セプテンバー・テープ(アメリカ映画・2004年) |
<東映試写室>
2006年10月19日鑑賞
2006年10月20日記
この映画は、9・11テロの1年後、アフガニスタンに入ったアメリカ人が命懸けで撮ったドキュメント風映像が大きな売りだが、その動機は・・・?さらに、8時間分のテープは国防総省に押収されたままというから、そこには一体何が・・・?ところが、実際はフィクションも混在しているらしい・・・。するとさて、どこがホンモノで、どこはつくりもの・・・?『ユナイテッド93』や『ワールド・トレード・センター』とは全く違う視点からの「9・11モノ」だが、賛否両論が起こるはず・・・。
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監督・脚本・プロデューサー・撮影:クリスチャン・ジョンストン
ドン・ラーソン(アメリカ人ドキュメンタリー監督)/ジョージ・カリル
ワリ・ザリフ(通訳)/ワリ・ラザキ
スニール(ソニー)(カメラマン)/スニール・サダランガーニ
アートポート、ギャガ・コミュニケーションズ配給・2004年・アメリカ映画・95分
<第3の「9・11モノ」だが・・・>
この『セプテンバー・テープ』は、『ユナイテッド93』(06年)、『ワールド・トレード・センター』(06年)に続く第3の「9・11モノ」・・・。もっともこれは、9・11テロの1年後に紛争と混乱の真っ只中にあったアフガニスタンで、クリスチャン・ジョンストン監督ら数名のアメリカ人が現地に入って撮影を敢行したというのが大きな特徴。しかして、その動機は・・・?
この映画は、9・11テロによって愛する妻を失ったドン・ラーソン(ジョージ・カリル)が、その1年後にアフガニスタンに渡り、アフガニスタンとパキスタンの国境近くで撮ったという8本のビデオテープが発見されたところから始まる。したがって、この映画はこの8本のビデオテープを上映するという形で構成されているから、そのテープの中に映っている映像はたしかに現実の姿・・・。銃やロケット弾もホンモノ、そしてスクリーン上に映る銃弾の流れもホンモノだし、登場する武器ディーラーやオサマ・ビンラディンを追い求める報奨金ハンターたちもすべてホンモノ。しかし・・・?
<どこまでドキュメント・・・?どこからがフィクション・・・?>
この映画のチラシやパンフレットには次のような謳い文句が踊っている。すなわち、「9・11テロの1年後、クリスチャン・ジョンストンら5人のアメリカ人フィルムメーカーがいまだ紛争真っ只中のアフガニスタンで撮影を敢行。アメリカ国防総省が提出を求めたその映像には、ニュースでも見たことのない現実が映っていた」。
これを読んだ私は、この映画はてっきり『ユナイテッド93』のようなドキュメンタリー映画だと思ったが、ドン・ラーソンが警察に逮捕されたり、実弾が飛び交う生々しい銃撃戦が登場したり、通訳のワリ(ワリ・ラザキ)やカメラマンのソニー(スニール・サダランガーニ)が撃たれて死亡したりするのを見ていると、いくら何でもこれはクリスチャン・ジョンストン監督による映画用フィクションだと気づくことに・・・。
チラシは「ドキュメンタリー映画と変わらない圧倒的なリアリティはこうして生まれた」と断言し、「どの部分がフィクションで、どの部分がノンフィクションなのか?」と問いかけているが、映画を観ていると私にはどうも中途半端感が・・・。
それは、ワリもソニーも失ったドンがタリバンに捕えられた中、アメリカ軍によるオサマ・ビンラディン捕獲のための爆撃作戦が始まるという8本目のテープのラスト部分を迎えると一層強まることに・・・。これでは、「どの部分がフィクションで、どの部分がノンフィクションなのか?」は明らかなのでは・・・?
