キンキーブーツ(アメリカ映画・2005年) |
<ヘラルド試写室>
2006年6月30日鑑賞
2006年7月3日記
「キンキー」ブーツとは、「変態」ブーツ・・・。モノづくりの現場が苦戦しているのはイギリスの田舎町も同じだが、倒産しかけの靴工場立て直しのために、ドラッグクイーン御用達のセクシーブーツをつくりはじめるとは・・・?何とも不可思議な映像の中に描かれる、ケッタイな友情と愛情(?)、そして「企業は建物ではなく人だ」と熱く訴えかける企業再生の姿は、結構、感動的・・・。今日からは「一体僕に何ができる・・・?」は禁句にして、何でもナンバーワンを目指さなくっちゃ・・・。
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監督:ジュリアン・ジャロルド
チャーリー・プライス(紳士靴メーカーの跡取り息子)/ジョエル・エドガートン
ローラ(ドラッグクイーン)/キウェテル・イジョフォー
ローレン(プライス社の若手従業員)/サラ=ジェーン・ポッツ
メル(働く主婦)/リンダ・バセット
ニック(チャーリーの婚約者)/ジェミマ・ルーパー
ドン(保守的な男性)/ニック・フロスト
ハロルド・プライス/ロバート・パフ
ジョージ(プライス社の片腕)/イアン・フーパー
ブエナ ビスタ インターナショナル(ジャパン)配給・2005年・アメリカ映画・107分
<ソーホーVSノーサンプトン>
近時は日本でもSOHOという言葉が大はやり。これはSmall Office Home Office(スモールオフィス・ホームオフィス)の略語で、一般的には「小規模の事業主」や「働き方」という意味で使われている。もっともネット情報によれば、このSOHOという言葉の発祥はアメリカのニューヨークにある芸術家のまち「SOHO(South Houston)」らしいが、イギリスのロンドンのSOHO地区に由来するという説もあるらしい。
この映画に登場する一方の主人公、「自分がオトコであることになじめない」ドラッグクイーンのローラ(キウェテル・イジョフォー)の本拠地がこのソーホー地区。これに対してもう1人の「どうしたらいい?」「一体、僕に何ができる・・・?」が口癖の優柔不断な主人公チャーリー・プライス(ジョエル・エドガートン)の父親が経営する靴工場があるのが中部イングランドの地方都市のノーサンプトン。ここには、私は全然知らないが”トリッカーズ”を始め、”チャーチ”など、職人技の施された高級紳士靴を作る製靴工場が多いとのこと。さて、そんな地理的に両極端なソーホーVSノーサンプトンを舞台とし、人間的に両極端なローラVSチャーリーが織りなす物語は一体どんなもの・・・?
<キンキーブーツとは?>
「キンキー」(kinky)とは、①変態の、性的に倒錯した、②奇妙な、変わり者の、という意味だから、キンキーブーツとは、直訳すれば「変態」ブーツ・・・。日本では「女王様ブーツ」として知られる、エナメルにスーパーヒールのSEXYブーツがコレ・・・。
ローラはクラブ”エンジェル”のカリスマスターで、毎晩舞台の上で華やかなステージをくり広げていた。そんな彼女(彼?)が悩んでいるのが、男性の体重に耐えられ、かつ足にピッタリとしたセクシーブーツがないこと。映画全編を通じて、ローラの主張は明快で、その人生論、人間論、差別論についての価値観は、私たち日本人にも大いに参考になるもの・・・?そんなローラだから、セクシーブーツについての主張も明快で、①第1のルール、赤こそセックスの色!、②ブーツは、セクシーじゃなきゃいけないの、③あんたが作るのは、75センチの筒状のセックスなのよ!というものだが、残念ながら、私たち並みの男(?)にはちょっと理解し難いもの。したがって、私たち並みの男と同レベルである(?)チャーリーにも、当初それが理解できなかったのは当然。ところが、そんなローラが、なぜかプライス社の専属デザイナーに・・・。そりゃなぜ・・・?また、一体何のため・・・?
