「ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命」(アメリカ映画・2017年) |
洋17-205 ★★★★
<TOHOシネマズ西宮OS>
2017(平成29)年12月23日鑑賞
2017(平成29)年12月28日記
『シンドラーのリスト』(93年)のオスカー・シンドラーはユダヤ人を自社で働かせることによって、『杉原千畝 スギハラチウネ』(15年)の杉原千畝は「命のビザ」を発給することによって、それぞれ多数のユダヤ人の命を救ったが、ポーランドのワルシャワには邦題通り「ユダヤ人を救った動物園」が! そこで命を救われたユダヤ人は約300人だが、そこでの緊張感を強いられた「日々の業務」を見ていると、この夫妻の決断と行動力に大きな拍手を送りたい。そして同時に、もし自分がその立場に置かれていたら・・・?それも、きちんと考えたい。 さらに考えるべきは、ひょっとして今も同じような「開戦前夜」かも?ということ。ワルシャワの動物園はナチスドイツの侵攻に蹂躙されたが、もし朝鮮半島有事となれば、日本は・・・? |
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監督:ニキ・カーロ
原作:ダイアン・アッカーマン『ユダヤ人を救った動物園 ヤンとアントニーナの物語』(亜紀書房)
アントニーナ(ワルシャワ動物園を夫ヤンと共に営む)/ジェシカ・チャスティン
ヘック(ヒトラー直属の動物学者)/ダニエル・ブリュール
ヤン(アントニーナの夫)/ヨハン・ヘルデンブルグ
/マイケル・マケルハットン
配給:ファントム・フィルム/127分
■□■イントロダクションは?■□■
公式ホームページによれば、本作の「イントロダクション」は次の通りだ。
ユダヤ人300名を動物園の地下に匿い
その命を救った、勇気ある女性の感動の実話。
本当に大切なものを見つめる心、
命の輝きを描いた映画史に刻まれる、珠玉の名作が誕生。
ドイツ占領下のポーランドで自ら経営していた軍需工場に労働者としてユダヤ人を雇い入れ、その身柄を保護し救ったオスカー・シンドラー。ナチスに迫害されていた多くのユダヤ人にビザを発給し、彼らの亡命を手助けし「日本のシンドラー」と呼ばれた外交官・杉原千畝。
彼らと同じように、ナチス支配下の悲惨な状況の中、自らの危険を冒してでも、ユダヤ人の命を救った夫婦がいた。それは第2次世界大戦中のワルシャワで動物園を営む、ヤンとアントニーナ夫妻だ。彼らは、ナチスに追われたユダヤ人を動物園の地下に匿い、300人もの命を救うという奇跡を起こす。
「すべての命は等しく、すべての命は守られるべきものである」
アントニーナの行動は、絶望の淵へ立たされたユダヤ人たちを勇気づける希望になった。そして、世界各地における民族対立、紛争、テロ、ヘイトスピーチが後を絶たない今日においても、この物語は、人間の尊厳を見つめ直すことの重要性を私たちに問いかけている。
アントニーナ・ジャビンスカの類まれなる動物的な感性、
人も動物も母性で包み込む深い愛情、強い信念に触れた時、
私たちの心は深い感動と余韻に包まれる―。
本作は、ダイアン・アッカーマンのノンフィクション作品「ユダヤ人を救った動物園 ヤンとアントニーナの物語」(亜紀書房)を映画化。そして今回、主演と共にエグゼクティブプロデューサーを務めたのは、『ゼロ・ダーク・サーティ』で第70回 ゴールデングローブ賞最優秀主演女優賞を受賞し、『オデッセイ』など話題作への出演が続くジェシカ・チャステイン。「人間の皮を脱ぎ捨てて、動物の眼でまわりを眺めてみるのが大好きだった。