スーパーマン リターンズ(アメリカ映画・2006年) |
<梅田ピカデリー>
2006年8月12日鑑賞
2006年8月14日記
アメコミの大人気キャラであるバットマン、スパイダーマン、キャットウーマンらの元祖(?)スーパーマンが、今夏地球上にリターン!しかし、愛する彼女には息子がいたし、不倶戴天の宿敵は、アメリカ大陸の沈没とスーパーマン退治の秘策を・・・。お馴染みのスーパーマンスーツのスタイルと、「弾よりも早く、機関車よりも強い」力に懐かしさは覚えるものの、新鮮味はほとんどゼロ・・・?ハリウッドのアメコミ路線も、いい加減に修正しなければ、良質な日本映画に駆逐されること必至・・・?
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監督・製作・ストーリー設定:ブライアン・シンガー
クラーク・ケント(デイリー・プラネット社の記者、スーパーマン)/ブランドン・ラウス
レックス・ルーサー(スーパーマンの宿敵)/ケビン・スペイシー
ロイス・レイン(スーパーマンの元恋人)/ケイト・ボスワース
マーサ・ケント(スーパーマンの育ての親)/エヴァ・マリー・セイント
リチャード・ホワイト(ペリー・ホワイトの甥、ロイスの婚約者)/ジェイムズ・マーズデン
ペリー・ホワイト(デイリー・プラネット社の編集長)/フランク・ランジェラ
ジミー・オールセン(デイリー・プラネット社のカメラマン)/サム・ハンティントン
ジョー=エル(スーパーマンの父親)/マーロン・ブランド
少年時代のクラーク・ケント/ステファン・ベンダー
キティー・コワルスキー(ルーサーの相棒の女性)/パーカー・ポージー
ワーナー・ブラザース映画配給・2006年・アメリカ映画・154分
<私の小学生時代・・・>
1949年生まれの私の小学生の頃からテレビが少しずつ普及し始めたが、その当時はテレビは隣りの電気屋さんで見せてもらうもので、自宅で見るものではなかった。そんな時代に見た数少ないテレビ番組が、『怪傑ハリマオ』であり、『スーパーマン』。そして、少し後には宇津井健が「スーパーマンもどき」のキャラを演じた『スーパージャイアンツ』も・・・。
「三つ子の魂百まで」とはよく言ったもので、「空を見ろ、鳥だ、飛行機だ、あっスーパーマンだ」や「弾よりも早く、力は機関車よりも強く、高いビルもひとっ飛び」というスーパーマンのフレーズは、私は今でもよく覚えている・・・。時は1950年代後半。やっと日本が戦後復興を遂げ、少しずつ「国のかたち」を整えようとしていた頃・・・。
<今頃、なぜスーパーマンがリターン・・・?>
パンフレット中の石川裕人氏(アメコミ翻訳家)の解説によれば、世界中の誰もが知っているキャラクターは、ロビン・フッド、シャーロック・ホームズ、ターザン、ミッキー・マウス、そしてスーパーマンの5人だけらしい。もちろん、これは氏の独断と偏見によるものだが、多少の差異はあるとしても、スーパーマンが5本の指に入ることは満場の一致するところ・・・?
しかし、そうだからといって、世界中の人々がいつまでもスーパーマンをテレビや映画館で見たいと思っているわけではないのでは・・・?とりわけ、最近のハリウッド映画はバッドマンやスパイダーマン、そしてキャットウーマン等々、たくさんのアメコミのヒーローを主役とした映画が登場しているから、既に食傷気味・・・?
たしかにスーパーマンは、新興大国アメリカの夢を実現したヒーローとして、1930年代~40年代にアメリカを代表するヒーローとなったが、それは古き良きアメリカの時代の時の話。東西冷戦には勝利したものの、ベトナム戦争で大きなミソをつけ、今やアフガン戦争、イラク戦争によって痛手を受けたうえ、さらに対テロ戦争の脅威と闘わざるをえなくなっているアメリカ、そして新たな新興大国中国というライバルが登場したアメリカにとって、新たなヒーローを欲することはわからないでもないが、それがなぜスーパーマン?という疑問が・・・。
<5年ぶりご帰還のホントの理由は・・・?>
スーパーマン(ブランドン・ラウス)の特徴は、胸元にS字の紋章をつけた青いスーパーマンスーツと赤いマントだが、身体は人間と同じ。したがって、普段の彼はデイリー・プラネット社に勤める新聞記者クラーク・ケント。スーパーマンの生まれ故郷や彼が地球にやって来た由来、そしてその能力等についてはここで書くつもりはないのでパンフレットを読んでもらいたい。しかし、スーパーマンが地球上から姿を消したのは、愛する女性ロイス・レイン(ケイト・ボスワース)に自分の正体さえ打ち明けることができないという苦悩から逃れるため、という非常に人間臭い理由・・・?
そんなスーパーマンが5年ぶりに地球に戻ってきたのは、宇宙をめぐる旅の果てに、自分にとっての故郷はやはり地球しかないと悟ったためらしいが、ホントにそう・・・?ホントは、別れた彼女が恋しくなったのでは・・・?
<5年間の空白は大・・・?>
クラーク・ケントが5年ぶりにデイリープラネット社に戻ってきても、もともと彼の存在感が薄かったため、それを歓迎したのはカメラマンのジミー・オールセン(サム・ハンティントン)だけ。かつての恋人ロイスは、今や編集長ペリー・ホワイト(フランク・ランジェラ)の甥のリチャード・ホワイト(ジェイムズ・マーズデン)と婚約しているうえ、なぜかジェイソンという息子まで育てていた。これを見れば、ジェイソンはロイスとリチャードとの間の子供と思ってしまうのが当然だが、なぜかまだ2人は婚約のまま。これって少しヘン・・・?
