あなたを忘れない(日本、韓国合作映画・2006年) |
<ソニー・ピクチャーズ試写室>
2006年12月15日鑑賞
2006年12月16日記
「あなた」とは、26歳の韓国の留学生イ・スヒョン。転落した酔っぱらい客を救うため線路に飛び降り、結果的に電車にはねられた若者だ。彼はなぜそんな行動を・・・?多くの日本人はそう思ったはず。それは、他人に無関心、われ関せず、触らぬ神に祟りなしという病が日本(人)に蔓延しているため・・・。教育基本法改正の是非論はともかく、彼が私たちに教えてくれた人間の絆、人間の勇気を大切にしなければ・・・。
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監督・脚本:花堂純次
原作:康煕奉『あなたを忘れない』(早稲田出版刊)
辛潤賛『息子よ!韓日に架ける命の架け橋』(潮出版社刊)
佐桑徹『李秀賢さんあなたの勇気をわすれない』(日新報道刊)
イ・スヒョン(日本語学校留学生)/イ・テソン
星野ユリ(ストリート・ミュージシャン)/マーキー
風間龍次(ユリの音楽仲間)/金子貴俊
イ・ソンデ(スヒョンの父親)/ジョン・ドンファン
シン・ユンチャン(スヒョンの母)/イ・ギョンジン
イ・スジン(スヒョンの妹)/イ・ソルア
平田一真(ユリの父親)/竹中直人
星野史恵(ユリの母親)/原日出子
ミルキーこと岡本留美子(ユリの高校の同級生)/浜口順子
高木五月(史恵の友人)/大谷直子
ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント配給・2006年・日本、韓国合作映画・130分
<2001年1月26日、新大久保駅・・・>
2001年1月26日、JR新大久保駅のホームで、日本語学校留学中の韓国人留学生と日本人男性の2人が、線路に転落した酔っぱらいの男を助けようとして線路に飛び降り、結局3人とも電車にはねられて死亡したという事件がマスコミで大きく取りあげられた。そこで問題となったテーマは、今多くの日本人が忘れてしまっている人間の絆と勇気。
電車の中で誰かが誰かに絡まれていても、「われ関せず」と決め込み「見て見ぬふり」をするのは、きっと私もあなたも同じ・・・?だって、自分のことで毎日忙しい中、なぜそんな他人ゴトに関わらなければならないの?ヘタに関わり合ってケガでもさせられたら大変、と思うのはある意味で当然だもの・・・。しかし、それってホントは、人間の絆や勇気を自ら放棄する行為では・・・?
戦後60年を経たそんな日本の社会状況、精神状況の中、47歳の日本人男性関根史郎氏が線路に飛び降り、酔っぱらい男性を救助しようとしたのが驚きなら、当時26歳の韓国人留学生イ・スヒョンが同時に降り立ったうえ、命が消える直前の7秒間を向かってくる電車に両腕を突き出し、止まるようにと懸命な合図を送り続けたというのは一体ナニ・・・?そしてなぜ・・・?そんな疑問と今の日本ではありえないような彼の勇気に対する感動が、日本全国に大きな波紋を投げかけることに・・・。そして、その感動が数冊の本となったうえ、遂に今それが映画化されることに・・・。そのタイトルはまさに関係者の気持をストレートかつ正直に表現した言葉、すなわち『あなたを忘れない』。
ちなみに、2006年1月15日にこの映画の韓国ロケが終了した後、スヒョンの命日である1月26日には韓国側のスタッフ・キャストが来日して東京で五回忌にあたる「偲ぶ会」が開催されたとのことだが、私もこの1月26日という日は決して忘れない。なぜなら、プライベートなことながら、その日は私の誕生日だから・・・。
<韓国映画のいつもの風景=兵役の義務>
同じ民主主義国家・自由主義国家でありながら韓国が日本と大きく異なるのは、韓国の男性にはすべて26カ月以上の兵役の義務があること。20歳代前半に日常生活から強制的に隔離される期間があるため、韓国映画ではその空白期間(?)が何らかの形で描かれることが多い。この映画の冒頭もそれ。すなわち、この映画の主人公イ・スヒョン(イ・テソン)は今兵役の義務を終了し、除隊して釜山にある家族の家に帰ってくるところ。バスを降り、足どりも軽く帰ってきたスヒョンを温かく迎えたのは、スヒョンが尊敬する父親のイ・ソンデ(ジョン・ドンファン)と、母親のシン・ユンチャン(イ・ギョンジン)とちょっと生意気ながらかわいい妹のイ・スジン(イ・ソルア)。こんな風景を見ていると、「バラバラ家族」が目立つ昨今の日本に比べて、家族の絆という観点からは数段韓国の方が上・・・?