そこから彼らが何を見、感じ、恐れ、感知し、記憶しているのか、どんなことに関心を持ち、どんなことを知っているのか、直感を働かせてよく書き留めていた」(原作より一部抜粋)というアントニーナ・ジャビンスカの特徴をとらえ、ライオン、象、シマウマ、ウサギなど様々な動物たちとのリアルな触れ合いを通して、その母性溢れる優しさを表現している。ジェシカは「彼女の勇気ある行動、プライドと文化を失わないように努めたことに感銘を受けた」と語り、撮影前には、アントニーナの娘、テレサに会い直接話を聞いたり、またワルシャワ動物園も訪問。「母はどんな状況であっても自分が今何をすべきか直感的にわかっていた」というテレサの言葉を胸に役作りに挑み、アントニーナ・ジャビンスカという強い信念を持つ女性を現代へと再び蘇らせている。
■□■ストーリーは?■□■
公式ホームページによれば、本作の「ストーリー」は次の通りだ。
「この場所で、
すべての命を守りたい」
1939年、ポーランド・ワルシャワ。ヤンとアントニーナ夫妻は、当時ヨーロッパ最大の規模を誇るワルシャワ動物園を営んでいた。アントニーナの日課は、毎朝、園内を自転車で巡り動物たちに声をかけること。時には動物たちのお産を手伝うほど、献身的な愛を注いでいた。
しかしその年の秋、ドイツがポーランドに侵攻し、第二次世界大戦が勃発。
動物園の存続も危うくなる中、アントニーナはヒトラー直属の動物学者・ヘックから「あなたの動物を一緒に救おう」という言葉と共に、希少動物を預かりたいと申し出を受ける。寄り添うような言葉に心を許したアントニーナだったが、ヤンはその不可解な提案に不信感を募らせていた。
ヤンの予感はまさに的中し、数日後、立場を一転したヘックは「上官の命令だ」という理由をつけて、園内の動物たちを撃ち殺すなど残虐な行為に出る。
一方でユダヤ人の多くは次々とゲットー(ユダヤ人強制居住区)へ連行されていく。その状況を見かねた夫のヤンはアントニーナに「この動物園を隠れ家にする」という驚くべき提案をする。
ヤンの作戦は、動物園をドイツ兵の食料となる豚を飼育する「養豚場」として機能させ、その餌となる生ごみをゲットーからトラックで運ぶ際に、ユダヤ人たちを紛れ込ますというものだった。人も動物も、生きとし生けるものへ深い愛情を注ぐアントニーナはすぐさまその言葉を受け入れた。連れ出された彼らは、動物園の地下の檻に匿われ、温かい食事に癒され、身を隠すことが出来た。しかし、ドイツ兵は園内に常に駐在しているため、いつ命が狙われてもおかしくない。アントニーナの弾くピアノの音色が「隠れて」「静かに」といった合図となり、一瞬たりとも油断は許されなかった。
さらにヤンが地下活動で家を不在にすることが続き、アントニーナの不安は日々大きく募る。それでも、ひとり”隠れ家“を守り抜き、ひるむことなく果敢に立ち向かっていくのだが—。
■□■ジェシカ・チャステインの略歴は?■□■
また、本作の製作総指揮を執るとともに、ヒロイン、アントニーナ役を演じたジェシカ・チャスティンの略歴は、公式ホームページによれば、次の通りだ。
アントニーナ ジェシカ・チャステイン Jessica Chastain
1977年、アメリカ・カリフォルニア州生まれ。ジュリアード音楽院の演劇部門を卒業後、舞台を中心に活動。テレビドラマシリーズ「ER緊急救命室」(04)、「ヴェロニカ・マーズ」(04)などに出演後、『Jolene(原題)』(08/ダン・アイアランド監督)<未>でスクリーンデビュー。その後、『ツリー・オブ・ライフ』(11/テレンス・マリック監督)で、ブラッド・ピットの妻役に抜擢され、同作はカンヌ国際映画祭でパルムドールに輝く。