ミッドナイト イーグル(日本映画・2007年) |
<梅田ピカデリー>
2007年12月8日鑑賞
2007年12月10日記
北朝鮮の核開発問題をめぐって6カ国協議が続いている昨今、格好の映画が登場!特殊爆弾を積んだステルス爆撃機が北の上空を飛行しているとしたら・・・?その機体が日本の某所に墜落したとしたら・・・?日本国の危機管理体制を考え、かつその中での家族愛を考えるに絶好の素材だが、料理の仕方はイマイチ。北の工作員はこんなバカばかり・・・?なぜ、邦画ってこんなに緊張感が欠如しているの・・・?私は、そう思わざるをえないのだが・・・。
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監督:成島出
原作:高嶋哲夫『ミッドナイト イーグル』(文春文庫刊)
脚本:長谷川康夫、飯田健三郎
西崎優二(報道カメラマン)/大沢たかお
有沢慶子(週刊「WISE」の記者、西崎の亡妻の妹)/竹内結子
落合信一郎(東洋新聞記者、西崎の高校山岳部後輩)/玉木宏
佐伯昭彦(三等陸佐)/吉田栄作
宮田忠夫(週刊「WISE」の編集長)/石黒賢
青木誠(週刊「WISE」の新人カメラマン)/坂本爽
平田俊夫(某国工作員)/波岡一喜
チヘ(平田の恋人)/金子さやか
渡良瀬隆文(内閣総理大臣)/藤竜也
西崎志津子(西崎の亡妻)/相築あきこ
西崎優(西崎の一人息子)/佐原弘起
2007年・日本映画・131分
配給/松竹
<タイムリーでいいネタだが・・・>
この映画の原作は高嶋哲夫の『ミッドナイト イーグル』。映画はいくつかの点で小説とは設定を変えているらしいが、国家的な危機状態における家族の愛の姿というテーマは同じ。ミッドナイトイーグルとは米軍のステルス型戦略爆撃機のことで、2001年10月からのアフガン戦争の際、レーダーに映らない爆撃機として有名になったもの。
映画の中にも登場するように、現実に北朝鮮の核問題をめぐって北朝鮮、中国、ロシア、韓国、日本、アメリカの「六カ国協議」が続けられているが、イラクとイランの対応に忙しいアメリカは、北朝鮮の核施設の無力化の進展如何によってはテロ支援国家指定解除まで射程距離においており、いかにも心もとない限り・・・?これでは拉致問題の根本的解決はいつになることやら・・・。
そんな現実的な政治状況とは別に、日米安保条約の存在にもかかわらず、米軍の軍事行動はそのすべてが日本に情報提供されているわけではないことは容易に想像されるところ。そうすると、もしミッドナイトイーグルが特殊爆弾(つまり核兵器)を積んで北朝鮮上空での飛行訓練をくり返しているとしたら・・・?さらに、そのミッドナイトイーグルが北朝鮮の工作員の手によって日本国の某地点に墜落させられ、その特殊爆弾が爆発したら・・・?そんな設定は決して奇想天外なことではなく、十分想像できること。
すると今回、厳冬の北アルプスを1人歩くカメラマン西崎優二(大沢たかお)が偶然目撃した、轟音とともに空を駆け抜けていった赤い光は・・・?そして、瞬間的にシャッターを切ったカメラに写っていたその赤い光は・・・?何ともタイムリーでいいネタを映画化したものと感心するとともに、興味を持って以後のストーリー展開を見守ったが・・・。
<戦場カメラマンの心のキズは・・・?>
西崎は世界中の戦場を駆けめぐり、自らの命を賭してシャッターを押し続けた有名な報道カメラマン。写真集も多数出版しているらしい。ところが、彼は今そんな仕事を放棄し、1人北アルプスに登って星空に向けてシャッターを押し続けている。それは一体なぜ・・・?そんな彼を慕ってジャーナリストになったのが後輩の落合信一郎(玉木宏)だが、落合はそんな現在の西崎が歯がゆくてならない様子。他方、死亡した西崎の妻志津子(相築あきこ)の妹が有沢慶子(竹内結子)。雑誌社に勤めている慶子は、忙しい仕事を抱えているにもかかわらず西崎の一人息子優(佐原弘起)を引きとっているが、それは一体なぜ・・・?
人間はそれぞれ心に何らかのキズを持ちながら生きているもの。西崎は戦場でのある出来事に深く傷ついた上、妻の病気にも気づかなかった自分を責め続けている様子。他方落合は、ジャーナリストとして追及していたある事件に上からストップがかかったことに腹を立ててケンカしてしまったため、結局その事件追及がおジャンになったことに敗北感を抱えたまま。こんな心のキズを背負った者同士が、今北アルプスに登り見岳沢を目指すのは、西崎が撮ったあの写真のため。さあ、その行く手には一体何が待ち受けているのだろうか・・・?
