オーシャンズ13(アメリカ映画・2007年) |
<梅田ピカデリー>
2007年8月12日鑑賞
2007年8月14日記
オールスターによる騙しのテクニックの楽しさを満喫するシリーズも遂に第3作!今回最大の特徴は、オーシャンズの敵役としてアル・パチーノが登場したこと。すると、第1作、第2作の敵であったアンディ・ガルシアは「敵の敵は味方」とばかりに・・・?興味のもう1つは、紅一点は誰・・・?そして彼女はどんな役割を・・・?結果ミエミエのこんな映画は、オーシャンズの面々と華麗な騙しのテクニックをタップリと楽しみ、かつ学ばなければソンだが・・・?
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監督:スティーブン・ソダーバーグ
脚本:ブライアン・コッペルマン、デイビッド・レビーン
ダニー・オーシャン(オーシャンズのリーダー)/ジョージ・クルーニー
ラスティー・ライアン(ダニーの親友)/ブラッド・ピット
ライナス・コールドウェル(お坊っちゃまの詐欺師)/マット・デイモン
テリー・ベネディクト(ラスベガスの帝王)/アンディ・ガルシア
ウィリー・バンク(ホテル王)/アル・パチーノ
アビゲイル・スポンダー(バンクの右腕の女性)/エレン・バーキン
ルーベン・ティシュコフ(オーシャンズのスポンサー)/エリオット・グールド
ソール・ブルーム(ベテランペテン師)/カール・ライナー
フランク・カットン(プロのディーラー)/バーニー・マック
リビングストン・デル(電子機器とコンピューターの専門家)/エディー・ジェイミソン
バシャー・ター(爆破とメカに長けた男)/ドン・チードル
バージル・マロイ(輸送のプロ、タークの双子の兄)/ケイシー・アフレック
ターク・マロイ(運転と車両改造のプロ、バージルの双子の弟)/スコット・カーン
イエン(中国出身の曲芸師)/シャオボー・クィン
ワーナー・ブラザース映画配給・2007年・アメリカ映画・122分
<物語の発端は・・・?>
『オーシャンズ13』の脚本を書いたのは、『ニューオーリンズ・トライアル』(03年)でジョン・グリシャムのベストセラー小説を脚本化したブライアン・コッペルマンとデイビッド・レビーンのコンビだが、第1作と第2作をうまくミックスしながら第3作の物語をつくり出している。
物語の発端となるのは、オーシャンズのスポンサーであるルーベン・ティシュコフ(エリオット・グールド)がウィリー・バンク(アル・パチーノ)と組んでラスベガスに巨大なホテルを立ちあげようとしていたところ、バンクの裏切りによってホテルを乗っ取られてしまい、ショックのあまり心筋梗塞で倒れてしまったこと。アメリカ人はビジネスライクに割り切る人種と思っていたが、意外にも「オーシャンズ」はそうではない。つまり、日本的な義理人情に厚いのがオーシャンズのメンバーたちだ。つまり、ルーベンのバンクに対するリベンジのために、ダニー・オーシャン(ジョージ・クルーニー)とラスティー・ライアン(ブラッド・ピット)たちが中心となって仲間を再結集することに。したがって、今回のターゲットは、まもなくグランドオープンを迎える超高級ホテルに君臨するホテル王バンク。
<『オーシャンズ11』の紅一点は・・・?>