それはともかく、このクラーク・ケントの職場復帰と同時に、スーパーマンの悪者退治の活躍が5年ぶりに始まったため、デイリー・プラネット社は会社をあげてその取材に集中。これは社長が立てた方針だが、それはスーパーマンの記事を書けば新聞がバカ売れに売れるという計算にもとづくもの。昔も今も、マスコミの「売るためには何でもあり」との体質は同じ・・・?
それはともかく、ロイスがかつてスーパーマンに恋心を抱いていたのは明らか。そんな彼女にスーパーマンは何も告げずに忽然と姿を消したのだから、悪いのはどっち・・・?したがって、5年後に突然帰って来て、再度熱い瞳で見つめられても、ロイスが戸惑うのは当然。もっとも、ホントはロイスもスーパーマンのことは今でも・・・。しかし、ロイスがスーパーマンとそんな不倫の道に走ったら(?)、それはリチャードへの裏切りだし、ジェイソンは一体どうなるの・・・?そんなスーパーマンとロイスとの恋模様が、空高く飛ぶ「空中デート」の中で描かれるが、所詮それは成らぬ恋。やはり5年間の空白は大ということか・・・?
<ルーサーの企みは映画史上最大・・・?>
他方、スーパーマンの敵は今回も不倶戴天の宿敵レックス・ルーサー(ケビン・スペイシー)。とはいっても、能力的にはスーパーマンの方が圧倒的に優れているのだから、まともな対決で勝てないことは当然。そこで、今回リターンしてきたスーパーマンと対等に闘えるようなルーサー像をつくり出すために考え出したのが、隕石とクリスタル、そして緑色の石「クリプトナイト」を活用した地球科学論・・・?ちなみに、「クリプトナイト」とは、惑星クリプトンの爆発の時に宇宙に飛び散った隕石で、スーパーマンのみならず、クリプトン星人は、クリプトナイトから発せられる特殊な宇宙光線を浴び続けると、超能力を失うだけでなく、生命の危機に陥ることもあるとのこと。
ルーサーの企みは、アメリカ大陸を沈没させて別の大陸をつくり出すという壮大なもので、それを可能にするのが、どうもクリスタルらしい・・・?科学的な整合性はさておき、このルーサーの企みは多分映画史上最大の企み・・・?『日本沈没』(06年)や『日本以外全部沈没』(06年)は個人の力によるものではなく、自然の力によるもの。そして、その新大陸にクリプトナイトを含ませれば、その大陸上ではスーパーマンは無力。このルーサーの狙いどおり、新大陸に降り立ったスーパーマンは、その能力を全然発揮できなくなったため、単なるチンピラのように、ルーサー一味から殴る蹴るの仕打ちを受けたうえ、海中の藻屑と消えてしまったかに見えたが・・・?
<ジェイソンは誰の子供・・・?>
今さら、スーパーマンが墜落しようとするジェット機を持ち上げたり、ルーサーの企みによって崩れ落ちる大都会メトロポリスのまちを救ったりするシーンをいくら見せても、観客はあまり興奮しないはず・・・?そこで今回、いかにもハリウッドのアメコミ映画らしく設定したのは、ルーサーの企みによって瀕死状態に陥っているスーパーマンを、リチャードとロイス、そしてジェイソンらが救出するというストーリー。水上機を駆使するリチャード、海の中に飛び込んでスーパーマンを救出する勇気ある女性ロイスの姿を見ていると、まさに1930年~40年代の古き良きアメリカの活力そのものだが、この程度の活劇なら『パイレーツ・オブ・カリビアン』の方がよっぽど面白い・・・?
ここで興味深いのが、セリフは少ないものの、なぜかいつもジェイソンがロイスに同伴していること。そりゃ、小さい子供を誰かに預けたままにしておくことはなかなかできないとしても、1987~88年当時の「アグネス論争」ではないが、優秀な記者であるロイスがあらゆる職場にジェイソンを同伴させるのは、アメリカ社会ではちょっと不自然・・・。
しかし映画の終盤に至り、このジェイソンが物語の本筋において大きなポイントになることがわかるはず・・・。すなわち、そのポイントは、ジェイソンは一体誰の子供なのかということ・・・。今回も、スーパーマンは地球を救うためにロイスに「さよなら」を告げて去っていったが、数年後、数十年後に三たびスーパーマンが地球上に登場するとしたら、そのスーパーマンは一体誰・・・?
<ついに日米の勢力逆転か・・・?>
ちょっと過激な小見出しだが、これは映画の世界の話。日本映画は長い間地盤沈下傾向が続いていたが、最近は日本映画が元気!これにはシネコンの普及や夫婦50割引、映画サービスデーなど制度面の充実もあるが、やはり日本映画に話題作・優秀作が増えてきたことが最大の理由。それに対して、アメリカではハリウッド映画の興行不振が続いている。そのため、今年の日本映画界では、数十年ぶりに日本映画の方がハリウッド映画よりも興行収入が上回りそうだとの予測も・・・。
ハリウッド映画不振の1つの原因は、私がいろいろなところでくり返し述べているとおり、最近とみにアメコミのヒーローに頼る傾向が強まっていること。そんな目で見れば、この『スーパーマン リターンズ』はまさにその典型。ちなみに『キネマ旬報』8月下旬号によれば、「『スーパーマン リターンズ』は首位にこそなっているが・・・期待されていたような華々しい展開にはなっていない」「『バットマン ビギンズ』(最終的に2億0534万ドル余)に匹敵するような成果を上げられるのかどうか、容易なことではなさそうである」とのこと。ハリウッドは、こんな映画づくりの方向性そのものについて、大幅な見直しをする必要があるのでは・・・?
2006(平成18)年8月14日記