傷だらけの男たち(香港映画・2006年) |
<OS劇場>
2007年7月8日鑑賞
2007年7月9日記
梁朝偉(トニー・レオン)と金城武の二枚看板に、徐静蕾(シュー・ジンレイ)と舒淇(スー・チー)の名花を添え、傷だらけのまち香港を舞台に展開される、傷だらけの男たちの物語は興味津々・・・。日本映画の傑作『砂の器』(74年)と同じような「出生の秘密」がポイントだが、その理解のためには戸籍制度の勉強も必要・・・。『インファナル・アフェア』に続くハリウッドのリメイク版も楽しみだが、さて2匹目のどじょうは・・・?注目すべきはラストシーン。それはあなたの目でしっかりと・・・。
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監督:劉偉強(アンドリュー・ラウ)、麥兆輝(アラン・マック)
脚本:フェリックス・チョン、麥兆輝(アラン・マック)
ヘイ(ベテラン刑事、ポンの元上司)/梁朝偉(トニー・レオン)
ポン(私立探偵、元刑事)/金城武
スクツァン(ヘイの妻)/徐静蕾(シュー・ジンレイ)
フォン(ポンの恋人)/舒淇(スー・チー)
チョイ(刑事)/杜汶澤(チャップマン・トウ)
チャウ(スクツァンの父、億万長者)/岳華(ユエ・ホア)
マン(チャウの執事)/ヴィンセント・ワン
レイチェル/エミー・ウォン
エイベックス・エンタテインメント配給・2006年・香港映画・111分
<再び、『インファナル・アフェア』の監督たちが・・・>
この映画は、2002年の『インファナル・アフェア』で大ヒットを飛ばした、劉偉強(アンドリュー・ラウ)、麥兆輝(アラン・マック)、フェリックス・チョンの3人が再び揃い踏みしたもの。そして、梁朝偉(トニー・レオン)と金城武という最高のコンビに、徐静蕾(シュー・ジンレイ)と舒淇(スー・チー)というこれまた最高の女優陣を配したものだから、絶対見逃せない映画。
パンフレットによると、このような大スターたちの競演に魅せられて、香港では公開前から話題沸騰。2006年12月19日に香港で行われたプレミア試写では、この4人がそろった他、主題歌『Secret』を歌う中華圏でも大人気を博する女性アーティスト浜崎あゆみも日本から応援に駆けつけ、大いに話題を呼んだとのこと。
<この映画については、原題の理解も必要・・・>
この映画の邦題『傷だらけの男たち』は、文字どおり傷ついた2人の男、ヘイ(梁朝偉)とポン(金城武)を直接的に表現したものだが、原題は『傷城』。これは、「傷ついたまち」という意味だから、少し婉曲的・・・?といっても、この映画の舞台となる香港のどこが、どのように「傷ついたまち」なのか、日本人には多分わからないはず・・・。
この映画冒頭は、2003年のクリスマスを祝っている香港。ここで短い導入部のストーリーが展開されたうえ、ホンモノのテーマは3年後の2006年に移っていく。ところで、香港は2003年は最悪の年。つまり、あの「SARS」が大流行した年だ。さらに張國榮(レスリー・チャン)の死亡によって香港の映画界は大きな損失を受けることに。
このように、2003年、香港は文字どおり「傷ついたまち」となったという認識が、劉偉強、麥兆輝両監督にはしっかりとあったわけだ。そして、そんな「傷ついたまち」の中で、懸命に生きる2人の「傷ついた男たち」の姿を描きたい、しかも『インファナル・アフェア』と同じ、あるいはそれを超える男の美学を示したい、それが劉偉強、麥兆輝両監督の狙いだが・・・。
<名花は、台湾と北京から・・・>
傷ついた男には、それを傍でやさしく見守る女が必要・・・?『インファナル・アフェア』はあくまでマフィアと刑事という男同士の血で血を洗う闘いがテーマだったが、『傷だらけの男たち』は、男の内面における自己との闘いをメインとしているため、必然的に女性のウエイトが大きくなっている。そして、梁朝偉には北京出身で中国の四大女優の1人徐静蕾が、他方、金城武には台湾出身の名花舒淇が「パートナー」として出演することに。
徐静蕾は、『最後の恋、初めての恋』(03年)、『我愛你(ウォ・アイ・ニー)』(03年)等で私が最も注目している中国本土の女優の1人。また舒淇は、『トランスポーター』(02年)などでキュートな魅力を発揮しているし、覚えやすい名前なのですぐに顔と名前が一致した女優。
したがってこの映画は、主役に梁朝偉と金城武という2枚看板を据えたうえ、その傍で傷ついた男たちのドラマを演出したり、支えたりする女優について、中国本土と台湾を代表する名花を登場させた点でも画期的・・・。
<ハリウッド版での女優は・・・?>
マーティン・スコセッシ監督が『インファナル・アフェア』をハリウッドでリメイクした『ディパーテッド』が、2006年度のアカデミー賞作品賞・監督賞など主要4部門を受賞したことは記憶に新しいところ。しかるところ、この『傷だらけの男たち』も早々とハリウッドでのリメイクが発表された。明らかに2匹目のどじょうを狙っているわけだが、さてその行方は・・・?