その後、『ヘルプ~心がつなぐストーリー~』 (11/テイト・テイラー監督)で第84回アカデミー賞助演女優賞にノミネート、『ゼロ・ダーク・サーティ』(12/キャサリン・ビグロー監督)で第70回ゴールデン・グローブ賞主演女優賞(ドラマ部門)受賞、第84回アカデミー賞主演女優賞にノミネートされるなど、映画女優としてのキャリアを確実に重ねている。その他の主な出演作品に、『インターステラー』(14/クリストファー・ノーラン監督)、『アメリカン・ドリーマー 理想の代償』(15/J・C・チャンダー監督)、『オデッセイ』(16/リドリー・スコット監督)、『クリムゾン・ピーク』(16/ギレルモ・デル・トロ監督)、『スノーホワイト/氷の王国』(16/セドリック・ニコラス=トロイヤン監督)などがある。今後の待機作品として、『女神の見えざる手』(17/ジョン・マッデン監督)、『X-メン:ダーク・フェニックス(原題)』(18/サイモン・キンバーグ監督)などがある。
■□■ニキ・カーロ監督インタビューは?■□■
ダイアン・アッカーマンの原作『ユダヤ人を救った動物園 ヤンとアントニーナの物語』に魅了されて、それを映画化したのは、ニュージーランド生まれの女性監督・ニキ・カーロ。公式ホームページにある「DIRECTOR’S INTERVIEW」は次の通りだ。
DIRECTOR'SINTERVIEW ニキ・カーロ監督インタビュー
Q.この映画は、ナチスドイツ占領下のポーランドを背景にしながらも、愛や、希望についても描いている様に思います。あなたにとって一番大事なメッセージは何でしたか?
私にとって一番大事だったことは、この映画では窮地に追い込まれながらも、300人の救われた人達がいたことを祝すと同時に、何百万人という亡くなった方達に敬意を表することだった。ジャビンスキ一家の物語を通して、ホロコーストを描きながらも、癒し、希望、心、それから人間性を描きたかった。
Q.この物語は現代の設定ではないですが、今の社会においても、実在した人物が窮地に追い込まれた時にどれだけ人に優しくなれるのか、ということから学ぶことは多いような気がします。今の社会へどんなメッセージを込めましたか?
アントニーナが私達に語りかけてくることは、ありきたりの人間でも偉大な変化をもたらすことは可能だということだと思うから。アントニーナは、キリスト教徒なの。だけど彼女は、本当にたくさんのユダヤ教の人達を救った。それが人間として正しいことである、という以外の理由は何もないのにね。そういう人間としての良識、偉大なる人間性が私が一番心を打たれたところだった。それに、この映画は今の世界において本当に意味のある作品だと思う。私が映画を作り始めた当初は、歴史を元にしたドラマを作っていると思っていた。だけど、結果的には現代映画になったと思う。今の社会に通じる物語があるから。この数十年間、ホロコーストを描いた映画でこの作品のように、今の時代を描いたことはなかったように思う。この映画で描かれているのは、30年代のポーランドで起きていたことだけど、でも2017年の現代にも同様のことが起きていると思うから。それはすごく残念なことだけど。
Q.この映画には今の若い世代への強いメッセージもあると思いますか?
あると思う。それにこれまで試写で映画を観たミレニアル世代の反応を聞いて、すごく嬉しく思っている。彼らは即座にこれが今自分たちが生きている世界のことだということに気付いてくれてたから。それに、本当の変化をもたらすのは彼らの世代なわけでしょ。だから、この映画をホロコーストについてより知っている大人の人達のみならず、若い世代の人達に観てもらえたら嬉しい。
Q.この映画が非常にユニークだと思ったのは、戦時下の作品でありながら、戦争のシーンは可能な限り少なくしてあるように思えたことです。それでいて映画の中に戦時下の緊迫感はあります。それについてはどれくらい意識した選択だったのでしょうか?
