姐御~ANEGO~(香港映画・2005年) |
<宣伝用ビデオ鑑賞>
(京都みなみ会館で9月23~25日3日間限定レイトロードショー)
2006年9月15日鑑賞
2006年9月16日記
「黒社会」の狼の群れの中に否応なく入り込んだ二匹の白いウサギ・・・。「父親を失った女」と「夫を失った女」が、新旧の香港版『極妻』として火花を散らすサマは、静かな中にも迫力が・・・。暗殺された組長の跡目争いの中に登場するヒロインは、セーラー服を着ていないし、機関銃もぶっ放さないが、さてどんな行動を・・・?やっぱり美女が2人も入ると、ヤクザ映画にも別の趣向が明確に・・・?
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監督:黄精甫(ウォン・ジンポー)
洛華(ノヴァ)/林嘉欣(カリーナ・ラム)
菲比(フィービー)(阿九の娘)/劉心悠(アニー・リウ)
百徳(組長)/曾志偉(エリック・ツァン)
大風/黄秋生(アンソニー・ウォン)
辰哥/任達華(サイモン・ヤム)
花哥/方中信(アレックス・フォン)
阿九/廖啓智(リウ・カイチー)
和尚/元華(ユェン・ワー)
日本スカイウェイ配給・2005年・香港映画・90分
<香港にも『極妻』路線・・・?>
日本映画に東映の任侠ヤクザ路線があったように、香港映画には『インファナル・アフェア』3部作をはじめとする「黒社会」路線があり、先日観た『ドラゴン・スクワッド』(05年)もその1つ。東映のヤクザ映画を見れば、鶴田浩二や高倉健を見ても、実録路線の菅原文太や松方弘樹を見ても、どうしても男が主人公になり、女はお飾り的役柄になることが多い。もっとも、主人公をそっくり女にしてしまった藤純子の『緋牡丹お竜』シリーズや江波杏子が女壺振り師となった『女賭博師』シリーズもあったが、そんな東映ヤクザ路線の中でひときわ異彩を放ったのが『極妻』シリーズ。初代極妻は1986年の『極道の妻たち』の岩下志麻だが、その後十朱幸代、三田佳子、高島礼子と受け継がれていき、15作も続く人気シリーズとなったことは、皆様ご承知のとおり。
そんな中、2005年8月に香港で公開されて大人気となったのが、林嘉欣(カリーナ・ラム)を姐御とする『姐御~ANEGO~』。ちなみに、この作品によって林嘉欣は2005年の香港電影金像奨で助演女優賞にノミネートされている。彼女が演ずるのは、ヤクザの組長百徳(曾志偉/エリック・ツァン)とその右腕の阿九(廖啓智/リウ・カイチー)によって殺された敵対していた組長の妻、洛華(ノヴァ)。洛華は直ちに阿九への復讐だけは果たしたが・・・。
<『セーラー服と機関銃』もプラス・・・?>
『姐御~ANEGO~』は黄精甫(ウォン・ジンポー)監督の『ベルベット・レイン』(04年)に続く作品だが、林嘉欣演ずる洛華だけが主人公ではなく、もう1人可憐なヒロインとなる少女がいる。このヒロイン役のオーディションには4000人が応募したとのことだが、その中で選ばれたのが台湾の新人女優の劉心悠(アニー・リウ)。
劉心悠は、洛華の仇討ちによって殺された阿九の娘菲比(フィービー)を演ずるが、菲比に対する洛華の復讐を思い止まらせ、菲比を養女として育てたのが百徳。幼い時からヤクザの組長百徳の下でかわいがられて育てられた菲比も、今やアメリカ留学を終えて父親のもとに帰り、美しい娘に成長していた。そんな菲比を百徳とともにかわいがっていたのが、百徳の昔からの仲間で、今は組の大幹部となっている大風(黄秋生/アンソニー・ウォン)、辰哥(任達華/サイモン・ヤム)、花哥(方中信/アレックス・フォン)の3人。もちろん、彼らは黒社会の中では怖い存在だが、菲比からは「おじさん」と呼ばれ身内同然の仲。
しかし、ヤクザの抗争は絶えないもの。ある日突然、百徳が何者かの銃弾によって倒れることに・・・。すると、組長の跡を継ぐのは誰・・・?ひょっとして、養女の菲比・・・?とすると、まるであの『セーラー服と機関銃』(81年)のようなことになるの・・・?
