いつか眠りにつく前に(アメリカ映画・2007年) |
<東宝試写室>
2007年12月12日鑑賞
2007年12月20日記
ニコール・キッドマン主演の『めぐりあう時間たち』(02年)と並ぶ女性映画の名作がここに誕生!死の床にあるアンと若き日のアン。2つの時代の2つの物語が交錯する中、「ハリス」をめぐる女性たちの心の描写は実にお見事!世の中は所詮男と女。女の心理を学ぶためには、男性も是非この映画を・・・。
本文はネタバレを含みます!!
それでも読む方は下の「More」をクリック!!
↓↓↓
ここからはネタバレを含みます!!
読まれる方はご注意ください!!
↓↓↓
監督:ラホス・コルタイ
アン・グラント(若き日のアン)/クレア・デインズ
アン・ロード(終焉を迎えようとしているアン)/ヴァネッサ・レッドグレイヴ
ハリス・アーデン(ウィッテンボーン家の使用人)/パトリック・ウィルソン
バディ・ウィッテンボーン(ライラの弟)/ヒュー・ダンシー
ライラ・ウィッテンボーン(アンの親友の女性)/メイミー・ガマー
ライラ・ロス(老人になったライラ)/メリル・ストリープ
ウィッテンボーン夫人(ライラの母親)/グレン・クローズ
ニナ・マーズ(アンの次女)/トニ・コレット
コニー(コンスタンス)・ヘイバーフォード(アンの長女)/ナターシャ・リチャードソン
夜勤の看護婦/アイリーン・アトキンス
2007年・アメリカ映画・117分
配給/ショウゲート 宣伝/ショウゲート、アルシネテラン
<2つの時代の、2つの物語が・・・>
二コール・キッドマンがアカデミー賞主演女優賞を受賞した『めぐりあう時間たち』(02年)は、1923年、1951年、2001年という3つの時代における3人の女の3人の人生を描いた名作だった(『シネマルーム3』88頁参照)。それとよく似た雰囲気の女性映画であるこの『いつか眠りにつく前に』は、2つの時代と2つの物語が同時並行で描かれる。
<1つは死の床にある、現在の物語>
その1つは、映画の冒頭登場する、今病床にあり人生の終焉を迎えようとしている アン・ロード(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)の現在の物語。病床の母親を見守るのは、結婚して2人の子供に恵まれ安定した生活を営んでいる長女のコニー(コンスタンス)・ヘイバーフォード(ナターシャ・リチャードソン)と、何かと精神的に不安定な面を見せ、恋人との結婚を躊躇している次女ニナ・マーズ(トニ・コレット)、そして夜勤の看護婦(アイリーン・アトキンス)。
病状は思わしくないうえ、ベッドの中でさかんにハリスという聞き覚えのない男の名を呼ぶ母親の姿に、娘たちは不安顔。さて、ハリスとは一体何者・・・?
<もう1つの物語は、豪華な別荘地で>
もう1つは、アン・グラント(クレア・デインズ)が学生時代からの親友ライラ・ウィッテンボーン(メイミー・ガマー)の花嫁付添人として出向いた、ニューポートにある豪華なウィッテンボーン家の別荘における若き日のアン・グラントの物語。ニューポートはニューヨークから車で2時間ほどの高級別荘地らしいが、そこでくり広げられる物語がこの映画のメイン。
キーマンとなるのは、ライラの弟バディ(ヒュー・ダンシー)とウィッテンボーン家の使用人だと紹介されるハリス・アーデン(パトリック・ウィルソン)の2人。その理由は、後ほどゆっくりと・・・。
この映画は、スーザン・マイノットのベストセラー小説『Evening』を映画化したものだが、脚本はこのスーザン・マイノットと『めぐりあう時間たち』の脚本を書いたマイケル・カニンガムの共同脚本。したがって、微妙に揺れ動く女性の心理を的確に描くのはお手のもの・・・。
さて、ニューポートの豪華別荘におけるライラの結婚式をめぐって展開されるアンとライラそしてハリスとバディを軸とした物語の行方は・・・?