<召集された安全保障会議では・・・?>
舞台は一変して、ここは内閣総理大臣を長とする安全保障会議の場。今そこで報告されているのは、特殊爆弾を積んだまま見岳沢に墜落したミッドナイトイーグルの早急な機体回収の必要性。もし、その機体(すなわち特殊爆弾)が潜入している某国の工作員の手に渡れば大変なことに。
しかし、荒れた北アルプスにヘリで降り立つことは難しいため、徒歩で向かわなければならない。そのためには2、3日を要するらしいが、他に方策がない以上やむをえない。『八甲田山』(77年)の雪中行軍を思わせるような、自衛隊の精鋭で構成された特殊部隊は、敵からの攻撃を避けるため真っ白な服に身を包み、二手に分かれて見岳沢を目指したが・・・?
<雑誌社はどんなスクープを・・・?>
慶子が勤めている週刊「WISE」の編集長宮田忠夫(石黒賢)はかなりの情報通で、北アルプスで今何が起きているのかについて、ある直感が働いていたよう・・・。そこで宮田は、慶子と新人カメラマンの青木誠(坂本爽)の2人をある現場に急行させることに・・・。
そこで2人が接触することができたのは、重傷を負ってある部屋に隠れ住んでいた工作員らしき男平田俊夫(波岡一喜)とその恋人チヘ(金子さやか)。怯えきった表情のチヘは日本語が理解できないし、平田はひと言も口をきかないから詳しい事情はわからないものの、青木が撮った1枚の写真から情報は少しずつ整理されていくことに・・・。しかし、ある日慶子と青木が新しい隠れ家としていたラブホテルに戻ると、2人の姿は忽然と消えていた。もっとも、青木は到底新人カメラマンとは思えぬしっかり者。チヘに渡したケイタイにはナビを設定してあったから、それを目指して後を追えばオーケー。
しかし、追いついてみると平田とチヘは某国の工作員と思われる男たちから猿ぐつわをはめられて拘束状態。さて、銃をもったプロの工作員たちから、慶子と青木はどうやって平田とチヘを救い出すのだろうか・・・?
<後半は、佐伯三等陸佐が登場!>
映画前半はさまざまな情報を少しずつ観客に示しながら、①北アルプスでの西崎と落合の動き、②東京での慶子と青木(平田とチヘ)の動き、③安全保障会議での検討、という3本の線が同時並行する形で物語が進んでいく。したがって、その展開はかなりスリリングでテンポもいいから、思わず身を乗りだしていくはず。そして後半は、二手に分かれて出発した自衛隊の雪中行軍特殊部隊は、たった1人佐伯昭彦三等陸佐(吉田栄作)を除いて全滅してしまうため、俄然佐伯が注目を浴びることに。
ここで少し確認しておこう。西崎と落合との間で見岳沢を目指して突き進むと主張したのは落合。「そんなことは俺にはかかわりのないことだ」と考えていた西崎は元々消極的で、落合が「それなら俺が1人で雪の中に入って死んでもいいんですね」とワケのわからない脅しに乗せられて渋々同行していただけ。したがって、現実に銃撃される危険に遭う中、西崎は「もういいだろう。引き返そう」と勧めたのだが、落合はあくまで前進することを主張していたもの。
そんな状況下で、傷ついた佐伯三等陸佐があくまで任務達成のため1人でも目的地に向かおうとする姿をみると、西崎も仕方なし。「嵐の北アルプスをなめたらアカン」とばかり、自分がリーダーシップをとって見岳沢を目指すことになったのだが・・・。
<疑問点 その1─某国の工作員はバカばかり・・・?>
この映画はネタはいいのだが、料理の仕方がイマイチで、疑問だらけ。それは、成島出監督の手腕と脚本を書いた長谷川康夫、飯田健三郎らに問題あり、と私は思っている。そこで以下私なりの疑問点を指摘したい。
第1の疑問点は、銃撃戦でも主人公たちは必要な時点まで殺さないというのが映画づくりの鉄則だからそれは仕方ないが、某国の工作員たちが無警戒に北アルプスの中を歩いてくる西崎と落合をなぜ一発で仕留められないのかということ。特に1度目は、テントの中にいる西崎と落合を銃撃するのだから、私にだって簡単に殺せるはず・・・?また、歩いてくる2人を撃つのなら、目の前に来るまで隠れて1発で仕留めればいいだけ。ところが・・・?
