インクレディブル・ハルク(アメリカ映画・2008年) |
<ソニー・ピクチャーズ試写室>
2008年7月17日鑑賞
2008年7月19日記
同じ“ハルク”を描いても、ハルクの人間味に焦点をあてたアン・リー版(03年)と、アクション巨編となった(?)ルイ・レテリエ版は大違い!とはいっても、恋人間の葛藤、父娘間の確執は不可欠の要素だから、お見逃しなく・・・。ちなみに、『ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一発』(08年)におけるギララVSタケ魔人の対決と比較しながら、ハルクVSアポミネーションの対決を堪能するのも、真夏の趣向として面白いのでは・・・?
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監督:ルイ・レテリエ
ブルース・バナー博士(ハルク)/エドワード・ノートン
ベティ・ロス(ブルースの元恋人)/リヴ・タイラー
エミル・ブロンスキー(特殊部隊の精鋭兵士、アポミネーション)/ティム・ロス
サンダーボルト・ロス(将軍、ベティの父親)/ウィリアム・ハート
サミュエル・スターンズ(大学教授、ミスター・ブルー)/ティム・ブレイク・ネルソン
レナード(医師、ベティの今の恋人)/タイ・バーレル
2008年・アメリカ映画・112分
配給/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
<同じ『ハルク』でも、こんなに違うとは・・・?>
李安(アン・リー)監督の『ハルク』(03年)は、前半はかなり緊張感とリアリティのあるサイエンス物語であったのに対し、後半の「ハルク」登場以降は突然マンガ性が突出してしまうものだったが、私は「でも、まあ仕方ない」としたうえ、採点は星4つと意外に甘かった(『シネマルーム3』107頁参照)。それは、子供時代にアメコミ誌を読んで育ったわけではない台湾出身のアン・リー監督らしく、人間らしいやさしい「ハルク」を描いたことに共感を覚えたため・・・?しかし、ネット情報によると、「アン・リー監督の『ハルク』はコミック映画の頂点の頃に公開され、興行的にはさほど低くなかったのですが、ねじれた父子関係をテーマの中心に据えており、観客からは『長い』『テーマが重い』『娯楽性がない』と酷評されたために失敗作とみなされています」とのことだ。
これに対して、『インクレディブル・ハルク』のルイ・レテリエ監督は『トランスポーター』(02年)で監督デビューし、続編『トランスポーター2』(05年)が全米で初登場ナンバーワン・ヒットとなり、注目を集めた監督。また、原案・脚本は、『X-MEN2』(03年)、『エレクトラ』(05年)、『X-MEN:ファイナル・ディシジョン』(06年)のザック・ペンだから、ルイ・レテリエ版のテイストがアン・リー版と全く異なるものになったのは当然。
しかして、『インクレディブル・ハルク』は恋愛模様や人間の苦悩はサラリと描くだけとし、メインは、アクション、アクション、またアクションに。
<ハルクを演ずるのは?>
“ハルク”は当の本人ブルース・バナー博士がハルクになることを望んでいるわけではないところがミソ。しかし、“ハルク”はマーベル・コミックのヒーローとして登場した1962年5月以降、45年間以上一貫してアメリカ人から愛されてきたキャラだから、その映画化にあたっては、ビッグネームの起用が常識。ところが、アン・リー版ハルクを演じたエリック・バナも、これが初主演だった。
そして、ルイ・レテリエ版ハルクを演じたエドワード・ノートンも、私が観た『レッド・ドラゴン』(02年)(『シネマルーム3』229頁参照)、『ミニミニ大作戦』(03年)(『シネマルーム3』300頁参照)、『キングダム・オブ・ヘブン』(05年)(『シネマルーム7』34頁参照)では、2番手、3番手としての登場だったし、近時彼が主演した秀作『幻影師 アイゼンハイム』(06年)は、メジャーではなくインディペンデント作品だった。なぜ、ルイ・レテリエ監督はそんな地味系(?)のエドワード・ノートンをハルク役に起用したの・・・?それが興味あるところだ。
アン・リー版ハルクとの作品比較と、ルイ・レテリエ版ハルクのキャスティングについては、『キネマ旬報』8月上旬号において、黒田邦雄氏が「エドワード・ノートン、ティム・ロス、ウィリアム・ハート 個性派名優の競演は、なぜ必要だったのか!」というタイトルで興味深い解説をしてくれているので、是非それを勉強してもらいたい。
<インクレディブルとは?>
あなたは「インクレディブル」の意味を知ってる・・・?国語とともに英語教育のレベルも低下している今の日本では、残念ながらその意味がわからない人が半分いるのでは・・・?これは「incredible」で、「unbelievable」と同じ「信じられない」という形容詞。生身の人間がある条件を与えられ、ある状態になればハルクに「化ける」というのは大変なこと。しかし、ハルクという緑色の怪物がなぜ生まれたのか?それは“ハルク”ファンなら誰でもよく知っているはず。したがって、一体何が「インクレディブル」なの・・・?
