チャーリー・ウィルソンズ・ウォー(アメリカ映画・2007年) |
<試写会・TOHOシネマズ梅田>
2008年3月11日鑑賞
2008年3月15日記
アフガニスタンに侵攻したソ連軍はムジャーヒディーン(ジハードを遂行する者)の反撃に遭い、1989年全面的に撤退したが、それを陰で支えたのは一体ダレ・・・?そんな隠された歴史上の真実が一挙に明らかに!ちなみに、アメリカが極秘に武器援助をしたムジャーヒディーンの中に、後の9・11テロの首謀者と目されているオサマ・ビン=ラディンがいたとは、何とも皮肉。もしその後、「学校建設」の援助をしていれば・・・?
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監督:マイク・ニコルズ
原作:ジョージ・クライル『チャーリー・ウィルソンズ・ウォー』(ハヤカワ文庫刊)
チャーリー・ウィルソン(テキサス出身の下院議員)/トム・ハンクス
ジョアン・ヘリング(テキサスで6番目にお金持ちのセレブ)/ジュリア・ロバーツ
ガスト・アブラコトス(CIAの変わり者)/フィリップ・シーモア・ホフマン
ボニー・バック(チャーリーの秘書)/エイミー・アダムス
チャーリーズ・エンジェルの1人/シリ・アップルビー
ドク・ロング(下院・国防歳出小委員会議長)/ネッド・ビーティ
ジア・ウル・ハク(パキスタン大統領)/オム・プリ
ズヴィ(イスラエルの武器商人)/ケン・ストット
2007年・アメリカ映画・101分
配給/東宝東和
<知らなかったナァ、こんな「実話にもとづく物語」>
この映画はジョージ・クライルの原作『Charlie Wilson’s War』にもとづくもの。また、冒頭「この映画は実話にもとづく物語である」という字幕が表示される。
しかして、この映画が描く物語は、テキサス選出の下院議員チャーリー・ウィルソン(トム・ハンクス)が、テキサスの大富豪ジョアン・ヘリング(ジュリア・ロバーツ)、CIAの変わり者ガスト・アブラコトス(フィリップ・シーモア・ホフマン)と力を合わせて、1979年にアフガニスタンに侵攻してきたソ連軍を撃退するため武器援助の予算を大幅に増やすとともに、アメリカの援助を秘密とするため、パキスタンの情報部やイスラエルの武器商人ズヴィ(ケン・ストット)らと通じてアフガニスタンに武器を送り込み、結局1989年にはアフガニスタンからソ連軍を撤退させたというもの。
チャーリーらが秘密裏に遂行させた作戦だから、アメリカ国民も知らなかったものを我々日本人が知らなかったのは当然だが、「実話にもとづく物語である」と言われても、そんな事実があったとはにわかに信じられない、というのが正直なところ・・・。
<ニューヨーク州知事以上のスキャンダルでは・・・?>
この映画はタイトルどおりチャーリー下院議員が主役。だって、ソ連をアフガニスタンから撤退させたのは、チャーリーの献身的努力によるものだから。ところが、このチャーリー議員はどうも下半身のワキが甘そう。事務所にチャーリーズ・エンジェルと呼ばれる美女軍団を配置しているのも異例なら、映画の冒頭に登場するドラッグとストリッパーとのお楽しみも常軌を逸したもの。
ちなみに、3月11日以降各紙は、1晩4300ドル(約44万円)という高級売春組織で買春したことがバレて辞任せざるをえなくなったニューヨーク州のエリオット・スピッツァー知事のニュースを大々的に報道したが、この映画でチャーリーのやっていることはひょっとしてそれ以上。「英雄色を好む」と堂々と言えないところがつらいところで、チャーリーもドラッグ疑惑を追及されようとしていたが、何とかギリギリセーフとなったのはご同慶の至り。
もしそれによって彼が失脚していたら、「チャーリー・ウィルソンズ・ウォー」によってソ連をアフガニスタンから撤退させることができなかったのだから、政治家の評価は難しいところ。
<国防歳出小委員会の役割は?>
チャーリーが所属するのは国防歳出小委員会。この映画だけではよくわからないが、その役割はその名のとおり国防のサイフを握る委員会で、国務省、国防総省、CIAの権限が複雑に絡むらしい。そのうえどうも日本でいう「機密費」のようなサイフがあるらしいし、それは議長の決裁ひとつで動かせるらしい。
当初チャーリーの説得に応じなかったドク・ロング国防歳出小委員会議長(ネッド・ビーティ)が、ジョアンからの電話の説得によってすぐに方向転換したのには驚いたが、政治が、外交が、軍事が、こんなにスピーディかつダイナミックに動いている姿をみてビックリ!ホンマかいな・・・?