<共同脚本を書いた花堂純次監督の基本構想は・・・?>
日本の大学に入る前の日本語学校に通う韓国や中国からの留学生は、まだ日本語が未熟。したがって日本で生活するについては、アルバイト先と学校との往復に必死で、それ以上は何の時間的ゆとりもないのが実態・・・?しかし、そんな生活実態をそのまま映画にしたのでは面白いストーリーにすることができず、そこに恋や友情そして夢や挫折などさまざまな要素を挿入しなければ魅力的な映画を完成させることは不可能。そこで、共同脚本も書いた花堂純次監督がひねり出した基本構想は、音楽を契機とした恋物語をベースとすること・・・。
そのため、スヒョンに与えられた役柄は、「魂のロック」を売りモノにしたギターの名手ということになった。そんなスヒョンが日本でめぐり会う女性が、父親との確執を抱えながらストリート・ミュージシャンとしてライブ活動を続けている星野ユリ(マーキー)。「あるトラブル」をきっかけにして、ユリと友達になることができたスヒョンは、以降ユリとの友情と恋愛を深めていくとともに、ユリのインディーズバンドの決勝大会に向けての活動をさまざまな形で応援していくことに・・・。
<その難点は・・・?>
この映画の脚本はなかなか良くできているが、難点は、映画にする以上仕方がないと思うものの、韓国からの留学生の実態(厳しさ)を多少無視し甘く描いていること。すなわち、いくら体力があっても、日本語の勉強もバイトもしっかりやったうえ、ギターも弾きユリのライブ活動を応援し、そのうえ富士山へのマウンテンバイク登頂や大阪生野区へのルーツ辿りのマウンテンバイク旅行に出かけるなどというのは、所詮時間的・経済的にムリな話・・・。そういう留学生スヒョンの日本での生活状況をしっかり描こうという花堂純次監督の基本構想はそれなりの説得力はあるのだが、そのために映画が多少冗長になっている面も否定できない。
新聞を賑わしたハイライトのシーンはごく短く紹介されて終わるので、その「実話」を映画にするべくここまで膨大なフィクション(脚本)をつくり上げたことに感心するとともに、多少の異和感も・・・。
<「日本を嫌いになりたくない」との気持は・・・?>
現状では、日本へ来ている留学生の大半を中国人と韓国人が占めているが、小泉内閣当時の日中・日韓関係は最悪の状態だった。安倍内閣の誕生後、日中関係は多少改善したが、日韓関係は北朝鮮の動きと絡んでなお微妙。そんな時代状況の中、この映画では「日本大好き!」との思いで日本に留学してきたのに、韓国人だというだけで嫌われたり、交通事故の現場にいても見て見ぬふりをされたりと、韓国人留学生が「日本や日本人なんて大嫌い!」と思うようになる機会は決して少なくないはず。そのたびに留学生たちは、「なぜそうなのだ?日本を嫌いになりたくないのに・・・?」と思い悩むはず。
この映画の主人公スヒョンは身体も精神力も強くそのうえ心が広い若者だったから、釜山に戻って久しぶりに家族の温かさに触れ、感動的な朝の太陽を眺めることによって何とかそんな悩みを吹っ切ることができたが、誰でもそうはいかないのは当然。主人公と反対に、その時点で日本で学ぼうという意欲を失い、反日感情を持ったまま韓国に戻ったり、日本で非行・犯罪に走ったりする若者も多いのでは・・・?