しかも、その主演の1人は『ディパーテッド』と同じレオナルド・ディカプリオ。彼が梁朝偉役なのか、金城武役なのか、またその相棒が誰になるのかも興味の的だが、私は徐静蕾と舒淇の2人の役をハリウッド女優の誰が演じるのかに、もっと注目している。徐静蕾役は30代前半、舒淇役はできれば20代後半が望ましいが、それにピッタリの女優は一体誰・・・?そんな予想をあれこれするのは実に楽しいもの・・・。
<どんなストーリー・・・?>
この映画は、刑事ポン(金城武)とその上司のヘイ(梁朝偉)の男の傷をテーマとしたもの。2003年のクリスマス。女性をターゲットとした殺人や強姦をくり返す凶悪犯を追った刑事たちの執念によって、犯人をやっと逮捕。しかし、自宅に帰ったポンが見たのは、変わり果てた恋人の姿だった。そのうえ、彼女のお腹の中には新しい生命が・・・?
それから3年後。ヘイは香港の実業家で億万長者のチャウ(岳華/ユエ・ホア)の一人娘スクツァン(徐静蕾)と結婚し、仕事も家庭も順風満帆。他方、刑事を辞めて私立探偵となったポンは、今や酒びたりの毎日。今で言う「勝ち組」と「負け組」がハッキリ分かれたわけで、ここまではきわめてわかりやすい構図。
さて、ここで発生する事件が、チャウとその執事マン(ヴィンセント・ワン)の惨殺事件。といっても、セキュリティーの厳重なチャウの自宅へ侵入したうえでの殺人と金品強奪だから、なぜそんなことができたのかが大問題。しかも、侵入犯・実行犯と思われるレイチェル(エミー・ウォン)らは、その後仲間割れを起こしたらしく、2人とも死んでしまったから、これにて一件落着・・・。と世間は思ったが、父の死に納得のいかないスクツァンが、ポンに対して調査を依頼。そこから解き明かされていく驚愕の真実は・・・?
ざっとそんなストーリーだから、それを前提としてその後の展開はあなた自身の目で確認してもらいたいもの。1つ追加すれば、この映画は何でも2人セット、つまり、ヘイとポン、スクツァンとフォンはもちろん、強盗殺人の実行犯も2人セットだが、ただ1人の例外は強盗殺人事件の指揮をとる刑事のチョイ(杜汶澤/チャップマン・トウ)。ともすれば、全員深刻な顔になりがちなストーリーの中、ただ1人丸っこい顔をした人の良さそうなチョイだけは、それを中和するおとぼけのいい味を・・・。
<チャウはマカオから香港へ・・・>
過去10回以上中国旅行をした私の次のターゲットは、福建省の東南部にある厦門(アモイ)旅行。ちなみにこれは、日本が寒い1月から2月頃が狙い目・・・?
この厦門は香港の北東にあるが、他方、マカオは香港の南西にある貿易港。1840年の阿片戦争の後、武力で清国を制圧したイギリスは、1842年に南京条約を締結して香港島の割譲を受けることになった。さらにその後、1860年の北京条約を経て、1898年6月、新界の99年間のイギリスへの租借が決定された。そして、99年間の期間を経て香港が中国に返還されたのが、今から10年前の1997年7月1日というわけだ。このように香港は大変な目にあってきたが、マカオは昔から自由貿易港・・・?
