ダーク・プレイス(イギリス、フランス、アメリカ・2015年) |
<TOHOシネマズ西宮OS>
2016年6月25日鑑賞
2016年7月1日記
8歳の時に起きた一家惨殺事件で兄の犯罪を証言し、ただ一人生き残った少女が28年後の今、「殺人クラブ」の依頼によって、その事件とご対面!
28年間の「時間差」のある2つの「時制」が同時並行で描かれるうえ登場人物も多いので、ストーリーは難解だが、最後には一本の線につながる犯人捜しの快感もあるから、しっかりスクリーンに集中したい。
もっとも、「自殺請負人」の登場や素人による調査が順調に進み過ぎる点など、少し違和感も・・・。
本文はネタバレを含みます!!
それでも読む方は下の「More」をクリック!!
↓↓↓
ここからはネタバレを含みます!!ご注意ください!!
↓↓↓
監督・脚本:ジル・パケ=ブランネール
プロデューサー:シャーリーズ・セロン
原作:ギリアン・フリン著、中谷友紀子翻訳『冥闇』(小学館文庫刊)
28年後のリビー・デイ(ラナーとパティの三女)/シャーリーズ・セロン
若き日のリビー・デイ/スターリング・ジェリンズ
ライル・ワース(「殺人クラブ」のメンバー)/ニコラス・ホルト
パティ・デイ(ベンとリビーの母)/クリスティナ・ヘンドリックス
28年後のベン・デイ(ラナーとパティの長男、リビーの兄)/コリー・ストール
若き日のベン・デイ/タイ・シェリダン
若き日のディオンドラ(若き日のベンの年上の恋人)/クロエ=グレース・モレッツ
28年後のディオンドラ/アンドレア・ロス
ラナー・デイ(ベンとリビーの行方不明の父)/シーン・ブリッジャーズ
ミッシェル・デイ(ラナーとパティの次女、リビーの姉)/ナタリー・プレヒト
デビー・デイ(ラナーとパティの長女、リビーの姉)/マディソン・マクガイア
クリスタル(ベンとディオンドラとの間に生まれた女の子)/デニス・ウィリアムソン
カルバン・ディール(自殺請負人)/ジェフ・チェイス
若き日のクリシー・ケイツ(ベンにいたずらをされたと主張する少女)/アッディ・ミラー
28年後のクリシー・ケイツ(ストリッパー)/ドレア・ド・マッテオ
クリシー・ケイツの母/ローラ・カユーテ
2015年・イギリス、フランス、アメリカ映画・113分
配給/ファントム・フィルム
<本作も、2つの時制を同時並行で!>
アルゼンチンの名作『瞳の奥の秘密』(09年)(『シネマルーム25』69頁参照)は25年の時間差(1974年と2000年)、同作を基にハリウッドが誇る大女優ジュリア・ロバーツとニコール・キッドマンの共演で映画化した『シークレット・アイズ』(15年)は13年の時間差(2002年と2015年)をもって、ある一つの殺人事件の犯人捜しをするミステリーだった。また、現在大ヒット中の『64 ロクヨン』(16年)は、14年の時間差(1989年と2003年)のある2つの少女誘拐事件を前編と後編に分けて描き出し、その中で、犯人捜しのミステリーと、元刑事で今は広報官になっている中年男(佐藤浩市)を主人公とし、彼と「対決」する3人の中年男(永瀬正敏、三浦友和、緒形直人)との「人間ドラマ」を熱く見せていた。映画は何でもありの総合芸術で、2つの「時制」を同時並行的に見せていくのが得意だから、近時その手法を活用した映画が増えている。
しかして『ゴーン・ガール』(14年)(『シネマルーム35』159頁参照)を大ヒットさせた女流作家のギリアン・フリンのミステリー小説『冥闇』を映画化した本作も、1985年にカンザスで起きた、当時中学生だった長男ベン(タイ・シェリダン)による、母親と二人の姉妹の殺害事件を、事件直後と28年後の今、という2つの時制に分けて描き、犯人を捜していくミステリー。ベンが逮捕されたのは当時8歳だった妹のリビーの証言が決め手だったが、8歳の女の子に証言能力はあるの?物証は?ベンの弁解は?何故ベンは控訴しなかったの?ひょっとしてベンの国選弁護人に決定的な欠陥があったの?弁護士の私にはそんな疑問が湧いてくるが、本作はそんな視点からの映画ではなく、1985年に起きた一家惨殺事件を28年もの間、心の闇(ダーク・プレイス)に包んで生きてきた、今は36歳になった主人公リビー(シャーリーズ・セロン)の視点から振り返るもの。なお、本作がこの2つの時制でこの一家惨殺事件を描くについては、リビーの視点の他、ベンの視点と母親パティ(クリスティナ・ヘンドリックス)の視点も混入してくるので、本作の理解は極めて難しいが、しっかりチャレンジしたい。
<「殺人クラブ」の賛否は?本当にこんなものがあるの?>
一家惨殺事件のたった1人の生き残りというと、現在公開中の黒沢清監督の『クリ―ピー 偽りの隣人』(16年)の設定も同じ。同作でも、たった1人生き残った本多家の女性の証言がストーリー構成上大きな意味を持っていた。しかして、本作でリビーを28年前に引き戻す役割を演じ、一家惨殺事件の犯人捜しというメインストーリーを牽引するのは、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(15年)(『シネマルーム36』232頁参照)でもシャーリーズ・セロンと共演した若手俳優のニコラス・ホルトが演じるライルだ。
本作が、一般のミステリーものと違う奇妙な点は、ライルが「殺人クラブ」のまとめ役という、わかったようなわからないような立場の若者であること。本作が見せる「殺人クラブ」とは、過去の有名な殺人事件を検証するクラブで、1階はクラブ風で飲み物を飲む場所、2階はコスプレしたファンが集まる場所、3階はアカデミックな感じで犯罪研究家が集う場所という立派なオフィス(?)まで持っているが、ホントにこんなものがあるの?
