マルチェロ・マストロヤンニ 甘い追憶(イタリア映画・2006年) |
<東宝東和試写室>
2007年7月11日鑑賞
2007年7月17日記
ジョン・ウェインでもアラン・ドロンでもつくられなかった映画、スターのドキュメンタリー映画がマルチェロ・マストロヤンニについてつくられたのは、誰からも愛された彼の子供のような人柄のせい。そしてまた、フェイ・ダナウェイ、カトリーヌ・ドヌーヴ、クラウディア・カルディナーレ、ソフィア・ローレンなど、名だたる女優との華麗なる女性遍歴のストーリー性のおかげ・・・?何はともあれ、生涯に出演した160本もの映画が追憶され、監督や俳優たちの口からその思い出話が語られるのは、何ともすばらしいこと。私も、彼の爪のアカでも煎じて飲まなければ・・・?
本文はネタバレを含みます!!
それでも読む方は下の「More」をクリック!!
↓↓↓
本文はネタバレを含みます!!
それでも読む方は下の「More」をクリック!!
↓↓↓
監督:マリオ・カナーレ、アンナローザ・モッリ
バルバラ・マストロヤンニ(マストロヤンニとフローラ・カラべッラとの間の娘)
キアラ・マストロヤンニ(マストロヤンニとカトリーヌ・ドヌーヴの間に生まれた娘、女優)
クラウディア・カルディナーレ(女優)
マルコ・ベロッキオ(映画監督)
ソフィア・ローレン(女優)
ルキーノ・ヴィスコンティ(映画監督)
フェデリコ・フェリーニ(映画監督)
エットレ・スコーラ(映画監督)
フィリップ・ノワレ(男優)
アヌーク・エーメ(女優)
ジュゼッペ・トルナトーレ(映画監督)
クレストインターナショナル配給・2006年・イタリア映画・102分
<『デブラ・ウィンガーを探して』VS『マルチェロ・マストロヤンニ 甘い追憶』>
2006年のカンヌ国際映画祭で上映されて大喝采を浴びたこの『マルチェロ・マストロヤンニ 甘い追憶』は、生涯で160本余りの作品に出演し1996年に死亡したイタリア人俳優マルチェロ・マストロヤンニについてのドキュメンタリー映画。映画俳優は世界に多いが、死後こんな形でドキュメンタリー映画がつくられた例はないのでは・・・?
似たようなドキュメンタリー映画として『デブラ・ウィンガーを探して』(02年)があるが、これは、ハリウッド女優における「仕事と家庭の両立」について、ロザンナ・アークェットが自ら34人のハリウッド女優にインタビューし、その本音を聞き出したというスタイルのドキュメンタリー映画だった(『シネマルーム3』195頁参照)。それに対して、この『マルチェロ・マストロヤンニ 甘い追憶』は、マルチェロ・マストロヤンニの2人の娘そして数多くの有名な監督や女優たちが語るマルチェロ・マストロヤンニについての思い出や印象を、マリオ・カナーレとアンナローザ・モッリの両監督がまとめたもの。したがって、チラシの謳い文句どおり、「伝説の女優に、そして世界に愛された男の真実」を語るドキュメンタリー映画だから、映画のタイトルは実にピッタリ・・・。
<キーワードは「甘い生活」・・・?>
マルチェロ・マストロヤンニを一躍世界的に有名にさせたのは、フェデリコ・フェリーニ監督とはじめてコンビを組み、1960年にカンヌ国際映画祭でグランプリを受賞した『甘い生活』だが、その甘いマスクと子供のような性格そして天性の女性に捧げる愛情(?)によって、私生活でも「甘い生活」すなわち女性遍歴が彼のキーワードだったよう・・・?
映画史に残る2大恋愛の相手は、フェイ・ダナウェイとカトリーヌ・ドヌーヴ。そして、この映画で父親を語るバルバラ・マストロヤンニはフローラ・カラベッラとの間の娘だが、キアラ・マストロヤンニはカトリーヌ・ドヌーヴとの間の娘だ。
またプレスシートによると、彼はクラウディア・カルディナーレに恋心を募らせ、ラブシーンのテイクを何度もやり直させる手を使って彼女とキスするチャンスをつくったが、クラウディア・カルディナーレはそれを無視したとのこと。
さらに、実の夫婦以上の親密な関係(?)の中で、30年間に『昨日・今日・明日』(63年)、『あゝ結婚』(64年)、『ひまわり』(69年)など10本もの名作を残してきたのがあのソフィア・ローレン。
1924年に生まれてから1996年に没するまで72年間も、これだけ「甘い生活」を続けてきた色男に拍手!
