JUNO/ジュノ(アメリカ映画・2007年) |
<東宝試写室>
2008年4月22日鑑賞
2008年4月24日記
映画は脚本がすべて!その言葉どおりの奇跡を起こしたあの話題作をやっと鑑賞!16歳の初エッチで即妊娠。そんなふしだらなテーマ(?)が面白い映画になるのだから、自由の国アメリカはグッド!こんな風潮が助長されるのはいかがなもの?とも言えるが、あまり目くじらをたてず、前向きに考えては・・・?また、里親制度の拡大に向けて、日本でも大胆な政策提言が必要かも・・・?
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監督:ジェイソン・ライトマン
脚本:ディアブロ・コディ
ジュノ・マクガフ(女子高生)/エレン・ペイジ
ポーリー・ブリーカー(ジュノのクラスメイトの男の子)/マイケル・セラ
ヴァネッサ・ロリング/ジェニファー・ガーナー
マーク・ロリング(ヴァネッサの夫)/ジェイソン・ベイトマン
ブレン・マクガフ(ジュノの義理の母)/アリソン・ジャネイ
マック・マクガフ(ジュノの父)/J.K.シモンズ
リア(ジュノの親友の女子高生)/オリヴィア・サルビー
2007年・アメリカ映画・96分
配給/20世紀フォックス映画
<アカデミー賞脚本賞おめでとう!>
第80回アカデミー賞の作品賞ノミネート作の特徴は、私に言わせれば、「地味!暗い!でも、すばらしい!」。つまり、作品賞、監督賞、助演男優賞、脚色賞の最多4部門を受賞した『ノーカントリー』(07年)、主演男優賞受賞の『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(07年)、助演女優賞受賞の『フィクサー』(07年)はいずれもそのタイプ。また、作曲賞受賞の『つぐない』(07年)は堂々の文芸大作。
これに対して、『JUNO/ジュノ』はわずか7館の公開からスタートした低予算映画。そんな『JUNO/ジュノ』が、作品賞、監督賞、主演女優賞、脚本賞の4部門にノミネートされ、脚本賞に輝いたのはある意味で奇跡!
プレスシートによると、この脚本を書いた女性ディアブロ・コディは、自分のストリッパー時代の回顧録を書いていたという1978年生まれの女性だが、『JUNO/ジュノ』の脚本はわずか2~3週間で書きあげたとのこと。もちろんそれは、高校時代に親友が妊娠し、出産を決意したという実話がモデルとしてあったから。そしてまた、主人公ジュノ(エレン・ペイジ)と親友リア(オリヴィア・サルビー)が交わすセリフも、彼女が体験した下ネタやバカ話にもとづくものだから。
そんなお話がここまで全米で大ヒットし、評価されることになろうとは・・・?まさにアメリカのシンデレラ物語を地でいったディアブロ・コディに拍手!そして、彼女の第2作、第3作に注目しよう!
<あの監督だから、面白いのは当たり前!>
「たばこの有害性」に深く切り込んだ社会派映画のタイトルが『サンキュー・スモーキング』(06年)というのは、いかにも面白いギャグだった・・・?(『シネマルーム12』373頁参照)。そんな面白い映画を監督・脚本したのが、初の監督長編作となったジェイソン・ライトマン監督。
アカデミー賞監督賞は『ノーカントリー』に譲ったものの、2作目の長編作にして監督賞ノミネートは立派なもの。そんな面白い『サンキュー・スモーキング』の監督が、デビュー作でアカデミー賞脚本賞を受賞した才女の脚本を得てつくったのが『JUNO/ジュノ』だから、面白いのは当たり前!
<主演女優にも、アメリカンドリームがまざまざと!>
『JUNO/ジュノ』の主人公を演じたのは、1987年カナダ生まれのエレン・ペイジ。彼女は映画初出演ではなく、10歳のときにテレビ映画で女優デビューし、以降いくつかの作品を経て『X-MEN:ファイナル ディシジョン』(06年)で、美少女ミュータントのキティ役に抜擢されたとのこと。そう言われて『X-MEN:ファイナル ディシジョン』のパンフレットを引っ張り出してみると、たしかに彼女は7人のミュータントの戦士たちが勢ぞろいした1頁目の写真で、ハル・ベリー扮するストームに次ぐ2番目の女性ミュータントとしてしっかりした存在感を示していた。
もっとも、そこではエレン・ペイジは美少女ミュータントの役だったが、私の見立てでは、彼女は美女俳優ではなく性格俳優として進んだ方が成功するはず!美貌と才能をあわせもった若手女優の筆頭は何といっても1981年生まれのナタリー・ポートマンだろうが、エレン・ペイジはそれとは違う道を歩んだ方が面白いのでは・・・?
