ヘアスプレー(アメリカ映画・2007年) |
<試写会・なんばパークスシネマ>
2007年8月21日鑑賞
2007年8月22日記
トニー賞8部門を受賞した人気ミュージカルが、『シカゴ』(02年)、『オペラ座の怪人』(04年)に続いて映画化へ。美人は何もオードリー・ヘップバーンタイプに限らず、太め(デブ?)でも可・・・?「大型」新人の元気一杯の歌とダンス、そして女装のうえ巨大な着ぐるみをつけたジョン・トラヴォルタの「怪演」を中心として、お楽しみがいっぱい。おっと、家族の絆の大切さ、そして人種差別撤廃と闘う社会的なメッセージもしっかりと・・・。
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監督・振付・製作総指揮:アダム・シャンクマン
エドナ・ターンブラッド(トレーシーの母)/ジョン・トラヴォルタ
ベルマ・フォン・タッスル(番組の部長、アンバーの母)/ミシェル・ファイファー
トレーシー・ターンブラッド(ビッグな女子高生)/ニッキー・ブロンスキー
ウィルバー・ターンブラッド(トレーシーの父)/クリストファー・ウォーケン
モーター・マウス・メイベル(アイネスの母、黒人)/クイーン・ラティファ
ペニー・ピングルトン(トレーシーの親友)/アマンダ・バインズ
コーニー・コリンズ(番組の司会者)/ジェームズ・マースデン
アンバー・フォン・タッスル(番組のレギュラー、ベルマの娘)/ブリタニー・スノウ
リンク・ラーキン(番組のレギュラー、トレーシーの恋人)/ザック・エフロン
シーウィード(ペニーの恋人、黒人)/イライジャ・ケリー
プルーディ・ピングルトン(ペニーの母)/アリソン・ジャネイ
Mr.ピンキー(番組の責任者)/ジェリー・スティラー
リトル・アイネス(メイベルの娘、黒人)/テイラー・パークス
ギャガ・コミュニケーションズ、 Powered by ヒューマックスシネマ配給・2007年・アメリカ映画・117分
<『シカゴ』『オペラ座の怪人』に続くミュージカル映画が登場!>
日本でも劇団四季を中核としたミュージカルが大好評だが、本場アメリカのブロードウェイでは、次々とヒット作が生まれている。2002年にブロードウェイでミュージカル化された『ヘアスプレー』は、翌2003年にはトニー賞13部門にノミネートされ、作品賞ほか8部門を受賞し、現在もロングラン。そして、2007年7月には日本でも上演されるほどの大ヒットミュージカル。
そんな大ヒットミュージカルが、『シカゴ』(02年)、『オペラ座の怪人』(04年)に続いて映画化され、今日その試写会が開催されたわけだ。したがって、ミュージカル映画大好き人間の私としては、絶対に見逃すことはできないもの。
それまでは知識ゼロだったが、少し事前情報を集めると、何とあのジョン・トラヴォルタが女装してデブの母親役で登場するとのこと。そして、主人公の女子高生は、1000人のオーディションで選ばれたこれもデブの女の子とのこと。ズブの素人ながら歌はメチャうまいらしい・・・。
既に何度もミュージカルで観ていた『オペラ座の怪人』の映画版は感動的だったし、ストーリーを全然知らなかった『シカゴ』もメチャ楽しい映画だったから、きっとこの『ヘアスプレー』も・・・。
<単純なストーリーだが、意外にシリアスなメッセージ性も・・・>
この映画のストーリーは単純で、いかにもアメリカ的なサクセスストーリー・・・?コーニー・コリンズ(ジェームズ・マースデン)が司会するテレビの人気番組『コーニー・コリンズ・ショー』のオーディションを受け、1度は追い払われたものの、見事レギュラーの座を勝ち取るのが、歌とダンスの大好きな女子高生トレーシー(ニッキー・ブロンスキー)。そして次は、人気投票によって「ミス・ヘアスプレー」を選ぶダンスコンテスト。これに向けてトレーシーが頑張って、見事栄冠を獲得・・・?
それでは、あまりに単純すぎるというもの。そこで映画では、番組の担当部長でかつて「ミス・ボルチモア」の栄光をもつ美人ママのベルマ(ミシェル・ファイファー)と、現在ミス・ヘアスプレーの最有力候補であるアンバー(ブリタニー・スノウ)の母娘をはじめとして、「ミス・ヘアスプレー」を選出する闘いは大いに盛りあがるが、さてその優勝者は・・・?