詳しいことはこれ以上書かないが、香港で億万長者として大成功しているチャウは、マカオからやってきた人物だった。スクツァンからの依頼を受けたポンは、ある情報を受けてマカオへ飛び調べたところ、1978年に起きたある一家惨殺事件が大きなポイントに。すなわち、その事件に巻き込まれることなく1人だけ生き残った少年がいたはずだが、もし彼が生きていれば今頃は・・・?
<中国の戸籍は・・・?出生の秘密は・・・?『砂の器』は・・・?>
現在人口1億3000万人の日本は、明治以来戸籍制度はしっかり確立されている。しかし中国の戸籍は、都市部ではしっかりしているが、農村では頼りないもので戸籍なしという人も多いとか・・・?したがって、彼らが民工として都市で働き、都市で住むためには戸籍を買わなければダメらしい・・・?
香港に住むヘイは、今チャウの娘スクツァンと結婚して順風満帆の人生を歩んでいるが、ストーリーが進むにつれて実は彼には大変な出生の秘密があったことが少しずつ明らかに・・・?
私が日本映画最高の傑作としてベスト1に挙げる野村芳太郎監督の『砂の器』(74年)は、『宿命』という美しいピアノ協奏曲の演奏の中、主人公の出生の秘密が少しずつ暴かれていくものだった。すなわち、巡礼の旅を続ける中で父親の本浦千代吉を失った哀れな少年本浦秀夫は、島根県の出雲地方にある亀嵩(カメダケ)というまちで三木巡査に育てられた。そして19歳の時突如失踪した秀夫は、戦後の混乱期に乗じて戸籍をつくり直し、大阪市浪速区恵比寿町を本籍地とする和賀英良と名乗って成人した。そして今、コンサートホールの舞台でピアノ協奏曲『宿命』を弾いている天才音楽家こそ、この和賀英良だった。すると、丹波哲郎と森田健作扮する2人の刑事が追っていた、国鉄蒲田操車場構内で発見され、東北訛りの「カメダ」という言葉が交わされていた扼殺死体は、ひょっとして三木巡査・・・?すると、その殺人はなぜ、誰が・・・?これが『砂の器』のストーリーだった。
日本でも戦後の混乱期にはそんなことができた(?)のだから、自由貿易港のマカオや香港では、家族全員が惨殺され、たった1人生き残った少年が戸籍をつくり変え、名前を変えて生きていくことは比較的容易・・・?
この映画は、このような中国における戸籍事情という法律問題の状況を前提として成り立っているものだから、そんな点もしっかりお勉強を・・・。
<浜崎あゆみの復活なるか・・・?>
どの映画でも、注目されるのはラストシーン。『インファナル・アフェア』のラストは、ラウとヤンの対決シーンだったが、『ディパーテッド』はいかにもアメリカ映画らしく皆殺し・・・?すると、この『傷だらけの男たち』のラストシーンは・・・?
そんなラストシーンとともに注目されるのが、そこで流れてくるエンディング曲。『インファナル・アフェア』にしても『傷だらけの男たち』にしても、エンディング曲として望ましい雰囲気はやはりバラード。そう思っていると『傷だらけの男たち』で流れてきたのは、聞き覚えのある浜崎あゆみの声だったからビックリ。後でそのタイトルを調べてみると、それは『Secret』という曲で、「本作の製作者側から熱烈なオファーを受けた浜崎あゆみがその要望に応え、このオリジナルソングを本作に提供した」とのこと。
倖田來未との対決に敗れ(?)、さらに近時は『三日月』の絢香などの進出でカゲが薄くなっている浜崎あゆみの復活なるか、にも注目したいもの・・・?去る5月26日、ZARDのボーカリスト坂井泉水死亡のニュースにはショックを受けたが、その後あらためて彼女の楽曲をiPodで聴いて、きちんと歌えるように勉強し直していると、やはり彼女の歌う曲の素晴らしさは群を抜いているもの。浜崎あゆみも『SEASONS』『LOVE~Destiny~』など全盛期にはすばらしい楽曲をたくさん発表していたのだから、まだまだ頑張ってもらいたいと私は思っているが・・・。
2007(平成19)年7月9日記