それは、思いきり意識したところだった。というのも、この映画で描きたかったのは、戦時下において、女性がどれだけ勇気のある行いをしたのか、どういう経験をしたのかということだったから。戦争というのは、男性にだけに起きたことではなくて、女性や、子供達やそして動物にも起きたことだった。だから脚本を書いている時も、映画化の計画をしている時も、アントニーナが作り上げたサンクチュアリを描くということにフォーカスすることが目標だった。もちろん彼女の夫も戦地に行くわけだから、そこに緊迫感はあるし、戦争のシーンも描いたけど、映画の大半は、この動物園の中に作られた彼女のサンクチュアリについてだった。実際、戦争シーンは、私の本編撮影の休日に撮影したくらいだった。セカンドユニットを連れて撮影したの。私とカメラマンで行ってね。それはそれで素晴らしかった。だけど、最も描きたかったのは、女性が経験した戦争についてだった。
Q.この映画は本を元にしているわけですが、あなた自身どのようなリサーチをしましたか?
リアルな映画を作りたいと思っていたから、すごくたくさんリサーチをした。ワルシャワ・ゲットーや動物園に足を運び、アントニーナの娘・テレサにも会った。それから、ワルシャワ・ゲットーについてのドキュメタリーもたくさん見た。当時の人生がどういうものだったのか可能な限り知りたくて、写真に写された人達の顔をしっかりと見ようとした。『シンドラーのリスト』、『ピアニスト』も見直したけど、この映画は過去の作品とはまったく違う視点から描かれている。しかもすごく新しい視点でもあると思うから、そこをすごく誇りに思っている。
Q.撮影は何日間だったのですか?
46日間。プラハでの撮影でした。
Q.家族は映画化に対してどのような反応でしたか?
すごく協力的だった。私も含めテレサ、ジェシカ、プロデューサー、脚本家など全員が女性だったんだけど、お互いみんな大好きだったし、信頼し合っていた。だから家族からも愛と、協力と、信頼しかなかった。この映画の試写を初めてしたのは2週間前で、ワルシャワだったんだけど、あまりに感動的だった。ジャビンスキ一家にとってのみならず、ポーランドの観客にとっても、私達がこの物語を”我が家“で上映したことがいかに感動的なことだったのか伝わってきたから。これはジャビンスキ一家の物語だけでなく、ポーランドについての物語でもあったの。上映する直前に、何か言って欲しいと言われて、私が話し始める直前に、私を紹介してくれた人が、「ちなみにあなたが今立っている場所は、ワルシャワ・ゲットーのあった場所です」と言ったの。「私達が今いる場所は、生きるか死ぬかの境界線だったわけです」とね。それを聞いただけで、胸が一杯になってしまって。あまりに多くの人達が苦痛を体験した場所で、この映画を上映するということにね。彼らの祖父母達が体験したことをこの映画で描いていて、正にその場所で上映していたわけだから。そんな体験をこれまで映画監督としてしたことがなかった。本当に特別な体験だった。
Q.ジェシカ・チャステインについて教えてもらえますか? 彼女はこれまでにも過酷な状況下における強い女性は演じてきましたが、この映画で初めてフェミニンな面を見せたと思います。
この映画で初めて彼女のソフトな面を見せられたと思う。彼女がいるシーンはすべて、マスター・クラスだったというくらいその演技は完璧だった。彼女は常に完璧に準備しているし、ものすごい勉強してきている。技術があまりに高い。勉強も伝統的な方法でしっかり受けてきているし。だけど、セットに来ると、それを初めて経験しているかのような新鮮さで演じてくれる。彼女を見ながら私もその瞬間を初めて体験し、観客も彼女を見ながらその瞬間を初めて見るというような新鮮な体験にしてくれる。その素晴らしさを言葉にすることはできない。あまりに優れた女優だと思うから。彼女は最高よ。
Q.実話の映画化に魅かれる理由を教えて下さい。