そんなことを考えながら、この映画をじっくり観てもらいたい。そうすれば、前述の黒田氏が「“インクレディブル”も伊達についた冠ではない!」と強調していることにも、合点がいくはずだ。
<ハルクの造形を考える>
7月16日に観た『赤んぼ少女』(07年)では、「赤んぼモンスター」タマミの造形が勝負だったが、それはアン・リー版ハルクでもルイ・レテリエ版ハルクでも同じ。もっとも、アン・リー版もルイ・レテリエ版も緑を基調としたハルクの造形はほぼ同じだから、その好き嫌いは人それぞれ。またアン・リー版ハルクは、身長210cm、体重450kgという初期設定だが、怒りの感情が増幅されるたびにその身体が大きくなり、またパワーもアップされるから、身長・体重のデータはあいまい・・・?
他方、ルイ・レテリエ版ハルクは、身長を2.7mと一定にした。それは、人間との関わり合いにおけるリアリティと、もう1人(1匹)登場するアポミネーションの身長を3.3mとハルクよりひと回り大きく設定したこととのバランスのため。また、アクションをメインとした『インクレディブル・ハルク』のクライマックスシーンは、ハルクとアポミネーションとの対決シーン。それはあたかも、『ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一発』(08年)において、怪獣ギララと洞爺湖の守り神タケ魔人との対決がクライマックスシーンだったのと同じだが、勝負の結果は「正義は勝つ」という点できっと同じ。さて、そんなアポミネーションとは何者・・・?
<アポミネーションとは?>
なぜ、ハルクが生まれたのか・・・?その科学的根拠はアン・リー版でもルイ・レテリエ版でも同じだから、それは各自勉強してもらいたい。ルイ・レテリエ版ではハルクに変身する身体を元に戻したいと願う主人公ブルース・バナーに対し、ハルクに挑戦するため自分もハルクと同じようなパワーを身につけたいと願うエミル・ブロンスキー(ティム・ロス)を登場させたのが、ストーリー展開の中核。
特殊部隊の精鋭兵士であるブロンスキーは、軍が極秘裏のうちに進めている“スーパー・ソルジャー計画”の責任者であるサンダーボルト・ロス将軍(ウィリアム・ハート)の命令に忠実にしたがってハルクを追いつめていくのだが、ハルクのパワーに魅了され、またハルクに痛めつけられた屈辱を覚え、スーパー・ソルジャー計画の人体実験に志願するという暴挙に!そんなことを考えたブロンスキーもブロンスキーなら、そんなヤバイ人体実験を承認したロス将軍もロス将軍。しかし、コトの善し悪しは別として、その結果登場したのが、ブロンスキーが変身したアポミネーションというわけだ。前述のように、身長で60cmもハルクを凌駕するアポミネーションは、一体何を目指して、どんな行動を・・・?また、ものすごいパワーを身につけたアポミネーションは、いつまでロス将軍の命令に従うの・・・?、
<ベティとの愛がハルクの力に・・・>
男にとって、愛する女性の後押しが大きな力になるのは当然。したがって、『インクレディブル・ハルク』においても、ブルースの恋人であり共同研究者だった細胞生物学博士のベティ・ロス(リヴ・タイラー)が、ハルクに対してどんな距離感で、いかなる役割を果たすのかが重要なポイントになる。アン・リー版ではベティ役をジェニファー・コネリーが演じていたが、ルイ・レテリエ版ではそれをリヴ・タイラーが演じている。彼女はロック・バンド、エアロスミスのフロントマン、スティーヴン・タイラーを父親に持つ女優で、『アルマゲドン』(98年)や『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズ(01年、02年、03年)(『シネマルーム1』29頁参照、『シネマルーム2』54頁参照、『シネマルーム4』44頁参照)、そして『再会の街で』(07年)(『シネマルーム16』224頁参照)で私も観ている大物女優だが、その印象度はイマイチ・・・?
