僕らのミライへ逆回転(アメリカ映画・2008年) |
<東宝試写室>
2008年8月11日鑑賞
2008年8月12日記
あの名作この名作の中身が消去されてしまったら、どうする?それなら、自分の手でリメイクすればいい。そう考えたのは「笑いの帝王」ジャック・ブラック。それを監督したのは「映像の鬼才」ミシェル・ゴンドリーだ。コメディタッチの中にも、都市再開発や著作権についての皮肉がチラリ、ホラリ。そして、映画とは何か?映画が与える感動とは何か?を考えさせるクライマックスもしっかりと!たまには、こんな映画で癒されてみては・・・。
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監督・脚本:ミシェル・ゴンドリー
ジェリー/ジャック・ブラック
マイク(レンタルビデオ店の店員、ジェリーの友人)/モス・デフ
フレッチャー(レンタルビデオ店のオーナー)/ダニー・グローヴァー
ファレヴィチ(レンタルビデオ店の常連客)/ミア・ファロー
アルマ(クリーニング店の店員)/メロニー・ディアス
子供1/マーカス・カール・フランクリン
ミス・ローソン(弁護士)/シガーニー・ウィーヴァー
2008年・アメリカ映画・101分
配給/東北新社
<最近よく見るジャック・ブラックがミシェル・ゴンドリー監督とコラボ!>
『ナチョ・リブレ 覆面の神様』(06年)は見逃したものの、私が08年6月9日に観た『テネイシャスD 運命のピックをさがせ!』(06年)や08年6月17日に観た『カンフー・パンダ』(08年)でしっかりその名を覚えたのが、「笑いの帝王」と呼ばれている個性派俳優ジャック・ブラック。そのジャック・ブラックが、フレッチャー店長(ダニー・グローヴァー)の経営するビデオショップで働く友だちのマイク(モス・デフ)と共に、名作・旧作映画の手作りリメイクで大活躍!
そんなストーリーをハチャメチャに面白く展開させたうえ、最後に感動的なクライマックスを用意したのは、『エターナル・サンシャイン』(04年)でアカデミー賞脚本賞を受賞したミシェル・ゴンドリー監督。ジャック・ブラックとミシェル・ゴンドリー監督がコラボを組んだこの映画は、08年のベルリン国際映画祭クロージング作品に選ばれて絶賛を浴びたらしいが、さてその出来は?
<おバカな展開は単なる導入部>
人間の身体が高度に電磁波を浴びたらどうなるの・・・?それはきっと医学的、科学的には大問題だろうが、映画の中では単なるギャグ・・・?フレッチャーの留守中、フレッチャーから店を任されたマイクは、「決してジェリーを店に入れるな」との忠告を守ろうとしたが、ついついおバカなジェリーが暴走する事件に巻き込まれていくことに。その結果起きたのは、発電所に忍び込み全身に強力な電磁波を浴びたジェリーのおかげで、店内の貸出し用のビデオの中身が全部消去されてしまうという大事件。これでは1本1ドルでレンタルしているビデオレンタル業が成り立たないことは明らかだ。
そんな中、常連の女性客ファレヴィチ(ミア・ファロー)が『ゴーストバスターズ』のビデオを借りに来たが、そこでジェリーが思いついたのが手づくりの『ゴーストバスターズ』を自分たちでつくること。どうせホンモノを観たことがないのだからバレることはない、と割り切れるジェリーの発想はお見事だが、それに平気で協力できるマイクの神経もお見事。ここまで観ていると、当初のおバカな展開は、名作・旧作映画のリメイクというテーマに観客を引っ張り込むためミシェル・ゴンドリー監督が考え出した単なる導入部。なるほど、そういう手も・・・?