『オーシャンズ11』(01年)の紅一点は、ダニー・オーシャンの妻であるテス・オーシャン(ジュリア・ロバーツ)1人だけだった。そして、ダニーと離婚寸前のテスは、ラスベガスの帝王テリー・ベネディクト(アンディ・ガルシア)の恋人となっていた。そのため、このテスをめぐるダニーとベネディクトの確執が『オーシャンズ11』という史上最大の犯罪ドリームチームを成立させ、カジノの地下金庫から1億5000万ドルを奪い取るという犯行に走らせることになったのだから、彼女こそが物語の核心となるキーウーマンだった(『シネマルーム1』32頁参照)。
<『オーシャンズ12』は・・・?『オーシャンズ13』は・・・?>
これに対して、『オーシャンズ12』(04年)にはテスの他、カッコいい凄腕捜査官役としてキャサリン・ゼタ=ジョーンズが参加して紅二点となり、このキャサリン・ゼタ=ジョーンズがジュリア・ロバーツを食うような存在感を見せつけていた(『シネマルーム7』140頁参照)。ところが『オーシャンズ13』は、再度紅一点に絞り込むことに。そしてそのいい女は、今回重量級の敵役として登場するホテル王バンクの右腕として、ホテル・バンクの実務を取り仕切るアビゲイル・スポンダー役のエレン・バーキン。といっても、彼女は25年余りのキャリアをもつベテラン女優とのこと。私は『セレブの種』(04年)などで彼女を観ているが、主役級ではないためほとんど印象のない女優。
つまり今回の紅一点は悪役の補佐役だし、オーシャンズの若手メンバーであるライナス(マット・デイモン)の媚薬による誘惑にコロリと参ってしまうというちょっとコミカルな役割を演ずる程度だから、多少軽視気味・・・?
<敵の敵は味方・・・?>
今回の脚本で面白いのは、「敵の敵は味方」という毛沢東の理論(?)をカジノのホテル戦争に取り入れたこと・・・?
着々とバンク退治の手を打つオーシャンズの面々たちだったが、スポンサーだったルーベンが倒れてしまったため、途中で資金不足というどうしようもない現実に直面することに・・・。そこで出されたアイデアが、「敵の敵は味方」というアイデア、すなわち第1作、第2作で敵となっていたベネディクトに応援を求めることだ。
なぜそんな考えが浮かんだのかというと、バンク・ホテルのオープンによって、自分のホテルのプールに陽が当たらなくなるという被害を受けるベネディクトと、ルーベンのリベンジを果たすというオーシャンズの利害は、対バンク統一戦線結成という観点から一致すると考えられたため。その結果、ダニーやラスティーたちとベネディクトとの間では、統一戦線結成のためのシビアな条件が話し合われたが・・・。
<オーシャンズを反面教師として・・・>
一方で少子高齢化が進み、他方で電話やパソコンなどのIT機器が進歩した中、日本列島では「オレオレ詐欺」や「振り込め詐欺」などの詐欺被害が増大しているが、これは由々しき問題。そういう被害に合わないためには甘い誘惑に乗らないことが大切だが、この映画を見ていると、こんなに大規模かつチームワークに富んだ詐欺行為が展開されれば、ホテル王のバンクや彼の右腕であるやり手ウーマンのアビゲイルですら騙されるのは当然。したがって、素人の私たちがオーシャンズにかかれば、イチコロ・・・。もっとも、オーシャンズの面々が、私たち素人をターゲットに定めることはないからひと安心だが・・・。
「敵を知り己を知れば百戦危うからず」というように、こんな映画を見てオーシャンズの騙しのテクニックを学ぶことは、詐欺被害に合わないための反面教師としてきわめて有効・・・?
