ヒトラーに屈しなかった国王(ノルウェー映画・2016年) |
<テアトル梅田>
2018(平成30)年1月19日鑑賞
2018(平成30)年1月25日記
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監督・脚本:エリック・ポッペ
ホーコン7世(ノルウェー国王)/イェスパー・クリステンセン
オラフ5世(ノルウェー皇太子)/アンドレス・バースモ・クリスティアンセン
マッタ(ノルウェー皇太子妃)/ツヴァ・ノヴォトニー
ブロイアー(駐ノルウェー・ドイツ公使)/カール・マルコヴィクス
アンネリーゼ(ブロイアーの妻)/カタリーナ・シュットラー
ダイアナ(ドイツ公使館秘書)/ユリアーネ・ケーラー
配給/アット エンタテインメント/136分
■□■ショートコメント■□■
◆公式ホームページによれば、本作の「イントロダクション」は次のとおりだ。
本国ノルウェーでは、3週連続1位を記録後、ロングランを続け、2016年の国内映画興行成績1位を獲得。国民の7人に1人が鑑賞する社会現象的大ヒットを記録した本作は、アカデミー賞外国語映画賞のノルウェー代表にも選出され、ノルウェー最高の映画賞アマンダ賞で、作品賞・助演男優賞含む8部門を受賞した。
実在した主人公のホーコン7世を見事に演じきったのは、「007」シリーズのミスター・ホワイト役で知られ、今回プロデューサーとしてもクレジットされているイェスパー・クリステンセン。息子のオラフ皇太子は「コン・ティキ」のアンドレス・バースモ・クリスティアンセン、ノルウェーに降伏を迫るドイツ公使には「ヒトラーの贋札」のカール・マルコヴィクスが演じる。監督は、「おやすみなさいを言いたくて」のエリック・ポッペ。
◆公式ホームページによれば、本作の「ストーリー」は次のとおりだ。
1940年4月9日、ナチス・ドイツ軍がノルウェーの首都オスロに侵攻。ドイツ軍の攻撃に交戦するノルウェー軍だったが、圧倒的な軍事力によって、主要な都市は相次いで占領される。降伏を求めてくるドイツ軍に対しノルウェー政府はそれを拒否し、ノルウェー国王のホーコン7世は、政府閣僚とともにオスロを離れる。一方、ヒトラーの命を受けたドイツ公使は、ノルウェー政府に国王との謁見の場を設けるように、最後通告をつきつける。翌日、ドイツ公使と対峙した国王は、ナチスに従うか、国を離れて抵抗を続けるか、家族のため、国民のため、国の運命を左右する究極の選択を迫られるー。北欧の小国ながらナチス・ドイツに最も抵抗し続けたノルウェーにとって、歴史に残る重大な決断を下した国王ホーコン7世の運命の3日間を描く。
◆公式ホームページによれば、本作の主人公となる「ホーコン7世」の人物像は次のとおりだ。
デンマーク国王フレデリク8世とルイーセの次男で、兄はデンマーク国王クリスチャン10世。 1905年に、ノルウェーがスウェーデンとの同君連合を解消して独立し、国民投票によりノルウェー国王に即位。 息子はオラフ5世で、孫のハーラル5世は、現ノルウェー国王。 ホーコン7世は八甲田山で起きた遭難死亡事故のお見舞いとして、1909年に明治天皇にスキー板を贈呈し、日本とノルウェーのスキー交流が始まるなど、日本との縁も深い。
◆1939年9月1日のポーランドへの侵攻からナチスドイツの野望が現実化したが、歴史に疎い日本人は、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン方面へのナチスドイツの侵攻についてはほとんど知らない。私がそれを強く意識したのは、『ヒトラーの忘れ物』(15年)(『シネマルーム39』88頁参照)における、デンマークでのナチスドイツの少年兵の強制的な地雷除去作業を見た時。なるほど、北欧とナチスドイツの間にはこんな歴史があったのか。そんな認識を強くした。しかして、デンマークではなく、ノルウェーは?
タイトルを見ると、えらく威勢のいいタイトルだし、本国のノルウェーでは本作は社会現象的大ヒットをしたそうだから、こりゃ必見! そう思ったが、内容は意外に平凡・・・。
◆1945年8月15日の日本敗戦の日における、天皇陛下の「玉音放送」を巡る熱く長い一日を描いた名作が、三船敏郎が阿南惟幾陸軍大将を演じた岡本喜八監督の『日本のいちばん長い日』(67年)だった(近時、役所広司主演でリメイク(『シネマ・ルーム36』16頁参照))。そこでは、明治憲法下における「天皇制」の下で、「ポツダム宣言受け入れ」と玉音放送を巡る軍部とりわけ陸軍強硬派と終戦受け入れ派との対立と確執が丁寧に描かれていた。
しかし、本作ではそもそもノルウェーの立憲君主制と民主制との関係がよく分からないから、主役であるホーコン7世国王が、ナチスドイツの侵攻についていかなる役割を担うのか自体がさっぱり分からない。本作のホーコン7世の役割については、平成天皇の生前退位の表明以降続いてきた「天皇陛下と憲法との関係」の議論と重なる部分が多い。そのため私は大いに興味があったが、残念ながら本作ではそのような問題意識は薄く、もっぱらホーコン7世を英雄視しているだけ。そんな方向での本作には、かなりの違和感が・・・。
◆本作は、ナチスドイツがノルウェーへの侵攻を開始した1940年4月8日以降の3日間の動きをホーコン7世を中心に描いている。そのハイライトは、ヒトラーの手先となり、ホーコン7世との2人だけの「直接交渉」によって、ノルウェーに降伏を迫ろうとする、ドイツ公使ブロイアー(カール・マルコヴィクス)との会談。そこでは、チラシにのっているとおり、ヒトラーの「他国の侵略に屈する国家は存在する価値がない。」の言葉を引用するブロイアーに対して、ホーコン7世は「この国の行く末は密談によって決まるのではない。国民の総意で決まるのだ。」と反論する。そんなシーンはたしかにカッコいいが、そこにどういう意味があるの?
本作全編を通じてホーコン7世が発するセリフは原理原則通りで、すべてカッコいいものばかり。それは自分が国民投票によって民主的に選ばれた国王だとの自負心の表れだが、彼の決断にもかかわらず、ノルウェーは6月には「降伏」しているのだから、彼の決断にどこまで意味があったの・・・?
◆フランスは1940年6月22日に休戦協定に調印し、親独の「ビシー政権」が誕生したが、ノルウェーの抵抗も6月9日までだった。そんな現実との対比で、本作が英雄的に描いたホーコン7世の役割をしっかり冷静に考える必要がある。別にノルウェーでの本作の人気に水を差すつもりはないが、どうしても私にはそんな感想が・・・。
2017(平成29)年1月25日記