しかし、最初の主演作でいきなりアカデミー賞主演女優賞ノミネートというエレン・ペイジの姿をみていると、ここにもアメリカンドリームがまざまざと・・・。
<「最悪のテーマ」をいかに料理・・・?>
16歳の女子高生ジュノが、興味本位で臨んだ同級生のポーリー(マイケル・セラ)とのはじめてのセックスでいきなり妊娠!そりゃないだろう、と3度も妊娠検査薬でチェックしたが、やはり結果は「+」。こりゃ最悪!一瞬自殺まで考えたジュノが最初にその報告をしたのは、当然親ではなく親友のリア。当初そんな話を全く信じなかったリアが「ホントにホント・・・?」と何度も念押ししたうえ、「ホントにホント!」だとわかると、そこでリアがあげた声は「チョーヤバイやん!」というジュノが最も期待したもの。これによってジュノはひと安心・・・?つまり、その時点では、ジュノもリアも結論はただひとつ。つまり中絶することだ。
ところが、中絶クリニックの前には中絶反対運動中の同級生がおり、彼女から言われた「赤ちゃん、もう爪だってはえてるわよ」との言葉がジュノの心にグサリと・・・。そのため、ジュノの決心は一変し、「やっぱり産もう」となったらしい。ここらあたりは、アカデミー賞受賞脚本家ディアブロ・コディの高校時代の親友の体験記に裏づけられたストーリーだけに説得力十分。
しかし、問題はこれからだ。つまり、「10代の望まない妊娠」というテーマは、いくらでも否定的に描くことができるし、深刻な社会問題として問題提起することも可能。しかし、それでは映画として全然面白くない・・・?そこで、脚本家のディアブロ・コディは、そして監督のジェイソン・ライトマンは、そんな「最悪のテーマ」をいかに料理していくの・・・?
<アメリカの里親制度とは・・?>
この映画で興味深いのは、アメリカのフォスターケアと呼ばれる里親制度が真正面から紹介されていること。日本でも養子制度や里親・里子制度はあるが、その数は少なく例外的・・・?しかし、アメリカではそれがオープンとされ、その数もきわめて多いらしい。
また、ネットで調べた石川千尋氏の「『フォスターケア ~日本とアメリカの比較~』概論」によれば、日本には多くの施設があり、「まず施設に」という考え方が強く、そのため里親委託率も6%と非常に低い。それに対して、アメリカでは「施設よりも里親」という考え方があるため、里親家庭で生活している子供は日本に比べて非常に多いとのことだ。
ジュノはそんなアメリカのフォスターケア制度をよく知っているため、まず自分の力で里親を見つけ、その上で妊娠のことを両親に報告しようとしたわけだ。そして、現にそれによって両親にジュノが子供を産むことを了解させたのだから、16歳の女子高生にしては立派な戦略と言わざるをえない。ところで、肝心の養親は・・・?
<里親には意外なキャストが・・・>
この映画のキーマンとキーウーマンになるのは、高級住宅街に住んでいる里親希望のマーク・ロリング(ジェイソン・ベイトマン)とヴァネッサ(ジェニファー・ガーナー)のカップル。このカップルは、フリーペーパーに載せた里親募集がすぐに実現しそうになったことによって、その後さまざまな問題を生むことになる。そして、それがこの映画のストーリー形成の大きな幹になるから、この2人に注目だ。
一瞬ジュリア・ロバーツに似ているなと思ったのが、ヴァネッサを演ずるジェニファー・ガーナー。彼女は『デアデビル』(03年)で共演したベン・アフレックと結婚した女優で、その後に私が観たのは、『エレクトラ』(05年)(『シネマルーム7』359頁参照)と『キングダム/見えざる敵』(06年)(『シネマルーム16』212頁参照)。ところがこの映画では、それらのイメージとは全然違う、赤ちゃんを養子として受け入れることに期待と不安を高まらせ、次第にナーバスになっていく女性の姿を見事に演じている。
他方、『キングダム/見えざる敵』でもジェニファー・ガーナーと共演したジェイソン・ベイトマン演ずるマークは、養親になろうとした決心が次第に萎えていく男の姿をこれまた表現力豊かに演じている。マークがギターが大好きなことや音楽の趣味も合いそうなことを発見したジュノは、次第にマークとの距離を縮めていくが、これってひょっとしてヤバイのでは・・・?