真実が何だったのかを見て、自分の持っている技術を使ってそれを再現することができるから、実話に魅かれるの。私が好きではないのは、私が監督だから、自分は何が一番なのかを何でも知っていると思うこと。私は、自分の人生以外の他の人の人生については何も分かっていない(笑)。だから、他の人達の実話を語ることで、人々の人生の真実を見つめることができる。それを、みんなと分かち合うことができる。
2017年3月19日 NY Essex Hotelにて
取材+翻訳:中村明美
■□■これが開戦前夜?この動物園の風景は?■□■
本作は、『ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命』という邦題の通り、「ユダヤ人300名を動物園に匿い、その命を救った勇気ある女性の感動の実話」。そして、ダイアン・アッカーマン原作による、<BASED ON A TRUE STORY>を映画化したもの。近時「ナチスもの」「ホロコーストもの」の名作は多く、先日は『否定と肯定』(16年)を観て大いに感動したばかり。今日はそれに続く「感動予想作」だが、『否定と肯定』のような知らないことばかりの映画でなく、最初からそのストーリーは想像できる映画。
ちなみに、ナチスドイツがいきなりポーランドへの侵攻を開始したのは1939年9月1日だが、その直前のポーランドの首都ワルシャワの状況は・・・?当時ワルシャワに、ヨーロッパ最大の規模を誇る動物園があったことは知らなかったが、冒頭毎朝の日課の通り、園内を自転車で巡り、動物たちに声をかけて回るアントニーナ(ジェシカ・チャスティン)の姿は幸せそう。夫のヤン(ヨハン・ヘルデンブルグ)も政治、外交、軍事面の不安は感じつつ日々の仕事に精を出していたが、「開戦前夜」って、こんなもの・・・?
ちなみに、米中戦争は先の話だろうが、北朝鮮の暴発はすぐ近くに迫っているはず。すると、今はある意味での「開戦前夜」だが、それが分析されるのは今から何年も何十年も先のこと・・・?
■□■「ゲットー」の中は?あの名作とは異なる視点から■□■
『聖なる嘘つき その名はジェイコブ』(99年)は、ナチスドイツの占領下にあったポーランドのある町の、ユダヤ人居住区、「ゲットー」での物語。そのテーマは、ソ連軍(解放軍)がわずか400km先の町まで侵攻しているというゲットーの住人たちにとって「生きる希望」に直結する貴重な情報だった。しかし、ゲットー内にそんな情報が流れていることを聞きつけた「ゲシュタポ」(秘密警察)たちは・・・?(『シネマルーム1』50頁参照)
また、『戦場のピアニスト』(02年)では、ワルシャワのラジオ局でショパンを演奏していたユダヤ人のピアニストが、ゲットーでの生活を余儀なくされながら、脱出後、隠れ家の中に身を潜めて隠れ続け、数々の危機を乗り越え、戦後またピアニストとして生涯を全うしたという奇跡的な物語が感動的に描かれていた(『シネマルーム2』64頁参照)。これらの名作では、それぞれゲットー内部の様子がリアルに描かれていたが、さて本作に見るワルシャワに作られたゲットーの中は?
ゲットー内では、理不尽な少女のレイプ事件もあったはずだ。そんなニキ・カーロ監督の女性らしい視点から、ゲットー内に入ったヤンが、ドイツ兵に拉致される1人の少女を目撃するシーンも登場する。その少女がその後に受ける運命も含めて、さて、ゲットーの中のユダヤ人たちの実態は?本作ではそれは直接描かれず、あくまでポーランド人で動物園の経営者であるヤンやアントニーナの視点からゲットー内の実態と、その中でのユダヤ人の生活が描かれる。したがって、本作では、『聖なる嘘つき その名はジェイコブ』や『戦場のピアニスト』とは異なる視点と私たちの想像力を駆使することによって、しっかりゲットーの中を観察したい。
■□■動物たちの命は?動物園の存続は?ヤンたちの狙いは?■□■
ナチスドイツ軍の侵攻によってヤンが経営する動物園が閉鎖されたのは当然だが、そこで第1に問題になるのは動物たちの命、第2にヤンたちの生活をどうするかだが、さて、<BASED ON A TRUE STORY>である本作に見るその展開は?
