たみおのしあわせ(日本映画・2007年) |
<角川映画試写室>
2008年5月23日鑑賞
2008年5月24日記
妻と死別した伸男(原田芳雄)の息子民男(オダギリジョー)は典型的な引きこもり型・・・?そんな息子に、なぜ瞳(麻生久美子)のようなベッピンが・・・?「結婚」をテーマとした映画は数多いが、主役3人のヒネリがよく効いているうえ、大竹しのぶ、小林薫、石田えりら個性派俳優のぶつかり合いはハラハラ、ドキドキの人間模様を増幅!今年の伸男の誕生日は盛りだくさん。しかして、その直後の大安吉日にはアッと驚くラストシーンの到来だが、その賛否は・・・?
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監督・脚本:岩松了
神埼民男/オダギリジョー
三枝瞳(民男の結婚相手)/麻生久美子
神埼伸男(民男の父親)/原田芳雄
宮地雪江(伸男の愛人)/大竹しのぶ
透(伸男の亡き妻の弟)/小林薫
変な男/忌野清志郎
宗形(伸男のかつての愛人)/石田えり
レイコ/冨士眞奈美
2007年・日本映画・118分
配給/スタイルジャム
<『ジャージの二人』に続いて奇妙な父子が・・・>
5月19日に観た『ジャージの二人』(08年)は、ちょっと奇妙な(?)54歳の父親と32歳の息子を主人公とした「脱力系」映画だった。そして、『たみおのしあわせ』も、妻と死に別れた父親神埼伸男(原田芳雄)とその一人息子民男(オダギリジョー)という、ちょっと奇妙な父子が主人公。もっとも、『たみおのしあわせ』は脱力系ではなく、「民男の結婚」をテーマとしながら、最後にはアッと驚く父子関係を強烈に印象づける問題提起作・・・?
<同じ父子でも・・・?>
『ジャージの二人』は、「この父親にしてこの息子あり」という関係がすぐに理解できた。しかし『たみおのしあわせ』では、小さな会社ながらもそこに真面目に勤め、現在部長職にある(さしずめナンバー2かナンバー3あたり?)父親は女性関係がお盛ん(?)なのに対し、結婚適齢期ギリギリの(?)息子はなぜか見合いを断ってばかりで、あまりオンナには興味がなさそう。したがって、『ジャージの二人』と同じようにちょっと奇妙な父子でも、奇妙さの中身は大違い・・・?もっとも、伸男が民男を早く結婚させたがっているのは、現在社内恋愛中(不倫関係?)の宮地雪江(大竹しのぶ)との関係を早く公にして再婚したいから・・・?
今回の民男のお見合いの相手は、伸男の会社の社長の紹介だから、伸男はいつも以上に気合が入っていた。そして、民男と伸男が目にした三枝瞳(麻生久美子)は予想以上の美人であるうえ、えらく民男や伸男に対して好意的。そのうえ、数回のデートで彼女の方から「よろしくお願いします」と言われたから、民男は有頂天。その報告を聞いた伸男も、これで社長に対してメンツが立つうえ、宮地さんとの関係も万々歳、と喜んだが・・・。
<芸達者な役者のオンパレードに大感激!>
『ジャージの二人』は鮎川誠と堺雅人が父子を演じたが、私は鮎川誠を全然知らなかった。それに比べると、『たみおのしあわせ』は原田芳雄とオダギリジョーが父親役と息子役で登場するから、かなり豪華。そのうえ、伸男の現在の愛人宮地さん役を大竹しのぶが、過去の愛人宗形さん役を石田えりが演じるのだから、さらに豪華。
そのうえ、『たみおのしあわせ』には、あの小林薫まで登場!私は最近、『歓喜の歌』(07年)と『休暇』(07年)で大いに感心しながら小林薫の演技を観たが、彼の演技力は『たみおのしあわせ』でも存分に発揮されている。オダギリジョー、原田芳雄、大竹しのぶに続いて、小林薫や石田えりという芸達者な役者のオンパレードに大感激!
