コレラの時代の愛(アメリカ映画・2007年) |
<GAGA試写室>
2008年7月14日鑑賞
2008年7月15日記
ノーベル文学賞の傑作が遂に映画化。そう聞き、感動的な一大叙事詩を期待したが・・・?初恋の女性を待つこと、51年9ヶ月と4日。そして、「もう一度、君に誓おう。揺るぎない永遠の貞操と、変わらぬ愛を」とアピールしたが、その返答は・・・?20代から72歳までを演ずるイタリアの美女に注目だが、76歳と72歳の初エッチは、いくら後期高齢者を元気づけるとはいえ、どうもイマイチ・・・?
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監督:マイク・ニューウェル
原作:ガブリエル・ガルシア=マルケス『コレラの時代の愛』(新潮社刊)
フロレンティーノ・アリーサ(電報配達員)/ハビエル・バルデム
フロレンティーノ・アリーサ(10代)/ウナクス・ウガルデ
フェルミーナ・ダーサ(令嬢)/ジョヴァンナ・メッツォジョルノ
フベナル・ウルビーノ(医師、フェルミーナの夫)/ベンジャミン・ブラット
ヒルデブランダ・サンチェス(フェルミーナの友人の女性)/カタリーナ・サンディノ・モレノ
ドン・レオ(カリブ河川運輸会社社長、フロレンティーノの叔父)/ヘクター・エリゾンド
ロタリオ・サーゴット/リーヴ・シュレイバー
トランシト・アリーサ(フロレンティーノの母親)/フェルナンダ・モンテネグロ
サラ・ノリエガ(フロレンティーノが恋した人妻)/ローラ・ハリング
ロレンソ・ダーサ(フェルミーナの父親、ラバ商人)/ジョン・レグイザモ
アメリカ・ヴィクーニャ(フロレンティーノの恋人、学生)/マルセラ・マール
2007年・アメリカ映画・137分
配給/ギャガ・コミュニケーションズ
<一大叙事詩の映画化だが・・・>
チラシによると、この映画は「ノーベル文学賞作家ガルシア=マルケスの代表作『百年の孤独』と肩を並べ、“世界傑作文学100選”に選ばれた名作『コレラの時代の愛』を、マイク・ニューウェル監督が満を持して映画化したもの」。また『コレラの時代の愛』は、「19世紀後半から20世紀にかけ、激化する内戦とコレラの蔓延に揺れるコロンビアを舞台に、半世紀にわたり『待つ』ことで想いを貫いた男の、愛と人生を描く壮大なる物語」。したがって、これは壮大な一大叙事詩を映画化した感動作、と予測したのだが、結果は残念。
「51年9ヶ月と4日、男は待ち続けた」というキーフレーズからわかるように、男フロレンティーノ・アリーサ(ハビエル・バルデム)は、女フェルミーナ・ダーサ(ジョヴァンナ・メッツォジョルノ)を半世紀以上想い続けるのだが、どうもその設定自体、そしてまた男の想い方自体に違和感が・・・。
<時代は19世紀末>
つい先日、21世紀を迎えたと思っていたが、既にそれから8年。時が経つのは早いものだ。また、6月28日から松田聖子+中島みゆきの異色コンビによる富士フイルムのスキンケア化粧品「ASTALIFT(アスタリフト)」のコマーシャルがオンエアされたが、そこで聖子ちゃんが口ずさむのは中島みゆきの1975年のヒット曲『時代』。
しかして、この映画で提示される「新世紀」とは20世紀のこと。つまり、この映画が描くフロレンティーノとフェルミーナの運命的な出会いは19世紀末という時代状況なのだ。
<舞台はコロンビアのカルタヘナ>
10代のフロレンティーノ(ウナクス・ウガルデ)が今、母親のトランシト(フェルナンダ・モンテネグロ)と共に住んでいるのは、1810年にスペインから独立したコロンビア共和国のカルタヘナというところ。電報を届けた時に一目惚れしてしまったフェルミーナに対してフロレンティーノが届けたラブレターは十分効果があったが、それを父親のロレンソ(ジョン・レグイザモ)に発見されたことによって、フェルミーナは奥地に住む親戚の家に隔離されてしまうことに。つまり、フロレンティーノはしがない電報配達員だったから、宝物のような美人の娘は絶対金持ちに嫁がせると決意していたロレンソが、彼を結婚相手として認めなかったのは当然。
もっとも、19世紀末の電報は、現在の国際通話可能なケータイやメールと同じような「すぐれもの」だったから、その奥地にもフロレンティーノからの電報が届いていたようだ。ちなみに、その奥地に住むフェルミーナと同年代の美女ヒルデブランダ(カタリーナ・サンディノ・モレノ)の恋愛相手は妻子ある男性ということだったが、さてその行く末は・・・?それも映画の後半に少し紹介されるから、フロレンティーノとフェルミーナの純愛の行方とは別のストーリーとして少しは注目を。