動物好きやその研究者はポーランドに限らず、ドイツにもいるもの。ヒトラー直属の将校で動物学者であるヘック(ダニエル・ブリュール)は、希少価値のある動物の繁殖実験のため動物園を存続させたいとの狙いを持っていたから、ヤンが動物園で豚を飼いたいと申し出ると、両者の利害が一致し、たちまちOKに。たしかに、広い動物園を閉鎖してしまうのはもったいない。そこがドイツ軍の食料になる豚の飼育場になるのなら、そりゃグッドアイデア。てなワケで、多数の動物たちの命は奪われてしまったものの、動物園自体は豚の飼育場として存続することが決まったから、ヤンとアントニーナはひと安心。他方、豚の餌はどうするの?それは、ゲットー内で生活するユダヤ人たちの残飯を使えば一石二鳥。なるほど、なるほど・・・。その結果、ヤンはヘックからゲットー内に入る通行証をもらい、「日々の業務」に従事したが、さて、そこに秘めたヤンとアントニーナの狙いは・・・?
■□■ヤンの仕事は?匿われたユダヤ人たちは?■□■
『シンドラーのリスト』(93年)のオスカー・シンドラーはユダヤ人を自社で働かせることによって、『杉原千畝 スギハラチウネ』(15年)の杉原千畝は「命のビザ」を発給することによって、それぞれ多数のユダヤ人の命を救った。杉原千畝が「命のビザ」を発給したのは、合法か違法かギリギリの判断の中だったが、いざその「発給業務」を開始すれば、その後は加速度的にそれが早まったのは当然(『シネマルーム36』10頁参照)。それと同じように、今やヤンの日常業務は、車でゲットー内に入るたびに持ち帰る残飯の中に2、3人のユダヤ人を潜り込ませて動物園内に運び入れ、動物たちが殺されて空になった地下の檻の中に彼らを匿うことになっていたが、その量は?スピードは?なるほど、これはうまく考えたものだ。しかし、地下に匿ったユダヤ人たちの脱出ルートはどうするの?それはあなた自身の目で確認してもらいたいが、この日常作業は観客席から見ているだけでも大変。だって、昼間にはヤンの動物園や家の中に人の出入りがあるから、地下のユダヤ人たちは声を出すこともできず、夜になるとやっと家の中に入って休息する有様だったのだから。もちろん、そんな息の詰まる、危険いっぱいの生活でも、ゲットー内にいるよりはマシ。そう考えていたヤンとアントニーナが日々の作業を続けているうちにその数はどんどん増え、最終的に救出したユダヤ人が約300人になったわけだからすごい。しかし、こんなシステムが全くバレずにずっと続くの?そこが心配だが・・・?
■□■外でのヤンの日常業務も大変だが、内を守るのも大変!■□■
動物園の施設をうまく活用しながらユダヤ人の救出を考えたヤンのアイデアは秀逸。しかし、そのアイデアに沿って動物園の地下に潜り込みながら、脱出を目指すユダヤ人たちも大変なら、ゲットーと動物園を車で往復し、その日常業務に従事するヤンも大変。さらに、動物園と家の中を守り続けるアントニーナも大変だ。地下のユダヤ人たちに危険を知らせたり、逆に安全になったことを告知するためアントニーナが考えたアイデアは、ピアノを弾くこと。映画の中では具体的に説明されないが、きっとどんな場合にはどんな曲と決めたのだろう。それによって一糸乱れぬ行動が取れれば問題ないが、天井板一枚、壁一枚を隔てただけの空間内だから、ユダヤ人たちの話し声はもちろん、怪しげな音が聞こえただけで、全員が危険にさらされるのは必至。しかし、子供が急に泣き出したり、大人だってくしゃみをすることもあるのでは・・・?そんな心配をしていると、案の定・・・。
他方、冒頭のシーンで見る限り、動物園内を自転車で走り回っているアントニーナは、一人息子がいるもののかなり魅力的な女性。同じように動物好きなヘックにとって、彼女は当然好みのタイプだろう。すると、事実上ヘックの支配下にある動物園内で、アントニーナが毎日のように動物園の管理と希少動物の繁殖のためという名目で顔をつき合わせていると・・・?しかも、亭主のヤンは外での仕事が忙しいから、アントニーナを構うことができないとなると・・・?
