譜めくりの女(フランス映画・2006年) |
<GAGA試写室>
2008年3月31日鑑賞
2008年3月31日記
女の恨みは恐ろしい!タイトルからは想像もつかない、そんなテーマのフランス映画がここに登場!フメクリストという言葉をあなたは知ってる?ピアニストの実力が発揮できるか否かはフメクリストとの相性次第!すると、フメクリストが復讐のためにワナを仕掛けたとしたら・・・?85分にまとめた構成力に感心しながら、女の恐さをあらためて・・・。
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監督・脚本:ドゥニ・デルクール
アリアーヌ・フシェクール(人気ピアニスト)/カトリーヌ・フロ
メラニー・プルヴォスト(譜めくりの女性)/デボラ・フランソワ
ジャン・フシェクール(アリアーヌの夫、著名な弁護士)/パスカル・グレゴリー
トリスタン・フシェクール(アリアーヌの息子)/アントワーヌ・マルティンシウ
ヴィルジニー(三重奏団のバイオリニストの女性)/クロティルド・モレ
ローラン(三重奏団のチェリストの男性)/グザヴィエ・ドゥ・ギルボン
メラニー(少女時代)/ジュリー・リシャレ
メラニーの父/ジャック・ボナフェ
メラニーの母/クリスティーヌ・シティ
2006年・フランス映画・85分
配給/カフェグルーヴ、トルネード・フィルム
<10分間のプロローグに、テーマが集約!>
この映画の主人公は、人気ピアニストのアリアーヌ・フシェクール(カトリーヌ・フロ)とその譜めくり係となる女性メラニー・プルヴォスト(デボラ・フランソワ)だが、そのメインストーリーに入る前の冒頭10分間のプロローグにこの映画のテーマが集約されている。
この10分間だけの主人公は少女時代のメラニー(ジュリー・リシャレ)とその父(ジャック・ボナフェ)、母(クリスティーヌ・シティ)の3人。メラニーはコンセルヴァトワールに入学してピアニストになることを目指して頑張っている少女。そして、明日はいよいよ入学試験の日。試験日を控えて神経がピリピリするのは誰でも経験したことがあるはずだが、そのプレッシャーに打ち勝つのも実力のうち。
ところが、神経質なメラニーは、5人の審査委員の長として真ん中に座っていた人気ピアニストであるアリアーヌの、受験生を無視するかのようなある無神経な行動に動揺し、演奏を中止してしまったから大変。「なぜ中止したの?続けて」とアリアーヌから演奏を促されたものの、その後のメラニーの演奏はボロボロ状態に・・・。私に言わせれば、「それも実力のうち」とメラニーは自分の非力さを認めるべきなのだが、それによってピアニストへの夢を断たれたと感じてしまった多感な少女メラニーの「女の恨み」はすごいもの。そんな少女の10数年後は・・・?
<フランスの著名弁護士のリッチさにビックリ!>
10数年後、美しく成長したメラニーは、フランスの著名弁護士ジャン・フシェクール(パスカル・グレゴリー)の事務所で実習生として働き始めた。そんなシーンを観て、同じ弁護士稼業をしている私はがぜん興味が湧いたが、弁護士の大量増員時代を控えて「食えない弁護士」が現実問題になろうとしている日本に比べ、フランスの著名弁護士の生活のリッチさにビックリ。フシェクールの事務所は数人の事務員を雇っている個人事務所の規模だが、彼のお屋敷はテニスコートや森を含む広大な敷地の中にあり、お屋敷の中にはプールまでも。
08年2月17日付朝日新聞の社説が、「弁護士増員 抵抗するのは身勝手だ」と題して3千人増員計画に抵抗する弁護士会の動きに警鐘を鳴らし、「弁護士白書によると、弁護士の年間所得は平均1600万円らしい」と書いた。これに対して多くの若手弁護士は猛反発しているが、こんなリッチな生活をしているフランスのフシェクール弁護士の年収はHow Much・・・?
