ダークナイト(アメリカ映画・2008年) |
<梅田ピカデリー>
2008年8月10日鑑賞
2008年8月11日記
「ダークナイト」がバットマンとは!バットマンは正義の味方、アメコミのヒーローではなかったの・・・?クリストファー・ノーラン監督が描くそんな異色な「ヒーロー」も興味深いが、この映画の目玉は最凶のキャラ、ジョーカーの登場!ゴッサム・シティーの市民を巻き込んだジョーカーの暴走に、バットマンと地方検事デントそしてゴードン警部補はタジタジだが・・・?この映画を観れば、単純なホワイトナイト待望論のバカバカしさが明白に・・・?
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監督・原案・脚本・製作:クリストファー・ノーラン
ブルース・ウェイン(バットマン、ウェイン・エンタープライズ会長)/クリスチャン・ベール
ハービー・デント(地方検事、レイチェルの新恋人)/アーロン・エッカート
ジョーカー(最凶の怪人)/ヒース・レジャー
ジム・ゴードン(ゴッサム市警の警部補)/ゲイリー・オールドマン
レイチェル・ドーズ(ブルースの元恋人、地方検事補)/マギー・ギレンホール
アルフレッド(ウェイン家の執事)/マイケル・ケイン
ルーシャス・フォックス(ウェイン・エンタープライズの現社長)/モーガン・フリーマン
2008年・アメリカ映画・152分
配給/ワーナー・ブラザース映画
<まず、クリストファー・ノーラン監督に注目!>
『ダークナイト』を監督したのは、前作の『バットマン ビギンズ』(05年)に続いてクリストファー・ノーラン。私は彼の監督作品として『バットマン ビギンズ』の他、『インソムニア』(02年)と『プレステージ』(06年)を観ている。
バットマンの誕生物語に光をあてた『バットマン ビギンズ』は、渡辺謙の出来がイマイチだったこともあり、星3つだった(『シネマルーム8』127頁参照)。しかし、不眠症(インソムニア)の敏腕刑事(アル・パチーノ)と殺人犯(ロビン・ウィリアムズ)そして新米女性刑事(ヒラリー・スワンク)という三大アカデミー賞スターが競演した犯人捜しの映画『インソムニア』は星4つ(『シネマルーム2』197頁参照)。また、2人の天才マジシャンの対決を軸として、瞬間移動と新瞬間移動のトリックに観客の目をクギづけにした『プレステージ』は星5つ(『シネマルーム13』317頁参照)と高得点だった。さて、そんなクリストファー・ノーラン監督が再びメガホンをとったバットマン映画は・・・?
<ひとりわが道を行く、ノーラン路線>
クリストファー・ノーラン監督が厳しいハリウッドの映画界の中にあって、再び『バットマン』シリーズの監督・原案・脚本・製作をすることになったのは、前作が曲がりなりにも(?)大ヒットしたため。アメリカの「コミックもの」として、『スパイダーマン』や『ハルク』そして9月27日に公開される『アイアンマン』などが根強い人気をもっているが、それは『バットマン』も同じ。しかし、クリストファー・ノーラン監督が描く「バットマン」が他のキャラと大きく異なるのは、日本で言えば『月光仮面』のような単純明快な正義の味方、ヒーローではないことだ。
『バットマン ビギンズ』でもその傾向がはっきり見えていたが、『ダークナイト』では『バットマン』というタイトルすら使われていないばかりか、バットマンはダークナイト=暗黒の騎士、つまり暗黒の世界を守る騎士という位置づけ。別にそれはそれで悪くはないのだが、興味深いのはこの映画で新たに最凶の悪党として登場したジョーカー(ヒース・レジャー)がダークナイトとしてのバットマンに敵対心とともに奇妙な同質感(=仲間意識?)を持っていること。つまり、ひとりわが道を行くノーラン監督が描くバットマンは、過去のハリウッドのヒーローものとは明らかに異質なキャラであることに注目!
<ホワイトナイトとは?>
ホリエモンこと堀江貴文や村上ファンドの村上世彰が大活躍していた2、3年前の日本は、株式の買い取り、企業の買収をめぐって、「ホワイトナイト」という言葉がよく登場していた。このホワイトナイト=白馬の騎士とは、少女マンガによく登場する、悪の魔の手から美しいお姫サマを守るカッコいい王子サマというイメージどおり、札束にまかせて企業を乗っ取ろうとする買収者から企業を守る救済者という意味で使われていたが、さてその実態は・・・?
