エクス・マキナ(イギリス・2015年) |
<テアトル梅田>
2016年6月26日鑑賞
2016年7月1日記
今やAI(人工知能)は人間の生活に欠かせないが、最高のプロ棋士より強い囲碁のAI、「AlphaGo(アルファ碁)」の登場にはビックリ!「スパルタクスの反乱」は鎮圧できたが、『猿の惑星』シリーズのような事態になれば、人間は大変!
そんな問題意識を持てば、第88回アカデミー賞で視覚効果賞を受賞した美人AIロボットにも用心が必要だ。しかし、本作の主人公は「お見合い」のようなチューリング・テストの中で、次第に恋心が生まれ、「駆け落ち計画」を強行したところから大波乱が・・・。
たった4人の登場人物が織りなす非現実的な世界は、映画上のお話し・・・?それならいいのだが、ひょっとしてこれは、すぐそこに迫っている近未来・・・?
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監督・脚本:アレックス・ガーランド
ケイレブ(検索エンジンのシェアNo.1企業で働く有能なプログラマー)/ドーナル・グリーソン
エヴァ(最新実用型人工知能を搭載した女性型ロボット)/アリシア・ヴィキャンデル
ネイサン(検索エンジンのシェアNo.1企業のCEO)/オスカー・アイザック
キョウコ(人工知能を搭載した女性型ロボット)/ソノヤ・ミズノ
2015年・イギリス映画・108分
配給/ユニバーサル映画
<エヴァの知能レベルと美しさに注目!>
私は本作を6月26日、日曜日の12時05分から鑑賞したが、最近では珍しく満席。これはきっと、本作が第88回アカデミー賞で、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(15年)等の大作を押しのけて見事「視覚効果賞」を受賞したため、もしくは、それを知らなくても、予告編やチラシで、人工知能を搭載した女性型ロボットの女性らしい美しさと最新実用型ロボットらしい美しさの両方を感じ取り、どんな物語なのかと興味を持ったためだ。
人工知能といえば、今年は囲碁のAI(人工知能)である「AlphaGo(アルファ碁)」が、世界最高のプロ棋士である韓国のイ・セドル氏と五番勝負を演じ、4勝1敗で勝利したことが大きな驚きをもって報じられた。将棋の人工知能はまだまだ最高のプロ棋士には勝てないが、囲碁の世界では遂に人工知能が人間を凌駕したわけだから、こりゃすごい。しかして、本作でエヴァと名付けられた最新の人工知能を搭載した女性型ロボットの知能レベルは?
本作全編のテーマは当然それだが、本作ではそれとともにエヴァの美しさにも注目!しかも、その美しさは、①最先端のテクノロジーを搭載した機能的(機械的)美しさ、②人間の女性としての美しさ、の両方を兼ね備えているからすごい。アカデミー賞視覚効果賞の受賞は前者の美しさが評価されたためだが、後者の美しさは何といってもエヴァを演じている女優の美しさのためだ。そう思って確かめてみると、エヴァを演じたのは『リリーのすべて』(15年)で、アカデミー賞助演女優賞にノミネートされた、スウェーデン出身の若手美人女優アリシア・ヴィキャンデルだった。なるほど、なるほど。もっとも、人工知能に美しさが必要なのか否かについては根本的な疑問があるが、本作中盤以降のストーリー形成ではそれが大きく関与することになるので、本作ではエヴァの人工知能のレベルだけではなく、その美しさにも注目!
<研究所は?開発者は?こんな設定にビックリ!>
大規模な人工知能の研究所ともなると、設備も人手も大変。『007』シリーズでジェームズ・ボンドの敵となるスペクターがもつ研究所はその典型(?)で、研究所は辺鄙なところにあるけれども、大規模で厳重な警備下に置かれていた。そんなイメージと対比すれば、検索エンジンで有名な世界最大のインターネット会社“ブルーブック”のCEOとして君臨しているネイサン(オスカー・アイザック)が所有する、自然豊かな山あいに建つ別荘=研究所はバカ広いにもかかわらず、そこにいるのはネイサン一人だけ。そんな本作の設定はいかにも異様だ。
また、そんな別荘に一人でこもって人工知能の研究をしている男と聞くと、いかにもひ弱そうな学者タイプの男をイメージしてしまうが、何とネイサンは毎日サンドバッグと格闘している文武両道(?)の達人(?)であるうえ、料理が上手なら、ダンスの技もすばらしいという多芸ぶり。また、山あいの別荘と言えば、日本人の私には純木造の和風建築をイメージしてしまうが、本作に見るそれは総ガラス張りの超近代的なもので、雑然とした物は何ひとつ置かれていないチョー清潔なものだ。部屋に入るには各自のICカードが不可欠だが、後半からクライマックスにかけて、このガラスは人間の力やハンマー等では到底割ることのできない強度を誇っているらしい。
とすると、ここは別荘=研究所というより、その本質は監獄・・・?
