LOFT ロフト(日本映画・2005年) |
<テアトル梅田>
2006年9月22日鑑賞
2006年9月25日記
千年間も湖の底で長い髪の女のミイラが保存されていたのは、美しさを保つために自ら泥を飲んだおかげ・・・?スランプに悩む中谷美紀演ずる女流作家と小説家志望の女子大生の失踪に悩む豊川悦司演ずる考古学者の2人は、そんな「ミイラ」と格闘しながら、互いの存在感と愛情を・・・?黒沢清監督特有の巧みなストーリー展開は緊張感いっぱいで、安達祐実も熱演だが、後は観客の好みの問題・・・。さて、あなたの評価は・・・?
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監督・脚本:黒沢清
春名礼子(作家)/中谷美紀
吉岡誠(大学教授)/豊川悦司
木島(編集者)/西島秀俊
亜矢(以前の住人)/安達祐実
野々村(礼子の友人)/鈴木砂羽
村上(教育映画社の社員)/加藤晴彦
日野/大杉漣
ファントム・フィルム配給・2005年・日本映画・115分
<スランプの原因は・・・?>
昔と違って今は作家の登竜門となる賞がたくさんあるから、作家を目指して一生懸命頑張れば、芥川賞や直木賞その他の賞をとることも、あながち夢ではない・・・?かどうかは知らないが、賞をとってもそれっきりで、二の矢、三の矢が続かないいわゆる「一発屋」が昨今増えていることはまちがいない・・・。
この映画の主人公である女流作家、春名礼子(中谷美紀)は、華やかなデビューを飾り、将来を嘱望されているにもかかわらず、そんな今ドキの多くの作家と同じように思うように創作が進まず、スランプに陥っている状態。今書いているのは純文学作品ではなくごく通俗的な恋愛小説だから、テーマやイメージさえ決まればすぐにでも書けそうなものだが、それでも筆が進まないというのは、作家としてのスランプの他、肉体的・精神的な変調のせい・・・?そう、最近礼子は時々幻覚・幻聴的な症状を感じるとともに、なぜか咳きこんだ挙げ句、口の中から泥を吐き出すという奇妙な肉体的変化が・・・?医者に行っても特段の異常はないというのに、これは一体なぜ・・・?
<西島秀俊が悪役に・・・>
『好きだ、』(05年)で宮﨑あおいの相手役となり、NHKの朝ドラ『純情きらり』でもヒロイン宮﨑あおいと共に出演している西島秀俊は、若手演技派俳優として期待されている器。そんな西島秀俊が扮するのは、スランプに陥っている礼子を励まし原稿の催促をするという編集者の役だが、これが最初から親切そうだが、どこかしらうさんくさそうなにおいが・・・?今礼子に書かせているのも通俗的な恋愛小説で、とにかく売れればいいという主張が露骨でイヤな編集者・・・?
そんな木島が、引っ越しすることによって気分転換をはかりたいと言い出した礼子に紹介した物件が郊外の一軒家。礼子が出した条件は、広くて静かで安く、しかも東京から通える家というかなり無理なものだったが、なぜか木島はそれを楽々とクリアー。そして、「どんなルートで見つけたの」という礼子の質問には、「友人を通してネ」というあいまいな返答・・・。その時点で、礼子はもっと突っ込んで質問しておくべきだったのだが・・・。
<よくまあこんな家に女1人で・・・>
木島の紹介で礼子が引っ越してきたのは、古びているが2階建ての大きな一軒家。風通しは良さそうだが、こんな広い家に女1人で住んで大丈夫、と思ったのは当然・・・。
面白いのは、キアヌ・リーブスとサンドラ・ブロックが共演した『イルマーレ』(06年)と同じように、引っ越した家の中に、前の住人の荷物が一部そのまま置いてあったこと。『イルマーレ』はそこから時空を超えた文通(対話)が始まるのだが、『LOFT ロフト』では家の中に前の住人が書き残したと思われる小説の原稿があったのがミソ・・・。すると、前の住人は礼子と同じような作家・・・?