ノーラン路線において、バットマンを必ずしもゴッサム・シティーのまちを犯罪から守ってくれる正義の味方=ヒーローではないとするのは、バットマンが自分だけの判断基準で善と悪を仕分けし、自分の勝手なやり方で悪を退治するのは「ならず者の自警市民」だという考え方によるもの。しかも、バットマンが登場するのは決まって夜だし、自分の顔は隠したまま。それでは法律は必要ないの?警察は必要ないの?すべてバットマンの善悪の判断に委ねればいいの?と反バットマン派は主張するわけだ。
すると、バットマンにはホワイトナイトになる資格はないの・・・?
<真のヒーローは?>
今そんな声がゴッサム・シティーの市民の間に広まってきたのは、選挙で選ばれた新任の地方検事ハービー・デント(アーロン・エッカート)がゴッサム・シティーに赴任し、法律を武器とした犯罪の撲滅を誓って活動を開始したため。多くの市民たちからホワイトナイトと呼ばれる彼こそまさに素顔のヒーローであり、真のヒーローなのでは・・・?
巨大企業の会長をしているブルース・ウェイン(クリスチャン・ベール)とかつて愛し合っていた恋人のレイチェル・ドーズ(マギー・ギレンホール)も、ブルースが永久にバットマンの役割から逃れられないと考えた後は、ハービー・デントの恋人兼地方検事補として、ハービー・デントと常に行動を共にしていた。そんな中、バットマンは恋の道でも主役をハービー・デントに譲り、悪人退治でも真のヒーローをハービー・デントに譲ろうと真剣に考えていたが・・・。
<どちらが主役?ヒース・レジャーに注目!>
バットマン映画である以上、クリスチャン・ベール演ずるバットマンが主役のはずだが、誰がどう見てもその主役を食っているのが、白塗りの顔に耳まで裂けた赤い口という奇妙なメイクをした、史上「最凶」の極悪非道なキャラを持ったジョーカー。
李安(アン・リー)監督の『ブロークバック・マウンテン』(05年)でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされたことによって、一躍世界から注目されたのがヒース・レジャー。そのヒース・レジャーが、男同士の同性愛に悩む繊細なカウボーイ役とは全然違うジョーカー役に素顔を完全に隠したまま挑んだが、それはまさに「怪演」と言うにふさわしい出来。こんな風に、完全に主役のバットマンを食ってしまったジョーカー役を演じたヒース・レジャーが、撮影後死亡してしまったのは何とも残念。合掌。
<ジョーカーが迫る二者択一とは?>
ジョーカーが犯罪に走るのは、カネのためなどという理由や動機は全くなく、退屈を紛らわすため、あるいは楽しみのためというから困ったもの。平和を蔑み、愛を嘲笑い、破滅してゆく世界を見ることだけに唯一の悦びを感じる男ジョーカーにとっては、顔を隠したバットマンが、夜の闇に紛れて正義ヅラをして大活躍しているのが何よりも気に入らないようだ。そこで、ジョーカーはバットマンに対して「顔を見せろ!」と迫り、その問題点を明らかにするため、過酷な二者択一を迫ることに。
2005年の9月11日に小泉元首相が衆議院解散=総選挙を断行して国民に迫ったのは、郵政民営化は是か非かというワンイッシュに絞った二者択一。そして、国民が選択したのは、小泉改革に衆議院の3分の2の圧倒的多数の議席を与えるというものだった。ところが、ジョーカーがゴッサム・シティーの市民に迫った二者択一の選択は、それ以上に何とも過酷なものだった。その第1はバットマンの素顔か、市民の命か、第2はハービーの命か、レイチェルの命か、第3は弁護士の命か、病院の爆破か、第4は一般市民の命か、囚人の命かだが、その詳細はあなた自身の目で。
ちなみに、ゴッサム・シティーの市民に対して明確に論点を示しながら二者択一を迫る『ダークナイト』でのジョーカーの手法は、大阪府政における橋下徹知事の手法と同じ・・・?
