かもめ食堂(日本映画・2005年) |
<DVD鑑賞>
2007年5月16日鑑賞
2007年5月17日記
女流作家の原作を女流監督が監督・脚本した物語は、おばさん主体ながら、メルヘンチックでおとぎ話的な香がプンプンと・・・?レストラン経営はかくあるべしと教えるものではなく、人間にとって最も大切なことは、自由な生き方を選ぶことだということがよくわかる。そして、それを最もよく実践しているのは、この映画に登場するようなおばさんたち・・・?そう思ってしまうのは、ひょっとして団塊世代のおやじのひがみ・・・?時の流れのたおやかさ、60歳を迎える頃にはそんな風を感じることのできるような大人になりたいものだが・・・。
本文はネタバレを含みます!!
それでも読む方は下の「More」をクリック!!
↓↓↓
本文はネタバレを含みます!!
それでも読む方は下の「More」をクリック!!
↓↓↓
監督・脚本:荻上直子
原作:群(むれ)ようこ『かもめ食堂』(幻冬舎刊)
サチエ(「かもめ食堂」経営者)/小林聡美
ミドリ(旅行客)/片桐はいり
マサコ(空港でトランクを失った旅行客)/もたいまさこ
トンミ(日本かぶれの青年)/ヤルッコ・ニエミ
マッティ(以前の店の持ち主の中年男)/マルック・ペルトラ
リーサ(夫に逃げられた中年女性)/タリア・マルクス
メディア・スーツ配給・2005年・日本映画・102分
<A子さん宅でDVD上映会!>
『シネマルーム』1~12を出版し、映画評論家活動を続けている(?)と、いろいろな面白いことがあり、いろいろな面白い人との出会いがある。そんな1人で、私の事務所のすぐ近くに住んでいる私とほぼ同年配のA子さんの自宅には、10~20名の集まりに最適なパーティールームやDVD鑑賞室があり、気の合う仲間たちとさまざまなイベントをやっている。
そんなオモシロ人間との交流の中、今日はそのA子さん宅における私にとって最初のDVD鑑賞会。今回の素材は『かもめ食堂』。公開時にそのタイトルはよく聞いていたが見逃していた作品だけに、今日は台湾ビールやワインそしてつまみを手みやげに参加。参加者は計9名。鑑賞後は、大いにワインを飲みながらの映画談義が楽しみ・・・。
またプライベートな鑑賞会だから、特例として上映中の飲み食いも、周りに迷惑をかけない限度でオーケー。ワインを傾けながら、眠り込むことなくスクリーンに集中しなければ・・・。
<注目は若手女流監督の荻上直子!>
私なりのこの映画の注目点の第1は、この映画が『バーバー吉野』(03年)、『恋は五・七・五!』(04年)に続く第3作目となる若手女流監督の荻上直子。
5月16日付朝日新聞には、第60回カンヌ国際映画祭に、『殯(もがり)の森』の河瀬直美監督が2度目の出品を果たしたことが大きく取り上げられていたし、『ゆれる』(06年)の西川美和監督は既にチョー有名。さらに近時は、『檸檬(れもん)のころ』(07年)の岩田ユキ監督、『赤い文化住宅の初子』(07年)のタナダユキ監督、『さくらん』(07年)の蜷川実花監督など、若手女流監督が花盛り。そんな時代的潮流の中、荻上直子監督の実力や如何に・・・?
<舞台はヘルシンキ!>
この映画はそのタイトルどおり、主人公サチエ(小林聡美)が1人でオープンした「かもめ食堂」を舞台とし、ここに集まってくる人たちが織りなすちょっと奇妙な、しかし心温まる日常風景(?)を描いたもの。そんな映画だというイメージは前から知識としてもっていたが、事前のネット情報を集めたリサーチによると、サチエがかもめ食堂をオープンしたのはフィンランドのヘルシンキとのこと。そりゃ一体ナゼ・・・?フィンランドといえばサウナと白夜が有名だが、そういえば、かもめもフィンランド名物・・・?