他方、この映画には意外にシリアスなメッセージ性が含まれている。その第1は、デブに対するアメリカ社会の偏見を真正面から見据えていること。そして、必然的にその目は、黒人やマイノリティに対する差別を見据える目と共通することに・・・。メッセージ性の第2は、トレーシーとその母親エドナ(ジョン・トラヴォルタ)のビッグな身体を強調しながら、夢を追いかけることのすばらしさを伝えようとしていること。そして第3は、ターンブラッド家の母と娘、父と娘の絆を描く中で、家族の絆の大切さをアピールしていること。
2時間弱の上映時間中のほとんどが、楽しくポップな音楽に満ちあふれているが、実はそればかりではなく、こんなシリアスなメッセージ性が含まれていることをしっかりと確認したいもの。
<オーディションへの挑戦は・・・?>
トレーシーとその親友のペニー(アマンダ・バインズ)は、『コーニー・コリンズ・ショー』が大好きな女子高生。テレビを観ながら踊っていると、何もかも忘れられるほど夢中に・・・。するとある日、この番組で1人欠員が生じたため、メンバーをオーディションで募集するとのビッグニュースが・・・。
「アメリカ社会ではデブは絶対に認められない」「傷つくのはトレーシー自身だ」と言って出場をやめさせようとする母親のエドナだったが、父親のウィルバー(クリストファー・ウォーケン)は逆に「夢を追いなさい!」と励まし、トレーシーはペニーと共にオーディション会場へ。しかし、『コーニー・コリンズ・ショー』の担当部長であるベルマは、トレーシーのデブでチビの姿を見ただけでたちまちアウトを宣告。さあ、これによってトレーシーのチャレンジはたちまちダウン、となってしまうのだろうか・・・?
<アメリカ型の再チャレンジは・・・?>
「夢は追い続けるもの」。私の大好きな岡村孝子の『夢をあきらめないで』のテーマと同じ、そんなメッセージが最初に示されるのが、容姿に手厳しいベルマの判断基準によってケンもホロロに弾き飛ばされた(?)トレーシーの再チャレンジ。すなわち、1度夢を諦めかけたトレーシーだったが、高校のダンスパーティーでみせた見事なダンスが、司会者コリンズの目にとまったため、一発大逆転でトレーシーは『コーニー・コリンズ・ショー』のレギュラーの座を掴むことに・・・。
そして、有頂天になったトレーシーからの、「ママも楽しまなくちゃ」という強引な勧めによって、その見苦しい体型を人サマには見せられないと考えて、何十年間も家を出たことがないという母親のエドナも、がぜん人生観が変わっていくことに・・・。
他方、そんな再チャレンジを実現させたコリンズは立派だったが、必然的にそれによってコリンズとベルマとの軋轢が深まっていくことに・・・。
<オープニングナンバーから拍手したかったが・・・?>
朝7時きっかりの目覚まし時計の音とともに起き上がったトレーシーが、元気に歌い出すオープニングナンバーが『GOOD MORNING BALTIMORE』。ボルチモアに生まれたトレーシーが、そのまちに「おはよう」とあいさつし、「このまちと私が有名になる日は近い」と歌うこの曲はすぐに覚えられる元気はつらつソング。
ミュージカルの舞台なら、歌い終わるとすぐに大拍手となるところだが、日本の映画館ではそうはいかないのが残念。もっとも、プレスシートによると「上映中、拍手が絶えず鳴り響き、観客達は全員魅了されていた!」と書いてあるから、昔の日本でも嵐寛寿郎演ずる「鞍馬天狗」が登場すると、暗い映画館の中に一斉に拍手が巻き起こったように、アメリカでは今でも映画上映中観客は拍手をしているの・・・?
<黒人との軋轢は・・・?>
番組部長ベルマと司会者コリンズとの軋轢は、当初はトレーシーのレギュラー起用をめぐるものだった。しかし、限定されていた黒人だけのショーの日を拡大し、また白人と黒人の両方を差別なく舞台に登場させるというコリンズの新しい試みは、またもベルマの反対にあうことに・・・。要するに、進歩派VS守旧派、差別撤廃派VS差別継続派の対立だ。
アンバーのステージママを兼ねているため、「ミス・ヘアスプレー」選出の過程であくまでトレーシーを排斥し、投票をごまかしてまで娘を優勝させようとするベルマの親心はわからないではないが、あまり美しい姿でないことはたしか。そんなベルマを演ずるミシェル・ファイファーは、「ハリウッドで最もセクシー、かつ最も実力のある女優の1人」と言われて、美しい肢体と美貌を誇る女優だけに、こんな嫌われ役はちょっとかわいそう・・・?しかし、意地悪いところはそれなりに、コミカルなところはそれなりに、そしてまた、色仕掛けでトレーシーの父親を誘惑しようとするシーンではきっちりと色気タップリに、とさすが1958年生まれのベテラン女優らしく、いい味をしっかりと・・・。
そうすると、「ミス・ヘアスプレー」をめぐる勝敗を超えて、黒人の人種差別撤廃という社会的テーマにおける対決でみせる、彼女の対応と黒人との軋轢は・・・?
