ラストレシピ 麒麟の舌の記憶(日本映画・2017年) |
<東宝試写室>
2017(平成29)年8月30日鑑賞
2017(平成29)年9月7日記
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監督:滝田洋二郎『おくりびと』
原作:田中経一『ラストレシピ~麒麟の舌の記憶~』(幻冬舎文庫刊)
企画:秋元康
現代
佐々木充(麒麟の舌を持つ料理人)/二宮和也
柳沢健(充の理解者・中華料理店の店長)/綾野剛
楊晴明(中華料理界の重鎮)/笈田ヨシ
1930年代
山形直太朗(麒麟の舌を持つ料理人)/西島秀俊
山形千鶴(直太朗の妻)/宮﨑あおい
鎌田正太郎(直太朗の料理助手)/西畑大吾
三宅太蔵(大日本帝国陸軍大佐)/竹野内豊
2017年・日本映画・126分
配給/東宝
■□■ショートコメント■□■
◆「料理の鉄人」はかつて一世を風靡した人気テレビ番組。それを手がけた田中経一が書いた処女小説が『ラストレシピ~麒麟の舌の記憶~』。それを原作として『おくりびと』(08年)(『シネマルーム21』156頁参照)で日本映画史上初のアカデミー賞外国語映画賞を受賞した滝田洋二郎監督が、『母べえ』(07年)(『シネマルーム18』236頁参照)で日本アカデミー賞主演男優賞を受賞した二宮和也を主役として本作を監督。そりゃ、誰もが注目するはずだ。
そのうえ、本作のチラシの宣伝文句には、「1930年代の満州で、天皇の料理番が考案した、幻のフルコース。歴史に消えたレシピの謎を追うのは、どんな味でも再現できる、絶対味覚=麒麟の舌を持つ料理人。最後の一皿に隠された、壮大な愛とは?」と書かれている。こりゃ、面白そう。そう思ったが・・・。
◆現代を生きる「絶対味覚=麒麟の舌を持つ料理人」佐々木充(二宮和也)が、楊晴明(笈田ヨシ)からの招きで北京を訪れると、そこでは「大日本帝国食菜全席のレシピを探し出してくれ」との依頼が。手付金は300万円だが、成功報酬は5000万円というからすごい。あまりに厳しい姿勢で料理店を経営したため結局倒産させてしまった料理人の充は、今は「どんな味でも再現します」という売りで、出張料金100万円の料理を提供していた。そんな充にとっても、この依頼はチョー破格。さあ、充はこんな依頼を引き受けるの?
◆現代を生きる若者が祖父の足跡を調べていくうちに、ある感動の物語に遭遇するというストーリー構成は、『永遠の0』(13年)(『シネマルーム31』132頁参照)で使われていたが、それは本作も同じ。物語は導入部を終えると、たちまち1930年代に。
そして、そこには、「天皇陛下のため」「五族協和のため」と単純に信じ込み、妻の千鶴(宮﨑あおい)と共に満州に渡り、大日本帝国軍人である三宅太蔵陸軍大佐(竹野内豊)からの「大日本帝国食菜全席を作れ」という命令を遂行するため、日々奮闘する山形直太朗(西島秀俊)が登場する。「料理の鉄人」でみた毎回の料理の数々は興味深かったが、それは本作も同じだ。しかし、肝心のストーリーの方は・・・?
◆中国には「満漢全席」なるものがある。Wikipediaによれば、これは、清朝の乾隆帝の時代から始まった満州族の料理と漢族の料理のうち、山東料理の中から選りすぐったメニューを取りそろえて宴席に出す宴会様式。後に、広東料理など漢族の他の地方料理も加えるようになり、西太后の時代になるとさらに洗練されたものとなった。盛大な宴の例では途中で出し物を見たりしながら、数日間かけて100種類を越える料理を順に食べる場合もあったと言われているそうだ。
しかして、満州に移住した日本最高の料理人、直太朗に命じられたのは、「大日本帝国食菜全席」の完成。これは、近い将来日本から天皇陛下が満州国に来た時に披露するべき世界最高の料理だ。そのための金はいくらかかってもオーケーだし、食材も使い放題、それ専用の助手も鎌田正太郎(西畑大吾)と若き日の中国人の楊が配置されたから万全だ。もっとも、直太朗のその任務は極秘とされたが、それは一体なぜ?そこらあたりに本作のミステリー性が・・・?
◆本作冒頭にみる「大日本帝国食菜全席」のレシピ完成に向けた、直太朗たちの奮闘ぶりは実に楽しそう。レシピの完成と満州国の順調な建国と天皇陛下の満州国訪問がうまく重なり合えばいいのだが、さて現実は・・・?
「歴史上のIf」としては、「クレオパトラの鼻がもう少し低かったら・・・」というのが最も有名だが、「もし、天皇陛下のための大日本帝国食菜全席に毒が盛られていたら」というのも、立派な「歴史上のIf」・・・?いやいや、そんなバカな・・・?そんな大きな疑問の中、本作後半のミステアリアなストーリー(?)が展開していくことに・・・。
◆本作で小さな中華料理店を切り盛りしている若者、柳沢健(綾野剛)は、充の最も良き理解者であることが本作全編を通じてよくわかる。ストーリーの節目節目に顔を出す、健と充との「対話」は本音に満ち溢れたもの。私はずっとそう思っていたが、実はクライマックスが近づくにつれて、少しずつこの男の懐の深さ(?)が明らかになっていくので、それに注目!1930年代に「五族協和」を唱えて満州国を建設した日本が、政治上、経済上、外交上、軍事上、中国への侵略者になってしまったことは歴史的に明らかだが、さて料理面では・・・?
私たちが日常的に食べているラーメン、焼き飯、餃子等の中華料理とは全く異次元の超高級中華料理の数々に注目しながら、本作に登場する麒麟の舌を持つ男=佐々木充、山形直太朗の2人が果たした役割をしっかり確認したい。
2017(平成29)年9月7日記