<メラニーはアリアーヌに急接近!>
メラニーがそんなフシェクール弁護士の事務所の実習生になったのは偶然ではなく、フシェクールの妻があの入学試験の審査委員長であったアリアーヌであることと関連がありそう。なぜなら、事務所を仕切るお局事務員から、フシェクールがピアニストを目指している息子トリスタン(アントワーヌ・マルティンシウ)の世話係を探していると聞いたメラニーは、自らそれに立候補したから。フシェクールは当然それに乗り気となり、メラニーは即採用。それによって、メラニーはアリアーヌに急接近!
<はじめて知った、フメクリストという専門職の重要性>
ピアニストが演奏するために譜めくりを担当する人間がいることは私も知っていたが、その人間がピアニストの演奏の良し悪しを大きく左右するとは、この映画を観るまで全然知らなかった。交通事故で受けた心の傷が演奏にも大きく左右していた近時のアリアーヌにとっては、俗に言うフメクリスト(譜めくリスト?)との信頼関係が大きなポイントになっていたらしい。
三重奏団のマネージャーから回されてきた、あのフメクリストでは絶対ダメ!そんな風に、交通事故による心の傷によって余計にフメクリストにこだわるアリアーヌにとって、夫の仕事の良きアシスタントであり、最愛の息子トリスタンの世話係をそつなくこなしてくれるメラニーは、理想的なフメクリスト。アリアーヌがそう考えたことに対応してメラニーは現実にそうなっていったが、それって、実はフメクリストがピアニストを全面的に支配するための一里塚かも・・・?
<フランス映画の構成力はさすが!>
最近の邦画はダラダラしたテレビドラマの影響もあり、2時間を超える間延びしたものが多い。しかし、私が最近観たフランス映画の傑作は、①『かつて、ノルマンディーで』(07年)の113分、②『プライスレス 素敵な恋の見つけ方』(06年)の105分、③『裏切りの闇で眠れ』(06年)の107分など、すべて2時間以内にうまく構成したものばかり。唯一『ここに幸あり』(06年)のみが例外で121分。しかして、『譜めくりの女』はプロローグの10分を含めて何と85分にまとめているから、その構成力はさすが!
メラニーのアリアーヌに対する復讐のどこまでが計画的なものか、そしてどこまでがハプニング的なものかはわからないが、その実行力はトータルとしてパーフェクト。すっかりアリアーヌを信用させることに成功し、今や「譜めくりの女」としてアリアーヌに不可欠な存在となったメアリーは、その美しい顔とは裏腹にハラの中に秘めていた復讐心をどんな形で実現していくのだろうか?この評論ではそのタネばらしは避けつつ、いくつかのポイントのみを紹介しよう。
<4連敗後の4連勝は春の珍事?監督の手腕?>
開幕4連敗した楽天は、その後先発ピッチャーの奮起(居直り?)と野村克也監督の見事な采配のおかげ(?)で4連勝し、4勝4敗のタイに持ち直した。これは、グライシンガーとラミレスという投打の柱を札束にまかせてとられてしまったヤクルトとの対戦で、読売巨人軍が開幕3連敗を喫した姿と対照的だが、これは春の珍事?それとも野村監督の手腕?
そんな劇的な今年のプロ野球の開幕と同じように、この映画ではメラニーが仕掛けたワナがピタリ、ピタリと決まっていくから、女の恨みの恐ろしさを通り越して爽快感さえも・・・?
<メラニーの復讐劇は全方位!>
メラニーを演ずる女優デボラ・フランソワは1987年生まれの女性だが、ベルギー人らしい肌の白さとそれに必然的に伴う小さなシミが目立つ美人。これに対して、アリアーヌを演ずるのは、3月6日の『地上5センチの恋心』(06年)ではじめて観て覚えたフランスを代表する女優カトリーヌ・フロだが、こちらは1957年生まれだから、背中を大胆に露出したスリップドレスを着ると、あちこちにシミが目立つのは仕方なし・・・。
現在、地球上で最も精力的に全方位外交を展開しているのは中国だが、それと同様、メラニーの復讐のターゲットは全方位。さあ、この映画の見どころは、冷やかな目をしたそんなベルギー美人デボラ・フランソワ演ずるメラニーの復讐劇だから、それをじっくりと・・・。
<メラニーがアリアーヌに仕掛けたワナは?>
メラニーの復讐劇の第1のターゲットはもちろんアリアーヌ本人に対するもの。自分がアリアーヌから信頼されていると知ったメラニーが、アリアーヌに投げかけた妖しげな視線の先にあるものは・・・?