<オープンしたものの・・・>
なるほど、だからサチエがオープンした店の名前は「かもめ食堂」・・・。私のような現実主義者の男は、すぐにヘルシンキで食堂をオープンするについて、サチエはどんな事前調査をしたのかが気になるところ。すなわち、どんなメニューをどんな価格で、またどんなサービスで提供すれば経営が成り立つのか、それをさまざまな角度から数字的にチェックをするわけだが、この映画を観ていると、どうもサチエはそんなことは全くやってなさそう・・・?
映画冒頭に登場した「かもめ食堂」の全景を見ると、「レストランではなく、あくまで食堂」だとこだわっていたサチエの言葉とは裏腹に、私には食堂というイメージではなく、明るいあか抜けた感じのレストラン風に見えたが・・・?
そんな、予想以上に立派なかもめ食堂だが、オープン以来客はまだ1人もなし。たった1人でグラスを磨きながら店内に立っているサチエを、通りすがりのフィンランド人のおばさん3人組は毎日興味深そうに覗いていたが・・・。
<サチエの人生観と経営観は・・・?>
荻上直子監督はサチエの個人情報を明確に示さないが、ストーリー展開の中で、なぜ「かもめ食堂」のメインメニューを梅干し、おかか、鮭の3種類のおにぎりにしたのかをサチエに語らせる中で、少しずつその境遇やなぜヘルシンキで食堂をオープンしたのかという思いを、観客に理解させていくことに・・・。
オープン以来客が1人もなくても、サチエが落ち込んだり自信喪失したりする様子は全くなし。そればかりか、店を閉めた後は毎日プールで泳ぎ、自宅で食事をつくり、翌朝はまた市場で買い物をして店をオープン。そんな健康的で規則正しい生活をサチエは悠々と送っていた。しかしてそれは、「毎日真面目にやっていれば必ずお客さんはやってくる」という信念をサチエがもっているおかげ・・・?
サチエの推定年齢は30代後半から40歳前後(?)、そして独身だが、映画全編を通じて男性のカゲはなく、またお金を支援しているパトロンらしき者もなし。そんな中で、サチエがこれだけしっかりした人生観と経営観をもっているのは、一体ナゼ・・・?
ちなみに私は、ひょっとしてこれは、荻上直子監督自身が激しい競争社会である映画監督の仕事をいつか離れて、このサチエのような生活を送ってみたいという願望の表れでは、と思ってしまったが・・・。
<お客サマ第1号は・・・?>
1972年生まれの荻上直子監督がフツーの人なのかそれとも変わった人なのか、私は全然知らないが、荻上直子監督がこの映画に登場させるのは、ちょっと奇妙な人たちばかり・・・?毎日ウィンドー越しにかもめ食堂の中を覗いて、「今日も誰もいないわネ」とうなずき合っているフィンランド人のおばさん3人組も奇妙だが、やっとお客サマ第1号として店に入ってきた日本かぶれの青年トンミ(ヤルッコ・ニエミ)も奇妙なキャラ。
フィンランドのヘルシンキに住む人たちの中で、日本語をしゃべれる人はごく少数だと思うのだが、トンミの日本語はかなり達者。そんなトンミがコーヒーを飲みながらサチエに尋ねたのが、『ガッチャマン』の歌詞。トンミは日本アニメが大好きだったのだ。ところが、人間知っていると思っていても、イザ思い出そうとすると出てこないことがよくあるもの。「認知症」が少しずつ進んでいるのではないかと秘かに恐れている、私たちの年代では誰でもそうだが、どうも30代(?)のサチエもそうだったよう・・・?しかして、映画はここで第1楽章を終わり、『ガッチャマン』の歌詞をめぐって第2楽章へ・・・。
ちなみに、人のいい経営者のサチエは、コーヒー代を払おうとするトンミに対して「あなたはお客サマ第1号だから料金は結構です」ときたが、その後の展開をみていると、来客第1号にはいつでもコーヒーはタダという特典を与えていたよう・・・。しかし、これって経営者としては若干問題ありでは・・・?
