パラノイドパーク(アメリカ、フランス映画・2007年) |
<角川映画試写室>
2008年3月26日鑑賞
2008年3月27日記
思春期特有のゆらぎと痛みを若者たちと同じ目線で!これがカンヌ国際映画祭で高く評価されるガス・ヴァン・サント監督の売り!しかし、若者の「甘え」と「わがまま」が目立って仕方ない私には、彼の作品は苦手。『エレファント』(03年)の主人公アレックス同様、『パラノイドパーク』の主人公アレックスにもイライラしてしまい共感できないのだが、さてあなたは・・・?
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監督・脚本・編集:ガス・ヴァン・サント
原作:ブレイク・ネルソン『パラノイドパーク』
アレックス(16歳の男の子)/ゲイブ・ネヴァンス
ジェニファー(アレックスの彼女、チアリーダー部員)/テイラー・モンセン
ジャレッド(アレックスより少し年上の友人)/ジェイク・ミラー
リチャード・ルー刑事(殺人捜査の刑事)/ダン・リュー
メイシー(アレックスの友人)/ローマン・マッキニー
アレックスの母/グレース・カーター
アレックスの父/ジェイ・“スメイ”・ウィリアムソン
2007年・アメリカ、フランス映画・85分
配給/東京テアトル、ピックス
<苦手な映画は、これが3本目!>
1952年生まれのアメリカ人ガス・ヴァン・サント監督は、オレゴン州ポートランドを拠点として映画、写真、絵画の他、作家としても活躍している天才で、1985年のデビュー作『マラノーチェ』以降、数々の監督作品を発表している。彼の監督作品のうち、『マイ・プライベート・アイダホ』(91年)、『誘う女』(95年)、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(97年)、『サイコ』(98年)は私の大好きな映画。しかし、03年のカンヌ国際映画祭でパルムドール賞と監督賞をダブル受賞した『エレファント』(03年)は私には苦手(『シネマルーム4』221頁参照)。また、07年7月12日に観た『マラノーチェ』も同じく苦手(『シネマルーム15』297頁参照)。
この両作品におけるガス・ヴァン・サント監督の特徴は、「思春期特有のゆらぎや痛みを若者たちと同じ目線に立ち、独特の映像センスで描」いたことだが、私にはそこで描かれている若者たちのわがままや思慮分別の無さを含む出来の悪さが目立ち、イライラするわけだ。
<パラノイドパークとは?>
パラノイドパークとは、スケボーのスケーターたちが集うスケートパークの名前だが、ここはちょっと治安の悪いところらしい。ガス・ヴァン・サント監督のことだから、これは多分ポートランドにあるのだろうと思ってプレスシートを読むと、原作となったブレイク・ネルソンの『パラノイドパーク』では、「バーンサイド・スケートパーク」という伝説的な公園が描かれているらしい。
私はここ数年、大阪市内の映画館や試写室に行くときはすべて自転車で走り回っているが、夜の時間帯によく出会うのが、扇町公園内と国道2号線沿いの広い歩道でやっている若者たちのスケボー遊び。何でも遊びはやってみれば面白いのだろうが、やらなければならないことがいっぱいあるはずの若者たちが、夜の9時10時に「何をフラフラ、外で遊んでいるのか」とつい一喝したくなるのが私の常。そんなスケボーに明け暮れる(?)思春期の若者たちを描いた映画がこの『パラノイドパーク』だから、スケボー嫌いの私はよけい苦手・・・?
<主人公は16歳の男の子>
この映画の主人公は、かわいい顔をした16歳の男の子のアレックス(ゲイブ・ネヴァンス)。アレックスの住んでいる家は結構立派だから、かなりリッチな家庭・・・?しかし、例によって(?)アレックスの両親は離婚調停中とのこと。そのため、13歳の弟はそのストレスで吐いたりしているようだから、それはアレックスの性格形成にも少しは影響あり・・・?
16歳ともなれば彼女がいるのは当然で、アレックスの彼女はジェニファー(テイラー・モンセン)。少し年上の親友ジャレッド(ジェイク・ミラー)や周りの男友達と違って、アレックスは女やセックスにあまり興味を示さないよう。それに対してジェニファーは、いつどういうタイミングで処女を喪失するかが最大の興味のよう。その結果、友人の家にみんなが集まった時、ジャグジーで友人たちが遊んでいるのを尻目に、ジェニファーの導くままに2階の寝室へ入り、2人は初体験。もっとも、コトが終わった後すぐにケータイで「すごく良かったワ」と女友達に報告している姿をみると、アレックスならずとも幻滅するのは当然。そこでアレックスはすぐにジェニファーに対して三下り半を伝えたが、それに対するジェニファーの反応は・・・?