<ニューヨーク帰りの透が、なぜ屋根裏に・・・?>
『たみおのしあわせ』は、ひと通りのストーリー紹介がなされた後、カメラがえらく奇妙な角度から撮り始める。さらに、市川雷蔵主演の名作『忍びの者』(62年)の1シーンのように、天井裏の小さな穴から部屋の中を覗く奇妙な目が登場!この映画は、中盤からひょっとしてミステリーに・・・?一瞬そう思ってしまったが、この目の主が、伸男の死んだ妻の弟で、長い間ニューヨークで生活しているはずの小林薫演ずる透だ。
家の中がタバコ臭かったり、消したはずのエアコンがついていたり、流しが濡れていたりしたのは、すべて屋根裏に潜んで生活していたこの透のせい!岩松了監督は、観客にはそんな秘密をすぐに教えてくれるのだが、伸男と民男父子には教えないから、2人にとってはそれは何とも奇妙な現象。そんな奇妙な現象の数々を、家を訪ねてきた宮地さんに話しているうちに伸男が思いついたのは、タバコを吸っていた昔の愛人宗形に家のカギを渡したままだったこと。宮地さんは、復讐のためにそういうことをするタチの悪い女がいるものだとすぐに理解し、家のカギを交換するよう勧めたが・・・。
伸男と民男が今住んでいる、とある郊外の町の家は伸男の亡き妻の実家。その離れには、医者だった祖父が使っていた診療所がそのまま残っていた。一旗挙げるべくニューヨークへ赴いた透が15年ぶりに日本に帰ってきたのはなぜ・・・?透がたまたまタバコを買うため家の外へ出たところを、近所の人に発見されたことによって、その「なぜ?」が観客には明らかにされるのだが、伸男と民男にはいぜんわからないまま。さて、彼が屋根裏に潜んでいたのは一体なぜ・・・?
<この女、何かヘン!>
『夕凪の街 桜の国』(07年)でブルーリボン賞主演女優賞を受賞した麻生久美子扮する瞳が、なぜ今ドキの日本でよく見る引きこもりの代表みたいな(?)民男との結婚をすんなりオーケーしたの・・・?私を含めてこの映画を観ている多くの観客は、そんな疑問を持ったはず。だって、ちゃんとした両親をもち、ちゃんとした仕事に就いている瞳のような美女が、なぜ今まで結婚していないのか、そしてまた、なぜ見合い後すぐに民男との結婚を自ら意思表明したのか、誰もが不思議に思うのは当然。そう思いながらよく瞳を観察していると、たしかに瞳はズレたところがあり、少しヘン・・・?
彼女のヘンなところで目につくのは、少し色気過剰なところ・・・?亡くなった伸男の妻=民男の母親の浴衣を瞳が着ることになったのは、脚本上のある設定によるものだが、そこで見せるゾクゾクとするような瞳の色気には、民男のみならず伸男も思わず・・・。さらに、伸男の誕生祝いのために、わざわざ自分の送別会を抜け出してきたり、酒を飲む時には思わずゾクッとするような流し目をしたり、裏に瞳と縫い付けたネクタイをプレゼントしたり、彼女が伸男に対して見せる行動は、息子の嫁になるべき女としては明らかにヘン・・・?
そう思うと、これは一体何の伏線なの?と考えてしまったが、ラストの「アッと驚く大三元!」となるまで、その謎は解けないまま・・・。今年は映画鑑賞年間360本ペースになっている私ですらその謎が解けなかったのだから、年間10本ペースのあなたには、その謎の解明はとてもムリ・・・?