<母娘共演が2組も>
この映画のキャストをみてパッと目につく女優の名はメリル・ストリープだが、この映画では母娘共演が2組も実現しているとのこと。第1は、若き日のライラを演ずるメイミー・ガマーは、老人になったライラを演ずるメリル・ストリープの実の娘とのこと。そしてもう1人、終焉を迎えようとしているアン・ロード役を演ずるヴァネッサ・レッドグレイヴは、アンの長女コニー・ヘイバーフォードを演ずるナターシャ・リチャードソンの実の母親とのこと。なるほどそう言われれば、2組ともよく似ている・・・。
<バディが物語構成のキーマンに>
姉ライラの結婚式に結婚付添人として付き添うアンに対して何かと世話を焼いているのが、陽気でおしゃべりなライラの弟バディ。しかし、実はそんな外面とは裏腹に、彼の心の中に大きなわだかまりがあったことがこの映画の物語構成の大きなポイント。彼のわだかまりの第1は、姉が愛しているのは明日結婚式を挙げる男ではなく、実はハリスだということをよく知っていたこと。そのため、結婚式直前のバディの発言や行動は何かとエキセントリックなものに・・・。しかし、ライラにはそんな奇妙な発言や行動の意味が理解できるものの、両親にはサッパリわからないから、両親は再三眉をひそめる表情を・・・。
もう1つバディのわだかまりは、学生時代から愛していたアンに愛を告白しようと思っているのに、なかなかそれが切り出せないこと。そのうえ、間の悪いことに(?)、バディが紹介したハリスとアンとの間が何やら怪しそう・・・。そのため、バディの発言と行動はますます奇妙なものに。
そして、それを助長したのがアルコール。酒は、気の弱い人間を一時的に強気にさせ、しらふでは言えないことを言わせたり、普通はできない行動をとらせたりするものだが、それがいい結果をもたらすかどうかは微妙。さて、バディの場合は・・・?
<モテモテ男のハリスもキーマンに>
もう1人のキーマンは、ライラが心から愛しているハリス。しかし、ハリスはアンと出会った時から恋におちてしまったうえ、アンもそれは同じだったから、話はややこしい。したがって、アンは花嫁付添人としての義務を果たしつつ、心はハリスに惹かれてしまっていたから、結婚式が終了し、新婚夫婦を新婚旅行に送り出した後、何と森の中にあるハリスの隠れ家で2人きりで夜を明かしてしまうことに・・・。何ゴトも開放的なアメリカではそんなハプニングもオーケーなのだろうが、その夜のうちに「ある事件」が勃発していたから、2人が隠れ家から別荘の中に入ると大変なことに・・・。さて、その大事件とは・・・?
このようにハリスはライラからも愛され、アンからも愛されるというモテモテ男。すると、今死の床にあるアンがしきりに呼んでいる名はこのハリスのこと・・・?アンの長女コニーはそんな母親の昔の恋人のことにはあまり関心を示さないのだが、次女のニナはなぜかそれが気になるよう。そんなニナの疑問に答えるかのように、若き日のアンの物語が展開していくのだが・・・。
<ラスト近くにメリル・ストリープが登場!>
前述のように、この映画では死の床にあるアンと若き日のアンの姿を交錯させながら物語が展開していくが、アカデミー賞最多ノミネート女優メリル・ストリープが登場するのはラスト近くになってから。つまり、アンが死の床にあると聞いたライラがお見舞い(お別れ)にかけつけてきた時。女同士の友情は長く続かないとよく言われるが、ここでの年老いたライラとアンの語らう姿を見ていると、意外にそうでもないナと思えてくる。共に1人の男を愛したライバル同士だし、「どちらかがハリスと結婚していれば・・・」などというあぶなっかしい話題も出るのだが、あれからずっと2人の間の友情は続いていたらしい。
おばさん同士の会話はあまりスクリーン上では絵にならないものだが、この映画では2人のベテラン女優が語り合うシーンの説得力はすばらしい。さらに、お見舞い(お別れ)を終えたライラに、「ハリスって誰?」と尋ねるアンの次女ニナに対するライラの答え方も実に説得力があってすばらしいもの。そんな女同士の会話のすばらしさをこの映画では十分に味わいたいものだ。
<男性監督が、よくぞここまで・・・>
この映画を監督したのはハンガリーのブダペスト生まれの男性監督ラホス・コルタイ。カメラマンとしての活躍が多いとのことで、監督作品は本作が2作目とのことだが、ストーリー構成の緻密さと女性の心理描写の巧みさは相当なもの。
3つの時代と3つの物語を描いた女性映画の名作『めぐりあう時間たち』の監督も、1960年イギリス生まれの男性監督スティーヴン・ダルドリーだったが、なぜ男性監督がここまで細やかかつ巧みに女性の心理を描くことができるのか、私にはちょっと不思議・・・。よくぞ男性監督がここまですばらしい「女性映画」をつくることができるものだと感心。
世の中は所詮男と女。女性映画だからといって女が観るものと決めつけず、女性心理を勉強するため、男性諸氏も是非この映画を・・・。
2007(平成19)年12月20日記