<デントのトゥーフェイスへの転落は?>
この映画は主役を競うキャラが多い。その第1は明らかに主役を食っているジョーカーだが、ゴッサム・シティーのホワイトナイトとして登場する地方検事デントもその候補者の1人。もっとも、デントは「自警市民はまちの英雄だ」「ゴッサム・シティーはバットマンに託す」とバットマンの自警市民としての役割を最大限評価しているから、バットマンとデントとの関係は良好。
そんなデントの真骨頂は、「バットマンは顔を見せろ!」「マスクを脱いでその正体を見せるまで、毎日市民を殺す」と宣言し、①一般市民、②市警本部長、③判事と次々と殺害し、次のターゲットを市長としたジョーカーに対して、なかなか顔を見せる決心がつかないバットマンに代わって、デントが「俺がバットマンだ」と告白してお縄につくところ。デントのそんな正義漢ぶりにレイチェルも惚れたわけだが、そんなホワイトナイト役のデントがある日を境に、トゥーフェイスとなったのは一体ナゼ・・・?
トゥーフェイスとは、デントの右の顔と左の顔が全く違うことになったことを指すのだが、あのハンサムだったデントの左の顔半分が焼けただれた醜い姿になったのは一体ナゼ・・・?また、そんなデントがジョーカーの言葉に乗り、ジョーカーの協力者に変身したのは一体ナゼ・・・?私の目には、それこそがデントのようなエリート検事そしてホワイトナイトともてはやされた男の弱さ、と映ったが・・・。
<警察の腐敗と裏切りは、ゴッサム・シティーでも・・・>
もう1人本来脇役だが、バットマンやデントと同等の重要な役割(?)を演ずるのが、腐敗や裏切りいっぱいのゴッサム市警の中でただ1人バットマンが信頼している警部補のゴードン(ゲイリー・オールドマン)。法律を武器にした地方検事のデントと権力の象徴たる警察で活躍する警部補のゴードンはゴッサム・シティーを守る表の存在だが、その2人が裏の存在で、夜の最強の自警市民たるバットマンと連携して悪に立ち向かえば、コトは万全。
誰しもそう思うのだが、それを上回る凶悪犯がジョーカーであったうえ、ゴッサム市警内部に腐敗と裏切りが蔓延していたことが大問題。そのため、デントやゴードンの立てた作戦はいつもジョーカーにお見通しとされていたため、いつも最悪の結果となった。そして、デントはトゥーフェイスにさせられたうえ、ゴードンもトゥーフェイスに変身したデントによって、愛する妻や息子の命が風前の灯となることに・・・。
ゴードンが警部補から市警本部長へ大出世することができたのは、もちろん結果オーライとなったためだが、そんな逆境をゴードンはいかなる方法で乗り越えたのだろうか・・・?
<メカの好きな人はバットポッドに注目!>
『007』シリーズが始まったのは1962年の『007 ドクター・ノオ』からだが、第2作『007 ロシアより愛をこめて』(63年)がシリーズ最高傑作・・・?また、『007』シリーズの売りが①ボンドガールと②度肝を抜く最新メカとして定着したのは、第3作『007 ゴールドフィンガー』(64年)あたりから・・・?ちなみに、日本女性はボンドガールにはとても無理という常識を覆し、長身で足長そして超ボインという条件を満たしたのが、『007は2度死ぬ』(67年)で日本人初のボンドガールとなった浜美枝。
これに対し、『バットマン』に登場する美女が昔はブルースの、そして今はデントの恋人であるレイチェル1人だけというのは少しさびしい(?)が、最新メカという点では『バットマン』シリーズは『007』シリーズに負けていない。そんな観点から『バットマン』シリーズを観ている人にとって『ダークナイト』の注目点は、①大きく改良されたバットスーツ、②“タンブラー”という愛称がつけられた戦車まがいのスポーツカーであるバットモービル、そして③バットモービルが破壊された後にそこから再生(?)してくる、アッと驚く二輪車としてのバットポッド。さて、その形態と機能とは・・・?
私はあまりこの手のメカに興味はないが、そういう方面が大好きな若者はきっと楽しいはず。
2008(平成20)年8月11日記