せめて、工作員同士の仲間割れが生じたため無意味な発砲を生み、そのため西崎と落合が工作員の存在に気づき、用心することになったくらいのストーリーは用意すべきでは・・・?
また、某国の工作員のバカさ加減は、平田とチヘを救助するため慶子と青木がとった作戦にまんまとひっかかってしまうシーンでも顕著。いくらバカでも、人質を放って工作員全員が飛び出してしまうとは・・・?また1枚のドアを突破するのに一体何分かかるの・・・?
<疑問点 その2─幕僚たちもバカばかり・・・>
この映画のフィナーレに向けてのハイライトは、西崎が安全保障会議を統括する渡良瀬総理(藤竜也)に対して、ナパーム弾を使用するよう要請するシーン。そうすれば、ミッドナイトイーグルの中に立てこもる西崎、落合、佐伯の3人は犠牲になるものの、某国の工作員は全員処分できるうえ、ミッドナイトイーグルの特殊爆弾には何の影響もないらしい。
私が疑問に思うのは、それくらいの提案は一民間人である西崎からではなく、安全保障会議に出席している幕僚長たち自衛隊の幹部から出されるべきでは、ということ。民間人2名の犠牲を伴うことに躊躇するのは当然かもしれないが、国の重大進路を決断しなければならない総理大臣に対してそれくらいの選択肢を示すのは、防衛大臣をはじめ防衛省幹部の基本的任務では・・・?守屋元事務次官騒動にもうんざりだが、こんなに幕僚たちがバカばかりとは・・・?
<疑問点 その3─あんなに簡単に銃が撃てるの・・・?>
拳銃くらいなら、私でも手渡されてこう撃てと言われれば撃てるかもしれないが、急にそんなことをやっても敵にあたる確率は低いのが当然。オリンピック競技でみるライフル射撃も難しそうだし、佐伯三等陸佐が使う銃も最新鋭兵器だけにその扱いは難しそう。
ところが、ミッドナイトイーグルの中に立てこもった西崎と落合は、佐伯の指導に従っていとも簡単にそれを操作し、敵をバタバタと撃ち倒している。こんなシーンを観て、そんなバカなと疑問に思ったのは私だけ・・・?
<疑問点 その4─なぜ待機しないの?なぜ攻撃しないの?>
気象条件さえ好転すれば、自衛隊のヘリがすぐに佐伯たちの応援に駆けつけるのは当然。現に一瞬好転したとの報告を受けて3機のヘリが見岳沢上空に現れたが、ヘリの着陸や隊員の地上への降下は難しそう。そのうえ工作員からはヘリにロケット砲が・・・。ちなみに、このロケット砲は明け方にならなければミッドナイトイーグルに撃ちこまれることはないと佐伯は説明していたが、ヘリに対してはかなり正確に撃ちこまれているのも奇妙なもの・・・。
佐伯たちの応援に駆けつけてきた友人の自衛官たちは、互いに「帰れ」「帰らない」と絶叫(?)しながら降下のチャンスを狙っていたが、結局ムリと判断した挙げ句、帰還することに。しかし、私の目にはトマホークが撃ち込まれた時、天候は十分回復しているように思えたから、なぜヘリによる応援部隊は天候が回復するまで上空で待機しないの・・・?さらに、ヘリはなぜ某国の工作員たちに対して爆弾を落として攻撃しないの・・・?私には不思議なことだらけ・・・。
<疑問点 その5─内閣総理大臣は敬礼するの・・・?>
第1と第3、第4の疑問はアラさがし気味かもしれないが、非常に大切な疑問点は、内閣総理大臣が貴い犠牲となった西崎らに対して「敬礼」するシーン。軍人に対する軍人の礼が敬礼だが、総理大臣は軍人ではないはず・・・。
戦前の天皇陛下は陸海軍を統帥したから、軍人として敬礼したのは当然。しかし日本国憲法下、内閣総理大臣が敬礼することはありえないのでは・・・?ちなみに、石原慎太郎東京都知事は時々敬礼しているが、これは個人的な趣味の問題・・・?その点についてわかる人があれば是非教えてもらいたいものだが。
<疑問点 その6─西崎と慶子は「呼びすて」にするような仲・・・?>
原作では西崎と慶子は事情があって別居中の夫婦らしいが、映画では慶子は西崎の死亡した妻の妹で、西崎をひどく恨んでいる様子。したがって、スクリーン上に慶子が登場し、西崎と喫茶店で顔をあわせた時も、慶子の態度は冷たいもの。つまり、「優は私がしっかり育ててますから心配しないで下さい」と言い放って、西崎から受けとる物を受けとると、それでおしまい。したがって、慶子が西崎に対して恋心を持っているような雰囲気は全くなし・・・?