<日本人おばさん第1号は・・・?>
若い美人女優には常に興味津々で目のない私だが、この映画の主人公サチエ役を演ずる小林聡美は、これまでその名前は聞いたことがあるような気がするものの、実は全く知らなかったおばさん・・・?と思ってネットを調べてみて驚いた・・・。
何と1965年生まれのこの小林聡美は、脚本家三谷幸喜の奥さん。そして、1979年の『3年B組金八先生』でデビューし、1982年の大林宣彦監督の『転校生』で主演に抜擢されてヌードも披露する好演を見せ、一躍注目を浴びたとのこと。そして1995年に三谷幸喜と結婚したとのことだが、これはきっと彼が彼女の才能を認め、それにホレ込んだため・・・?
ちなみに、「尾道3部作」の1つが大林宣彦監督の『転校生』だが、同じく大林宣彦監督が舞台を尾道から信州に移してメガホンをとった『転校生ーさよなら あなたー』(07年)を私は5月18日の試写で観る予定。そんな新作のヒロインは、注目の新人蓮佛美沙子(れんぶつみさこ)だから、若かりし頃の小林聡美と対比しながら、この新人をよくチェックしなければ・・・。
それはともかく、この小林聡美はスクリーンの中で40歳を超えたとは思えないスタイルとキリリとしたたたずまいを見せてくれているから、おばさんと言うと失礼だが、一応年齢的にはそうなので、とりあえず彼女を日本人おばさん第1号と名づけておこう・・・。
<日本人おばさん第2号は・・・?>
日本人おばさん第2号は、サチエがまちの本屋の中にある喫茶室で偶然知り合ったミドリ(片桐はいり)。この2人が知り合ったのは、たまたま本屋を訪れていたサチエが、喫茶室のイスに座って『ムーミンの夏祭り』を読んでいるミドリを見つけ、思い切って『ガッチャマン』の歌詞を尋ねたため。「教えて下さい」と言うと「いいですよ」と答えたうえ、スラスラと完璧に歌詞を書き始めたのには驚いたが、それだけでもうこのおばさんにはただ者ではない雰囲気が・・・?
ところが、この大女は単なる旅行客。しかも、「なぜフィンランドに来たのか」というサチエの質問に対する答えは、「目をつぶって世界地図を指さしたらフィンランドだった」とのこと。ちなみにこれは、あのフォレスト・ウィテカーがアカデミー賞主演男優賞を受賞した『ラストキング・オブ・スコットランド』(06年)で、理想に燃え、世のため人のために働こうと志したスコットランドの若き医師ギャリガンが、地球儀をくるくる回して指さしたらアフリカのウガンダだったというのと同じ・・・。もっとも、ギャリガンはそこから命がけの大仕事が始まったのに対して、ミドリはすることがないから、かもめ食堂で手伝わせて下さいというおばさん的行動・・・?
別にそれはそれで悪くはないのだが、日本人おばさんのやることは、わしゃ、よくわからん・・・?
<日本人おばさん第3号は・・・?>
日本人おばさん第3号は、空港で自分の荷物が出てこないという、これもいわくあり気な旅行者のマサコ(もたいまさこ)。たまたま日本人のやっている食堂に入ってきたのもわかるし、グチをこぼしたいのもわかるが、サチエの勧めに応じて服を買いにいったり、トンミの言葉に反応して森へ気分転換に行ったりと、言うことやることがかなり常人離れしているのがこのおばさんの特徴・・・?
「そのうち荷物は出てくるでしょう」と言うのが、単なる気休めにすぎなかったことが明らかになろうとした頃、荷物が発見されたのはラッキーだったが、果たしてそのトランクの中に入っていたものは・・・?ミドリに続いて、何もすることがないマサコも「かもめ食堂」を手伝うことになったため、おばさんトリオと戦力は充実したが、さて肝心のお客サンは・・・?
<フィンランド人おばさん第1号は・・・?>
この映画はある意味、荻上直子監督が、群ようこの原作に自分の将来の理想像をかぶせながら監督・脚本した映画・・・?おばさんとはいっても、サチエはかなり魅力的な女性だから、ミドリやマサコのようなおばさんではなく、すてきな男性が登場してもいいのだが、荻上直子監督が描く将来像はやはりおばさん中心・・・?
