結婚(日本映画・2017年) |
<テアトル梅田>
2017(平成29)年7月8日鑑賞
2017(平成29)年7月13日記
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監督:西谷真一
原作:井上荒野「結婚」(角川文庫刊)
古海健児/ディーン・フジオカ
古海初音/貫地谷しほり
千石るり子/柊子
工藤麻美/中村映里子
吉岡真奈/松本若菜
穂原鳩子/安藤玉恵
矢島(探偵)/古舘寛治
柊泰江/萬田久子
2017年・日本映画・118分
配給/KADOKAWA
□■ショートコメント■□■
◆女性の社会進出が進んで結婚と出産自体が減り、さらには、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーの頭文字をとったセクシャルマイノリティの略語)が急速に増えている昨今、「結婚しよう」という甘い囁きに騙される女性は一体どれくらいいるの?「結婚しよう」との甘い言葉を囁くシチュエーションの設定と、その場でのプレゼントは、男にとっても女にとっても若き日の最大のイベントだ。
普通はそれが2人の幸せな結婚生活のスタートになるものだが、端正な顔立ちとスタイルを持ち、全身隙のないスーツ姿で身を固め、気の利いた会話で女を魅了してきた男・古海健児(ディーン・フジオカ)からそう言われると、ほとんどの女はそれが「別れの言葉」だと気づかないまま、なぜか大金を古海の銀行口座に振り込むことに。
◆古海はスクリーン上では、愛妻の初音(貫地谷しほり)と結婚生活を続けているらしい。そしてまた、古海は毎日営業のために外を駆け回っているらしい。ところが、彼は会社から定期的に給料をもらっておらず、彼の収入はもっぱら結婚詐欺で騙した女からの貢ぎで成り立っているというから、ビックリ!
もっとも、スクリーン上で見る限り、最初に彼の餌食となる、家具店で働く女・工藤麻美(中村映里子)から詐取した金額は100万円だけだから、結婚詐欺のリスクと女を有頂天にさせる努力の割には実入りは少なそう・・・?
◆デートの場で新旧の女、あるいはダブル交際している女が鉢合わせ。それは男にとって最悪の事態だが、本作導入部に見るそれはどうも古海とるり子(柊子)が仕組んだお芝居だったらしい。かつて古海の結婚詐欺の被害に遭ったるり子は、世の中には結婚詐欺にだまされる女がゴマンといることを知り、今は古海の良き協力者としてせっせとそんな女の情報を古海に供給し、女から詐取した金を山分けしているわけだ。
本作が描くこの2人の「共犯」としての理解度と反発度は興味深いが、詐取したお金の分配率も興味深い。ラブホテルでのコトが終わった後、ベッド上の古海が不満を言っていたように、取り分が五分五分というのはどうみてもるり子の取り過ぎ。男の私はそう思うのだが・・・。
◆『クヒオ大佐』(09年)(『シネマルーム23』202頁参照)で、詐欺師のクヒオ大佐を演じた堺雅人の演技はユーモアに富むというより、あまりにもインチキっぽかったから、それに騙される女のバカさ加減が目立っていた。それに対して、本作に見る古海の騙し方は王道を行くものばかり(?)だから、ある意味で女は騙されても当然。あまりに手際の良いその騙しのテクニックを見ているとスマートすぎて少し飽きてくる。そこで、本作では少し趣向を変えて(?)、かつて、古海から騙された市役所勤めの女・穂原鳩子(安藤玉恵)が、私立探偵の矢島(古舘寛治)に犯人探しを依頼するサブストーリーが登場するので、それにも注目!
私にはこの不細工な女(?)を古海がホントに結婚を餌に騙したとは思えないのだが、それはそれとして、鳩子の自分を騙した結婚詐欺の犯人探しの執念と、その執念の向かい所が必ずしも結婚詐欺師の逮捕ではないところに注目!そして、それはひょんな展開の中で、鳩子とともに「被害者の会」を結成することになる麻美も同様だから面白い。探偵の矢島は金にさえなればそんな女ゴコロの展開はどうでもいいようだが、男の観客にとっては本作に見るそんな女心を勉強するのも一興だ。
◆本作では古海の端正な女たらしの演技が際立っているが、その分だけそれにコロリと騙されたらしい女・るり子と鳩子、そしてスクリーンで現にその騙されぶりを見せてくる女・麻美の女ゴコロが面白い。麻美の次の餌食になりそうなのが、上昇志向が高く、プライドが高い女・吉岡真奈(松本若菜)だが、彼女の騙され方は・・・?
それに対して本作ラストに登場する、大金持ちで古海の母親くらいの女・柊泰江(萬田久子)はそれとは大違い。泰江は古海の詐欺師ぶりにすぐに気づいたようだが、それを警察に届け出ず、古海と食事をしたり、古海の出自の秘密に興味を示したのは、一体何故?それはやはり古海がかっこ良かったため?そうでなければ、一緒にクルーズの旅に誘うはずはないだろう。彼女は口では「ツバメを囲うつもりがない」と言っていたが、さて、その内心は・・・?
◆本作ラストには、古海をある波止場に追い詰めた「被害者の会」の3人の女である麻美、真奈、鳩子がそれぞれ自分の主張を古海にぶつけていくシーンが登場するので、それに注目!しかし、そこに同席していた泰江だけは、それとは違う視点に立っているのが面白い。それは泰江が調査した古海の出自についての調査結果を知っているためだが、さて、そこにはどのように書かれていたの・・・?
◆本作は、直木賞作家・井上荒野が「結婚詐欺」をテーマに男女の孤独と欲望を描いた小説をNHK連続テレビ小説「あさが来た」の演出でディーン・フジオカの魅力を存分に引き出した西谷真一監督が映画化したもの。本作は新聞紙上でもそれなりの興味を持って紹介されている。そして、7月7日付け朝日新聞で、西谷真一監督は、「はっきりした結末ではなく、ストーリー性よりも『人間って何だろう』など通して感じるものを意識して作りました。まさに、見る人にとっての鏡のような作品ですね。絵画のように飽きるほど見てほしいなと思います」と答えている。
本作では、麻美、真奈、鳩子の馬鹿さ加減が際立っているが、毎日古海を営業の仕事として送り出し、帰りは温かく迎えている妻初音の存在感は、ふわっとしているものの半端ではない。しかして本作ラストでは、その初音の存在を通じて西谷真一監督の前述の答えが「なるほど」と思えるファンタジーな世界がスクリーン上に登場してくるので、それに注目!
◆本作冒頭、海辺に1人でたたずむカッコいい古海の姿が登場し、かなり長々と「あした浜辺をさまよえば・・・」という、私の大好きな唱歌『浜辺の歌』を口ずさむシーンが登場する。これも古海の出自の秘密にまつわる、ある逸話に絡むシーンらしいが、ストーリー展開中はその意味はわからない。
しかして、本作ラストには古海の妻である初音が海辺にたたずみ、これまた1人で『浜辺の歌』を口ずさむシーンが登場するので、それに注目!今どきこんな唱歌を知っている若者は少ないだろうから、冒頭とラストのこの歌の意味とその良さがホントにわかるのかどうか心配だが、年配者ならすぐにわかるはず。本作ではそんなボンヤリしたストーリー性にもしっかり注目を!
2017(平成29)年7月13日記