ボンボン(アルゼンチン映画・2004年) |
<OS名画座>
2007年6月9日鑑賞
2007年6月9日記
今週は、『大日本人』(07年)や『監督・ばんざい!』(07年)など、話題先行で内容の乏しい作品が目立った(?)が、このアルゼンチン映画によってやっと心温まる映画に・・・。職を探す中年男が不思議な縁で出会った「ボンボン」は、たちまちドッグショーでの入賞から種付け犬の注文まで・・・。こりゃ大成功と思えたが、そこには思わぬ伏兵が・・・?経済情勢の厳しいアルゼンチンだが、友情や思いやり、そして人間同士の絆の強さは経済大国ニッポンよりよほど上・・・?そんなことを感じながら、アッと驚く最後の大逆転を楽しみたいものだが・・・。」
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監督:カルロス・ソリン
フアン・ビジェガス(中年男)/フアン・ビジェガス(本人)
ワルテル・ドナード(ドゴ犬の愛好家)/ワルテル・ドナード(本人)
ボンボン・オ・ルシアン(ドゴ・アルヘンティーノ種の猟犬)/グレゴリオ
スサーナ(女性歌手)/ロサ・ヴァルセッキ
グラシエリタ/ミコル・エステヴェス
エスタンシア夫人/キタ・カ
パスクアル/パスクアル・コンディート
クラウディーナ(ワルテルの妻)/クラウディーナ・ファッツィーニ
マネージャー(銀行家)/カルロス・ロッシ
フアン・ビジェガスの娘/マリエラ・ディアス
シネカノン配給・2004年・アルゼンチン映画・97分
<これは一体何の映画・・・?>
6月2日(土)に公開された映画では、松本人志監督の『大日本人』や北野武監督の『監督・ばんざい!』等の大宣伝が目につき、OS名画座で公開されたこの『ボンボン』の宣伝は全く目に入らなかった。また、そのタイトルだけでは一体何の映画がサッパリわからなかったため新聞やネットを調べてみたところ、6月1日付朝日新聞の夕刊に京都大学教授の山極寿一が書いた映画評が大きく載っていた。そこでこれは観ておかなければとなり、急遽午前10時からのモーニングショーに行くことに。
今朝の観客はほぼ半分の入りだが、年配者がほとんどで行儀のいい人ばかり。やはりこういう心温まる映画を観に行こうという人は、鑑賞態度やマナーもいいものだということを実感・・・。
<舞台はアルゼンチンのパタゴニア・・・>
この映画はアルゼンチン映画。そして主人公の中年男フアン・ビジェガス(フアン・ビジェガス)が生活しているのはアルゼンチンのパタゴニア。と言っても島国ニッポン人にはサッパリわからないだろうから、パンフレットを見ながら少し解説すれば、南アメリカ大陸の南緯40度線付近を東西に流れるコロラド川域を総称するのがパタゴニアらしい・・・。
日本人なら、ペルーの大統領として一時代を築いたフジモリ氏のことを誰でも知っているだろうが、ペルーとアルゼンチンは隣同士で共に南北に細長い国。ペルーも政治的、経済的そして軍事的に不安定だったが、それはアルゼンチンも同じで、2001年には国の経済が破綻し多くの国民が職を失うという悲劇に。
フアンもそんなとばっちり被害(?)を受けた一般国民の1人でパタゴニアの寂れた道路沿いのガソリンスタンドで20年も働いてきたのに、ある日ガソリンスタンドが売却されオーナーが変わると、あっさりクビを切られることに・・・。そんな中年男のこれからの人生は・・・?
