エル ELLE(フランス映画・2016年) |
<大阪ステーションシティシネマ>
2017(平成29)年8月27日鑑賞
2017(平成29)年9月1日記
ポール・ヴァーホーヴェン監督の『氷の微笑』(92年)におけるシャロン・ストーンの演技は生ツバものだったが、ハリウッド女優が軒並み尻込みしたレイプシーンへのフランス人女優イザベル・ユペールの挑戦は?
ジョディ・フォスターが主演した『告発の行方』(88年)では、レイプ犯の処理を求めて女性の地方検事補が大活躍したが、本作では被害者が自ら犯人を追及。さて、そのやり方は?
犯人は誰か?のミステリー色とともに、少女時代のトラウマを抱えながらも強い会社経営者に成長したヒロインの人物像に注目!ヒロインとその母親・息子たち、さらに隣人や友人たちは皆少しずつ変なキャラだから、ストーリーが変な方向に進むのは当然。しかし、本作ではそんな展開をしっかり楽しみたい。しかして、犯人は誰?そして、その結末は如何に?
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監督・脚本:ポール・ヴァーホーヴェン
原作:フィリップ・ディジャン『エル ELLE』(ハヤカワ文庫刊)
ミシェル(ゲーム会社の女社長)/イザベル・ユペール
パトリック(ミシェルの隣人)/ロラン・ラフィット
アンナ(ミシェルのビジネスパートナー)/アンヌ・コンシニ
リシャール(ミシェルの元夫・作家)/シャルル・ベルリング
レベッカ(パトリックの妻・熱心なカトリック教徒)/ヴィルジニー・エフィラ
ヴァンサン(ミシェルの一人息子)/ジョナ・ブロケ
ロベール(アンナの夫・ミシェルの不倫相手)/クリスチャン・ベルケル
アイリーン(ミシェルの母親)/ジュデット・マーレ
ジョジー(ヴァンサンの恋人)/アリス・イザース
2016年・フランス映画・131分
配給/ギャガ
■□■このフランス人女優の度胸のよさに拍手!■□■
現在フランスを代表する女優といえば、『エディット・ピアフ 愛の讃歌』(07年)(『シネマルーム16』88頁参照)で第80回アカデミー賞主演女優賞を受賞し、『サンドラの週末』(14年)(『シネマルーム36』193頁参照)でも第87回アカデミー賞主演女優賞にノミネートされたマリオン・コティヤール。本作で第89回アカデミー賞主演女優賞にノミネートされたザベル・ユペールは彼女と並ぶフランス女優だ。『未来よこんにちは』(16年)(『シネマルーム39』260頁参照)では、50代となって女1人で力強く生きていく高校教師役を淡々と演じていた彼女が、本作では冒頭のレイプシーンから一貫して出ずっぱりでミシェル役を熱演!本作を監督・脚本したのはポール・ヴァーホーヴェン。彼のエロティック・スリラーの代表作たる『氷の微笑』(92年)では、ハリウッド女優シャロン・ストーンの魔性の女ぶりにビックリさせられたが、さて、イザベル・ユペールが本作でみせる魔性の女ぶりとは?
かつて「日活ロマンポルノ」では「レイプもの」が人気を呼んでいたが、そこでは何よりもリアルさが命だった。しかして、本作冒頭、いきなり猫の両眼だけが目撃している中で展開されるレイプシーンは如何に?事前に少しだけ情報を得ていた私はある意味そこに大きく期待したが、冒頭のそれは実際にはほんの一瞬で終わってしまったから、アレレ・・・?そう思っていたが、実は・・・。
ポール・ヴァーホーヴェンが脚本を書いた本作では、並みいるハリウッドの女優陣は、こんな役を演じることに躊躇し出演を辞退したそうだが、イザベル・ユペールは敢然とその要請をオーケーし、『氷の微笑』におけるシャロン・ストーンと同じように魔性の女ミシェル役に挑戦。まずは、そんなフランス人女優イザベル・ユペールの度胸の良さに拍手!
■□■まずは警察に!日本ではそれが常識だが、本作では?■□■
日本では長い間、強姦罪は親告罪だったから、被害者が告訴しなければ捜査が始まらなかった。しかし、近時の110年ぶりの刑法の改正で強姦罪が親告罪でなくなると同時に、その犯罪名も「強制性交等罪」と改正された。そして、女性に限定されていた被害者も、男性を含めるとされたうえで、性交類似行為がその対象とされた。さらに、法定刑の下限は懲役3年から5年に引き上げられた。しかし、親告罪であるか否かにかかわらず、レイプ事件が起きればその被害者はまずは警察に届け出るのが日本でもアメリカでも常識・・・?若き日のジョディ・フォスターが主演した『告発の行方』(88年)ではレイプ犯の追及に女性の地方検事補が大活躍したが、そこでは同時に裁判で被害者がかなり苦しめられ、精神的に多くの苦痛を強いられる姿が描かれていた。したがって、これを見ればアメリカでもレイプ事件の犯人探しと裁判での有罪認定は、大変なことがよくわかる。しかして、そんな知識が十分頭に入っている本作のヒロインは?
