ナミヤ雑貨店の奇蹟(日本映画・2017年) |
<松竹試写室>
2017(平成29)年8月8日鑑賞
2017(平成29)年8月16日記
「東野圭吾史上、最も泣ける感動作」が映画に!悩み相談の手紙とその回答が人の生き方に与える影響とは?
1980年、1988年、そして2012年と「3つの時空」が交差する物語は複雑だが、なぜ、悩み相談の手紙を通じてバラバラの人たちが時空を超えて結びついたの?そして、ナミヤ雑貨店を舞台として最後に生まれた奇跡とは・・・?
映画化困難と言われた原作の映像化にみる、廣木隆一監督の手腕に拍手!
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監督:廣木隆一
原作:東野圭吾『ナミヤ雑貨店の奇蹟』角川文庫刊
矢口敦也(児童養護施設「丸光園」出身の3人組のリーダー)/山田涼介
浪矢雄治(ナミヤ雑貨店の店主)/西田敏行
田村晴美(19歳、ペンネーム“迷える子犬”)
田村晴美(51歳、女性起業家)
小林翔太(「丸光園」出身の3人組)/村上虹郎
麻生幸平(「丸光園」出身の3人組)/寛一郎
松岡克郎(ペンネーム“魚屋ミュージシャン”)/林遣都
皆月暁子(浪矢雄治のかつての恋人)/成海璃子
セリ(10歳、「丸光園」の園児)/鈴木梨央
セリ(35歳、国民的歌手)/門脇麦
浪矢貴之(浪矢雄治の息子)/萩原聖人
松岡健夫(松岡克郎の父親)/小林薫
川辺映子/山下リオ
刈谷/手塚とおる
皆月良和(「丸光園」の園長)/PANTA
田村秀代(田村晴美の母親)/吉行和子
2017年・日本映画・129分
配給/KADOKAWA・松竹
■□■「東野圭吾作品史上最も泣ける感動作」の舞台は?■□■
人気作家、東野圭吾の小説は次々と映画化されてきたが、「東野圭吾作品史上最も泣ける感動作」として世界累計800万部を超える大ベストセラーとなっている『ナミヤ雑貨店の奇蹟』は、5つのエピソードが時代を超え、綿密に絡み合った美しい群像劇。そのうえ、同作は登場人物が多く、時間軸が複雑な物語だから、西田敏行がプレスシートで、「最初にこの小説を映画化するのは至難の業だろうと思ってたんです」と語っているように、本来映画化が困難な原作だ。
本作冒頭に登場する1960年代後半のナミヤ雑貨店はそれなりに繁盛しているようだが、その店主たる浪矢雄治(西田敏行)は雑貨販売の傍ら、シャッターの郵便口から投げ込まれる悩み相談の手紙に対して回答を書くことに精を出していた。その回答のほとんどは掲示板に張り出していたが、深刻な相談への回答は牛乳箱に入れられ、相談者以外が勝手に回答を見ないのが暗黙のルールになっていた。
私も弁護士業務の傍ら映画評論をしているが、いつしかそれがメインになってきたのと同じように、浪矢もその当時既に雑貨業より悩み相談への回答の方が本業に・・・?それはともかく、本作の舞台はタイトル通りここ「ナミヤ雑貨店」になるので、まずはその店に注目!