そのためか、『キネマ旬報』10月下旬号の今野雄二氏、萩尾瞳氏、塩田時敏氏、三笠加奈子氏の4氏のこの映画に対する評価も、今野雄二氏の星1つをはじめとしてイマイチ・・・。
<なせオサマ・ビンラディンを追及する旅に・・・?>
映画のラストに『ユナイテッド93』を彷彿させる場面が登場する。すなわち、そこにはテロリストに乗っ取られた飛行機内から愛する夫に電話をかけてくる妻の声が・・・。そう、ドンはハイジャックされた機内において愛する妻を失った人物だというわけだ。そしてそれが、ドンをしてにっくきテロリスト、タリバンのボス、オサマ・ビンラディンを追い詰めていく旅に駆り立てた動機。すなわち、アメリカは9・11テロ直後の10月にアフガニスタンへの侵攻を開始、1カ月後に首都カブールを、そして12月7日にタリバンの本拠地カンダハルを制圧したが、オサマ・ビンラディンの行方はようとして掴めなかったため、その探索に必死になっていた(ちなみにオサマ・ビンラディンは2006年10月の今も発見されていない・・・)。そんな中、アメリカによるオサマ・ビンラディン追跡の様子を何がなんでもフィルムに収めたい、それが愛する妻に対して自分がなすべき復讐だとドンは考えたわけだが・・・。
<なぜそんな旅が可能に・・・?>
ドンとカメラマンのソニーが頼りにするのは、通訳のワリだけ。冒頭部分でワリは、ドンに対して慎重な行動を求めつつ、北部同盟の指揮官ディル・アグハ将軍や賞金稼ぎのババク・アリ(これは俳優ではなくホンモノの賞金稼ぎとのこと)などと接触して、オサマ・ビンラディン追跡の旅をフィルムに収めることの了解を得たが、そんな旅の現実が厳しいものだったのは当然。スクリーン上には、予想をはるかに超えるスリリングなシーンが次々と登場するが、前述のようにその一部はドキュメンタリーだが、それ以外はつくりもの・・・?
文字どおり、体当たりかつ命懸けでオサマ・ビンラディン追跡の旅に挑んだ姿勢は評価すべきだろうが、渡航禁止命令を無視してアフガニスタンへ入国したり、ワイロを使ったり有力者へのツテを最大限活用して追跡旅行の道筋をつけたり、そして残された8本のビデオテープの上映と銘打って、クリスチャン・ジョンストン監督のフィクションを入れ込むというやり方は、ちょっと・・・?
<銃撃戦はホンモノまがいだが、ドンの脱水症はホント・・・>
この映画にはホンモノのシーンとホンモノまがいのシーンが混じり合っていることは、銃撃戦で通訳のワリが撃たれるシーンが登場することによって明らかに・・・。しかし、ホンモノの銃弾が飛び交い、ロケット弾で壁が破壊されるシーンを見ていると、やはりそこにはすごい迫力が・・・。そしてそれは、ドンらが乗った車に爆弾が落ちてくるというシーンを見ても同じ。しかし、所詮それはつくりもの・・・?
他方、銃撃戦で奮闘したドンがその後脱水症に陥り、瀕死状態となるシーンがあるが、これはパンフレットを読むとホンモノとのこと。すなわち、砂漠の真ん中で行われた撮影であったため、ドンを演ずるジョージ・カリルを車で3時間以上かかる医者の元に連れて行くことができず、結局カメラを回し続けて病気のジョージ・カリルに演技をさせたとのこと。さらに、クリスチャン・ジョンストン監督自身も病気になって、アフガニスタンから帰国した時には20kgもやせていたとのこと。何ゴトもそこまで徹底してやれば立派だが・・・?
<国防総省が押収したテープには何が・・・?>
クリスチャン・ジョンストン監督のインタビューによれば、もともと全部で27本のテープがあったところ、国防総省から検査にかけるという名目で映像を提出するよう要求されたため、提出を余儀なくされたとのこと。すると、なぜ8本のビデオテープを上映するという形でこの映画が製作できたのか?それは、クリスチャン・ジョンストン監督が国防総省へ提出する前にほとんどの映像をコピーして手元に置いていたためらしい・・・?
しかし、そんなことってホントに許されるの・・・?さらにこの映画の「売り」は、それでも結局「8時間分の映像が戻ってこなかった」こと。すなわち、その「幻の映像」には、アメリカのブッシュ政権や国防総省にとって公にしたくない映像が映っていたというのだが、さて、そのテープには何が・・・?そして、その前提となっているビデオテープの押収(?)をめぐるクリスチャン・ジョンストン監督のお話の真偽は・・・?
2006(平成18)年10月20日記