<騙しのテクニック その1ー変装が騙しの基本>
この映画は、『オーシャンズ11』『オーシャンズ12』と同じように騙しのテクニックがたくさん披露されているから、それをタップリと楽しみたいもの。その詳細をここで詳しく書くことはバカげているが、いくつかの騙しの基本テクニックだけは私なりに整理しておきたい。
まずは騙しの基本は変装。そのテクニックを披露するのは、ホテルの格付け調査員に変装するソール・ブルーム(カール・ライナー)。彼はこの道50年のベテランペテン師だから当然かもしれないが、その変装テクニックには脱帽。
他方、両親とも詐欺師という毛並みの良さも合って、『オーシャンズ11』『オーシャンズ12』でダニーたちから子供扱いされていたライナスは、今回首尾よくアビゲイルを籠絡させたが、その際媚薬と共に大いに役に立ったのが「サブロディ」と名付けられた付け鼻。なぜそう呼ばれるかはパンフレットを参照してもらいたいが、異様に高い鼻が女にもてるのはそれがセックスシンボルだから・・・?ちなみに、アビゲイルがライナスの媚薬と女殺しのテクニックによってメロメロにされている時にかかるムード音楽は、なぜかかつての名作『ドクトル・ジバゴ』(65年)のテーマ曲である『タラのテーマ』。愁いを帯びた美しいメロディが奏でられる中、アビゲイルの気分は一層高揚していくことに・・・。
さらに警察官やFBIに変装すれば何かと便利。この映画には当然そんなシーンもあちこちに・・・。怪盗ルパンや明智小五郎も変装の名人だったが、オーシャンズの面々たちは当然みんな変装の名人。なぜなら、それは騙しのテクニックの基本だから・・・。
<騙しのテクニック その2ー競争心とサクラ・・・>
騙しは人間の欲を刺激するところからスタートする。人間の欲には、食欲、性欲、物欲などを通して絶対的な欲もあるが、豊かな文明社会となった今、その欲のほとんどは相対的なもの。つまり、「彼の家よりもいい家に住みたい」「彼女のバッグよりもいいバッグを持ちたい」という他人との比較にもとづく欲がほとんどだ。したがって、そんな欲を刺激するためには、競争者をつくり出す必要があり、そのためにはサクラが不可欠。
フランク・カットン(バーニー・マック)が“ナフセット(納得)”なるネーミングのドミノゲーム機械をホテル王のバンクに売り込むことに成功したのは、その機械に興味をもったバンクの前にそれを即金で買い取るとベネディクトが登場してきたため。つまり、バンクはその機械がホントにホテルに必要なのかどうかよりも、ベネディクトとの競争心の結果として「俺が全台を買い上げる」と宣言してしまうことになったわけだ。これぞ、人間の競争心という心理を巧みに読んだ騙しの高等テクニック・・・。
<騙しのテクニック その3ーどちらがホンモノ、どちらがニセモノ・・・?>
『オーシャンズ13』でオーシャンズの面々が狙うのは、1つは、グランドオープンしたバンク・ホテルのカジノを徹底的に荒らすことによって、莫大な損失をバンクに与えること。そしてもう1つは、“5つのダイヤ賞”のダイヤを盗むこと。しかし、このホテルは“グレコ”という厳重な方式でガードされていたから、さしものオーシャンズの力をもってしてもダイヤを飾っている部屋の中に侵入し、それを奪うことは不可能に近いもの。そこで編み出された高等テクニックは・・・?
人間は誰にでも「思い込み」というものがある。例えばその道のプロから、このブランドのバッグは本物だと言われれば、たとえパチものであっても本物と思い込んでしまうもの・・・?何が本物で何が偽物か、ホントはよくわからないことは、浜田雅功司会の『芸能人の格付けチェック』なる番組を見ればよくわかる。「僕は料理にうるさいんだ。やっぱり一流の食材を使わないとね・・・」などと言っている奴に限って、1000円のフグと1万円のフグの味が全然わからなかったり・・・?
ある一定の状況の下で、盗まれたダイヤをオーシャンズの一味であるライナスが身体に巻きつけて隠しているのを発見したら、ホテル側は当然それを取り返そうとするはず。そして、拳銃を突きつけてその取り戻しに成功すれば、それで任務終了と考えるのが当然。しかし、もし彼の身体に巻きつけて隠していたダイヤが偽物だとしたら・・・。
そこまで完全な錯誤に陥れてしまえば、あとはいくら“グレコ”の警備が施されている部屋であっても、本物のダイヤを強引に奪うことは容易に・・・?
