ジェシー・ジェームズの暗殺(アメリカ映画・2007年) |
<梅田ピカデリー>
2008年1月14日鑑賞
2008年1月15日記
合衆国史上最も有名なアウトローがジェシー・ジェームズ。まずは、そんな主人公の逃亡生活と微妙な心理を見事に演じたブラッド・ピットに注目!また、その暗殺者となる20歳の若造ロバート・フォードを演じきったケイシー・アフレックの演技にも注目!『アメリカン・ギャングスター』(07年)と共にアカデミー賞候補まちがいなしだが、長丁場の心理描写に疲れることもまちがいなし・・・?ところで、日本では1867年の坂本龍馬の暗殺シーンが有名だが、1882年のジェシー・ジェームズの暗殺シーンが有名になったのは、一体なぜ・・・?
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監督・脚本:アンドリュー・ドミニク
製作:ブラッド・ピット
ジェシー・ジェームズ/ブラッド・ピット
ロバート・フォード(ボブ・フォード)(ジェシーの崇拝者)/ケイシー・アフレック
フランク・ジェームズ(ジェシーの兄)/サム・シェパード
ジー・ジェームズ(ジェシーの愛妻)/メアリー=ルイーズ・パーカー
ディック・リディル(ジェームズ・ギャングの一員)/ポール・シュナイダー
ウッド・ハイト(ジェームズ兄弟の従弟)/ジェレミー・レナー
ドロシー(酒場の歌手)/ズーイー・デシャネル
チャーリー・フォード(ロバート・フォードの兄)/サム・ロックウェル
エド・ミラー(ジェームズ・ギャングの一員)/ギャレット・ディラハント
2007年・アメリカ映画・160分
配給/ワーナー・ブラザース映画
<日本人には難しい素材だが・・・>
ジェシー・ジェームズとは、アメリカ合衆国史上最も有名なアウトロー、すなわち南北戦争(1861~65年)後、仲間を率い、25件以上の強盗と17件もの殺人を犯した重罪人でありながら、民衆からは英雄とさえ称えられた男とのことだが、残念ながら日本人にはそれほど馴染みがあるわけではない。というより、私を含めて全然知らない人の方が多いのでは・・・?
ブラッド・ピットがそんな伝説の男ジェシー・ジェームズを迫真の演技で演じ、第64回ベネチア国際映画祭で最優秀主演男優賞を受賞したのがこの映画だが、ジェシー・ジェームズと対照的な男ロバート・フォードを演ずるケイシー・アフレックにも大注目!34歳のジェシー・ジェームズに対して20歳のロバート・フォードを演じたケイシー・アフレックは、あのベン・アフレックの弟とのこと。惜しくも受賞は逃したものの、第65回ゴールデングローブ賞助演男優賞にノミネートされた演技は絶品で、アカデミー賞助演男優賞の可能性も・・・。
この映画は、ジェシーを中心とするジェームズ・ギャング団の逃亡生活の中で次第に消耗し、焦燥と苛立ちを強めていく男たち、仲間たちの間に次第に広がる疑惑と裏切り、その結果到来する「ある悲劇的な結末」を描いたもの。したがって、2時間40分という長丁場の中、撃ち合いのシーンなど派手なシーンは全くなく、心理描写が延々と続くドラマだから、長時間の緊張感で疲れることまちがいなし・・・?このように日本人には難しい素材だが、作品としての重みはすごい。したがって、疲れること覚悟でじっくりと鑑賞に臨みたいが・・・。
<なぜ「義賊」に・・・?>
この映画のプレスシートには、ジェシー・ジェームズに馴染みの薄い日本人向けに(?)、①芝山幹郎「大平原のギリシャ悲劇」、②森山京子「ブラッド・ピット、俳優としての熟成とプロデューサーのセンス」、③亀井俊介「<西部の義賊>ジェシー・ジェームズの生涯」、④亀井俊介「伝説のジェシー・ジェームズ、その偶像化の過程」、⑤石上三登志「『伝説』を辿る。ジェシー・ジェームズ映画の系譜」、⑥上岡伸雄「より深く知るために。原作『ジェシー・ジェームズの暗殺』」、というたくさんの解説があるから、これらを丹念に読んで勉強することがこの映画をより深く理解し、楽しむためのコツ。
日本で一番有名な義賊は石川五右衛門(?)だが、これらの解説を読めば、なぜジェシー・ジェームズが義賊扱いされているのか少しわかる気が・・・。
南北戦争終了後、ジェシーは兄のフランク・ジェームズ(サム・シェパード)と共に列車強盗と銀行強盗をくり返していたのだから、ジェシー・ジェームズ伝説を映画化するなら、その最も華やかな部分を描くのが筋。したがって、ヘンリー・キング監督の『地獄への道』(39年)やウォルター・ヒル監督の『ロング・ライダーズ』(80年)もそんな描き方らしい。したがって、これらの映画を観れば、なぜジェシーが凶悪犯であるにもかかわらず義賊扱いされているのかわかるはず・・・?