それはさておき、ここで礼子は作家として絶対やってはならない行動を・・・。つまり、木島からの連日の原稿の催促に耐えきれず、礼子は残されていたその手書き原稿をそのままパソコンで入力し、自分の作品としてしまったのだ。こりゃ、あきらかな盗作。3日3晩で完成させたその作品を見た木島は、それをろくに読みもしないままオーケーを出したが・・・。
<気味の悪い相棒は・・・?>
最近『日本沈没』(06年)をはじめとして出演作が続いているのが、個性派俳優のトヨエツこと豊川悦司。この映画で彼は、まず礼子が引っ越してきた家の隣りにある廃屋のような建物に、シートに包んだ死体のような得体の知れないものを運び入れるシーンで登場する。当然、礼子は用心しながら彼の挙動を観察していたが、ある日礼子が鍵のかかっていないその廃屋の中に入ってみると、それは何と長い髪を持つ女のミイラだった・・・。
このミイラこそ、礼子が友人の野々村(鈴木砂羽)から話を聞き、また教育映画社の村上(加藤晴彦)が持ってきた『ミドリ沼のミイラ』という記録映画に登場していたあのミイラ・・・?もっとも、そんなミイラと共に終日過ごしていた(?)のは、決して怪しい男ではなく、相模大学で考古学を研究している吉岡誠教授(豊川悦司)だった。彼を中心とする研究グループは、千年前のミイラを沼から引き揚げ、現在そのミイラを展示するための保存処置をしている最中なのだが・・・?
<ロマン溢れる(?)ミイラ物語は・・・?>
『千年湖』(03年)という面白い韓国映画があったが、千年(ミレニアム)というのは大きな単位で、『千年の恋 ひかる源氏物語』(01年)や都はるみが歌う『千年の古都』などにも使われている(『シネマルーム8』84頁参照)。それと同じ意味で、千年前のミイラというのはかなり興味深い物語だが、それが湖の中でそのまま保存されていたのは、当時20歳前後の女性が永遠の美を手に入れるため、自ら泥を飲んだためらしい・・・。そんな「解説」を聞くと、激しく咳きこんで、口から泥を吐いていた礼子の症状は一体・・・?
もっとも、吉岡がさっさとそのミイラの保存処置をしてそれを展示場に移せば、それで吉岡も礼子もミイラとの縁が切れてしまうのだが、なぜか吉岡はその指示に率直に従わず、ミイラを礼子の家に数日間預けたため、さまざまなミイラにまつわる物語が展開されることに・・・。といっても、ホラーもの、スリラーもののストーリー展開には定評のある黒沢清監督のこと。ミイラが現実に動き出すのはずっと後のことで、まずは礼子がミイラの幻想に悩まされ、そして次にミイラの研究者である吉岡自身も・・・。そんなミイラを演ずる(?)のは、かつて子役として一世を風靡し、今はグラビア写真も飾っている安達祐実・・・。『家なき子』(94年)での「同情するなら金をくれ」とのセリフは強烈だったが、さて今回は・・・?
<発見された若い女性の死体は・・・?>
ここらあたりからの、虚と実、夢と現実がゴチャゴチャになった幻想的なストーリーの描き方が黒沢清監督独特の世界だから、それは映画を観てのお楽しみに・・・。話によると、どうも礼子が引っ越してきたこの古い家の前の入居者が、安達祐実扮する小説家を志す女子大生だったよう・・・。すると、死体で発見された若い女性がこの女子大生・・・?すると、この家を紹介した木島と彼女は一体どんな関係・・・?そして、この若い女子大生と千年前に湖に沈んだ女のミイラとの関係は・・・?
さらに、ミイラ研究一筋の吉岡がかつて廃屋の中で目撃したのは、今は礼子が住んでいる家の中で展開されたある殺人事件だったが、果たしてそれは夢なのか、それとも現実なのか・・・?そんなこんなが入り乱れ、何が現実で何が夢かわからないまま物語が展開していくから、よくスクリーンを注目しておくことが必要・・・。
<ラブシーンには異和感が・・・?>
『イルマーレ』は韓国版ラブストーリーをハリウッドがリメイクしたものだが、最初からとことんラブストーリーにすることを前提としたものだから、いくら時空を超えた恋であっても説得力を持っている・・・?しかし、千年前のミイラ登場という物語の中で、吉岡と礼子の間で展開されようとするラブシーンを観ていると、あれっと異和感を持つのは私だけではないはず・・・。そもそも、なぜこの2人が惹かれ合うのか自体がよくわからないから、なぜ吉岡が急に「僕のすべてを捨てて君のために生きていく」などと言い出すのかよくわからない。他方、完全盗作でとりあえずの原稿催促を免れた礼子の方は、もし自分の作家としての能力に見切りをつけたのなら、「私もすべてを捨ててあなたについていく」と言うのもわからないではないが・・・?
そんな風にかなり異和感のある2人のラブストーリー(?)が進展していく。そして、2人の努力によって、吉岡は長い間頭を悩ませていたミイラの存在からやっと解放され、強く抱き合った2人だった。ところが、やはりそこで大きなドンデン返しが・・・。そりゃ、そうだろう。木島は何となくうさんくさい奴だったからその行く先が不幸なことは見えているが、いくら何でも吉岡と礼子がすんなり結ばれてハッピーエンドという結末がありえないことは、最初からわかっているはず・・・?
2006(平成18)年9月25日記