<イタリアの美女が20代から72歳まで>
フロレンティーノが一目見た瞬間に惚れてしまった女性フェルミーナを演ずるのは、私が今回はじめて観た1974年生まれのイタリアの美女ジョヴァンナ・メッツォジョルノ。フロレンティーノからのラブレターによる猛烈なアプローチにクラクラとなったフェルミーナに対する、バルコニーでの結婚の申込みシーンは、まるで『ロミオとジュリエット』を観ているような魅力がいっぱい。しかし、父親の猛反対、フベナル・ウルビーノ医師(ベンジャミン・ブラット)との出会い、ウルビーノからの熱烈な求婚によって、フェルミーナは意外にすんなりウルビーノとの結婚に傾いていった。そして以降、ウルビーノがある事故によって死亡するまでずっとウルビーノを愛し続けることになるから、オンナ心は微妙。
フェルミーナを演ずるジョヴァンナ・メッツォジョルノは芸達者なところを見せるが、やはり輝くように美しい20代のフェルミーナから、年老いた72歳のフェルミーナまでを1人の女優が演じるのは、私の目にはムリがある。
もっとも、コレラにかかったのではないかと心配して往診に訪れたウルビーノ医師が、診察のために素早く開いた時にハッキリと見えた胸の美しさには、私もウルビーノと共にうっとり・・・。しかし、51年9ヶ月と4日後、再び始まったフロレンティーノとの交際の中、はじめて行き着くところまで行ったところで見せる72歳のフェルミーナの胸や腹は・・・?こりゃ、あまり見たくなかったというのが正直な気持だが、こんなところまで見せなければならない女優は大変・・・。
<フロレンティーノの「純愛」には違和感が・・・>
10代のフロレンティーノが、フェルミーナに一目惚れしたというのはよくある話。また、そんな「王冠を戴く女神」に対して一生純愛を捧げると決意したのもよくある話。そのため、売春宿に案内されても女を相手にしないというフロレンティーノの行動は立派。しかし、ある日、あるところで見知らぬ女との初エッチを経験した後、フロレンティーノは女たちとのセックスにはまっている間だけフェルミーナを失った悲しみを忘れることができることを知り、以降女たちとのエッチの様子を日記に書き綴っていくことに。
そんなことが可能になったのは富と名声のおかげ・・・?すなわち、フロレンティーノの亡き父の弟である叔父のドン・レオ(ヘクター・エリゾンド)はカリブ河川運輸会社の社長をしていたから、ドン・レオ死亡後フロレンティーノは社長の地位を引き継ぐことになったため、富と名声を十分備えることに。そして、ずっと待っていたフェルミーナの夫が死亡する日まで、その時間は51年9ヶ月と4日が経っていたが、その間フロレンティーノがエッチした女性の数は何と622人!
プレスシートにある齋藤薫氏の「“狂気の愛”は、なぜかくも人を心地よくさせるのか?」は、そこらあたりの「事情」をうまく解説しているが、誰が見てもそんな「純愛」には違和感があるのは当然。そのため、岡本太陽氏の「米映画批評」では、「この映画は非常にひどい出来だったのである」「その描き方が最悪だ」等ボロクソで、採点は何と20点!またそこには、「現に私が観ていた時には、観客が席を立ち『これは見れない』と言いながら去っていった」と書かれていたが、私が観た試写室の中でも失笑気味の笑い声が・・・。
<『トム・ジョーンズの華麗な冒険』+『猟人日記』>
この映画に違和感を覚えるのは、フロレンティーノがフェルミーナに純愛を捧げたと言いつつ、たくさんの女性と恋愛遍歴を重ねること。ウルビーノが死亡したことを知った時、フロレンティーノと一緒にベッドの中にいたのは、何と50歳ほど年の違う留学生のアメリカ・ヴィクーニャ(マルセラ・マール)だ。
その前にも、フロレンティーノは人妻のサラ・ノリエガ(ローラ・ハリング)とゾッコンになったこともあった。そして、毎日のようにエッチをくり返していたが、それが亭主にバレたため、「バレたら殺されるワ」と口グセのように言っていたとおり、サラは喉を掻っ切られて死んでしまったから、フロレンティーノは罪な男・・・?また、内戦に揺れるコロンビアの時代、砲弾が飛び交う中、夫を失った未亡人が母親トランシトを頼ってやってくる中、トランシトの策略(?)もあって2人はいい仲に。
