相棒 シティ・オブ・バイオレンス(韓国映画・2006年) |
<東宝東和試写室>
2007年3月13日鑑賞
2007年3月14日記
韓流映画は純愛モノばかりではない!タランティーノ監督顔負けの本格的アクション映画の潮流は、韓国映画にも脈々と・・・。拳銃に頼らず、格闘能力の限界まで見せつけるのが韓流アクション映画!他方、家族や友人を大切にするのも韓国流。20年前の友情を胸に秘めて対決せざるをえなくなった5人の仲間たちの心情は・・・?クライマックスにおける10分以上続くアクションの死闘は超見モノ!
本文はネタバレを含みます!!
それでも読む方は下の「More」をクリック!!
↓↓↓
ここからはネタバレを含みます!!ご注意ください!!
↓↓↓
監督・脚本・製作:リュ・スンワン
ソックァン(ドンファンの弟)/リュ・スンワン
チョン・テス(刑事)/チョン・ドゥホン
チャン・ピロ(土地開発業を営む、ミランの兄)/イ・ボムス
オ・ワンジェ(テスの旧友)/アン・キルガン
ミラン(ワンジェの妻)/キム・ソヒョン
ユ・ドンファン/チョン・ソギョン
エスピーオー配給・2006年・韓国映画・94分
<韓国アクション映画フェスティバルとは・・・?>
アメリカ村のビッグステップにある映画館「シネマート心斎橋」がオープン1周年を迎えるのを記念して、4月28日~5月11日までの2週間開催されるのが「韓国アクション映画フェスティバル」。そこで上映されるのが、3月9日に観た『おまえを逮捕する』(05年)やこの『相棒 シティ・オブ・バイオレンス』らの作品。
日本のおばさま族を中心に韓流純愛映画が大ヒットしたのはつい先日のことだが、既にそれは下火。それに代わって、日本のおじさん族向けに韓流アクション映画がどの程度浸透していくのか、それがこのフェスティバルのテーマだが、さてその行方は・・・?
日本にはヤクザ映画というジャンルが昔から確立しているが、韓国のアクション映画はそれを含んだより幅広い概念として理解すべき。そして、そのジャンルにも面白い作品がたくさんあるから、是非それに注目を!
<リュ・スンワン監督に注目!>
タイトルだけではよくわからなかったが、プレスシートを読んでアッと驚いた。それは、この映画を監督・製作し脚本を書きそして主演したリュ・スンワンは、チェ・ミンシク主演の、韓国におけるボクシング映画の名作『クライング・フィスト』(05年)の監督だったということ。パク・チャヌク監督らの下で助監督をつとめ、パク・チャヌク監督の『復讐者に憐れみを』(02年)では俳優としても活躍。そして今や「韓国のタランティーノ」と呼ばれているというからすごい才能。このリュ・スンワンは1973年生まれだから、まだ33歳。その名前を記憶に留め、彼の今後の活躍に注目していかなければ・・・。
<5人の仲間たちは・・・?>
この映画の舞台は、ソウルの警察に勤務する刑事チョン・テス(チョン・ドゥホン)の郷里、忠清道(チュンチョンド)の小都市オンソン。といってもこれは実在の都市ではなく、架空の都市らしいが・・・。刑事として忙しい毎日を送っているテスが休暇をとってオンソンへ戻ったのは、親友オ・ワンジェ(アン・キルガン)の訃報を受けたため。今ワンジェの葬儀を取り仕切っているのはワンジェの妻ミラン(キム・ソヒョン)の実兄にあたるチャン・ピロ(イ・ボムス)。テスもワンジェもピロも20年前の少年時代からの仲間同士。
他方、司法試験をずっと受験しながら全然合格できず、今はクズのようになっているユ・ドンファン(チョン・ソギョン)も葬儀に出席していたが、そんなドンファンをずっと応援してくれたのはワンジェだけ。そして、そんな兄を不甲斐なく思っているのが弟のソックァン(リュ・スンワン)だが、この2人もワンジェたちの仲間で、この5人は少年時代、毎日毎日ケンカに明け暮れていた。そして5人の結束は固く、将来の出世を誓い合っていた仲間だった。しかし、今は・・・?
<今、ピロは・・・?>
ワンジェの葬儀を取り仕切っているピロは、ダブルスーツに身を包み、いかにも羽振りが良さそう。彼は今、オンソンのまちで土地開発業を営んでいるが、オンソンのまちは観光特区に指定され、カジノ誘致計画が進行中。そうなると、利権絡みで土地開発業者が暗躍するのが世の習い・・・?そして今、ピロはその事業をソウルの某事業家と手を組んで陣頭指揮をとっている様子。しかして、その手口は・・・?
このピロを演ずるイ・ボムスは、『バンジージャンプする』(01年)、『シングルス』(03年)、『オー!ブラザーズ』(03年)などに出演しているが、私が最も印象深いのは『アナーキスト』(00年)のトルソク役。「二枚目俳優が多い韓国男優陣の中ではちょっと異色の、丸顔で大きな顔だから、決してハンサムとは言えないが、そのためかえって個性的な役柄が数多く与えられるようだ」と書いた(『シネマルーム8』74頁参照)が、その特徴がこの映画でもうまく発揮されている。
<ワンジェの死に異議あり!>
最初はよくわからなかったが、ストーリー展開を観ていく中で次第に明らかになるのは、この5人の仲間のリーダー格がワンジェだったこと。そして、オンソンのまちを取り仕切る裏の組織のボスだったワンジェが、今は小さなバーの経営者になっていたのは、その組織をピロに譲ったため。ところが、そんなワンジェが店にやってきた不良少年たちのトラブルに巻き込まれた結果、刺されて死んでしまったのはナゼ・・・?