■□■3つに区分された時空に注目!■□■
異なる時空を交差させながら物語を進めていく映画は多いが、それは複雑でわかりにくくなることが多い。本作もそうなので、少し整理しておくと、1960年代後半から始まる本作では、次のとおり①1980年、②1988年、そして③2012年という3つの年が節目のポイントになる。
①1980年は、末期の膵臓がんが発見され、余命3カ月と宣告され入院した浪矢が、もう一度雑貨店で手紙を待ちたいため、1人息子の貴之(萩原聖人)に頼んで店に戻ってきた年。同時に1980年は、魚屋ミュージシャンこと松岡克郎(林遣都)が、祖父の葬式に参列するために久しぶりに故郷で父親健夫(小林薫)と会い、先の見えない音楽の道を選ぶのか、それとも家業の魚屋を継ぐべきかに悩む年にもなる。
②1988年は、クリスマスの慰問のために児童養護施設「丸光園」を訪れたミュージシャンの松岡克郎が「丸光園」の火事に遭遇し、園児のセリ(鈴木梨央)の弟を助ようとして自分の命を落としてしまう事件が発生した年。
③2012年は、「丸光園」の卒園生で今は19歳になっている矢口敦也(山田涼介)、小林翔太(村上虹郎)、麻生幸平(寛一郎)の3人組が、田村晴美(尾野真千子)宅に盗みに入った後、今や廃屋と化した「ナミヤ雑貨店」に忍び込んだ年だ。
ちなみに、私にとっての節目になる年は、①大学に入学した1967年、②弁護士登録をした1974年、③独立して事務所を設立した1979年、そして④自社ビルを構え事務所を移転した2001年、⑤直腸がんの手術をした2015年というところだ。もちろん、これは本作の展開とは無関係だが、本作については観客1人1人が自分自身の人生の時代区分と対比しながら、「三つに区分された時空」を味わうのも一興だ。
■□■人の生き方にも時代区分が!2012年の今も手紙が?■□■
私が近時出版した『まちづくりの法律がわかる本』(2017年 学芸出版社)の第5章「成立した時代でわかる!まちづくり法のポイント」で分析した通り、戦後日本のまちづくり法は「第1期 戦災復興と国土づくりの時代(1945年~1961年)」から「第10期 安倍長期政権と新たな都市再生の時代(2012年~)」までの10期に時代区分できる。それと同じように、一人の人間が生きていくについても、時代区分が可能。私の人生の時代区分は前述したとおりだが、その内容は人それぞれだ。
浪矢は1960年代後半にはナミヤ雑貨店を営みながら「悩み相談」に精を出していたが、1980年には余命3ヶ月と宣告され、ほどなく死亡してしまった。そして、息子の貴之がその跡を継ぐこともなかったから、2012年の今ナミヤ雑貨店は廃屋となり「悩み相談」の機能も失われてしまっていた。ところが、田村晴美の家に「軽く盗みに入った」矢口敦也たち3人組が、逃走用の車がエンストで動かなくなったためやむなくナミヤ雑貨店の廃屋に入り込んで休憩していると、シャッターの郵便口から1通の手紙が・・・。手紙の差出人は魚屋ミュージシャン。こりゃ一体ナニ・・・?
■□■廃屋の一夜で、様々な人生模様を見ることに■□■
大きく3つの時空に分けられ、その時空がスクリーン上で縦横無尽に駆け巡るのが本作第1のポイントなら、本作第2のポイントは、3つの時空ごとに展開するストーリーが互いに絡まり、互いに伏線となりながら、ラストにはそれらが1つに繋がり、ある「奇跡」が浮かび上がってくることだ。3つの時空で展開するストーリー全体を牽引するのは3人組だし、その舞台になるのは廃屋となったナミヤ雑貨店だが、中盤から後半にかけて大きくクローズアップされてくる人物が「迷える子犬」として浪矢に人生相談の手紙を出した田村晴美だ。
田村晴美を演じるのは、河瀬直美監督の『萌の朱雀』(97年)でデビューし、今やひっぱりだこの売れっ子女優になっている小野真千子だが、本作で彼女は19歳の田村晴美と、企業家として大成功し大邸宅に住んでいる51歳の田村晴美の二役を演じているからビックリ!。「先日、金持ちの客から店を持たせてやるから愛人にならないかと誘われました。私は迷っています・・・」と質問した彼女は、「あなたは愛人になってはいけません。私を信じて指示にしたがってくれれば、夢をかなえるお手伝いができるかもしれません。」と書かれた回答のとおりに頑張ったところ、大成功したそうだが、そんなことってあるの・・・?この回答はホントに浪矢が書いたの?それとも・・・?
他方、1988年に「丸光園」で起きた火事で、幼い弟の代わりにミュージシャンの松岡克郎を失った10歳のセリは、松岡が口ずさんでいた「リボーン」の曲に歌詞をつけて歌うことによって、その後国民的歌手に成長していたが、皆月良和(PANTA)が経営する「丸光園」が経済的苦境に陥りながら何とか維持できたのは田村晴美の多大な経済的支援によるものだったらしい。田村晴美がそんなに大成功することができたのは一体なぜ・・・?