<監督との相性も抜群・・・>
小津安次郎監督作品に不可欠な俳優が笠智衆、そして黒澤明監督のそれは三船敏郎。さらに台湾の蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)監督作品には、男優は李康生(リー・カンション)、女優は陳湘琪(チェン・シャンチー)と起用される俳優もご指名とされている極端な例もある。それは監督と俳優の相性に関係するものだが、その点マルチェロ・マストロヤンニはイタリアはもちろん世界のどんな監督からも愛されていたようで、誰でもウエルカムだったよう・・・?
イタリアでは私が知っている監督の名前だけを挙げても、ルキーノ・ヴィスコンティ、フェデリコ・フェリーニ、ミケランジェロ・アントニオーニなど。プレスシートには、「マルチェロ・マストロヤンニと一緒に仕事をしなかった監督はいないと言っても過言ではない」とまで書いてある。
さらにイタリア以外では、テオ・アンゲロプロスやロマン・ポランスキーなど世界の巨匠監督多数と数多くの仕事をしている。なぜ彼がそれほどまでに監督たちに愛されたのか。その俳優としての魅力の源泉は何であったのか。それを、私と同じようにこのドキュメンタリー映画の中でじっくりと味わってもらいたいものだ。
<私の選ぶベスト3は・・・?>
この映画の試写室には多くのファンが集まり満席となったが、上映終了後有名な映画評論家のA氏に「ほとんど観てますか?」と尋ねると、予想どおり「そうですね」との答えだった。日本で公開されていない映画は別として、きっと少なくとも7、8割は観ているのだろう。したがって、そういう人から、マルチェロ・マストロヤンニ出演作のベスト5、ベスト10を選んでもらうと大いに意味があるが、私のように数本しか観ていない素人映画評論家では、どれがベストといってもあまり説得力がないのは当然。しかし、あえて私のベスト3を選べば、第1位『ひまわり』(69年)、第2位『夜』(61年)、第3位『あゝ結婚』(64年)というところか・・・?
<老いたクラウディア・カルディナーレにビックリ・・・>
せっかくこんないい映画を観せていただいたのだから、あまり悪口は言いたくないが、どうしても言いたいのは、青春時代の夢は夢のままにしておいた方がよかったのかもしれないということ。すなわち、クラウディア・カルディナーレに惚れたのは何もマルチェロ・マストロヤンニだけではなく、ニキビ顔で受験勉強に精を出していた田舎の中・高生だって同じだったのだ。
クラウディア・カルディナーレが豊満で肉感的であったことは現在の女優である『マレーナ』(00年)のモニカ・ベルッチも同じだし、あの当時の女優であるイタリアのソフィア・ローレンやフランスのBBことブリジット・バルドーも同じ。また知的な魅力いっぱいだった当時の女優が、ジャンヌ・モローやモニカ・ヴィッティそしてカトリーヌ・ドヌーヴたちだったが、何といってもクラウディア・カルディナーレが1番若く、1番かわいかった。『山猫』(63年)における、輝くような美しさはもう絶品!
そんなクラウディア・カルディナーレがこの映画に登場してきたが、老いた彼女の顔をみると、ハッキリ言ってこれは見なければよかったと思ってしまった。そのショックは、あの世紀のファニーフェイス、オードリー・ヘップバーンの晩年の顔をみた時と同じようなもの・・・。
<次は誰のドキュメンタリー映画が・・・?>
私が思うに、夫婦50割引やシニア1000円の制度が定着した今、次々と第1線からリタイアしつつある団塊世代を映画館に呼び戻すにはこの映画は絶好の企画。マルチェロ・マストロヤンニを追憶したこの映画がどれくらい日本でヒットするのかわからないが、この映画がある程度観客を集めることができるのなら、彼以上に日本で有名な俳優を追憶するドキュメンタリー映画もヒットする可能性が十分ある。
さらにこれは、外国人俳優に限ったことではない。なぜなら日本でも三船敏郎、勝新太郎、石原裕次郎など数々の団塊世代の心に残っている映画スターがいるのだから、彼らを追憶するドキュメンタリー映画をつくれば、意外にヒットするのでは・・・?
2007(平成19)年7月17日記