ところが、ブラッド・ピットが製作もつとめたこの映画は、フランクとジェシーが一緒にやった最後の列車強盗のシーンから始まる。つまりブラッド・ピットは、兄フランクがこの仕事に見切りをつけてギャング団から離れ、また数人の仲間たちが逮捕されるなど、既に落ち目になり始めたジェシーに焦点をあてて描いているわけだ。したがって、この映画を観ている限り、なぜジェシーが義賊扱いされたのかは全然見えてこないから、十分ご注意を。むしろ、そこで描かれるジェシー・ジェームズ像は、かつての仲間たちから裏切られるのではないかという疑惑の目を向け、焦燥と苛立ちの中でパラノイア的人格になっていく弱い人間像・・・?
<ちょっと難しい4人の男たちの人間模様>
この映画は主人公ジェシー・ジェームズと彼に憧れる新米ギャング、ロバート・フォードの2人がメイン。その他には、ジェシーの兄フランクは早々にリタイヤするから別扱いとして、①ロバート・フォードの兄チャーリー・フォード(サム・ロックウェル)、②ジェシーの従弟ウッド・ハイト(ジェレミー・レナー)、③ジェームズ・ギャング団の一員ディック・リディル(ポール・シュナイダー)、④最初の列車強盗のみギャング団の一員として登場するエド・ミラー(ギャレット・ディラハント)という4人の男たちが重要。
もっとも、日本人には彼らの顔と役割がすぐに一致しないので、この映画は1度観ただけではなかなかわからない面がある。したがって、よく予習しておくことが大切・・・?そこで、私は実はこの長尺の映画を1回半観ることに。もっともそれは、昼間のパーティでしこたま酒を飲んでいたことによって、前半を少し居眠りしていたためだが・・・。
それはともかく、とくにディックは大変な女好き。そこで、隠れ家でいろいろとお世話になるフォード兄弟のお姉さんやウッドの年若い義母に対しても色目を使うディックとソリが合わないのがウッド。そのため、ジェシーとギャング団各人の確執とは別に、ディックとウッドの間に大変な確執が生まれたのは当然。したがって、そんなシーンもきちんと理解することが大切。
さらに、エドはロバートの加入と入れ替わるように現役を退き、ひとり農場を経営していたのだが、ある日ジェシー・ジェームズの訪問を受けると・・・?1回半観た私は、やっと正確にこれらの男たちの人間模様を理解することができたが、普通に1回観ただけではちょっとわかりにくいかも・・・?
<日本人には地理がわかりにくいのも難点・・・?>
1881年9月7日のミズーリ州ブルーカットがジェシー最後の列車強盗となったわけだが、ジェシーは15年あまり犯罪と逃亡生活をくり返しながら生きてきたから、2人の子供たちは父親の職業もそして本名さえも知らなかったらしい。しかし、スクリーン上では、ジェシーは隠れ家を転々としているにしても、家には妻ジー(メアリー=ルイーズ・パーカー)と2人の子供がおり、時々はそこで生活している様子。これは、アメリカは広いし、また時代が19世紀末だから、今ほど情報化が進んでいないためだが、どうも狭い日本の感覚では理解しがたい面も・・・。
また、チャーリーとロバートが出入りしているのはこの兄弟の姉の家だが、その家はアメリカのどこに・・・?さらに、ウッドが住んでいる家や、足を洗ったエドが営んでいる農場はどこに・・・?これらは字幕上では表示されるものの、私たち日本人には残念ながらその地理関係がわかりにくい。したがって、ジェシーとその一味たちが今どこを隠れ家として生活しているのか、また、どこで何が起こった時、誰がどこで何をしているのかという互いの関連性がわかりにくいのがこの映画の難点。もっとも、それはアメリカの地理にうとい日本人だけのものだから、仕方ないかもしれないが・・・。
<映画後半の3人旅は圧巻!>
兄フランクと決別した後、ジェームズ・ギャング団は逃亡生活を続けるだけ。そんな中、①ディックとウッドとの対立、②ロバートによるウッドの始末、③ジェシーによるエドの始末、等の「事件」を経て、映画後半からはジェシーとチャーリーの2人旅が始まることになるが、ここらあたりからのジェシーの心理描写がこの映画の見せどころ。チャーリーはウッドと同じようにどこまでもジェシーに忠実だったうえ、陽気な反面弟のロバートと違って慎重なところもあったため、何とかジェシーとの2人旅をこなしていた。そんな中、チャーリーが提案したのが、次の「仕事」のためにはもう1人仲間がいた方がいいし、それにはやっぱりロバートが最適だということ。それをジェシーがどう受けとめたのかはじっくりと映画の中でブラッド・ピットの演技を観てもらいたいが、それによって実現したのがこの映画のハイライトシーンに結びつくジェシーとロバートとチャーリー兄弟の3人旅。
ちなみにこの時既にディックは逮捕されていたのだが、それは一体ナゼ・・・?また、少年時代からジェシー・ジェームズに憧れ、彼のようなヒーローになることを夢みて育ち、やっとジェームズ・ギャング団の一員になることができたにもかかわらず、胸に描いていたヒーロー像と実在のジェシー・ジェームズとのギャップに戸惑い、次第に自分の生き方を失っていったロバートのとった行動は・・・?「ユダ」が嫌われているのは、イエス・キリストをわずか銀貨30枚で売ったためだが、当時ジェシー・ジェームズにかけられていた懸賞金は1万ドルとのこと。したがって、どうせ近いうちにジェシーが捕まるのなら、いっそ自分がその懸賞金をもらって・・・とロバートが考えたのもわからないではないが、ユダと同じような「裏切り者」の汚名は重いのでは・・・?
