エリザベス:ゴールデン・エイジ(イギリス映画・2007年) |
<試写会・TOHOシネマズ梅田>
2007年12月4日鑑賞
2007年12月13日記
「敵を制し、愛を制し、国を制した女王の物語」がこの映画の売りだが、私の目には、愛が少し強すぎ・・・?そのキーマンは探検家のウォルターだが、その真偽のほどは・・・?後半のハイライトは、スペインの無敵艦隊との「アルマダ」の戦い。火船攻撃のシーンは面白いが、肝心の艦隊決戦の様子をもっとタップリと描いてほしかったと思うのは私だけ・・・?
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監督:シェカール・カプール
エリザベス1世(イングランド女王)/ケイト・ブランシェット
ウォルター・ローリー(エリザベスの寵臣、探検家)/クライヴ・オーウェン
フェリペ2世(スペイン国王、メアリー1世の夫)/ジョルディ・モリャ
ベス・スロックモートン(エリザベスの侍女)/アビー・コーニッシュ
フランシス・ウォルシンガム(エリザベスの側近)/ジェフリー・ラッシュ
メアリー・スチュアート(スコットランド女王)/サマンサ・モートン
アミアス・ポーレット(メアリーの監視役)/トム・ホランダー
ロバート・レストン(エリザベス暗殺グループの一員)/リス・エヴァンス
トマス・バビントン(エリザベスの暗殺者)/エディ・レッドメイン
2007年・イギリス映画・114分
配給/東宝東和 宣伝/東宝東和
<まずは、16世紀後半の政治・軍事情勢のお勉強から・・・>
エリザベス1世(ケイト・ブランシェット)がイングランド女王の座についたのは1558年。それから1603年に没するまで、50年近くヴァージン・クイーンとして「敵を制し、愛を制し、国を制した」わけだが、その道が容易なものでなかったのは当然。
16世紀後半のヨーロッパの政治・軍事情勢は、スペインが最大の強国でそれに比べればイギリスは弱小国。そのうえ、エリザベス1世はスコットランド女王メアリー・スチュアート(サマンサ・モートン)から「妾腹の女」とあざけられていたうえ、イングランド王位をめぐる対立があったから政権は不安定・・・。まずはそこらあたりのお勉強から・・・。
<次に、宗教対立のお勉強も・・・>
スペイン国王フェリペ2世(ジョルディ・モリャ)は敬虔なカトリック教徒。そして彼は、全世界をカトリック信仰で覆い尽くそうと考えていた。ところがこれに対して、エリザベス1世はプロテスタントだから、その面でもフェリペ2世にとっては目の上のたんこぶだったわけだ。他方、スコットランド女王メアリー・スチュアートはカトリック教徒だから、フェリペ2世が彼女に目をつけたのは当然。
ここらあたりの宗教問題・宗教対立が日本人にはわかりにくいところだから、次に宗教対立のお勉強も・・・。
<キーマンはウォルター・・・>
この映画のキーマンは、探検家のウォルター・ローリー(クライヴ・オーウェン)。彼は前半では恋の面において、後半では戦いの面において、準主役という立場で登場する。彼は新世界(つまりアメリカ)のヴァージニア州から戻ってきた男で、新世界からの珍しいみやげものをドッサリとエリザベスに献上。ゴマスリ役人が多い宮廷の中、歯に衣着せぬウォルターのもの言いは注目を集めたうえ、その博識ぶりにはエリザベスも興味を示し、たちまちエリザベスの寵臣にとり立てられていくことに。
このウォルター・ローリーは歴史上実在した探検家であり、エリザベスの寵臣となった人物。このウォルターにエリザベスがこの映画で観るほど恋焦がれていたかどうかは別として、侍女のベス・スロックモートン(アビー・コーニッシュ)との間に子供が生まれ結婚することになったという話は、すべて歴史上の事実。したがって、そんなウォルターをめぐる「宮廷に咲くロマンス」という趣向も悪くはないが、私としてはシェカール・カプール監督には、そこにウエイトを置くよりもスペインとの戦いの方にウエイトを置いてほしかったが・・・。
<もう1人フランシス・ドレークも・・・>
他方、私が勉強したところでは、ウォルターは1588年のアルマダの海戦では、この映画でみるような活躍はしていない。すると、この映画の後半の話は真っ赤なウソ・・・?