そんなこんなの登場人物たちの気持の揺れが見事に表現されているからこそ、こんな低予算映画がアカデミー賞作品賞にノミネートされたわけだ。
<この映画の楽しみ方 その1─スピーディな会話>
私は英会話は全然できないが、英会話が楽しめる人、さらにアメリカの若者言葉やスラングが理解できる人は、この映画を私たちの2倍楽しめるのでは・・・?思わずそう思ってしまう(ひがんでしまう?)ほど、この映画にはユーモアいっぱいの若者言葉やスラングがいっぱい。
日本でも16歳の女子高生の会話ともなれば、おじさん世代にはチンプンカンプンで、全く理解できないのは当然。したがって、アメリカのしかも初体験即妊娠という、時代の最先端をいく(?)ジュノが好きなものや、親友のリアと交わす会話をなかなか理解できないのは仕方ないところ。もっとも、それでは映画として成り立たないため、ジェイソン・ライトマン監督はスピーディーかつユーモアに溢れた会話を少しでもおじさん、おばさんに理解させようと努力してくれているのはうれしい限り。したがって、私たちおじさん、おばさんはそれを理解するよう努力しながら、この映画を楽しまなければ・・・。
<この映画の楽しみ方 その2─音楽>
ジュノはもともと女の子らしいファッションには興味がなく、音楽が大好きなちょっと変わった女の子。はじめてエッチしたポーリーも恋人ではなく、バンドを組んだことがあるというだけの男友達。したがって、この映画には全編通じて音楽がいっぱい流れているから、その曲や音楽ネタのしゃれた会話を理解できれば、この映画を2倍楽しめるのでは・・・?この点に関しても、思わずそう思ってしまう(ひがんでしまう?)が、それをフォローするためには全米アルバム・チャートでナンバー1となったオリジナル・サウンドトラック『JUNO/ジュノ』を購入して勉強しなければ・・・。
後半、里親となるマークがギターが好きなこと、音楽が大好きなことがわかると、意気投合した2人がムードに乗ってダンスを踊りかけたりするシーンにも注目だが、同時にバック音楽をしっかりと楽しまなくちゃ・・・。
<意外なストーリー展開 その1─養子縁組の行方は?>
日本では養子縁組の方式は民法で厳格に定められている。この映画では養子縁組の調印は弁護士立ち会いの下でなされていたから、多分アメリカでもそれは似たようなもの・・・?
この映画は前半も意外な展開がいろいろあるが、後半はとくに意外なストーリー展開が2つある。その1つは、ジュノのお腹が大きくなるにつれてますます里親となることへの期待が高まっていくヴァネッサとは逆に、ホントに自分が里親になれるのだろうかという不安が高まり、少しずつ腰が引けていくマークの姿。一度法的に養子縁組をしてしまうと、その無効・取消が難しいのは当然。また、それを解消するためには、離婚と同じような離縁の手続が必要だが、マークは本気でそこまでの決心を・・・?
そんな意外なストーリー展開を楽しみながら、揺れ動く養子縁組当事者らの心の中をじっくり観察したいものだ。
<意外なストーリー展開 その2─ジュノとポーリーの仲は・・・?>
日本では今、不妊に悩む夫婦のための人工受精や代理出産の議論が盛んだが、これらの議論は父親が誰かわからないことが大前提。ところが、ジュノの場合は、父親は明らかに初エッチをしたポーリーだとわかっている。しかし、ジュノはなぜかこの実の父親については何の関心もないらしい。妊娠の責任をとってくれとか、養育費を出してくれと要求しないのはさすがアメリカ流だが、そういう金銭がらみの問題ではなく、父親というものの存在や子供に対する父親の愛情のあり方等についてジュノの関心が全くないのは、やはり彼女がまだ幼い16歳だから・・・?しかし、その点の考えの至らなさについては、周りの大人たちが教えてあげなければダメなのでは・・・?
映画の中盤から私はずっとそんなことを考えながら観ていたのだが、さて後半からラストにかけて見せていくジュノとポーリーとの仲は・・・?それが、後半の意外なストーリー展開その2だから、そこらの面白さもしっかりと・・・。
2008(平成20)年4月24日記