノ。さらに、ロックスターになりたいという良一の夢をずっと語られ続けてきたピカドンには、なぜか名曲を作る能力があったから、ある日良一の部屋を訪れたピカドンは、良一に対して新曲の提供を・・・。
他方、良一はある日、奥野瑛太、長谷川大、谷本幸優、IZUMIの4人が組んでいるバンドに飛び入りでピカドンが作った曲を歌ったのが大ウケ。さらに、偶然それを聞いていたレコード会社のプロデューサー、松井(松田美由紀)はえらくその曲にホレ込み、稲川さとる(渋川清彦)をマネージャーとして良一を大々的に売り出すことを決定。バンドの名前は「Revolution Q」だ。良一は奥野瑛太、長谷川大、谷本幸優、IZUMIの4人をバックとして、魂の叫びとも言うべき曲『ラブ&ピース』をレコーディングし、世に出したが、さてその反響は・・・?本作では、第2にそんな巨大化するピカドンの中に見る、園子温監督の奇想天外な世界観をタップリと堪能したい。
<「日本スタジアム」で実現したライブのメッセージは?>
1966年に行われた「日本武道館」でのビートルズの日本公演の熱狂ぶりはすごかった。しかして、その49年後の2015年4月28日、4人組の中でリンゴ・スターと同じように今なお現役活動中のポール・マッカートニーの「日本武道館」でのライブが実現した。
来たる2020年には東京オリンピックの開催が決定しているが、ピカドンとの運命的な出会いを果たした良一が、「Revolution Q」のボーカルとして日本中を席巻していく中、東京オリンピックのために建設された「日本スタジアム」でのライブが決定したというからすごい。「Revolution Q」の解散を宣言し、独り立ちを果たした良一は、今や日本を代表する大人気ロックスターに成長し、世界を目指していたから、「日本スタジアム」でのライブへの期待は上々。観客席には裕子はもちろん、かつて良一をあれほどバカにしていた上司たちも座っていたが、さて裕子に対する良一の思いは今も続いているの・・・?
『ゴジラ(1954)』では、東京上陸を果たしたゴジラの暴れっぷりが映画後半のハイライトになっていたが、本作のラストに向けたクライマックスも、巨大化したピカドンが超高層ビル群をなぎ倒しながら「日本スタジアム」を目指すシーンとなる。しかし、『ゴジラ(1954)』と違うのは自衛隊の戦車からの発砲を受けてもピカドンは一切反撃せず、きわめて大人しいこと。そのため、ビルの損害は顕著でも人的被害は一切ないというのが園子温監督のメッセージであり、本作の自慢だ。
本作で一貫して流される『ラブ&ピース』の曲はもともとピカドンが作詞・作曲したものだが、フルオーケストラで演奏されるその曲は今や国民的愛唱歌になっていた。さあ、謎の老人と幸せに過ごしていた地下世界からあえて東京のまちに出現した、巨大化したピカドンは「日本スタジアム」で歌う良一に対して何をメッセージするのだろうか?ハチャメチャながら、園子温監督の世界観がいっぱい詰まった本作の面白さをタップリと楽しみたい。
2015(平成27)年4月30日記