<多彩な登場人物 その1ーリンク>
この映画には、既に紹介した人物の他にも、白人・黒人入り乱れて多彩な人物が登場する。若者たちが魅せる見事な歌とダンスをここで言葉によって評論することは全く意味がないので、それはあなた自身、映画館で楽しんでもらうこととし、ここではごく簡単に登場人物とその役割についてのみ紹介しておきたい。
トレーシーが憧れていた番組の看板が、女の子の誰もが憧れるカッコいいリンク(ザック・エフロン)。トレーシーはオーディション会場でそんなリンクをはじめて目の前で見たわけだが、ストーリーが展開するにつれて、そんなリンクが、歌に踊りにそして番組構成から黒人の人種差別問題まで、何でもストレートな生き方を貫いていくトレーシーにメロメロになってくるから面白い。まずは、そんなリンクとトレーシーの恋模様にも注目・・・。
<多彩な登場人物 その2ー存在感タップリのメイベルたち>
『シカゴ』でママ・モートン役を演じて驚異的な歌声を披露したクイーン・ラティファが、この映画では黒人たちの総元締め的なモーター・マウス・メイベル役で圧倒的な存在感を見せつける。黒人には黒人の守るべきエリアがあり、そこに白人は入ってきてはいけないもの。ボルチモアではそれが暗黙のルールだったが、そんなルールをいとも簡単に破ったのがトレーシー。それは、トレーシーが黒人の青年シーウィード(イライジャ・ケリー)やメイベルの娘リトル・アイネス(テイラー・パークス)たちの見事なダンスに率直に惹かれたため。まさに、歌とダンスが、白人と黒人の境界を撤廃していったわけだ。
そして、『コーニー・コリンズ・ショー』を観ることすら禁ずる厳格なママ、プルーディ(アリソン・ジャネイ)の下で監獄のような生活を送っていたトレーシーの親友のペニーは、そんなシーウィードと恋におちていくことに・・・。
<多彩な登場人物 その3ートレーシーのパパは実にいい奴・・・>
この映画では、何といっても頭の先からつま先まで重さ13kg以上の着ぐるみで身を包み、頭、上唇、下唇、両頬、首から胸の谷間の5カ所にジェルを充填した5つの人工装具を装着したという、ジョン・トラヴォルタの「怪演」が見モノ。他方、そんなジョン・トラヴォルタがトレーシーの父親ウィルバー役に推したのがクリストファー・ウォーケン。この映画に登場するウィルバーがすばらしいのは、まずトレーシーに対して「自分の夢を追うためにチャレンジしなさい」と、トレーシーのオーディション参加を応援したこと。第2にすばらしいのは、トレーシーを追い落とすためのベルマからの色仕掛けの誘惑を一顧だにしなかったこと。もっともこれは、単にその手の機微に疎いだけかも・・・?
そして第3は、私から見ればまるでビヤ樽のようで全然魅力を感じないエドナを、「今でも愛しているよ」「私が愛するのはお前1人だけだよ」とホントに愛していること。まあ、私にはちょっと信じられないが・・・?もっと誉めれば第4に、黒人差別撤廃のためのデモ行進に参加する娘を止めようとしないばかりか、警察から指名手配された(?)娘をあくまで守ろうとすること。
そんなのっぽの父親役をキャラ豊かに演ずるクリストファー・ウォーケンと太っちょの母親エドナ役を演ずるジョン・トラヴォルタの2人で歌い踊る『(YOU’RE)TIMELESS TO ME』は、実に味わい深い1曲・・・。
<日本でも大ヒットまちがいなし、だろうが・・・?>
ここ10年くらいテレビの歌番組はめっきり減ってきたし、CDの売上げも100万枚突破などという大ヒットはほとんどなくなってきた。しかし、それは音楽の媒体が多様化したためで、決して音楽の楽しみ方が減ったわけではない。また最近は、60年代、70年代、80年代、90年代とそれぞれ懐かしむような特集も多いが、それは決して最近の若手歌手のレベルが下がったことを意味するものでもない。もっとも、音楽やダンスのテンポが次第に速くなり、音量も大きくなってきた感じはするが、それはそれとして1つの時代の流れというもの。そんな時代状況を考えれば、この手のミュージカル映画は『シカゴ』と同じような感覚で日本でも大ヒットの予感が・・・。
私はそう思っているが、1つ心配なのは、この映画でデビューした文字どおりの「大型」新人ニッキー・ブロンスキーの第2作のこと。この映画は、歌とダンスのうまい、ああいう体型の女の子を探していたから、彼女はオーディションを勝ち抜くことができたものの、そういう企画の映画は少ないのが現実。もっとも、歌とダンスが上手なうえ、顔もスタイルもいい女の子はゴマンといるから、そんな女の子が出演すべき映画がたくさんあっても、結局競争率は同じかも・・・?
そんな意味で、私は突如登場した巨大で特異なニューヒロイン、ニッキー・ブロンスキーが「一発屋」で終わることなく、しっかりと第2作でも活躍してくれることを願っているが・・・?
2007(平成19)年8月22日記