「殺人クラブ」のメンバーの多くはベンの無罪を信じているようで、この無罪を立証するため、当時ベンの犯罪であると証言したリビーの意見を聞きたがっているらしい。しかも、ライルの話によれば、「殺人クラブ」に出席してくれれば、500ドルの報酬を出すと言うからビックリ。当初ワケのわからない団体を怪しんでいたリビーも金の魅力には勝てず、渋々そこに出席したところから、本作の本格的ストーリーが動き出すことに・・・。
<ヘビメタ好きの悪魔崇拝者は、格好の容疑者に!>
1985年=昭和60年当時、日本は中曽根内閣のアーバン・ルネッサンスの時代で、土地バブルが最高潮に達しようとしていた華やかな時期。音楽では、私が今でも大好きなやプリンセス プリンセスの楽曲が流行っていた。ところが、本作のパンフレットにある高橋諭治(映画ライター)氏の「“暗い場所”に身を潜め続けたヒロインの呪縛からの解放」によれば、1980年代のアメリカでは、悪魔崇拝が流行していたらしい。
デイ家では両親がすでに離婚していたから、女手一つで農場を経営しながら長男ベンとその下の3人の姉妹を育てている母親パティは肉体的にも精神的にも大変。そんな中、頼りにすべき中学生のベンはヘビメタと悪魔崇拝に凝っており、母親に対して何かと反抗的。また、年上の美女ディオンドラ(クロエ=グレース・モレッツ)にちょっかいを出すくらいはまだ許せても、中学生のくせに、近所の少女に性的イタズラをしたという容疑が持ち上がっていたから大変だ。更に、離婚した夫が、折からの大不況でパティのもとにお金の無心に来ていたから、ベンのために多額の弁護士費用も負担しなければならないパティは経済的にも大変になっていた。そんな状況下、ベンはディオンドラから妊娠したと聞き、一緒に町を出ようと決めていたが、そもそもディオンドラの父親は本当にベン?そんなこんなのデイ家の混乱期に起きたのが、デイ家の一家惨殺事件だ。
しかし、そもそもベンにはそんな大それた殺しを実行する動機がない上、なんの物証もない。ところが、リビーの中途半端な目撃証言の他、ベンがヘビメタ好きで悪魔崇拝者だったこと、更に少女に対する性的イタズラの容疑がかけられていたことが悪影響を及ぼし、あれよあれよという間にベンが容疑者として固まっていき、有罪とされ、刑務所に入ってしまうことに・・・。その結果、たった一人生き残ったリビーは、『クリーピー 偽りの隣人』における一家惨殺事件でただ一人生き残りとなった本多家の女性と同じように、ダーク・プレイスの中にひとり置かれてしまうことに・・・。
<シャーリーズ・セロンの暗い熱演(?)に注目!>
私の独断と偏見によれば、ハリウッドを代表するクール・ビューティーのトップは断然ニコール・キッドマンだった。しかし、さすがに彼女も年をとってきたこともあり、今やハリウッドを代表するクール・ビューティーのトップはシャーリーズ・セロン。『モンスター』(03年)では、そんな彼女が13キロ以上も体重を増やし、文字どおりの「汚れ役」となって、「モンスター」と呼ばれる連続殺人犯を演じたことにビックリ(『シネマルーム6』238頁参照)。また、近時の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(15年)での暴れっぷりにもビックリ。そんなシャーリーズ・セロンが、本作ではあくまで暗く陰湿なクール・ビューティー(?)として、あの一家惨殺事件から28年後の36歳になったリビー・デイ役を演じ、「殺人クラブ」との契約によって犯人捜しに動く中で、ダーク・プレイスから脱していく姿を演じている。したがって、本作で強調されるのは彼女の暗さだけだから、その暗い熱演に注目だが、やはり根が美人なだけに、それでも毅然とした美しさがあちこちに・・・。