<騙しのテクニック その4ー裏方の地味な技術が不可欠!>
『オーシャンズ13』から学ぶ騙しのテクニックにはその他いろいろなものがあるが、それはあなた自身の目で・・・。もっとも誤解してはならないのは、これらのテクニックを真の成功に結びつけるためには、地道な裏方の技術力が必要だということ。
この映画には、オーシャンズの一員として、電子機器とコンピューターを扱うことにかけては天才級のリビングストン・デル(エディー・ジェイミソン)や、巨大ドリルによって地震を起こすという爆破とメカに長けたバシャー・ター(ドン・チードル)が登場する。さらにカジノで使われるダイスに原材料の段階から細工を施すバージル・マロイ(ケイシー・アフレック)とターク・マロイ(スコット・カーン)兄弟や中国出身の曲芸師イエン(シャオボー・クィン)など、さまざまな技術者が登場する。これら裏方の技術力とうまくマッチングした時にのみ、騙しのテクニックがうまく機能することをお忘れなく・・・。
<やはり総合力はオーシャンズの方が・・・>
ホテル王のバンクは自分の知恵を信じており、いつも自信満々だが、そういうタイプはいつの時代でもどんな分野でも失敗するケースが多い。なぜなら、そんなタイプの男には、副官や参謀そして現場指揮官などの有能なスタッフがそろわないことが多いから。現にバンクの右腕となっているのはアビゲイル1人だけで、バンクの頭脳や身体の一部となって動くスタッフは他に誰もいない。
もっとも、バンクは支配人室でふんぞり返っているわけではなく、現場にまめに顔を出す勤勉タイプだから、ある意味では理想的なリーダー。しかし、ボスがあまり頻繁に現場に顔を出すのも良し悪し。だって現場を見れば当然気に入らないことがいろいろと目につくから、その場で従業員にクビの宣告をしたり、と何やかんや働きすぎ・・・?
その点、オーシャンズの面々はチームワークが良く、それぞれの能力を適材適所で有効に活用しているから、多勢に無勢ということ以上に、やはり総合力でオーシャンズの方がバンクより上・・・。そしてそうなるのはある意味当然・・・?
<こういう映画は過程が大切!>
今や『オーシャンズ』シリーズは、『セックスと嘘とビデオテープ』(89年)でカンヌ国際映画祭パルムドール(最高賞)を、そして『トラフィック』(00年)でアカデミー賞最優秀監督賞を受賞したスティーブン・ソダーバーグ監督の代名詞にもなりつつある。しかし、いくら人気シリーズとはいえ、これだけのオールスターを集めた映画を3本も監督することは並大抵なことではない。各俳優の出演料は・・・?スケジュール調整は・・・?役柄や出番の調整は・・・?と考えるだけでも頭が痛くなりそう。
しかしパンフレットを読んでいると、「全員が喜んで参加しようと思わなければ、まとめることはできない」ということを大前提として、『オーシャンズ13』製作の大号令が下されたらしい。そして、「仲間の絆」をストーリーの大前提とした脚本にもとづいて撮影が開始され、撮影中は誰もが気楽に集まれる「オーシャンズクラブ」の活用によって、俳優やスタッフたちが和気あいあいとした雰囲気の中で過ごすことができたらしい。とはいっても、今回敵役となったアル・パチーノとエレン・バーキンの2人がどういう形でこの「オーシャンズクラブ」を利用していたのかはよくわからないが・・・?
『オーシャンズ』シリーズにおいては、結果は最初からミエミエ。すなわち、オーシャンズが大勝利を収めることが大前提だから、この映画はその過程を楽しむことが大切。その意味では、私が解説した華麗な騙しのテクニックを勉強することも大切だが、『キネマ旬報』8月下旬号には「オーシャンズ13を10倍楽しく観る方法!?」という記事があるので、それも是非参考にしてはいかが・・・?
2007(平成19)年8月14日記