そんな延長線として、フィンランド人おばさん3人組に続くフィンランド人おばさん第1号は、毎日店の中をにらんでいるリーサ(タリア・マルクス)。かなりすごい形相だから、にらまれた方は気持ち悪いのは当然で、ミドリは露骨にイヤな顔をしていたが、リーサに対してもにこやかな笑顔を返していたサチエは、さすが経営者・・・。それにしても、このリーサは誰に対して、何の恨みがあって毎日店の前でにらんでいるの・・・?
<おいしいコーヒーの入れ方は・・・?>
食堂・レストラン経営を志している人は、この映画必見!そう断言できるほど、この映画に登場するおにぎりを中心とした(?)メニューは豊富でおいしそう・・・。オープン当初は閑古鳥が鳴いていたかもめ食堂だったが、最後にはどっさりとお客サンが集まってくるという筋書きは大体最初から読めていると思うので、その様子はあなた自身の目で・・・。
また、料理とは別に興味深いのが、おいしいコーヒーの入れ方。そこで登場するのが、ブラリと入ってコーヒーを注文したうえ、サチエに対しておいしいコーヒーの入れ方を伝授する中年おじさんのマッティ(マルック・ペルトラ)。奇妙なおまじないをかけるのがコツというのは多少眉唾物だが、彼が入れたコーヒーはホントにおいしかったよう・・・。同じ素材(マメ)で同じ水を使ってもそんなに味が違うのなら、少しでもおいしいコーヒーの入れ方を学んでほしいものだが・・・。
<なぜか思い出した、堀内孝雄の世界・・・>
1970年代に「アリス」のメンバーとして活躍した谷村新司と堀内孝雄は、私と同じ団塊世代。そして、2人とも私の大好きな歌手、というより偉大なアーティスト。しかし、谷村新司がつくる曲と堀内孝雄がつくる曲は、かなり異質・・・。
それはともかく、この映画を観ながら思い出していたのが、小椋桂作詞、堀内孝雄作曲で堀内孝雄が歌う『愛しき日々』。この曲は1986年の年末時代劇『白虎隊』の主題歌として使われたもので、時代の流れの早さに抵抗する白虎隊と、会津藩主松平容保の悲哀を歌った名曲。私もカラオケでよく歌っていた曲だ。
この映画で荻上直子監督が描くテーマは、人間の自由な生き方とは何かということ。そしてその1つの案として、フィンランドで「かもめ食堂」を経営するサチエの生き方を提示し、またそれにピッタリと沿うおばさん第2号、第3号を登場させている。したがって、ホントにすべてがこの映画のようにスローに流れ、その中で幸せを満喫することができるのであれば、それは1つの理想形・・・?そして、そう思う気持は、『愛しき日々』の中で白虎隊隊士や松平容保が願っていた「もう少し時がゆるやかであったなら」「もう少し時が優しさを投げたなら」「もう少し時がおだやかに過ぎたなら」という歌詞にピッタリ・・・?
<おとぎ話として観なければ・・・?>
私のような現実主義者の男はやはりリアルな映画が好きで、おとぎ話のような映画は苦手・・・?ところがこの映画は、第1楽章におけるかもめ食堂とその経営者サチエの紹介部分からして既におとぎ話風・・・。さらに第2、第3の日本人おばさんが登場し、第1のフィンランド人おばさんが登場する第2楽章、第3楽章になると、登場人物たちの雰囲気も、交わされる会話も、展開していくストーリーもすべておとぎ話風。とりわけ、第3の日本人おばさんが登場して、服を買いに行ったり、森へきのこ狩りに行ったり、さらにお客サンが急に増え始めるシーンになると、その傾向は一層顕著に・・・?
他方、第1のフィンランド人おばさんの登場でちょっと緊張感が増し、バカンスから戻った日本人の第1~第3おばさんが店で突然ドロボウ(?)に遭遇するシーンになると、さてこれからは、と思わず身構えるものの、その結末はやはりおとぎ話風・・・?
もちろんそうはいっても、私はそういうおとぎ話的な描き方がダメだと言っているのではない。この映画はあくまでおとぎ話として観なければダメだから、私の好みに合わない面があると言っているだけ・・・。したがって、客観的評価をすれば星4つだと思うのだが、私の好みを加味すると星3つが妥当・・・?
2007(平成19)年5月17日記