それはともかく、「殺人クラブ」との契約によって、渋々28年前の一家惨殺事件の記憶をたどるためにリビーが28年ぶりに再会していく人物は、①終身刑のため刑務所で服役中の兄ベン・デイ(コリー・ストール)、②かつてベンがいたずらをしたという少女で、今はストリッパーとしてうらぶれた生活の中で働いているクリシー・ケイツ(ドレア・ド・マッテオ)、③現在ホームレスとして生活している父ラナー・デイ(シーン・ブリッジャーズ)、④事件後に忽然と姿を消した、ベンの子供を妊娠したため一緒に町を出る約束をしていた年上の恋人ディオンドラ(アンドレア・ロス)、の4人。この再会とそれによって明らかになっていく事実を一つずつ説明するのはネタバレになる愚を犯すだけだから避けるが、28年も経てば本人はもちろん再会する男女もそれぞれ大きく変わっているのは当然。そんな変化に驚きつつ、28年前の一家惨殺事件の犯人捜しに動くリビーの姿をしっかり見守りたい。
<ナゾは少しずつ解明されていくが、少し違和感も・・・>
リビーは28年間ずっとあの事件とあの事件での自分の証言を心の中で引きずりながらダーク・プレイスの中で生きてきたが、多分それはリビーが今回面会した人物たちも同じ。そこで曲がりなりにも心の落ち着きを備えていたのは兄のベンだけで、クリシーの生活も荒んでいたし、父親ラナーの落ちぶれぶりは一層ひどくなっていた。更にビックリした変化は、本名がポリー・パームだということを偽っていた、かつてのベンの恋人ディオンドラには一人娘クリスタル(デニス・ウィリアムソン)ができていたが、クリスタルはホントにベンの娘らしいことだ。
リビーとの28年ぶりの再会と、リビーの追及の前に4人の人物たちが少しずつ当時の状況を話していき(口を割っていき)、ナゾが少しずつ解明されていくストーリー展開には少し違和感がある。だって、これではまるでリビーの行動はシャーロック・ホームズとまではいかないまでも、プロの探偵のようだから。もっとも、それはあくまで結果だけで、実際に行動しているリビーの姿はいきあたりばったり、おっかなびっくりだから、やはり所詮は素人の調査。それがわかって一安心だが、やはり偶然があまりにもうまく積み重なって、あの一家惨殺事件の解明が少しずつ進んでいくストーリー展開には少し違和感が・・・。
<ライルの調査からは、あっと驚く情報が!>
リビーが4人の人物と再会し、あの一家惨殺殺人事件の真相解明に向けて少しずつ重要な手がかりを積み重ねていく中、ライルの調査からはあっと驚く情報が!それは、カルバン・ディール(ジェフ・チェイス)という元農夫が「自殺請負人」をしており、この男がパティから嘱託殺人の依頼を受けていたという情報だ。つまり、肉体的、精神的に疲れ切っていたうえ、別れた夫からの金の無心やベンの少女へのいたずら事件容疑に対応するため、準備しなければならない高額の弁護士費用等で経済的にも困窮し、自宅の差し押さえまで受けたパティは、自分の命と引き換えに生命保険金を子供たちに残そうと決意し、自殺請負人のディールに自分を殺してくれと依頼し、その旨の契約を結んでいたというわけだ。もちろん、法的にそんなことが許されるはずはないが、どうやらあの日ディールはその契約を実行するべくパティの家の中に忍び込んでいたらしい。なるほど、なるほど・・・。
他方、ポリーへの事情聴取とその娘クリスタルとのご対面の後、リビーはクリスタルから頭部を鈍器で殴られ意識を失ってしまったが、そんなトラブルが発生したのはなぜ?また、そこで意識を失っていく中でリビーがあの時の記憶として思い出したのは、たしかに家出したはずのベンが家に戻っていたこと、そしてその後にはディオンドラも付いていたことだ。それは一体なぜ?そんな記憶と、現在集められた情報をつき合わせ整理していくと・・・。なるほど、なるほど・・・。
あの一家惨殺事件の全貌は、そういうことだったのか・・・。
2016(平成28)年7月1日記