<ジョアンはなぜ?ジョアンの役割は?>
オバマVSヒラリーによる民主党の大統領予備選挙のヒートアップぶりでよくわかるように、アメリカでは政治への国民参加が顕著。また、お金もどんどんカンパするから、民主主義の定着度はすごいもの。テキサスで6番目の大金持ちのセレブというジョアンがアフガニスタン支援に熱くなるのは、共産主義嫌い、ソ連嫌いの他、宗教的なものもかなりありそうだが、そこらの分析がこの映画から十分理解できないのは少し残念。
ジョアンが支援するのはカネだけではなく、豊富な人脈を活用した人材の派遣。アフガニスタンへの秘かな加勢のための国防歳出小委員会の額がたった500万ドルしかないことを知ってそれを1000万ドルに倍増したチャーリーの行動力に目をつけたジョアンは、すぐにチャーリーを自宅のパーティーにご招待。そして、直ちに旧知の仲であるパキスタンのジア・ウル・ハク大統領(オム・プリ)と連絡をとり、チャーリーとの面談を実現させたから、その行動力はすごいもの。ちなみに、チャーリーとジョアンがベッドで濃厚なセックスを楽しんだ後、鏡に向かって化粧しながら交わす2人の会話がこんな生々しいものだから、その頭の切り換えの早さにビックリ。俺も見習わなければ・・・。
それはともかく、チャーリーと面談したジア・ウル・ハク大統領は、ソ連軍と戦うために戦闘機、機関銃、資金などの大量援助を強く迫った。500万ドルを1000万ドルに倍増したくらいではソ連軍の強力なヘリや戦車に対抗できないことは明らかだ。その後の、大統領がセットしてくれたアフガニスタン難民のキャンプの実情視察によってその惨状を目の当たりにしたチャーリーは、ここにはっきりと自分が政治家として果たすべき役割を自覚することに。
<ガストの役割は?なぜガストが?>
アフガニスタンの難民キャンプの視察によって大きなショックを受けたチャーリーは、帰国後直ちに極秘任務に協力してもらうべく、CIAの幹部と会えるように秘書のボニー・バック(エイミー・アダムス)に命じていた。ところが、そこに登場したのはなぜかキレ者だがギリシャ系であるゆえに(?)昇進できず、才能をもてあましているはぐれ者のエージェント、ガスト。ガストがまずやったことは、CIAの戦略武器専門家をチャーリーにひき合わせること。ソ連軍のヘリや戦車をやっつけるためにはどんな武器がどのくらい必要なのか、そしてそのためにはどれくらいの予算が必要なのか、その具体的なイメージをつかむことができたチャーリーは、いよいよジョアンやガストとチームを組んで極秘作戦に乗り出すことに。
ちなみに、チャーリーはアフガニスタン支援に突如目覚めた下院議員としての役割が、ジョアンはソ連嫌い、アフガニスタン支援という思想をもつ大金持ちとしての役割がそれぞれ明確だが、CIAのはぐれエージェントであるガストの役割はイマイチ理解が難しい。
なぜならCIAは組織として動いているのだから、いくら能力があっても一匹狼としての活躍は到底ムリなはず。ところが、ガストは一方で上司と大ゲンカしながら、他方でチャーリーらとバッチリとスクラムを組んでこんな偉業を達成することに。なぜCIAエージェントの一員にすぎないガストが、こんな自由な行動をとれるのか、私には理解し難いが・・・。
<チャーリーたちは誰を応援したの?>
アフガニスタンに侵攻してきたソ連軍と戦っていたのは、自分たちの闘争をイスラムを防衛するジハード(聖戦)と位置づけ、自らをアラビア語で「ジハードを遂行する者」を意味するムジャーヒディーンと名乗る勢力。チャーリーたちが武器援助をしたのは、このムジャーヒディーンだ。
ソ連軍との戦いの意欲はもちながら武器がないため十分に戦えず、殺されてばかりいた彼らは、豊富な武器、弾薬、食料が手に入ると、水を得た魚のごとく勇敢にソ連軍と対決し、次々と大きな戦果を挙げていった。とくに威力を発揮したのがスティンガー対空ミサイルで、これをぶっ放せば、ソ連の武装ヘリなんて一発撃墜!