他方、西崎は北アルプスの中で落合に対して「慶子のミスは自分の姉を俺に紹介したこと」と話しているから、西崎の方はホントは姉さんよりも慶子の方が好きだったのかも・・・?そんなこんなの伏線の中、安全保障会議の部屋に設置されている大きなスクリーンを通した、西崎と慶子、優との別れのシーンになるのだが、そこで西崎が「慶子!」と呼びすてにしているのが私にはどう考えても不思議。すなわち、一体いつ西崎は、慶子との間で「慶子」と呼びすてにするような仲になったの・・・?私はそう疑問に思ったのだが・・・。
<緊張感欠如の理由 その1─大阪選出の総理の人情は・・・?>
この映画は、前半の緊張感に比べて後半に入ると俄然緊張感が欠けてくるが、それは一体なぜ・・・?その点についても、いくつかの理由を指摘したい。
第1は、ナパーム弾に代わるトマホーク発射の決断を渡良瀬総理が下すにあたって、安全保障会議に同席している西崎の息子優に対してさかんに「弁明」していること。そりゃ、自分の決断で目の前にいる男の子の父親を殺すことになるのだから、「説明義務」を十分果たしたいという気持はわかるが、コトは1分1秒を争っているのでは・・・?つまり、西崎からの報告では、敵は多数、したがってミッドナイトイーグルをあとわずかしかもちこたえられないということだったのでは・・・?
しかるに渡良瀬総理は、優を呼びよせ、大阪弁でいろいろと・・・。大阪選出の総理大臣が人情に厚いこと自体は悪くないが、1分1秒を争う国家の緊急時にこんな行動をとっているようでは・・・?思わず私は吹き出して笑ってしまったが、これでは緊張感が欠けるのも仕方なし・・・。
<緊張感欠如の理由 その2─ミッドナイトイーグルの中は・・・?>
特殊爆弾の時限装置の解除に成功し、安堵したのも束の間、ミッドナイトイーグルには次の危機が。それは時限装置が作動しなかったことを知った工作員たちが自力で特殊爆弾を作動させるため、ミッドナイトイーグルを取り囲んだこと。その数は数十人。それに対してミッドナイトイーグルの中は・・・?これでは、たちまち3人はやっつけられるに決まっているから、早急に何らかの手だてを・・・。そこで、前述のナパーム弾の提案になるのだが、ミッドナイトイーグルのすぐ近くまで迫っていた工作員らは、佐伯らが暗視スコープを使っていることを知ると俄然慎重に・・・。
もっとも、ナパーム弾を取り消した後、「お前は1人脱出しろ」と西崎が落合に対して説得している間に、すぐ目の前に迫った工作員の銃によって落合は命を失っているのだから、ミッドナイトイーグル内への工作員たちの突入はすぐそこに迫っているはず。ところが、ミッドナイトイーグルの中では銃を構えながら、西崎と佐伯が「結婚は?」「子どもは?」などと「雑談」したり、西崎が安全保障会議に同席している優と慶子に最後の別れを惜しむ余裕もたっぷり。これではまるで某国の工作員はすべての儀式が終るまで突入するのを待っていてくれる感じ。したがって、そこに緊張感が欠けてくるのは当然のこと。
<この国は一体どうなるの・・・?>
以上この映画に関していろいろと疑問点を述べ、緊張感が欠如していることを述べてきたが、それは、映画はそれで良くとも現実はそれでは困るため。「映像化は絶対不可能」と言われた原作を映画化したのは立派。また防衛省や自衛隊も自己の存在感をアピールするべく絶大な協力をしていることも十分理解できる。さらに、井上靖の原作を映画化した『氷壁』(58年)以来、「実に約50年ぶりとも言われる本格山岳作品が誕生した!」と言われるほど、撮影には大変な苦労があったこともよくわかる。だからこそ私は、国家的な危機状況下における家族愛を描くにあたっては、甘ったるい感傷を避け、リアルで生々しい映像をつくり出す必要があったと思っている。
そこで私としては、某国の工作員がこの映画に出てくるようなバカばかりではないとすれば、一体この国はどうなっていたのだろうか、と考えざるをえない。また、こんなカッコばかりの安全保障会議や、決断よりも人情を優先させる総理大臣では、この国は一体どうなるの、と思わざるをえないのだが・・・?
2007(平成19)年12月10日記