そう思いつつ、関連する人物を調べたところ、いたいたもう1人のキーマンが・・・。それは、フランシス・ドレークというイギリスの海賊だ。1588年のアルマダ海戦でイギリス艦隊副司令官として艦隊の実質的な指揮をとり、この映画に見られる「火船戦法」によってイギリス艦隊を勝利に導いたのは、ウォルターではなく、このフランシス・ドレーク。
したがって、この映画がウォルターに歴史上の事実としての役割の他、フランシス・ドレークの役割を演じさせたのは、壮大な歴史上の事実の「偽装」だが、シェカール・カプール監督はなぜそのような偽装を・・・?映画をわかりやすくかつ魅力的に観客に見せるためにはそれもやむをえないのかもしれないが、少なくともプレスシートやパンフレットでその点は説明(弁明)しておく義務があるのでは・・・?
<エリザベスの暗殺計画はなぜ未遂に・・・?>
エリザベス1世の暗殺計画が存在したこと、それが実行されたが未遂に終わったことも歴史上の事実だから、シェカール・カプール監督はそれもスリリングに描いていく。その黒幕が幽閉されているメアリー女王で、実行部隊はロバート・レストン(リス・エヴァンス)やトマス・バビントン(エディ・レッドメイン)たち。ややこしいのは、エリザベスの側近であるフランシス・ウォルシンガム(ジェフリー・ラッシュ)の兄弟のウィリアム・ウォルシンガムや侍女であるベスの従兄妹のフランシス・スロックモートンも暗殺団に加わっていたこと。
側近のフランシスはメアリー女王の監視役として配置されているアミアス・ポーレット(トム・ホランダー)と共に情報収集にこれ努めていたが、あの時代の情報収集能力なんてたかが知れたもの。遂にある日、エリザベスの目の前に、銃を持ったトマスが立ち、その銃が発射されたが・・・。
<メアリーの処刑シーンは必見!>
フランス王妃マリー・アントワネットが1793年10月16日、断頭台の露と消えたことは有名な話だが、18世紀のフランス革命当時における処刑方法がギロチンであったことはよく知られている。また、映画では、そんなシーンをよく目にするはず。
それには及ばないが、1587年2月8日におけるエリザベス1世によるメアリーの処刑も有名な話。すると、この処刑はどんな方法で・・・?それはこの映画でじっくり見分してもらいたい。
<艦隊決戦の映像をタップリと観たかったが・・・>
予告編でみた当時の最強国スペインの無敵艦隊の威容ぶりをみると、当時の弱小国イギリスがそれに立ち向かうのは無謀と思えたが、エリザベスは敢然とそれに挑戦!しかして、その作戦は・・・?
この映画は豪華絢爛たる宮廷絵巻とともに、壮大な艦隊決戦スペクタクルが展開されると期待していたのだが、残念ながらそれは肩すかし気味。すなわち、イギリス艦隊がどのような形でスペインの無敵艦隊に艦隊決戦を挑んでいったのかは、スクリーン上では必ずしも明らかにならない。
1588年7月21日~30日にわたって展開されたスペインの無敵艦隊とイギリス艦隊とのアルマダの海戦は歴史的に有名なもので、その戦いの記録はネットを調べればいくらでもある。ちなみに、ウィキペディア(Wikipedia)によれば、アルマダの海戦に従事したスペイン軍は艦船131隻、兵員約3万名、イギリス軍は艦船105隻(後に増援と合流し、最終的には197隻)、兵員約1万5千名とのこと。また、主な海戦はポーランド沖の海戦、カレー沖の海戦、グラベリン沖の海戦の3つがあり、そのカレー沖の海戦がこの映画で見せるイギリス艦隊による深夜の火船攻撃。この映画では、この火船突入作戦をメインに描いているが、私としては艦隊決戦の映像をタップリと観たかったが・・・。
2007(平成19)年12月13日記