日本人がホントの国際人となるためには、こんな留学生に対してもっと温かい目を向け、さまざまな支援をしていくことが大切なのだが・・・。
<ストリート・ミュージシャンはバリバリの現役歌手!>
この映画のストーリー構成上重要な位置を占めるのが、ツッパリ女(?)のユリ。このユリの生きザマが、ライブハウスを経営しているわがままで横暴な父親の平田一真(竹中直人)そして今は離婚して名古屋で暮している母親の星野史恵(原日出子)とのトラブルいっぱいの家族関係を、何とも理想的なスヒョンの家族関係と対比させる形で描かれていく。
そんなツッパった女ながら、ストリート・ミュージシャンとして人の心に訴えかける歌声を聴かせるのは、女優ではなく、現役バリバリのミュージシャンであるマーキー。プレスシートによると、このユリ役には誰でも知っている若手女優の名前があがったが、花堂純次監督は「何か違う」と感じ、結局「ライブを見て決めた」という、HIGH and MIGHTY COLORのボーカルのマーキーが抜擢されたとのこと。
この映画でユリ役にマーキーを抜擢したのは、主役に2000人のオーディションの中からイ・テソンを選んだことに続く大ヒット。歌の実力を見せるだけではなく、父親との確執を抱えながら異国の男性スヒョンと知り合う中で、親の大切さを学び、少しずつ変わっていく女性、そしてそれが少しずつ恋心に転化していく女性の姿を見事な感性で演じている。そして、ハイライトは決勝大会に臨む直前に受けた訃報の中、あれほど嫌っていた父親の激励を受けて、涙をこらえ、スヒョンの在りし日の姿を思い浮かべながら歌うユリの姿。ここで思わず涙がポロリという観客も多いのでは・・・?
<相変わらずの竹中直人の怪演!>
奇妙なロックンローラー姿(?)で、存在感タップリに娘のユリといつもケンカしている父親を演じるのが竹中直人。丁寧に描かれていく娘と父とのストーリーを観ていると、平田は必ずしもわがままでどうしようもない男ではなく、娘思いの一面もあるいい男なのだが、あくまでツッパった生き方の印象が悪いのは持って生まれたもの・・・?
とはいいつつ、ユリをバンドのボーカルに引き入れることによってメジャーデビューを狙っている風間龍次(金子貴俊)たちの面倒を見てやったり、「倒産」した後も決勝大会に向けて楽器を買い戻してやったりと、根は音楽好きのいいおじさん・・・?そんなストーリー構成上重要なユリの父親役を、相変わらずの雰囲気で竹中直人が怪演!
<その他の脇役陣もしっかりと・・・>
その他の脇役陣として、口八丁で強引にバンドの合併話を進めたり、さまざまなハッタリをかましたりする「音楽一筋青年」の風間も存在感十分。そして、ユリの同級生のミルキー(浜口順子)や離婚したの母親の立ち直りを支えた友人の高木五月(大谷直子)など、脇役陣がしっかりと物語の進行を支えている。他方、韓国側で登場するスヒョンの父親、母親そして妹役を含め、これほどうまく日本・韓国の合作映画の製作が進められるのなら、今後も次々とそんな企画が求められるところ・・・。
もっともそのためには、求心力の低下している盧武鉉政権の現状ではダメで、ウリ党が勝つかハンナラ党が勝つかは別として、しっかりと国民の支持を得た小泉内閣のような安定政権が韓国にも登場してもらわなければ・・・。
<教育基本法改正の是非は・・・?>
本日12月16日(土)最大のニュースは、「西武ライオンズの松坂大輔のレッドソックス入団決定、120億円」ではなく、教育基本法の改正が成立したこと。これには激しい賛否両論があるのが当然だが、戦後61年の今、他人に無関心、われ関せず、触らぬ神に祟りなしという病が日本と日本人に蔓延しているのはまちがいない事実。自転車に乗ったスヒョンがタクシーにはねられた時、それを見ていた数人の日本人たちの対応を観ているとホントに恥ずかしくなってくるが、残念ながらそれが90%以上の日本人の実態・・・?
そんな日本人に誰がしたの・・・?そう問いつめていけば、教育基本法改正の意味が見えてくるのかも・・・。この『あなたを忘れない』を観るについては、そんな大切な視点も忘れずに・・・。
2006(平成18)年12月16日記