アルティメット(フランス映画・2004年) |
<ホクテンザ2>
2006年8月20日鑑賞
2006年8月21日記
リュック・ベッソンが、監督業以上に力を注いでいる(?)製作業において、『YAMAKASI』に続いて贈る驚異のフレンチ流スタント・アクション!CGなし、ワイヤーなしで走る、飛ぶそして素手で闘うというアクションの原点は、育ちも流儀も両極端な2人のスターの肉体によって、「これぞ限界」というレベルまで・・・。焦点は、時限爆弾の時限装置の解除というよくあるテーマだが、あっと驚く「発想の転換」に注目を。そうでなければあなたは、真の悪がどこにあるのかを見誤るかも・・・?
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監督:ピエール・モレル
製作・脚本:リュック・ベッソン
レイト/ダヴィッド・ベル
ダミアン(エリート捜査官)/シリル・ラファエリ
タハ/ビビ・ナセリ
K2/トニー・ダマリオ
ローラ(レイトの妹)/ダニー・ヴェリッシモ
ザナドゥー配給・2004年・フランス映画・85分
<「ベッソン組」のフレンチ流痛快アクションの登場!>
リュック・ベッソンの監督第10作目『アンジェラ』(05年)は、彼の大好きな(?)大オンナを登場させたがその出来はイマイチ・・・?これに対して、彼が製作する映画には、『TAXi』(97年)シリーズなどの近未来モノや、『YAMAKASI』(01年)、『トランスポーター』(02年)などのアクションものがある。そして、『アルティメット』は『YAMAKASI』の延長線にあるフレンチ流痛快アクションだが、ここにはそれまでスタントマンとして陰で活躍していたダヴィッド・ベルとシリル・ラファエリの2人が、レイト役、ダミアン役として登場。その寄って立つ基盤は正反対、両極端ながら、ともに正義感に溢れた若者として「2つの悪」と闘うことになる。
さらにピエール・モレル監督も、これまで「ベッソン組」の1人として撮影監督などのキャリアを築いてきた人物。1999年の『ジャンヌ・ダルク』の成功以降、監督業には多少冴えない感がある(?)リュック・ベッソンだが、自身が設立した製作会社である「ヨーロッパ・コープ」の業績は順調そう。シャ乱Qのつんく♂が歌手よりもプロデュース業にウエイトが移ったのと同じように、映画界も、監督業よりもプロデュース業の方が面白いし、実入りもいいのかも・・・?
<アクションの基本はスピードと走ること!>
格闘技映画の面白さは、タイ式キックボクシング・ムエタイの『マッハ!』(03年)、極真空手・大山倍達の『風のファイター』(04年)、プロレスの『力道山』(04年)、中国式武術の『ダニー・ザ・ドッグ』(04年)など、最近次第に幅広くなっている(?)が、『YAMAKASI』やこの『アルティメット』を観ていると、アクションの基本はスピードと走ることにあることがよくわかる。ビルを上から下へ、下から上へと走り抜け、ビルからビルへと飛び移るサマは、まるで「八艘飛び」をしている戦国絵巻の源義経のよう・・・?さらに、ドアの上の小さな窓からスルリと侵入したり、車の窓から乗車するシーンはスクリーン上ではじめて見るものだが、それは見事なもの。もちろん、ここまでピタリと成功するまでには、何度も失敗し痛い思いをしているのだろうが、ここまでやってくれると観ている方が痛快になるのは当然。やはりCGやワイヤーを使わない本物のアクションは面白い。アクションの基本はスピードと走ることにあることを、再度認識させてくれること必至・・・。
<フランスの荒廃は意外に早い・・・?>
混沌とした時代状況が進んでいく中、「20XX年の近未来には世界は○○になっている」という時代設定をした映画がよくあるが、この『アルティメット』が描く近未来はわずか4年後の2010年。2008年の北京オリンピック終了後2年の間に、パリの治安の悪化は急速に進み、遂に郊外のバンリュー13区(B-13区)は高いコンクリート塀と鉄条網で覆われた孤立した地区にされていた。この中には法律もなく、学校もない。そして、遂に警察もこの地区から撤退しようとしている有り様。したがって、B-13区の中は、ギャング間の抗争の中で生き残ったタハ(ビビ・ナセリ)とその一味が、ドラッグとその売買による資金力によって支配していた。たしかに、こんな「未来予想図」はかなり現実味のあるものだが、2010年という設定はちょっと早すぎるのでは・・・?