フランスでは、婚外子の出生率が50%を越えているうえ、同性愛も自由(?)だから、ピアニストとしての現在と将来に大きな不安をもっているアリアーヌが、信頼するフメクリストのメラニーと妖しげな関係に陥っても全然不思議ではない。しかも、アリアーヌの夫は著名な弁護士だから仕事が忙しく、夫婦はスレ違い気味で、たまに共有する時間を大切にしなければならないのは当然。
ところが、アリアーヌはメラニーのワナに落ちてしまい、明日屋敷を出ていくというメラニーから「最後にサインが欲しい」というささやかな要望を聞くと、万感の思いを込めて(?)写真の裏に、「あるメッセージ」を書いたが、それが大変な結末を迎えることに・・・?
<メラニーがトリスタンに仕掛けたワナは?>
ターゲットの第2はアリアーヌの息子のトリスタンに対するもの。「あなたならきっとできる」とゴマをスリながら(?)、指の練習に過度な目標を設定したら、高校球児が過度な投球数によって肩や肘を痛めるのと同様、少年ピアニストに対して取り返しのつかない負荷を与えてしまうのでは・・・?メラニーとトリスタンの2人だけの秘密として封印されていたのが、父親が帰ってきたときにトリスタンが弾く新曲の準備だが・・・。
アリアーヌが知らない間にメラニーの策略によって過度な指の練習を重ねてきたトリスタンは、いざ本番となった時、指が痛くて弾けないという大変な局面を迎えることに。ここまですべて計算ずくで実現したとすれば、メラニーは野村さん以上の名監督・・・?
<色目を使ってきたチェリストに対しては・・・?>
メラニーのターゲットの第3は、アリアーヌに対して色目を使ってきた三重奏団のチェリストのローラン(グザヴィエ・ドゥ・ギルボン)に対するもの。もっとも、これは計画的なものではなく、偶然起きたハプニング・・・?
メラニーに対して「ある行為」に及んだローランはメラニーから予想もできなかった手厳しい反撃に遭ったわけだが、それを誰にも公表できないのは、自分の不法行為(わいせつ行為)のせいだから自業自得で仕方なし・・・?
<余韻の残る名ラストシーン!>
どんな映画でもラストシーンがポイント。フランス映画の名作は余韻の残る名ラストシーンが多いが、それは『譜めくりの女』でも同じ。そんな名シーンを演出するポイントは、セリフやナレーションを極力避け、スクリーン上だけの勝負に徹すること。
「明日の朝食は私がつくってあげる」と言っていたとおり、アリアーヌはメラニーのための朝食をつくっていたが、トリスタンに「メラニーを起こしてきて」と言うと、なぜかメラニーは既に早朝1人で家を出ていったとのこと。一体それはなぜ・・・?そんな疑問を抱いたところに戻ってきたのが、夫のフシェクール。さあ、トリスタンは練習していた曲をフシェクールに弾いて聴かせなければ・・・。その時、書斎から1通の封筒を手にしたフシェクールが入ってきたから、アリアーヌはビックリ。その封筒の中の写真に添えられたメッセージを夫のフシェクールが読んだとしたら・・・?
他方、コートの襟をたてながら1人歩いているメラニーの顔は満足感でいっぱい・・・。彼女にはきっと、今フシェクール家で起きている情景がバッチリと頭の中に見えているのだろう・・・。それにしても、女の恨みって・・・。
2008(平成20)年3月31日記