<百徳を殺したのは誰・・・?>
この映画も、『インファナル・アフェア』や『ドラゴン・スクワッド』と同じように、黒社会を描く香港映画の流れをくみ(?)、説明的な部分を極力省き、印象的な音楽のリズムに乗せてショットが切り替わっていくというスタイル。そのうえ、菲比が幼い頃の物語に再三フラッシュバックしていくので、多少のとまどいはあるが、登場人物のキャラが明確になっているので、話がこんがらがることはない。しかし、用心に用心を重ねていた百徳が1発の銃弾で倒れてしまったのだから、問題はその犯人。
例えは悪いが、仮に日本で2005年から5代目渡辺芳則(二代目山健組組長)の後を継ぎ、6代目の山口組組長となった司忍(弘田組組長、二代目弘道会総裁)が白昼堂々と凶弾に倒れたら、その犯人追及にやっきになり、場合によれば血で血を洗う組の抗争になることは必至。3代目組長の田岡一雄が京都河原町のクラブ「ベラミ」で鳴海清から襲われたベラミ事件は有名だが、現に、銃撃犯の鳴海がその後激しい暴行跡を残した腐乱死体として発見されたことを考えれば、そのすさまじさは容易に想像できるはず。しかし、この映画では・・・?
誰もが犯人は百徳に今なお恨みを持つ洛華ではないかと思うはずだが、逆に、なぜ今洛華がそんな行動に及ぶ必要があるのかも疑問・・・?犯人探しの状況によっては、抗争の芽は明らかだったが、まずは、百徳の跡目相続をめぐる駆け引きが先・・・?
<跡目争いは・・・?>
織田信長亡き後の後継者選びについては、いち早く三法師をかつぎ、「清洲会議」を牛耳った猿こと羽柴秀吉の知恵が決定的なものになったが、この映画を観ていると、そのような特別の知恵者はいない様子。また、ポスト小泉の争いは安倍晋三、麻生太郎、谷垣禎一の3人となったが、百徳の後継者争いも本来なら、大風、辰哥、花哥の3人になるところ。しかし、花哥は早々とリタイア・・・?他方、大風は当然自分が推されると思っていたようだが、そこでちょっと斬新なアイデア(?)を出したのが辰哥。つまり、大風が跡目を継ぐのを防止するため、百徳の養女菲比を次期組長に立てようと画策したのだった。もちろん、菲比はそんな役目を嫌がったが、組長同士が集まる会議の場で、自分に向かってにこやかに微笑みかける百徳の姿を見た菲比は、しっかりと「私が組長です」と宣言したが・・・。
<黒社会と2匹の白いうさぎ・・・>
愛する夫を殺された女洛華と、愛する養父を殺された無垢な少女菲比が、黒社会の狼たちの群れに「姐御」となって闘いを挑むというのがこの映画のテーマ。そして、この映画のチラシには、「血なまぐさい狼の群れ、二匹の白ウサギが誤って狼の群れに落ちてしまい、一匹は自分を変え、一匹は狼の群れを変えましたー」とあるが、ネットで調べた情報によると、中国にはこういう故事があるらしい。
自分を変えた一匹が洛華であることはよくわかるが、難しいのは狼の群れを変えた一匹と言われる菲比は、一体どんなやり方でそれを成し遂げたのかということ・・・。ちなみに、薬師丸ひろ子が主演した『セーラー服と機関銃』では、組長の跡を継いだヒロインは、「カイカーン」と叫びながら機関銃をぶっ放したが、結局は自主的に組を解散することによって問題を「解決」した。
それに対して、この『姐御~ANEGO~』でヒロイン菲比が、狼たちが荒れ狂う黒社会の中で下す決断とは・・・?そして、それによる結末とは・・・?そんな視点から、この映画をじっくりと観ればきっと面白いはず・・・。
2006(平成18)年9月16日記