<「ボンボン」とは?「ドゴ」とは?>
この映画のタイトル『ボンボン』は、フルネームをボンボン・オ・ルシアンという犬の名前。日本語で「ボンボン」というといかに可愛い名前で、およそ猟犬の名前には似つかわしくないが、この「ボンボン」は、立派な血統証つきの猟犬の1種である「ドゴ・アルヘンティーノ」という種類の犬。
ネット情報によると、「ドゴ・アルヘンティーノ」はアルゼンチン生まれの珍しい犬種で、もともとはジャガーなどの猛獣相手の狩猟犬としてつくられたと言われている。「ただし、イギリスでは『危険犬種』に指定されるなど、しっかりとした服従訓練ができる人に適した犬種」とのことだから、それまで犬を飼ったことのないフアンが、こんな「ドゴ」を飼うのは、そもそも不向きなのだが・・・?
<これぞ、宝の持ち腐れだが・・・?>
この映画では、血統証付きのドゴ犬ボンボンをフアンが飼うことになったいきさつが、何ともほほえましく描かれていく。日本は高度経済成長を経て都市化を進め経済大国になったが、それとともに失われていったのが隣近所同士の人間のつながりや温かさ。したがって「隣は何をする人ぞ」と興味や関心をもつことはなくなり、互いに無関心で「我関せず」の姿勢が顕著。しかし、経済的に破綻したというアルゼンチンでは、まだ隣近所同士のつながりや心の温かさがタップリと残っていることが、この映画を観ればよくわかる。
フアンがボンボンをもらったのは、車の故障で立ち往生していた女性を助け、150kmも離れた女性の家まで車をひっぱっていったうえ、その修理までしてあげたことのお礼として。ボンボンは、その女性の父親が犬の繁殖業を始めるために購入したのだが、父親が亡くなったため、もて余していたというわけだ。もっとも、目下失業中で娘の家でやっかいになっているフアンだから、フアンもボンボンをもらってもホントに飼えるかどうかわからないから、ありがた迷惑な面も・・・。そんな、こんなの、半ばおしつけ合いを経てフアンはボンボンのような立派なドゴ犬を、家に連れ帰ったが・・・?
フアンが運転する車の助手席に、しっかりと前を向いて座っているボンボンの姿をみると、それだけでこの映画を観に来た甲斐があると思ったのは、私だけではないはず・・・。やはり、映画はこういういいシーンをみせてくれるところが大きな魅力。『大日本人』や『監督・ばんざい!』のように、どぎついギャグやコントをくり広げて観客の笑いを誘おうというのは、やはり邪道・・・?
<いいことは続くもの・・・?>
ボンボンを家に連れ帰ったフアンは、翌朝娘からこっぴどく叱られる羽目に。そこで仕方なく再度ボンボンを車に乗せたフアンの行き先は・・・?
「人生、苦あれば楽あり」で、悪いことも続くものだが、1度局面がよくなると、いいことも続くもの・・・。それまでは、どこからどう見てもくたびれた中年男だったフアンが、車にボンボンを同乗させていることによって、俄然世間の注目をあびることに・・・。
その第1は、ボンボンを連れての見張りの注文。もっともそこでも、フアンは注文主の要求どおりの仕事ができずあまり役に立たなかったが、それでもこれは、フアンの心の優しさを示す温かいエピソード・・・。第2は、ドゴの愛好家である銀行のマネージャー(カルロス・ロッシ)に目をつけられ、ボンボンの調教のためワルテル・ドナード(ワルテル・ドナード)という男を紹介されたこと。ワルテルの狙いはドッグショーで賞をとり、オス犬の種付料で稼ぐこと。
ワルテルから、「ボンボンは入賞まちがいなし」とのお墨付きをもらったフアンは、稼ぎを山分けにするという条件でワルテルについていったが・・・。
<魅力的な女性の登場!>
短期養成講座ながら、よほどワルテルの眼力と調教法が良かったとみえて、見事ボンボンは総合3位に入賞したため、直ちに種付けの依頼が。夢が叶った2人が祝杯をあげたのは当然・・・。
大男のワルテルは人柄も良さそうだし、酒の席でも楽しそう。そのうえアラビア風のレストランで歌っていた女性歌手スサーナ(ロサ・ヴァルセッキ)をフアンが気に入っている様子をみると、スサーナを呼び2人の仲を仲介するという心配りまで・・・。こりゃひょっとして、中年男のフアンに再び恋の情熱が、と思わせる展開だが・・・?