<「当選者」の役割は、チューリング・テストのお相手!>
本作冒頭、大勢の同僚たちと一緒に“ブルーブック”で働いている若きプログラマーであるケイレブ(ドーナル・グリーソン)のパソコン上に「社内抽選で見事当選!」の表示が示され、同僚たちから祝福される風景が映し出される。当選者はネイサンの別荘に1週間招待される栄誉に浴するから、そりゃお楽しみ・・・。
別荘まではヘリで行くのだが、途中で降ろされ、「後は山道を歩け」という指示にケレイブはビックリ。さらに、はじめて目にする窓のない巨大な別荘、厳重にICカードで管理された多くの部屋、いかにも傲慢かつわがままそうでいながら、上司と部下の関係ではなく友人になろうと語りかけてくるネイサンの態度、等々にケレイブが不審の目を向けたのは当然だが、さてケレイブは招待されたこの別荘で一体何をするの?少なくとも宴会や温泉を楽しむわけではないことは明らかだ。そんな中、ネイサンとの話し合いによって、ケレイブの役割は、ネイサンが極秘に開発した人工知能エヴァの“チューリング・テスト”のお相手(検査者)になることだということが判明。秘密保持の書類にサインすることを前提に、その同意を求められたケレイブは結局同意することになったが、さてその役割の実態とは?なるほど、「別荘へのご招待」とはそういうことだったのか・・・。それ以降は、ケレイブとエヴァとの哲学論争とも禅問答ともいうべき、わかったようなわからないような会話=チューリング・テストが続いていくから、それに注目!
ちなみに、本作は『28日後...(28DAYS LATER)』(02年)(『シネマルーム3』236頁参照)、『28週後...』(07年)(『シネマルーム18』364頁参照)、『わたしを離さないで』(10年)(『シネマルーム26』98頁参照)等々の脚本を書いたアレックス・ガーランドが、はじめて自分の書いた脚本で自ら監督業に挑んだものだから、発想のユニークさと脚本の面白さは折り紙つき。優秀なコンピュータープログラマーであるケレイブと、優秀な人工知能であるエヴァとの会話は弁護士的会話に慣れている私には異質なもので難解だが、それを理解しなければ本作のホントの面白さは理解できないから、その会話にはしっかり耳を傾けたい。
<もう一体の美女AIロボットの役割は?>
本作前半のポイントは、エヴァとケイレブ間のチューリング・テストの中で交わされるさまざまな知的かつウィットに富んだ会話。これによって互いに相手の認識を深めていくわけだが、不気味なのはその様子をすべてネイサンがスクリーンでチェックしていることだ。また、いくら相手がAIロボットとはいえ、これほどの美女(美形?)になると、ケイレブが否応なくその性的魅力に少しずつ気づき始めていくところが面白い。他方、エヴァの方は自分のそんな女性としての性的魅力まで認識しているの?また、その発明者たるネイサンは、その点についてどのような基礎情報をエヴァのAIにインプットしているの?中盤からクライマックスにかけて、そこらあたりの性的なテーマが少しずつ大きくなっていく中、これまた魅力的なもう一体の美女AIロボットが登場してくるので、これにも注目!
キョウコと名付けられたもう一体の女性型ロボットは、外見も人間と全く同じに作られているうえ、キョウコを演じる女優ソノヤ・ミズノもすごい美人。しかも、エヴァは理屈っぽいのに対し、キョウコの方は従順で、ネイサンの食事の世話や身の周りの世話をするようにセットされているらしい。なるほど、そんなキョウコがいるからネイサンはこのバカ広い別荘で一人で生活できるわけだ。しかも、ストーリーが展開していくにつれて、キョウコはネイサンのセックス面のお相手もしているらしいことがうすうすわかってくるから、アレレ・・・。
いい年をしたオッサンであるネイサンが、ダンスも得意だという美女ロボットのキョウコと2人で踊るシーンはそのアンバランスぶりにビックリだが、ネイサンの意外なダンスの上手さにもビックリ。
<チューリング・テストの目的は?その逸脱は?>
囲碁や将棋の世界における人間とAIとの対決は、同じ土俵上での知恵比べでどちらが優れているかをめぐるもの。他方、現在開発中の掃除ロボットや車の自動運転AIやパワーロボット等、人間の道具や友人としてのAIは、人間の生活をより豊にするためのものだ。それに対して、本作でネイサンが研究に研究を重ねてやっと到達した最新鋭のAIロボットが目指すものは一体ナニ?それが人間と同じレベルの思考能力を持つAIであることは当然だが、それに加えて女性的な美しさを持たせたり、性的魅力まで感じさせるのは一体なぜ?ひょっとして、これはセックスのお相手という役割も果たす、完璧な女性型AIロボットを目指しているため?