<レイトは荒れたまちのたたき上げ・・・?>
そんな荒れたまちB-13区の中で生まれ育ったのが、レイト(ダヴィッド・ベル)。タハ一味によるドラッグ支配に抵抗してきた彼は、今、奪った大量のヘロインを処分しようとしていた。そんなレイトの家を襲ったのは、タハの部下のK2(トニー・ダマリオ)だが、K2襲撃後のレイトの矢のような脱出劇がこの映画最初のアクションの山場・・・。
大量のヘロインを奪われたうえ、見事にレイトに逃げられてしまったボスのタハは冷酷な男。「さて次はどうするんだ!」との質問に対して、何も答えられない部下たちを次々と射殺したが、そこでK2がとっさに思いついた知恵が、妹のローラ(ダニー・ヴェリッシモ)をエサにレイトを呼び出すこと。ローラも兄に似て気の強い女だったが、所詮力の違いはどうしようもない。さあ、こんな事態となってレイトはどうするの・・・?
<警察の腐敗は遂にここまで・・・>
今、大阪では、大阪拘置所の刑務官が入所してきた暴力団のボスの便宜を計ることの見返りとして、車を譲ってもらったり家族旅行の費用を出してもらったりという「セコい」ニュースが駆けめぐっているが、それ以上の日本各地における警察ぐるみの腐敗は再三報道されているとおり。もっとも、中国の公安(警察)と共産党幹部の腐敗ぶりは、人口と同じく日本の10倍規模(?)で、もはや手が付けられない感じ・・・?すると、2010年の荒れたまちB-13区では・・・?
レイトが捕われた妹を奪い返すとともに、命がけで悪党のボスを警察に連行してきたというのに、警察署長は、今日で警察も「店じまい」するのだからありがた迷惑と言わんばかりの対応・・・。そればかりか、それに猛然と抗議するレイトを逆に拘束したうえ、おみやげとして妹のローラを欲しがるタハには、「お持ち帰り」の許諾まで。警察の腐敗もきわまれり、というところをまざまざと・・・。
<対するダミアンはエリート捜査官>
もう1人の主人公ダミアン(シリル・ラファエリ)は武術のエキスパートであるエリート捜査官だが、彼の最初の見せ場は違法カジノの摘発で暴れ回るシーン。忠実な部下として潜入していたダミアンが、ここぞとばかりに悪党どもをやっつけるアクションは、レイトがビルの屋上を逃げ回るアクションとはまた違う正統派アクションの醍醐味が・・・。まずは、前置き的な自己紹介として、ここまで両主役に見せ場を与えた後、製作・脚本のリュック・ベッソンは2人が共同して(?)立ち向かう任務を与えるべく、巧妙なシナリオを・・・。
<ダミアンに対する指令は・・・?>
どんな任務もパーフェクトに遂行する優秀な捜査官ダミアンに対して、パリ市内の警察本部が下した指令は、タハに奪われた時限爆弾を奪い返すこと。誤って既に時限装置が作動しているこの爆弾は、爆発すれば半径8km以内の人間約200万人の命が奪われるという代物だから、この時限爆弾の解除は「人道上」緊急の課題。B-13区は未知のまちであるダミアンは、24時間以内にその任務を遂行することはとても無理だと説明したが、上層部は「君の意見は聞いていない。君は任務を遂行すればいいのだ」と言うばかり・・・。しかも、その「強力」な「協力者」として指名されたのが、半年前にB-13区で投獄されているレイト。B-13区の実情を知り尽くしているレイトはタハから妹を奪還するために、そしてダミアンは200万人の命を救うという崇高な警察官としての任務を遂行するために、2人はそれぞれどんな決断を・・・?
<反発する2人だったが・・・>
24時間以内といっても、ダミアンが任務の説明を受け、レイトと合流すべく行動を開始した時は、既に残り数時間となっていた。ここからの2人の荒っぽいアクションがこの映画の本筋の見せ場だが、レイトのカンはすごいもの。レイトを脱獄させたうえ、異なる目的ながら2人共同してタハのアジトに侵入しようと話をもちかけるダミアンに対して、半分理解を示しつつ、動物的カンで「こいつは警察官だ」とレイトは判断した。そのため、しばらくの間この2人は互いの全能力を傾けた「神経戦」を演じていくが、それが結構面白いので、是非その点にも注目を・・・。
<華々しいアクションの末に最大のハイライトが・・・>
タハのアジトに侵入した(?)2人の活躍ぶりはスクリーン上でタップリと堪能してもらいたい。その結果はもちろん大成功で、タハ一味をやっつけて妹を奪還し、時限装置をギリギリいっぱいのところで解除し、ハッピーエンド、となるはずだと思っていたら、それは大まちがい・・・。なるほど、そういえばそんなハッピーエンドにしないための伏線もチラホラと・・・。
この映画は、レイトとダミアンが主役だから、妹のローラはどうしても刺身のツマ的な扱いとなってしまう。したがって、ローラは無事救出でジ・エンド。そうすると問題は時限装置の解除だが、ダミアンはその与えられた任務を最後まで遂行しようとするのに対し、レイトは動物的なカンでその逆の発想を・・・?さあ刻々と爆発の時刻が迫ってくるが・・・?きっとあなたは、いつの時代も、ホントの悪はデンと後ろに控えていることを実感させられることになるはず・・・?
2006(平成18)年8月21日記