<犬の種付けはレッキとした商行為・・・>
かつてナチスドイツは、ドイツ民族の優秀性とユダヤ民族の劣悪性を主張して恐ろしい行動に及んだが、人間もほ乳動物である以上、優秀な精子と優秀な卵子をかけあわせれば、優秀な子供が生まれる確率が高いのは当然。しかし、それをどこまで認めどこまで実践できるかは大問題・・・。ところが競馬用のサラブレットの場合はもちろん、犬の場合も、その生物学的にあたり前のことを人間は堂々と、しかも商行為としてやっているのが現実の姿。
ドッグショーで賞をとることによってオス犬の種付料の金額が大きく左右されるのは当然で、ワルテルはその道のプロ。ワルテルの交渉力によってうまく交渉をまとめ、「ある事情」で行けなくなったワルテルに代わって、フアンが発情期にあるメス犬のところにボンボンを連れて行ったまでは良かったが・・・。
<男(オス)の神経は繊細・・・?>
ストレスのたまる現代の日本社会においては、男性の精子の数が減少し、性的欲望の減退傾向があるらしい・・・?それほど男の神経は繊細なのだ・・・?すると人間と同じほ乳類である、ドゴ犬も同じ・・・?
そう思わざるをえない状況が発情期にあるメス犬の犬舎で展開されたからビックリ。つまり、ボンボンは発情期にあるメス犬を見ても、何の性欲も示さず、1人犬舎の中でお休みという、何とも情けないことになったわけだ。これは、ボンボンにオスとしての体験がないためと考えたワルテルは、うまく男の「筆おろし」をさせる、ベテラン商売女に相当する経験豊富でテクニック抜群のメス犬を、しかも母と娘のダブルで提供したのだが・・・?
<夢ははかなくついえるのか・・・?>
人間の男にとっては性的不能というのは大きなショックだが、さて犬にとってはどうなのだろうか・・・?それはともかく、種付犬として必要な能力がないというのでは、ボンボンは玄関から新聞をとってくる便利な家庭犬としての役割くらいしかないから、商売が成り立たないことは明らか。その結果、フアンとワルテルがボンボンに託した夢はついえることに・・・?そこで、ワルテルからしばらくボンボンを預かるから再度出直すようにとすすめられたフアンは、やむなくボンボンを置いて家に帰ろうとしたが・・・?
<一発大逆転となる感動的なフィナーレは・・・?>
この映画に登場する役者たちはフアンやワルテルをはじめ、そのほとんどが素人とのこと。パンフレットには、カルロス・ソリン監督があえて素人を起用した理由を述べているので是非それを参照してもらいたいが、たしかに素人ならではのいい表情があちらこちらに・・・。
人間、別れてみてはじめて相手の大切さに気付くということはよくあるもの。仕方なくボンボンと別れたフアンだったが、今1人になっていみると、フアンにとってボンボンがいかにかけがえのない存在であったかが明らかに。すると今やフアンのとるべき行動は1つだけ・・・。
再びワルテルの家を訪れたフアンだったが、そこで聞かされたのは、フアンと別れた直後、ボンボンはワルテルの家から突然いなくなってしまったという意外なもの。さて、その話はホント・・・?ひょっとしてワルテルが何かをたくらんでいるの・・・?また、その話がホントだとすると、ボンボンは一体どこに・・・?
ここから一発逆転となる感動的なフィナーレに向かう物語をここに書くわけにはいかないので、是非劇場であなた自身の目で・・・。ただし、その結末にはあなたもなるほどと納得し、同時に温かい気持がいっぱいあふれてくることだけは、約束しておこう。
2007(平成19)年6月9日記