<監督+主演男優の他に主演女優が必要>
『ゴーストバスターズ』の次の注文は、『ラッシュアワー2』。これには女優が必要だ。今や監督業に夢中のマイク、主演男優業に夢中のジェリーは、クリーニング店で働く女性アルマ(メロニー・ディアス)を緊急に女優としてスカウトすることに。
この3人による手づくりによる映画製作の様子は結構面白いうえ、私たちがビデオで撮影するテクニックを学ぶについて参考になることが多いから、バカにしないでしっかり鑑賞してもらいたい。
<手づくり映画製作が軌道に>
面白いのは、現実にはありえない話だろうが、ハリウッドの大作路線に飽き飽きしている地元の人たちに、3人の手づくり映画が受け入れられたこと。『ライオン・キング』『ロボコップ』『2001年宇宙の旅』等々客のリクエストが続くため、3人はその製作に大忙しだ。
そんな中、店に帰ってきたフレッチャーは、店の繁盛ぶりにビックリ。このまま売上げが伸びれば、まちの再開発のため役所から「6週間以内に屋根を改装しなければ、店を取り壊します」と最後通告を突きつけられていたフレッチャーとしても、改装代が支払えるかもしれない。そう考えたフレッチャーは、ジェリー、マイク、アルマと協力して、一層手づくり映画の製作に励むことに・・・。
<著作権をめぐるアメリカの実務は?>
いくらすばらしい北京五輪の開会式ができても、中国でビデオやDVDの海賊版が横行している姿をみると、とても法治国家、先進国と呼べないことは明らか。日本でも最近知的財産権の保護をめぐる議論が厳しくなっているが、アメリカはそれ以上。
こんな田舎のオンボロビデオショップで著作権を無視した映画製作(リメイク)がされているといううわさを聞いて駆けつけてきたのが、ハリウッドの映画会社の弁護士ミス・ローソン(シガーニー・ウィーヴァー)。日本と違ってアメリカの法的処理はスピーディー。裁判所の令状を示し説明しながら、ミス・ローソン弁護士はあれよあれよと言う間に、ジェリーたちが製作したビデオをすべて押収し、すべて廃棄処分に。「さすがアメリカ!」と感心したが、さてジェリーやマイクはこの苦境をどう克服していくの・・・?
<リメイクがダメならオリジナルで>
リメイクがダメならオリジナルで。それが、アイデアマンで何があってもへこたれないジェリーが新たに考え出した方向性。なるほど、そりゃそうだ。しかし、どんなテーマで、どんな映画を・・・?ここまでみんなの興味が一点に集中してくれば、しめたもの。幸いフレッチャーの説明によると、フレッチャーが経営するこのビデオ店は、1930年代に活躍した伝説のジャズ・ピアニスト、ファッツ・ウォーラーの生家。すると、そんな伝説のジャズ・ピアニストの生涯を描く感動作をオリジナルでつくれば・・・。
アメリカ人はナゼ何ゴトもこんな風に前向きにコトを考え進められるのか不思議だが、いったんこんな風にノリノリになると、話が早いのもアメリカ人。店の取り壊し期限はあと7日だが、それまでにファッツ・ウォーラーの伝記映画が見事完成するのだろうか・・・?製作費は町の人たちからカンパを集めるしかないが、日本では映画をつくるための資金をファンドで集めようとしても、なかなか集まらないのが実情。さて、都市再開発が進むこの田舎町では・・・?
<映画は誰のもの?映画が与える感動とは?>
ミシェル・ゴンドリー監督がジャック・ブラックとコラボを組んで製作したこの映画は、実はコメディではなく、人間の心を揺さぶる感動作・・・?そこまで言うとちょっと誇大宣伝だが、➀ファッツ・ウォーラーの生家だというビデオ店の保存かまちの開発かという、私のライフワークである都市問題の視点、➁町の人たちを顧客とした手づくりのリメイク映画でも、著作権に違反するのかどうかという現代的な法律問題、➂簡単な映像機器さえあれば、素人でもアイデア次第でそれなりの映画製作は可能だというメッセージ、など問題提起の幅は広い。
しかし、この映画が何よりも伝えたいことは、映画とは何か?映画が与える感動とは何か?ということ。前半のコメディ的で騒々しい雰囲気からは全然想像できないのが、完成映画の上映中に訪れる感動的なシーン。静かなバック音楽が流れる中、即席で張られた布地の上にプロジェクターで映し出される感動の映像とは・・・?
それを店の中で感慨深く鑑賞するのは、この映画製作に関わった人たちばかりだったが、何とその時、店の外では・・・!映画は誰のもの?映画が与える感動とは?というテーマが見事に集約された、このクライマックスシーンに感動したいものだ。
2008(平成20)年8月12日記