テスは刑事としてではなく、ワンジェの親友として犯人を挙げようと決意し、ソックァンは兄ドンファンの大恩人だったワンジェの敵討ちのために不良少年たちの足跡を探っていった。そして、少年たちを追及していくうち、2人とも「ワンジェの死に異議あり!」となってきたが、その背後に見えてきた人物は・・・?
<ワンジェとピロの対立の描き方は・・・?>
この映画は、菅原文太や松方弘樹らの「実録モノ」が登場する以前の、東映の鶴田浩二、高倉健、藤純子らの任侠ヤクザ路線の香りとタランティーノ路線の香りがプンプン・・・?それを意図的に狙いながら激しい韓国人気質を爆発させ、相棒と共に殴り込みをかけていく物語だから、あまり細かいことにはこだわらず、大きな筋を通すことが大切・・・?
東映のヤクザ路線では、善玉と悪玉が最初からはっきりわかっているが、この映画では5人の仲間が20年間結束を保つことができず分裂、というよりもピロが1人だけ孤立していくところがミソ・・・?しかしピロは、観光特区に目をつけた土地開発事業で多少エグイことをやっているにすぎないから、彼をヤクザと決めつけるのはちょっとかわいそう・・・?また、ピロの前はワンジェが裏社会のボスだったのだから、それがホンモノのヤクザであれば、そもそも刑事のテスらと親友関係を保つこと自体ができなかったはず。このように、裏組織のボスという立場が、この映画では少しあいまい・・・?
したがって、いったんボスの座を自らピロに譲っておきながら、ワンジェがピロのやり方に異議を唱えるのは、小泉元総理が今の安倍総理のやり方に異議を唱えるようなもので、いかがなものか・・・?そう考えると、ワンジェとピロの対立の描き方は少しあいまい・・・?
<韓国の若者たちのケンカ能力は・・・?>
ワンジェの死亡を軸とした物語が展開されていく中、フラッシュバック的に20年前の5人の仲間たちの悪ガキぶりが映し出される。今ドキの日本の若者にはバンカラ風ははやらず、男の子だって容姿やファッションに気を遣っているくらいだから、この5人の仲間のように徒党を組んで日々ケンカをくり返すような若者は日本にはほとんどいないのでは・・・?したがって、新宿歌舞伎町で暴れているのは、中国系か韓国系マフィアばかり・・・?
それはともかく、徴兵制が存在する韓国では、若者の運動能力の高さやケンカっ早さが日本とは段違いだということがこの映画を観ればよくわかる。ちなみに、プレスシートを見ると、1998年に社団法人・韓国体育振興会の支援と韓国武術演技者協会、その他の後援で“スタントアカデミー”が発足したとのこと。また、国内唯一のアクション教育専門機関であるこのスタントアカデミーが、本作で映画製作会社としての活動も開始したというからすごい。ちなみに、日本ではせいぜい千葉真一が主催していたジャパンアクションクラブ(通称JAC。現在のジャパンアクションエンタープライズ)があるくらい・・・?したがって、韓国の若者、とりわけ悪ガキたちのケンカ能力の高さは相当なもの・・・?
<今ドキのガキは・・・?>
クライマックスの死闘シーンの前哨戦として、テスとソックァンがその格闘能力の高さを観客に示すのが、オンソンのまちにおける悪ガキたちとの対決。ワンジェ殺害の犯人にたどり着くためには、悪ガキたちのグループからの事情聴取が不可欠。ところが、それを進めていくと、テスとソックァンは、必然的に悪ガキたちのターゲットにされることになったのは当然。
いくらテスが刑事で、空手・ボクシング・マーシャルアーツなどの格闘技をマスターし、「K-1戦士」として通用するほどの格闘センスを持っているとしても、棒を持った奴らを含めて何十人もの悪ガキに囲まれれば、所詮多勢に無勢・・・。というのは観客の理屈・・・?スクリーン上ではその劣勢を覆し、悪ガキどもを蹴散らし、蹴散らし、無事逃げおおせるところがアクション映画の見どころ。途中から応援に加わったソックァンと共に、今ドキの悪ガキども多数を相手にした2人の格闘ぶりをタップリと楽しみたいものだ。
<これぞアクション!これぞバイオレンス!>
リュ・スンワン監督が「韓国のタランティーノ」と呼ばれるのは、この映画のクライマックスとなる、ウンダン亭と呼ばれる韓国式建物の料亭へのテスとソックァン2人の殴り込みシーンを見れば納得。これぞアクション!これぞバイオレンス!という死闘は、まさにタランティーノ監督の『キル・ビル~KILL BILL~Vol.1』(03年)における青葉屋での対決と雰囲気がそっくり・・・?
その第1弾は、ウンダン亭の庭における多数の雑魚たち(?)との素手と棒による対決。第2弾は、7~8室続く日本間風の畳敷きの細長い部屋の中における幹部数十名との小刀による対決。そして第3弾は、ピロを間近でガードする4人(うち1人は女性)のプロ格闘家(?)との死闘。当然、テスもソックァンもかなり打たれるわ、斬られるわの大被害を受けるし、4人のプロ格闘家にはかなりコテンパンに痛めつけられるが、それでも何とか・・・?この10分以上にわたるの大アクションシーンがこの映画最大のハイライトだが、きっと目の肥えたあなたも満足できるはず・・・。
2007(平成19)年3月14日記