ちなみに、2001年の9・11テロの首謀者はイスラム主義急進派のアルカイーダと目されており、そのトップがサウジアラビア出身のオサマ・ビン=ラディン。そんな彼も当時はムジャーヒディーンとして、アメリカから援助された武器を手にソ連軍と戦っていたらしい。つまり、アメリカは自ら武器援助をし、訓練をして一人前の兵士に育てたムジャーヒディーンによって、9・11テロを受けるという皮肉なことになったわけだ。
<極秘でどうやって・・・?>
チャーリーとガストが苦労したのは、武器援助のための資金を承認させること以上に、どうやって極秘で武器援助を実行するのかということ。なぜならアメリカがアフガニスタンに武器援助をしていることが明らかになれば、ソ連VSアメリカという第3次世界大戦の引き金を引きかねないからだ。そこで工夫されたのが、パキスタン、イスラエル、サウジアラビアなどを介して援助すること。
映画の中ではこれらの作戦の内容が早口で話されているが、はじめて聞く私たちになかなかわかりにくいのが玉にキズ。この映画は1時間41分とテーマと対比すれば比較的短いが、それは会話のスピードがベラボウに早いため。そうであれば、せめて2時間いっぱい使って、もう少しアフガニスタンの勢力分布の様子や極秘による武器援助の具体的やり方などを丁寧に解説してほしいものだが、そう思ったのは私だけ・・・?
<思わず「大本営発表」かと・・・?>
本来、戦争は人間がやるものだが、近代戦になるにしたがって戦争は武器がやるもの、科学技術がやるもの、そしてカネがやるものとなってきている。イスラエルからアフガニスタンに運び込まれた対ヘリ砲の威力を目の当たりにすると、ついそう思ってしまう。
これらの武器によって、以降ソ連軍のヘリコプターと戦車は次々と攻撃され、毎年犠牲が増えていった。スクリーン上にはその戦果が勇ましいバック音楽に乗って数字で表示されるから、これには戦後生まれの私ですら思わず悪名高き「大本営発表」を想像してしまったが・・・。このようなボディブローが少しずつ効いたため、結局ソ連軍は1989年の撤退を余儀なくされたのだから、この数字が大本営発表のようにインチキでなかったことはたしかなよう・・・。
<歴史上の「イフ・・・」は禁句だが・・・>
「もしもクレオパトラの鼻がもう少し低かったら・・・」は歴史上の「イフ・・・」を禁ずる格言・・・?しかし、もしアフガニスタンからソ連が撤退した後、「アメリカがアフガニスタンに学校建設という形で第2弾の援助をしていたら・・・」という「イフ」はかなり大切な教訓。
現在の日本は極端な少子高齢化社会で平均年齢は42歳程度だが、ベトナム国民の平均年齢は25歳だから若い人が非常に多い国。したがって、アジアで最も元気なのは当然で、今後も発展の可能性が大。
約10年間、ソ連と戦う中で多くの大人たちが死亡してしまったアフガニスタンでは、ソ連が撤退した当時、国民の半分が14歳以下だったらしい。そこで、チャーリーが第2弾の援助として強く主張したのが「大量の学校建設」による教育の援助だったが、残念ながらそれは日の目を見なかった。その挙げ句が、約10年後の9・11テロとその後のアフガン戦争だ。そう考えると、歴史上のイフをしっかりと検討し、今後の教訓とする必要があるのでは・・・。
2008(平成20)年3月15日記