<なぜジェシーは丸腰に・・・?>
追手の恐怖に怯え、またかつての仲間や今一緒に行動している仲間の裏切りに怯えているジェシーが極端に用心深くなり、夜眠っている時も右手に拳銃を握っていたのはある意味当然。したがって、昼間は食事中でもきちんとガンベルトをつけて常に二丁拳銃を・・・。ところが、そんなジェシーがガンベルトを外してイスの上におき、これから逃亡するについては怪しまれるのでガンベルトを外していくと宣言したのは一体なぜ・・・?
フォード兄弟と共に今隠れ住んでいるのは、妻ジーそして2人の子供と一緒だが、急にそこからの旅立ちを余儀なくされたのは、ディックの逮捕を報じる新聞を読んだため。ところが、その逮捕は3週間前のこと。すると、当時ディックの近くにいたロバートはディックの逮捕を知っていたのでは・・・?なのに、なぜそのロバートが今自分と共に・・・?
そんな疑問が次々とジェシーの頭に浮かんできたはずだが、なぜここで急に彼は丸腰になったうえで、どうでもいいような絵のほこりを払ったりしたのだろうか・・・?そんな行動は、まるで後ろから撃って下さいと言っているようなものでは・・・?そこらあたりの解釈は観客に委ねられているが、さてあなたの解釈は・・・?
<暗殺シーンがなぜ有名に・・・?>
自宅でジェシー・ジェームズが暗殺されたのは、絵にほこりがついていると言って丸腰のままイスの上に上り、そのほこりを取っていた時、背後にいたロバートとチャーリーのうちロバートがその頭に銃弾をぶち込んだため。ちなみに、背後から頭に銃弾を浴びたブラッド・ピットの演技は絶品だから、お見逃しないように・・・。銃弾の音を聞いた妻のジーがすぐに部屋の中に飛び込んできてその惨状を目の当たりにしたが、ロバートは銃の暴発によるものだと弁解したらしい。
日本で最も有名な歴史上の人物は明治維新までは源義経、それ以降は坂本龍馬だが、近江屋における中岡慎太郎と坂本龍馬襲撃(暗殺)のシーンは有名。それは司馬遼太郎の小説『竜馬がゆく』による影響が大・・・?
ところが、ジェシー・ジェームズの暗殺シーンが有名になったのは、何と暗殺の実行犯であるロバートとチャーリーが自ら役者となって舞台に立ち、何度もそれを上演したためというから恐れいる。ちなみに、ロバートとチャーリーはそんなシーンを英雄気取りで得意気に演じていたらしいが、それも長続きはせず、結局は・・・?
ここらあたりの心理のアヤを是非理解したいものだが・・・。
<『アメリカン・ギャングスター』と好対照・・・>
リドリー・スコット監督の2時間37分の大作『アメリカン・ギャングスター』(07年)は、ハーレムの麻薬王フランク・ルーカスと麻薬捜査班の責任者リッチー・ロバーツの男の対決=知能戦を描いた傑作だが、2時間40分の大作『ジェシー・ジェームズの暗殺』は、34歳のジェシー・ジェームズと20歳のロバート・フォードの心理戦を描いた傑作だから、両者はきわめて好対照。アカデミー賞の前哨戦といわれるゴールデングローブ賞は、脚本家組合のストライキのあおりをうけて授賞式なしという異例の事態の中、1月14日に発表されたが、『アメリカン・ギャングスター』も『ジェシー・ジェームズの暗殺』もアカデミー賞の有力候補であることはまちがいなし。第64回ベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞したアン・リー監督の『ラスト、コーション』(07年)が最大のライバルかもしれないが、アメリカ人にとってはこれぞアメリカ映画という『アメリカン・ギャングスター』や『ジェシー・ジェームズの暗殺』のノミネートや受賞の方がきっとうれしいはず。こんな好対照な2つのアメリカ映画を見比べながら、アカデミー賞の行方に注目したいものだが・・・。
2007(平成19)年1月15日記