<チャーリーは日本にもよくある良心的経営者・・・?>
チャーリーがプライス社の4代目を継いだのは、父親死亡のため。経営者としての帝王学を何も学んでいないうえ、引き継いだ段階で会社の経営は火の車。したがって、チャーリーの社長としての最初の仕事は、リストラ=従業員のクビ切りとなったが、これはホントにイヤな仕事・・・。そこで登場するのが、チャーリーの口グセである「一体、僕に何ができる・・・」というもの。それを言っちゃおしまいヨ・・・。しかし、日本にもいるいる、こんな経営者。まあ4代目までいって倒産したのなら、よくもった方かも・・・?
<チャーリーをめぐる2人の女性>
この映画のメインキャラクターはあくまでローラとチャーリーの2人だが、ストーリーにうまく彩りを添える重要な人物が、女性従業員のローレン(サラ=ジェーン・ポッツ)とチャーリーの婚約者のニック(ジェミマ・ルーパー)の2人。ローレンは若くて行動的なキャラを活かして、プライス社再生に大きな役割を果たすが、ニックは逆に、工場を閉鎖して、安全な2人の家庭を築こうという意見。したがって、この2人の女性同士が散らす火花(?)も見モノ・・・?
<改革のリーダーVS社内の抵抗勢力>
「男性の体重に耐えられるセクシーブーツ」の市場価値がどの程度あるのか、またそんな市場に参入することによってプライス社の再生はなるのか、そんなことは誰にもわからない・・・。しかし、それをやろうと決めたのがチャーリーなら、その専属デザイナーとして陣頭指揮をとるのがローラ。この2人3脚は、まるで2001年4月の小泉内閣発足時の小泉総理と竹中経済財政政策担当大臣のよう・・・。
他方、工場内の保守派としてこんなバカげた改革路線に反対し、抵抗勢力となるのが、ベテラン職人のドン(ニック・フロスト)。彼が抵抗を示すのは、紳士靴からセクシーブーツへの路線変更に対してのみならず、「オカマ」そのものに対しても・・・?
そんな対立をどのように融和させ、社員を一致団結させていったのか、それがこの映画のポイントだが、それは映画を観てのお楽しみに。「偏見を捨てて」と言うことは易しいが、その言葉を納得できるまでの道のりが平坦でなかったのは当然・・・。
<勝負はイタリアのミラノと決めたが・・・?>
私は靴の世界のことはよく知らないが、ファッションでも靴でも、やはり世界へ最初に情報を発信するのはイタリアのミラノ・・・?チャーリーはプライス社の浮沈を賭けて、全生産ラインをキンキーブーツ1本に絞り、ミラノの見本市に出品することを決意した。しかし、よくよく考えてみれば、これは郵政民営化法案が参議院本会議で否決された後、小泉総理が直ちに衆議院解散・総選挙に踏み切った以上の大決断。というより、かなり無茶苦茶なバクチ・・・。果たして、そんなトップの決断に全社員はついてくるのだろうか・・・?
<メルの反乱・・・>
異常な決断と異常な集団心理・・・?そんな雰囲気の中でプライス社の工場はフル稼働を始めたが、ノーサンプトンという田舎のまち工場にとっては、ミラノの見本市への出品という国際舞台ははじめての経験。したがって、チャーリーはその品質チェックについては鬼にならざるをえないため、必死で働いて完成させたブーツについても、ちょっとした不具合を指摘して「不合格!」と判定。これでキレたのが、ベテラン職人のメル(リンダ・バセット)。「もう、やってられないワ!」とばかりに、工場を飛び出していったメルに対して、必死に説得するチャーリーだったが・・・。
<さて、世紀の大勝負は・・・?>
ミラノの見本市出品用のキンキーブーツがすべて完成。あとは、いよいよローラがプロデュースするドラッグクイーン・ショーを期待するばかり・・・。そんな状況下に突如発生したのは、トップ同士の衝突。しかもそれは、食事の席にローラが女性のドレス姿で登場したことを、チャーリーが非難したために発生した。しかしそれって、ひょっとしてチャーリーの偏見では・・・?最後の大勝負の直前になって発生した不完全な男同士の衝突。それは自分の内なる声に忠実な叫びであっただけに、ひょっとしたら取り返しのつかないものに・・・?
刻一刻と迫ってくるショーの開始時間。そんな危機をチャーリーはどのように乗り切るのだろうか・・・?そして、チャーリーの元を去っていったローラは、この舞台に登場しないのだろうか・・・?それはじっくりとあなたの目で・・・。
2006(平成18)年7月3日記