<さすが大竹しのぶ!宮地さんの行動に説得力が!>
伸男の前愛人の宗形が会社を辞めたのはなぜ・・・?宮地さんはどこまでそれを知っているの・・・?また、知っていたとしてそれをどこまで気にするの・・・?それはすべて宮地さんの性格次第・・・。伸男がなかなか2人の関係を公にしてくれないことに、宮地さんがイライラしていたのは当然。今日宮地さんは伸男の家に上がり込んでいた。そして民男の帰りは遅いらしいのだが、伸男は宮地さんを抱きしめてこない。それは一体なぜ・・・?実は、それは現在神埼家に起きている前述の怪奇現象が気になっているためなのだが、自分に気持を集中しない伸男に対して宮地さんのイライラがつのったのは当然。
そんな2人の乱れた愛欲関係(?)を天井裏の穴から覗いていたのは透だったが、ある日離れの診療所に近所の老人たちを集めて、何やら怪しげな集会(?)を開いている透を発見した宮地さんは、なぜかその後透といい仲に・・・。きっとそれは、2人が共に「日陰モノ」扱いされている者特有の臭いを感じとり、互いの人生に共鳴したためだが、これによって、以降宮地さんの伸男に対する態度が冷たくなったのは当然。
ところが、そんな事情を全く知らないのが伸男。最近会社を欠勤がちだし、顔を合わせても冷たい態度の宮地さんに対して、どう対応したらいいのかわからず、右往左往する伸男の姿はいかにも惨め。ある日、民男はそんな宮地さんと透の関係をすべて知ってしまったが、それを父親に打ち明ける勇気は到底なし。そのため、久しぶりの焼肉屋での父子2人の会話がかみ合わなかったのは仕方ないところ・・・。
宮地さんが伸男から透に乗り換えること自体は非難されることではないが、そんな宮地さん役を大竹しのぶがやると、女の意地悪さがリアルに浮かびあがるだけに、大ショック。つまり、大竹しのぶの演技力によって、宮地さんの行動により説得力が・・・。
<遂に大安吉日が・・・>
今年6月7日の伸男の誕生日は実に盛りだくさん。すなわち、①伸男による宮地さんとの食事のための料亭の予約、②宮地さんによるそのドタキャン、③送別会にいる瞳からの思いがけない伸男への電話、④料亭での瞳からの思いがけないネクタイのプレゼント、⑤帰宅後、民男から「できすぎじゃない?」との軽口とともにネクタイピンのプレゼント、等々・・・。これらの名シーンは、映画後半のハイライトだから、じっくり鑑賞してもらいたいものだ。
そして、それが過ぎた大安吉日の今日は、遂に民男と瞳のウェディングの日。岩松了脚本の不穏な仕掛けは、その出席者を見れば明らか。伸男の会社の社長さんたちが出席するのは当然だが、宮地さんクラスまで出席させる必要はないのでは・・・?また、透おじさんの出席は不可欠だが、何も宮地さんと並んで座らなくてもいいのでは・・・?さらにビックリしたのは、宗形さんの出席。なぜ、民男と無関係な伸男の昔の愛人が出席しているの・・・?ウェディング直前に展開されるこれらの人間模様は、芸達者な俳優たちが演じるだけに迫力満点だ。
今ドキの結婚式は教会方式がほとんどだが、そこでは神父サマによる結婚の誓約が必要。つまり、「病める時も、健やかなる時も、妻を愛するか?」という紋切り型の質問。通常は誰もあまり真剣に考えないまま(?)、「愛します」と答えるのだが、さて民男は・・・?
<映画史上に残る名ラストシーンあれこれ>
映画史上に残る名ラストシーンはたくさんある。その代表は例えば、ハンフリー・ボガート主演の『カサブランカ』(42年)の「君の瞳に乾杯!」の決めゼリフ。また、『風と共に去りぬ』(39年)の前篇ラストでの「2度と家族にひもじい思いをさせません。そのためにはうそもつき、盗み、騙し、人も殺すでしょう。神様に誓います。2度と飢えに泣きません」とタラの大地に誓うスカーレット・オハラの姿も強烈だった。また私には、ゲイリー・クーパーとイングリッド・バーグマンが共演した『誰が為に鐘は鳴る』(43年)のラストに登場する、「国のためでもなく、共和制のためでもなく、マリアのために」と心の中で叫びながら、銃を撃ち続けるゲイリー・クーパーのシーンが強く記憶に残っている。
他方、1970年代のハリウッド映画を代表する名ラストシーンは、『卒業』(67年)に登場した、ダスティン・ホフマン扮するベンジャミンがキャサリン・ロス扮する花嫁エレーヌを教会の結婚式場から奪っていくあのシーン。
なぜ、ここにこんなことを書いているのか、それは『たみおのしあわせ』を観ていない人にはサッパリわからないかも・・・?数々の映画史上に残る名ラストシーンは、『たみおのしあわせ』と一体どんな関係が・・・?それはあなた自身の目で・・・。そして、アッと驚くこの映画のラストシーンについての、あなたの賛否は・・・?
2008(平成20)年5月24日記