冒頭にみる、猫の両眼だけが目撃しているレイプシーンはかなりの暴力を伴った凶悪なものだったから、こんな場合は、警察への通報が大原則。しかし、幼い頃の父親の「ある事件」がトラウマとなって警察不信が徹底しているミシェルは、警察への通報を拒否。コトが終わった後、寿司を注文して腹ごしらえしながら気分を落ち着け、傷の手当や性感染症の予防等の善後策もバッチリ。もちろん、翌日からの社長業にも何の影響も無しとしたのだからすごい。しかして、犯人追及に向けたミシェルの戦略と戦術は・・・?
イザベル・ユペールも御年60歳を超えているから、『アデル、ブルーは熱い色』(13年)(『シネマルーム32』96頁参照)で観たフランスの若手女優レア・セドゥのような美しさには到底及ばない。しかし、その歳にしてなお彼女が演じたミシェルはゲーム会社の女社長として辣腕を振るっていたから、ミシェルのビジネスウーマンとしての実力はすごい。しかも、誠実そうだが生活力ゼロの元夫で作家のリシャール(シャルル・ベルリング)とはすでに離婚し、1人で豪邸に住んでいたが、仕事上のパートナーの女性アンナ(アンヌ・コンシニ)の夫ロベール(クリスチャン・ベルケル)としっかり不倫関係を保っていたから、「その方面」も相当なものだ。そんなミシェルに対して嫉妬や恨みを抱く男女は多そうだが、こんなレイプ事件まで引き起こした男は一体誰?当初は一夜限りの暴漢かとも思ったが、その後届く「年のわりには締りがよかった」等のメールを見ると、ひょっとして犯人はミシェルをよく知っている身近な男・・・?
■□■母親の息子も、隣人も社員も、みんなヘン・・・■□■
本作は群像劇ではなく、レイプ事件の犯人捜しを核としたサスペンス劇。それに、『氷の微笑』と同じようにポール・ヴァーホーヴェン監督流のエロティックという冠がつくのがミソだ。本作は全編を通じて、ミシェルが幼い頃に彼女の父親が犯した「ある犯罪」で父親のみならず、その妻も娘も大きく傷ついたことが語られる。そのため、ミシェルは今でも父親を許せず、刑務所に入っている父親とは面会すら拒否しているらしい。そして、母親(ジュデット・マーレ)はそんな娘に反省を求めるとともに、70歳を越えた今でも若い男と同棲生活を楽しんでいるから、フランスという国はすごい。他方、ミシェルの一人息子ヴァンサン(ジョナ・ブロケ)は、妊娠中のわがままな嫁ジョジー(アリス・イザース)にぞっこん。彼女の出産が大騒動なら、生まれてきた赤ちゃんの世話にもヴァンサンが大奮闘だ。ところが、肌の色を見れば、ミシェルの目には赤ちゃんの父親がヴァンサンでないことは明らかだから、これまた大変・・・。
他方、ミシェルの住んでいる家はアパートの多いフランスでは例外的に豪華な一戸建てだが、その向かいに住んでいる若くてハンサムな男パトリック(ロラン・ラフィット)の家も同じく立派な一戸建て。仕事一筋のミシェルだが、たまには近所づきあいも大切と考え、パトリックを食事の席に招待すると、若く敬虔なキリスト教徒の妻レベッカ(ヴィルジニー・エフィラ)と共にやってきた彼の仕事は?収入は?
また、ミシェルの仕事上のパートナーである女性アンナの夫ロベールは仕事上でもミシェルを手助けしていたが、前述の通り、この男は実はミシェルの不倫相手。そんなの関係だけに、ミシェルが隣人の長身のハンサムボーイを食事に招待したことにロベールは嫉妬心を燃やし始めたから、さあ、複雑な男女関係の進展は・・・?さらに、ミシェルの母親もアパートに囲っていた若いツバメと結婚すると言い始めたから、アレレ・・・?
ポール・ヴァーホーヴェン監督の映画は意外性のあるものが多いが、その原因は登場人物が奇妙なヤツばかりだから・・・?本作では、そんな点にも注目!
■□■犯人は誰だ?中盤のミステリー色に注目!■□■
『氷の微笑』でも犯人は誰だ?が中盤の大きなテーマになっていたが、それは本作も同じ。しかし、本作ではミシェルがレイプ被害を警察に届け出なかったうえ、彼女の手元に送られてきたメールから、犯人は自分を知っている人物の可能性が高いと推測。そのうえで、ミシェルはある社員に秘密で全社員のパソコンを調べるよう命じたが、これは明らかに違法行為だから、弁護士的にはおすすめできないやり方だ。ミシェルが犯人を知人、しかも社員もしくはゲームの仕事関係者と推測したのは、ミシェルが「もっと刺激的に!」と要求していたゲームの制作過程で、レイプされているミシェルの顔が登場してくるゲームが開発されていたためだ。そんな挑発的なことをするのは一体誰?こんな事ができるのは社員に限定されるのではないか?ミシェルがそう考えたのは当然だが、さて実際は?