ブルースがベティの前から姿を消して早や5年。なぜ、何も言わずに彼が姿を消したのかわからない彼女の現在の新しい恋人はレナード(タイ・バーレル)。彼はハンサムでユーモアのセンスもある医師だから、誰が見てもお似合いのカップル。すると、年齢的なことも考えればボチボチ結婚という状況のはず。そんな状況下、ある事情で5年ぶりに密かにアメリカに戻ったブルースが最初に訪れたのは、当然ベティのところ。ところが、そこでブルースが目撃したのは、レナードと仲むつまじく語り合うベティの姿だったから、ブルースは大ショック。こんなシーンを見ると、この映画のその後は悲恋モノ風展開になることも予想されるが、さて実際は・・・?
<父娘の確執の行方は?>
父親にとって、愛する一人娘が自分の宿敵と恋仲になるというのは最悪。ロス将軍にとって、ブルースと愛娘のベティがかつて恋仲にあったことは水に流すとして、再びその仲が復活することだけは何としても阻止したいもの。それなら、早く現在つき合っているレナード医師との結婚話を進めればいいのだが、それすらきちんとやっていなかったのは、仕事中毒人間ロス将軍が「父親失格」と言われても仕方のないところ・・・?
“スーパー・ソルジャー計画”の責任者であるロス将軍は、何としてもハルクを捕獲しなければならないが、職務に忠実であればあるほど、娘のベティはブルースを守ろうとするから、父娘の確執と離反は強まるばかり。さてロス将軍は、「職務をとるか、それとも娘をとるか」と問われたら、どう答えるのだろうか・・・?
そんなことを考えていると、遂にある時、ベティは父親に向かって「もうあなたを父親と思わない!」と絶縁宣言をするに至ったから、父娘の溝は決定的に。さて、この父娘の確執の行方は・・・?
<ハルク+アイアンマン=AVENGERS>
6月26日に観た『アイアンマン』(08年)は、字幕が流れ終わった後、明らかにパート2を予告するシーンが登場したが、『インクレディブル・ハルク』では、何と字幕終了後ロバート・ダウニーJR.扮する『アイアンマン』の主人公トニー・スタークが登場する。こりゃ一体ナニ・・・?
そこでプレスシートを確認すると、「マーベルではハルクやアイアンマンが連立して登場する“AVENGERS”の映画化プロジェクトを進行させているが、このシーンはそれに向けた布石となるかもしれない」とのこと。『アイアンマン』も、『インクレディブル・ハルク』も膨大な資金をつぎ込んで製作したのだから、その回収と次の企画が不可欠とは言え、映画製作で儲けるのはホントに大変・・・。とにもかくにも、ハリウッド映画製作者たちの商魂のたくましさに脱帽!
2008(平成20)年7月19日記