その他、フロレンティーノの女にかけての武勇伝はいっぱいで、その様子はまるでヘンリー・フィールディングの原作をトニー・リチャードソン監督が映画化した『トム・ジョーンズの華麗な冒険』(63年)のよう・・・?また、はじめて童貞を喪失した後、筆まめなフロレンティーノはフェルミーナへの想いを胸に秘めながら、女性との情事の様子を克明にメモしていたから、こりゃ戸川昌子の原作を中平康監督が映画化した『猟人日記』(64年)のようなもの。
これではいくらフロレンティーノが「もう一度、君に誓おう。揺るぎない永遠の貞操と、変わらぬ愛を」とアピールしても、あまりに説得力がないと思うのだが・・・。
<あのアカデミー賞助演男優賞俳優が・・・>
2007年の第80回アカデミー賞作品賞にノミネートされたのは、『ノーカントリー』(07年)、『つぐない』(07年)、『JUNO/ジュノ』(07年)、『フィクサー』(07年)、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(07年)だったが、その特徴は、坂和流表現では「地味!暗い!でも、すばらしい!」だった。そんな激戦の中、監督賞、作品賞、助演男優賞、脚色賞の最多4部門を受賞したのが『ノーカントリー』、そして助演男優賞を受賞したのが、スペイン生まれのハビエル・バルデムだ。
このハビエル・バルデムは『海を飛ぶ夢』(04年)でもすごい役を演じていた(『シネマルーム7』197頁参照)が、『コレラの時代の愛』では20代から76歳までを演じている。しかも、「王冠を戴く女神」フェルミーナに対して一生純愛を捧げると言いつつ(いや、そうだからこそ)、622人の女性とエッチし続け、叔父さんのドン・レオから「お前は女好きだった父親と同じだ」と評されたフロレンティーノ役を演ずるのだから大変。
ちなみに、岡本太陽氏の「米映画批評」では、「フェルミーナを想いながらもマザコンでセックス中毒の気持ち悪いおっさんになってしまう。600人以上と経験があると言っていた。それはそれでハビエル・バルデムが演じるとハマるが」と書いているが、それに続いて「また性描写も好ましくなかった。官能さ全くなく、ただただ滑稽なだけだ。おそらく少々コメディタッチを狙っているところもあるのだろうが、笑うどころか失笑してしまう性描写になっている」と酷評されている。さて、この映画のハビエル・バルデムについてのあなたの評価は・・・?
<後期高齢者もこれくらいの元気を!>
7月7日~9日の洞爺湖サミットを何とか無事乗り切ったものの、福田内閣の支持率が伸びないのは、評判の悪い後期高齢者医療制度に対する国民特に後期高齢者の反発が強いため。しかし、51年9ヶ月と4日もひたすら愛するフェルミーナを待ち続け、夫が死亡したとみるや直ちに家に駆けつけて、夫の葬儀を終えたばかりのフェルミーナに対して、「もう一度、君に誓おう。揺るぎない永遠の貞操と、変わらぬ愛を」とアピールし、「出ていって!」というフェルミーナの怒りの声を聞いてもなお、フェルミーナへのアプローチを続ける76歳のフロレンティーノはご立派。
この映画は2時間17分と長いが、後半40分くらいはフロレンティーノがフェルミーナから罵声を浴びた後の老いらくの恋の展開模様が描かれるから、特に後期高齢者はそれに注目!そして、この映画を観ていると「女は押しに弱い動物」ということがよくわかる。フロレンティーノに対して「Get out!」と叫んだフェルミーナだったが、その後の度重なるフロレンティーノからのアプローチに対して、フェルミーナは次第に心を開いていくからビックリ。しかもそれは、「お母さんはいやらしい」と反発するフェルミーナの娘に対して絶縁宣言を下してまでの行動だからすごい。
さらに、私(たち)がビックリするのは、76歳という後期高齢者に仲間入りしたフロレンティーノが、72歳のおばあさんになったフェルミーナとカリブ河を運航する船のスウィートルームではじめて結ばれる(?)シーン。「後期高齢者の切り捨て反対!」「老人に死ねということか!」などと文句ばかり言う前に、後期高齢者のあなたもフロレンティーノを見習って、これくらいの元気を発揮してみては・・・。そうすれば、低迷ニッポン、落ち目の日本国も急激に上昇気流に乗れるのでは・・・?
2008(平成20)年7月15日記