ミシェルがレイプされる冒頭のシーンはごく数秒だけだったので少し拍子抜けだった(?)が、実はこのシーンはその後再三ミシェルの頭の中で蘇るたびに、スクリーン上で再現されるので、それに注目!また、それとともに、これはあの時の回想シーンなの?それとも新たな襲撃シーンなの?と、一瞬見間違うかのような刺激的なレイプシーンが再三登場するので、それにも注目!しかして、犯人は一体誰?
1度あることは2度ある。それが世の鉄則だ。そしてまた、ミシェルがレイプ被害を警察に届け出ていない本件においては、なおさら犯人は味をしめて次のチャンスを狙うのでは・・・?そう思ってると案の定・・・。しかし、今回はミシェルの防御態勢は万全。したがって、1度は間違って不倫相手のロベールがミシェルの反撃に遭ったはご愛嬌だったが、ホンモノのレイプ犯人(?)からの襲撃が2度目になるとそれに対するミシェルの反撃は・・・?本作では、そんな中盤のミステリー色に注目!
■□■この強い人格はどこから?過去のトラウマの影響は?■□■
私の父親は今年2月に102歳で死亡したが、私と兄の2人の兄弟と父親との関係は必ずしも良好ではなかった。しかし、それに比べても本作にみるミッシェルと刑務所に入っているという父親との関係は最悪。母親がいくら勧めても「絶対に面会など行かない」という姿勢をミッシェルは貫いていたが、それはなぜ?また、母親との関係でも、70歳を過ぎてなお若い男と同棲し、結婚宣言までしてしまう母親が少し異常なこともわかるが、そんな母親がいきなり倒れると「ウソでしょ!仮病はやめてよ!」というスタンスだから、ビックリ!そのままあっけなく母親が死んでしまっても、ミシェルの心には何の痛手も残らなかったようで、母親の死亡後は同棲中の男に対して、しっかり「この家の名義は母親だからすぐに出て行ってくれ」と宣言。その強さは、ゲーム会社の社長としてだけではなさそうだ。
『氷の微笑』に見たヒロイン(?)も美人だけれども変な女だったが、同時にメチャクチャ強くたくましかった。それと同じように、ミシェルもお肌の衰えが目立つものの、おしゃれをすればまだまだ女盛りだから、「その方面」もしっかりやっているし、レイプ犯探しや再度の襲撃に対する防御態勢も万全だから、その強さとたくましさが際立っている。しかし、この人格形成は一体なぜ?小さい時にどんな苦労すれば、少し変だけれどもこんなに強い人格に育つの?
本作については、レイプ被害者のミシェルに同情しつつ、多くの焦点をレイプ犯に対するミシェルの反撃の強さにあてることによって、その強いけれども少しゆがんだ人格をしっかりと分析したい。そこに彼女が子供時代に経験した「父親の犯罪」という大きなトラウマが影響したことは間違いないが、そのことがなぜ、またどこまでこんな人格形成に寄与しているの・・・?
■□■覆面を剥いでみると?犯人の動機は?結末は?■□■
本作では、レイプ被害に遭ったヒロイン、ミシェルの意外な力強さがストーリー構成の大きなポイント。しかし、同時に犯人は誰だ?という中盤のミステリーがストーリーの面白さを牽引する枠組みだから、本作の評論で「レイプ犯は○○だった」と明かすのは厳禁!しかして、131分という意外に長尺になった本作でも、犯人は誰が暴かれる瞬間がやってくるが、それは、いつ?そして、どんなシチュエーションで・・・?そこには命の危険を含むさまざまな危険が予測されるし、犯人が明確になればさすがに自分だけで制裁を加えるわけにはいかないので、その処罰を求めて警察に届け出ることも予測される。すると、日本では近時厳罰化された強姦罪(改正後は強制性交等罪)による量刑は、アメリカではどのくらい?本作ラストに向けて、弁護士的にはそんな興味が湧いてくるが、ポール・ヴァーホーヴェン監督が描く本作の結末は・・・?
かつて私が司法試験の勉強を始めた頃、セックスの最中にハンカチを敷いているか否かによって強姦か和姦かが分かれる、コトの最中は強姦でも、コトが終わった後も関係が継続すれば和姦になる、等さまざまな説が展開されていた。要するに、強姦罪という犯罪は性質上その認定が難しいわけだ。しかして、本作ではレイプ犯の覆面が剥がされた後、ストーリーはいかなる展開に?そして、その結末は?
折りしも、ゲーム会社で開発中だった新企画はかなり刺激的な内容で完成したらしい。そこにはもちろん、社員のコンピューターを秘かに探り続けた社員の寄与もあったが、ひょっとしてその完成にはミッシェルのレイプ事件も大きく寄与していたの・・・?いやいや、そんなことはないはずだが、ポール・ヴァーホーヴェン監督が描くレイプ事件をテーマにしたエロティックミステリーの結末は予測不能。しかして、それはあなた自身の目でしっかりと!
2017(平成29)年9月1日記