本作は女性監督の演出だけに、露骨にヘックの(性的)欲望を表に出さないが、アントニーナにはそんな危険がいっぱい。さあ、アントニーナはそれをいかに振り払うの?しかし、時には地下のユダヤ人たちが立てた音をごまかすため、アントニーナの方から抱擁を求めたり、場合によればキスを求めるような態度を示すことも・・・。しかし、そりゃちょっとヤバイ。アントニーナのそんな態度を、もしヤンが目撃すれば、ヤンの気持ちは・・・?
■□■戦況の展開は?ソ連軍は?強制収容所は?■□■
今になれば、ポーランドに侵攻し、電撃作戦を開始したナチスドイツが、その後次第に劣勢になったことは誰でも知っている歴史的事実。しかし、侵攻されたワルシャワの住人たちやゲットーに収容されたユダヤ人たちにそれがわかるはずはない。つまり、彼らは情報から完全に遮断され、何の希望を持てない中で、日々の生活を送らざるを得なかったわけだ。しかし、その後の情勢の変化は?ナチスに抵抗するポーランド人民の内部蜂起は?ソ連軍の東からの反抗は?そして、ナチスドイツの撤退は?他方、次第に強まっていくゲットーから強制収容所へのユダヤ人の輸送状況は・・・?
本作は、時系列に沿ってそのことを少しずつ(程よく?)説明してくれるが、そこで私が納得できないのは、後半に至って、銃を持ったヤンがナチスに立ち向かっていること。これも本当に<BASED ON A TRUE STORY>なの?また、スクリーン上では銃に撃たれて倒れてしまうヤンの姿が登場し、その後戦争終結に至るまで行方不明になっているから、ヤンの生存は絶望的・・・?
本作後半はそんな展開になるが、そこで私がさらに納得できないのはアントニーナがヘックに見せる態度。ヤンが行方不明になったのは仕方ないし、アントニーナが何とかヤンの情報を得たいと願うのは当然。そして場合によれば、たとえそれが死亡確認情報でも無いよりはマシ。それが正直なアントニーナの気持ちだったことも理解できる。しかし、その情報を得るため、アントニーナが積極的にヘックの元を訪れるのは如何なもの・・・?ナチスの敗北が近づく中、ヘックもベルリンへの撤退の準備をしていたが、ただならぬアントニーナの訪問に対応する中、長い間隠されていたアントニーナたちの隠れた狙いを知ることになると・・・。
■□■ラストもホント?映画としては少し甘いのでは?■□■
本作は中盤のスリリングな展開が最大の見せ場で、手に汗を握る緊張シーンが続いていく。しかし、ナチスドイツの敗色が濃くなる後半では、ヤンは既に死亡してしまったようだし、ヘックは撤退していくだけだから、動物園での業務もほぼ店じまい・・・。そんな展開になっていく。しかし、そこに登場する前述した私には少し納得できないアントニーナのヘックに対する行動のため、ある意味で無用な混乱が生じ、ヤンやアントニーナの一人息子の命も「あわや!」という危険にさらされることになる。私はその展開は「映画としては少し甘いのでは?」と思わざるを得ないので、その展開はあなた自身の目で確認してもらいたい。
さらに、それに輪をかけたのが、終戦後動物園を再開したアントニーナのもとに、死んでいたはずのヤンが無事に戻ってくること。このハッピーエンドも本当に<BASED ON A TRUE STORY>・・・?そして、これも映画としては少し甘いのでは・・・?
2017(平成29)年12月28日記