2012年の今、ナミヤ雑貨店に忍び込んだ3人組はそこに忍んでいる一夜の間にシャッターの郵便口から投函される手紙を読んだり、それに回答を書いたりすることによってさまざまな人生模様を知っていくことに・・・。
■□■西田敏行が!門脇麦が!そして成海璃子もいい味を!■□■
「昭和の良き時代」をうたいあげた山崎貴監督の『ALWAYS 三丁目の夕日』(『シネマルーム9』258頁参照)、『ALWAYS 続・三丁目の夕日』(『シネマルーム16』285頁参照)、『ALWAYS 三丁目の夕日 ’64』(『シネマルーム28』142頁参照)では、吉岡秀隆、堤真一、小雪、堀北真希らがそれぞれいい味を出していた。しかして、昭和から平成に移行していく1988年を境目とする本作の「時空を超えたストーリー」では、何といっても浪矢雄治を演じる西田敏行がいい味を出している。そもそも、雑貨業の傍らに始めた悩み相談が次第に本業になっていく姿が興味深いうえ、余命3カ月の宣告を受けた浪矢の「最後の頼み」が再びナミヤ雑貨店に戻ることだったのは、「最近、毎晩、奇妙な夢をみるんだ。真夜中に誰かが店のシャッターの郵便口に手紙を入れている。それはかつて俺に相談し、俺から回答を受け取った人たちで、自分の人生がどう変わったか、それを知らせてくれてるんだよ」と考えたから、というのも興味深い。近時公開される『アウトレイジ最終章』では、こわ~いヤクザ役を演じるようだが、やっぱり西田敏行には本作のような役がピッタリ!
他方、前述したとおり小野真千子は安定した演技を見せているが、本作でキラリといい味をみせているのが、先日みた『世界は今日から君のもの』(17年)で主演した門脇麦。舞台衣装に身を包んで「リボーン」を熱唱しているシーンや、曲に合わせて1人で踊る幻想的なシーンを見ていると、彼女がいかにいい女優に成長しているかを実感!
また、あくまで添えもの的役割ながら、浪矢を温かい目で見守り続ける成海璃子の演技もいい。彼女が演じた皆月暁子は若き日の浪矢の恋人で、かつて2人で駆け落ちしようとまでしたそうだが、さてその実行は・・・?『神童』(07年)で映画初出演をし『罪とか罰とか』(09年)で鮮烈な印象を残した成海璃子(『シネマルーム22』270頁参照)は最近あまりパッとしないが、本作では脇役として立派な存在感をみせている。また矢口敦也、小林翔太、麻生幸平の「3人組」の若者たちの演技は私にはイマイチだが、町の中を何度も疾走する馬力を含めて一貫してストーリーを牽引していく努力に拍手!
■□■還暦を越えた山下達郎が、美事な死生観を主題歌に!■□■
ミュージシャンの山下達郎といえば、私の大好きな竹内まりや全作品のアレンジとプロデュースを手がけていることで有名。また、1989年のバブル真っ盛りの時代にオリコンチャート1位を記録した「クリスマス・イブ」は、それから30年近く経った今でもユーミンの「恋人はサンタクロース」と共にクリスマスでの定番ソング。そんなミュージシャンである山下達郎も1953年生まれだから、私より4才若いだけだ。本作では、最初にミュージシャンを目指す松岡がメロディだけで「リボーン」を口ずさんでいたが、松岡の死亡後、丸光園を卒園したセリはその曲に歌詞をつけ、歌手デビュー後は自分の大事な曲として歌い続けていた。
これは名曲だ。この歌詞についてのプレスシート上での山下達郎の「コメント」によれば、「東野圭吾さんの原作において、すでに「再生」(映画では「REBORN」)とタイトルが定められている曲を、映画の劇中に具現化し、さらにそれをエンドロールで私自身が歌うという、虚実のないまぜの世界が求められ」たそうだ。そして、「そのため、どの場面にも違和感のない曲調を実現するために、かなりの模索と推敲を要しました。そのおかげで、今までの自分の作品とはひと味違った、新たな作風が提示できたと思います。」と説明している。
プレスシートには、「REBORN」の歌詞が全文載せられているが、彼が語っているように、この歌のテーマは「死生観」。彼は「人はどこから来てどこへ行くのかという、根源的な問いに思いをはせていただくことで、映画のストーリーと併走し、盛り立てることができるのではと思っています。」と語っている。本作の評論については、この「REBORN」の歌詞も是非確認してもらいたい。そして、もちろんそれだけでは曲の良さはわからないだろうから、是非スクリーン上で門脇麦扮するセリがステージで歌う姿を直接見るとともに、スクリーン上で流れる山下達郎自身の素晴らしい歌声をしっかり味わいたい。
2017(平成29)年8月16日記