16歳の少年少女たちの「性態」はこんなものかもしれないが、だから一体何だというの・・・?そして、それを思春期特有のゆらぎや痛みとして若者たちと同じ視線で描くことに何の価値があるの・・・?私はどうしてもそう思ってしまうのだが・・・。
<これは大事件!>
アレックスは良家のお坊ちゃんのようだが、はじめてジャレッドに誘われてパラノイドパークに行ったことによって、スケボーの面白さにハマってしまったよう。もっとも、2度目の約束をした時は、ジャレッドの家に泊まると母親に伝えて出かけたにもかかわらず、ジャレッドから彼女と一緒に旅行に行くと言われてふられてしまったため、やむなくアレックスは一人でパラノイドパークへ行くことに。そこで出会った不良グループに声をかけられ、アレックスがチャレンジしたのが貨物列車への飛び乗りだが、それはもちろん危険かつ違法なこと。そんなアレックスたちを発見した警備員が懐中電灯をかざしながら急いで走り寄ってきたため、思わずアレックスは手に持っていたスケートボードでその警備員を振り切ったところ、それによって倒れた警備員は、後ろから来ていた別のレールを走る貨物列車にひかれて、何と身体が真っ二つになって死亡してしまったから大変。
<その対処法は・・・?>
日本でも近時少年による凶悪事件が続発しているが、アレックスの行為は故意犯ではないにしても人の死亡を招いた大事件。したがって、警察が殺人事件として捜査を始めたのは当然だが、16歳の(16歳にもなっている)アレックスは、コトの顚末を父親に電話することもできないばかりか、警察に報告することもできないから、何とも情けない限り。弁護士の私の目からみれば、きちんと報告さえすれば、正当防衛の成否は微妙だが、せいぜい過失致死罪の軽い罪で、家庭裁判所で「不処分」とされることまちがいない事件。ところが、アレックスは重大な物証となるスケートボードを川の中に投げ捨ててしまったばかりか、血のついた服をゴミ袋に入れて廃棄してしまうという証拠隠滅行為をしてしまったうえ、この忌まわしい記憶を忘れ去ろうとしたから、私に言わせればナンセンスの極み。
パラノイドパーク近くの犯罪であるため、リチャード・ルー刑事(ダン・リュー)がスケボー愛好者を集めて事情聴取したのは当然だが、そこでアレックスたちが見せられたのが下半身が切断された被害者の写真。アレックスの友人たちはそのものすごさにワイワイ騒いだが、アレックスだけはあの忘れようと思った情景が目の前に浮かんできたため、少しパニック状態。さて、そんなアレックスの姿をルー刑事はどのように観察を・・・?
<無気力、無関心、無感動なアレックスにイライラだが、メイシーは・・・?>
来年2009年1月26日に還暦を迎える私は、「最近の若い者は・・・」というイライラが次第に強くなっている。そのため、この映画でアレックスの無気力、無関心、無感動な姿を見せつけられると、とにかくイライラ!
ところが、友人の女の子メイシー(ローマン・マッキニー)とアレックスとの会話を聴いていると、メイシーはかなりまとも・・・?なぜなら、メイシーはイラク戦争について、またアフリカで餓死している子供たちについて興味を持っているらしく、アレックスに対して、それを「どう思う?」と質問していたから。それに対するアレックスの回答は、「そんなこと知らない」「どうでもいい」「俺には関係ない」という今ドキの無気力、無関心、無感動な若者の答えそのものだったが、なぜかある日それに大きな変化が起きていた。つまり、アレックスは「僕のちっぽけな問題とは別の次元のもっと大きな何かが世の中にたくさんあることに気づいた」と発言したわけだ。さて、このアレックスの変化はホンモノ・・・?そして、この変化は何によって生まれたの・・・?
ガス・ヴァン・サント監督の苦手な映画3作目は、終盤になってアレックスがこんな前向きな姿勢に変化していったから、後半にはがぜん興味が・・・。
<書くことの意義を再確認できたの・・・?>
この映画を観ていると、ホントにメイシーという女の子は偉いものだと感心!ある日メイシーが自転車をこいでいる時、偶然アレックスと出会ったが、そこでアレックスはスケボーに乗りながらメイシーの自転車の後ろにつくことに。そんな中、2人で交わされた会話が重要だ。つまり、ここでメイシーは、誰でも書きやすい人間、すなわち親や先生ではなく友人に対して自分の思いを手紙に書くことの重要性をアピールした。書くことによって自分の気持を整理することができる。そんなメイシーの説に私は100%同感。
そんなメイシーの勧めに共感したアレックスは、「あの事件」についてメイシー宛に手紙を書き始めたが、さてその内容は・・・?そして、その手紙の使われ方は・・・?そしてまた、あの事件の結末は・・・?
2008(平成20)年3月27日記