ちなみに、チューリング・テストとは、数学の天才でコンピュータ科学の父であるアラン・チューリングが、1950年に考案した概念で、検査官が機械に話しかけ、その受け答えが本物の人間とまったく区別がつかなければ、その機械は知能を持つと判定する、というもの。このとき、相手が人間か機械か、検査官にわからないようにするため、相手の姿は見せないのが前提となっているらしい。しかして、1日目、2日目、3日目と続いていくケイレブとエヴァとの会話の中に見られるチューリング・テストの内容は?そして、スクリーンを通して秘かにそれを覗き見しているネイサンのチェックポイントとは?さらに、後に大問題になっていくその逸脱とは?
<恋愛の駆け引きでもエヴァは人間より上・・・?>
男女間の恋愛では、いやいやLGBTが認知されてきた昨今では同性間でも、恋の駆け引きが生まれるのが常。それを楽しんだり悲しんだりするのも、人間なればこその感情。したがって、いくら囲碁AIが強くなっても、AlphaGoが恋愛するのは不可能だ。しかし、もしエヴァが人間と同じ論理的な思考能力だけではなく、人間と同じ感情まで持つAIロボットだとしたら・・・?しかも、それが性的魅力と性的機能までも備えたメチャ美しい女性型AIロボットだとしたら・・・?その恋の駆け引きは、きっとケイレブのようなプログラマーとしては優秀でも、女にかけてはからっきし初心な男よりは数段上・・・?
本作では、チューリング・テストの結果報告と感想をめぐるケイレブとネイサンとの会話に少しずつ性的テーマが入り込んでくるにつれて、ケイレブとエヴァとの会話内容にも微妙に変化が生じてくる様子が面白い。また、それとともに、言語能力は持たないがセックスのお相手としては最高級にプログラミングされているらしいキョウコとネイサンとのいい雰囲気(?)が見せつけられてくるから、それにも注目!そんな状況下、もしエヴァが女性としての性的魅力を見せつけながらケイレブを誘惑してきたら・・・?そして、「停電」の時間を利用して「ネイサンはあなたの友人ではない。信用しないで」と巧みにケイレブに語りかけてくるエヴァが、いわば「駆け落ち」のような形でネイサンの支配から逃れる「たくらみ」を計画しているとしたら・・・?
<AIロボットの反乱は?究極のテーマはそこに!>
中学時代に観て感動した映画『スパルタカス』(60年)は、ローマ帝国に反乱を企て、一時的にはそれに成功しながら最後には鎮圧されてしまったスパルタカスをリーダーとする奴隷たちの反乱を描いた歴史大作。私はそれを先日テレビで鑑賞したが、その感動は変わることがなかった。しかして、本作のクライマックスは、中盤から予想できた通り「AIによる人間への反乱」となる。完全なネタばれは厳禁だが、本作では中盤以降、エヴァがケイレブの恋心(?)を巧みに利用して、ネイサンの別荘=監獄からの脱出をたくらんでいることがミエミエになってくる。したがって、興味の対象は次第にエヴァがそれをいかにして実行するのかに移ってくる。
導入部以降の展開を観ていると、ネイサンはあらゆる点で完璧な男だが、唯一の弱点は酒に溺れる傾向があること。飲み過ぎた翌日はサンドバッグを打ってたっぷり汗を流す等、体調の管理には気を遣っているようだが、飲みすぎて泥酔している姿はかなりだらしない。したがって、エヴァがケイレブに付け入るとしたらその点だ。しかして、「停電」の時間を利用した、ある「駆け落ち計画」がケイレブの主導の下に進められ、エヴァはそれに従ったが、何とネイサンはケイレブの上を行っており、その計画は全てお見通しだったからアレレ・・・。これにて「スパルタカスの反乱」と同じように、エヴァとケイレブが計画していたネイサンへの反乱は失敗!そう観念したところ、突然ナイフを持ったキョウコが現れて事態は急展開!その後の展開は、あなた自身の目でしっかりと。
しかして計画通り、協力してAIの支配者(=ネイサン)を倒した人間(=ケイレブ)とAIロボット(エヴァ)との恋の行方は・・・?そんな甘いことを言っていると、『猿の惑星』シリーズと同じように、ケイレブ(人間)がエヴァ(AIロボット)に支配されてしまうことになってしまうのでは・・・?
2016(平成28)年7月1日記