美しい人(アメリカ映画・2005年) |
<東映試写室>
2006年6月6日鑑賞
2006年6月9日記
9人の女優たちが、10~14分の寸描で示す9つの物語は、人生の一瞬を切り取ったものだが、それぞれに痛みや傷、そして人生の重みがいっぱい・・・。ロドリゴ・ガルシア監督が、こんなショートストーリーの大家であることは、2005年のロカルノ映画祭が最優秀作品賞のみならず、9人の女優全員に最優秀主演女優賞を贈ったことからも明らか。若いベッピン女優を楽しむのではなく、ベテラン女優たちから、9話それぞれのタイトルにあるような人生をしっかりと学びたいものだが・・・。
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監督・脚本:ロドリゴ・ガルシア
第1話『娘に愛をそそぐ人』
サンドラ/エルピディア・カリーロ
第2話『いま手にしている愛を見出す人』
ダイアナ/ロビン・ライト・ペン
第3話『愛をぶつける人』
ホリー/リサ・ゲイ・ハミルトン
第4話『お互いの弱さを知る人』
ソニア/ホリー・ハンター
第5話『かけがえのない人』
サマンサ/アマンダ・セイフライド
第6話『愛を求められる人』
ローナ/エイミー・ブレナマン
第7話『家族があることの歓びを知る人』
ルース/シシー・スペイセク
第8話『夫の愛の深さを知る人』
カミール/キャシー・ベイカー
最終章『神の祝福を受ける人』
マギー/グレン・クローズ
マリア/ダコタ・ファニング
エレファント・ピクチャー、ツイン、博報堂DYメディアパートナーズ配給・2005年・アメリカ映画・114分
<ロドリゴ・ガルシア監督の手法に注目!>
私はこれまで知らなかったが、ロドリゴ・ガルシア監督は『彼女を見ればわかること』(99年)では5つの、『彼女の恋からわかること』(02年)では10の物語を描いたらしい。そして、この『美しい人』では9人の女性たちを主人公とした9つの物語を・・・。したがって、この映画の原題は『9 lives』。
今回はその1つ1つが9、10分から14分で構成されるため、物語といっても、起承転結をつけた1話完結のまとまったものではない。逆に、ある女性の、ある人生の、ある一瞬を、監督のある視点で切り取り、その部分だけに焦点を当てて描くことによって、その女性のそして彼女の人生のエッセンスを観客に示すもの。したがってこれは、ショートストーリーではなく、まさに「寸描」という言葉がピッタリの表現方法・・・。そしてそのエッセンスは、第1話~第9話までの「タイトル」を見れば、ほぼわかるはず・・・。
<『9 lives』VS『デブラ・ウィンガーを探して』>
『デブラ・ウィンガーを探して』(02年)は、34人のハリウッド女優の人生や女優への思いをインタビュー形式で集めたもの。ドキュメンタリー風の映画だったが、ハリウッド女優のナマの姿を観ることができる興味深いものだった(『シネマルーム3』195頁参照)。
それに対して、この映画『9 lives』は1つ1つが完結した物語ではないものの、1人の女性が、ある局面で、どのように生きたのかを示すことによって、その女性の人生を表現しようとするもの。さて、あなたはどの女性の生き方に興味と関心が・・・?
<楽しいだけでは「寸描」の対象にはムリ・・・?>
映画は楽しいものを描いた方が、観ている観客も楽しくなるもの。そんな主義・主張に従えば、楽しいミュージカル映画などはその最たるもので、難しいことは何も考えず、ただひたすらスクリーンに集中することによって、幸せを実感できるはず。
しかし他方、映画は人生を描いているから面白いんだという、ヨーロッパ風(?)、そしてシャンソン風(?)の主義・主張もある。そして、ガルシア監督が描く『9 lives』は、まさに人生の1コマを描くもの。しかし、10分前後で人生の深さや本質を描こうとすると、どうしてもそれは人生の痛みや傷、不幸という「ワケあり」のテーマになってしまう。つまり、楽しいだけでは「寸描」の対象にはムリということだ。
したがって、多くの観客、特に女性客は、スクリーン上に登場する「ワケあり」女性の生き方を自分の人生とつき合わせながら検討し、それぞれの「ワケあり人生」からの克服を模索していくことに・・・。そんな9つの人生模様が見事に描かれていることが、この映画がロカルノ映画祭で最優秀作品賞を受賞した理由。そんなところを、じっくりと鑑賞してもらいたいもの・・・。
<ワンカット・ワンシーンとは?>
パンフレットによれば、この9つの物語は、それぞれ1つの連続したショット、すなわちワンカット・ワンシーンで撮られたとのこと。9、10分から14分をワンカット・ワンシーンで撮るというのは、俳優にとってはすごく大変なことだと思うが、逆に、そのアイデアは「俳優たちの興味をそそるものになった」とのこと。
もちろん、この『9 lives』に登場する女優陣は、第5話のサマンサ(アマンダ・セイフライド)を除いては、第9話のダコタ・ファニングも含めてベテラン女優ばかり。そうだからこそしっかり対応できたのだろうが、スクリーン上にはそういう緊張感と息づかいが伝わってくる感じが・・・。
<撮影は2×9=18日間・・・>
10分前後のワンカット・ワンシーンの撮影は、俳優だけでなく、カメラマンや撮影監督など現場の技術スタッフにとっても大きな負担。パンフレットにはその苦労話も紹介されているが、技術者たちにとってはそれは苦労ではなく、新たなことへのチャレンジだったよう。しかも最近は、カメラも小型で優れたものがたくさん出ているから、技術者にとっては、まさに腕の見せどころ・・・。
そんな技術陣の努力の甲斐があって、何とこの映画の撮影期間は、「9人の人生それぞれに、2日ずつを要しただけの、わずか18日間でした」というから驚き。準備期間は別として、わずか2×9=18日間の「労働」で、ロカルノ映画祭での最優秀作品賞や最優秀主演女優賞を9人が獲得したのだから、その効率の良さは抜群・・・。
2006(平成18)年6月9日記