おろち(日本映画・2008年) |
<東映試写室>
2008年8月18日鑑賞
2008年8月20日記
楳図かずおが描いた30年以上も前の人気漫画『おろち』が映画化されるのは、今が「不安な時代」だから・・・?29歳になれば美が崩壊する、という血の宿命を持った美人姉妹の「内なる狂気」は興味津々・・・。『おろち』に扮する美少女谷村美月も予測できない、あっと驚く結末とは・・・?こんな映画を観ると、女の言葉は絶対に信用してはダメ、という哲学に一層磨きが・・・?
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監督:鶴田法男
原作:楳図かずお『おろち』(小学館刊)
門前葵(一草と理沙の母)、一草(かずさ)/木村佳乃
門前理沙(一草の妹)/中越典子
おろち、佳子(よしこ)/谷村美月
一草の恋人/山本太郎
執事/嶋田久作
2008年・日本映画・147分
配給/東映
<同じ原作でも大違い>
『おろち』は、私が08年7月16日に観た『赤んぼ少女』に続いて、漫画家楳図かずおの原作を映画化したもの。『赤んぼ少女』は1967年に『週刊少女フレンド』に連載された少女漫画だし、『おろち』は1969年から70年に『週刊少年サンデー』に連載された恐怖漫画だから、いずれも私の大学生時代の漫画。しかし当時も今も私は全然読んだことがない。
山口雄大が監督した『赤んぼ少女』は「ハッキリ言って時間の無駄・・・?」と書いてしまったが、『おろち』は星4つ。したがって、同じ漫画家の原作を映画化しても、監督によってその出来は大違い。
<9つのストーリーから2つを抽出>
原作の『おろち』は、歳をとることがなく、かつ謎の能力をもった美少女おろちが、さまざまな運命に翻弄される人間たちを見つめていくオムニバス形式の物語で、9つのストーリーから成り立っている。鶴田法男監督はその中から「姉妹」と「血」の2つを抽出したうえで、これを結びつけた。そして、門前家に生まれた女は誰も29歳になれば美が崩壊していく、という恐ろしい宿命の中で翻弄される一草と理沙の美人姉妹と、ある時は傍観者として、ある時はお手伝いさんという準当事者の立場でそれを観察するおろちの姿を描いた。「姉妹」と「血」は物語のタイトルであると同時にあっと驚く結末に至るキーワードとなるから、最後までスクリーンを注意することが大切!
<どっちが姉?どっちが妹?>
映画の導入部には、大きな門前家の家の中で無邪気に遊ぶ2人の少女の姿が描かれる。彼女たちは大女優門前葵(木村佳乃)の娘で、姉が一草、妹が理沙だ。もっとも姉妹といっても歳の差は明らかではない。かといって顔つきが違うから双子でもない。その意味ではちょっと不思議な姉妹だが、そのヒミツは後半明らかに・・・。
母親の葵は一見優しそうだが、トップ女優だけにさすがに娘に対するおけいこ事は厳しいようだ。ちなみに歌のレッスンにおいて、妹の理沙はきっちり歌えるのに、姉の一草が何度やっても上達しないと、葵は定規で一草の手の甲をピシャリピシャリと打つものすごい特訓ぶり。そんな環境下で育った一草・理沙姉妹だったが、なぜか成人し29歳を間近に控えた今は、一草が葵とウリ2つの顔で女優業をひきつぎ、理沙は裏方として一草を支えていた。
映画の仕事のパートナーである一草の恋人(山本太郎)は、一草が落ち目になりかけている今、理沙に色目を使い始めていたから、門前家に一波乱起こることは確実・・・?そんな門前家に秘められたたくさんのヒミツを知っているのは、門前葵の時代から仕えている門前家の執事(嶋田久作)だけ・・・。
<おろち自身にも不思議な運命が>
大雨の日、1人門前家を訪れ、門前家の人々を観察していたおろちは、すぐに門前家の中にただならぬ様子を感じとっていた。それは、人気絶頂の地位にある門前葵がなぜか不安におびえ、時々奇妙な行動をとっているため。それは一体なぜ?それが明らかになるのは、不安と恐怖におびえて大量に酒を飲んだまま1人車を運転して出かけた葵をおろちが助けた際、葵の身体に起きかけていたある異変を見てしまった時。ところが、ここでおろち自身もケガによって大量出血したため、永遠の命をもつはずのおろちにも不思議な運命が訪れることに。
つまり、おろちだったはずの谷村美月が、今は佳子(よしこ)としてギターの流しをしている夫婦に引きとられて育てられていたのだ。そんな佳子に目をつけた理沙。今は成人した理沙からの申し出は、拾い子として育ててもらっているくせに、何の役にも立たないと母親から叱られてばかりの佳子を引きとるかわりに、300万円を払うというのだ。あっけにとられている両親にお金を渡し、佳子をお屋敷に連れてきた理沙は、「何も心配しなくていいのよ。今日からあなたはここで幸せに過ごすのよ」と話して聞かせたが、それってホント・・・?
これによって、谷村美月は以降しばらくの間おろちとしてではなく、家政婦佳子として門前家のドロドロとした内幕に入りこんでいくことに・・・。
<見どころその1 女同士のつかみ合いのケンカ模様>
『赤んぼ少女』はタマミのモンスター性で勝負。したがって「赤んぼモンスター」タマミの造形をいかにするかが勝負どころだった。しかし『おろち』はそういう外観ではなく、29歳になれば美が崩壊していくことが宿命づけられた2人の女の内面がポイント。そんなドロドロした世界を描くのが大好きな(?)鶴田法男監督は、木村佳乃と中越典子の2人の女優を使ってそれを見事に描いていく。
したがって、この映画の見どころその1は、2人の美人女優によるつかみ合いのケンカ模様。それが激しくなったのは、遂に死んでしまった母親葵から、ある遺言を聞いたことを理沙が一草に伝えたため。何と理沙が葵から聞いた遺言とは、葵の実の娘は一草だけで、理沙は産院でのもらい子だったというショッキングなもの。
すると門前家の女としてあの宿命を受け入れなければならないのは一草だけで、理沙はこの先も無事にあの美貌を保っていけるの?そう知った一草が怒り狂い、理沙に対してつらくあたり始めたのは当然だったが・・・。
<見どころその2 女の内なる狂気とは?>
映画後半にみせる木村佳乃と中越典子のバトル(というより一方的な木村佳乃から中越典子に対するいじめ虐待?)は2人ともかなりの熱演。そこで誰もが持つ疑問は、なぜ理沙はそんな虐待に耐えて門前家にとどまり、一草の世話をしているの?ということ。また、せっかく家政婦として佳子を連れてきながら、佳子には掃除洗濯をさせるだけというのはなぜ・・・?
ジャパニーズホラーで有名な鶴田法男監督なら、そこらあたりにひとひねりあるはず。誰もがそう期待するはずだ。そして映画はそんな期待どおり、ある時点、ある局面において、女の内なる狂気が明確になっていくことに。それが、この映画の第2の見どころだ。
<中越典子の存在感もバッチリ!>
門前葵と門前一草の2役を演ずる木村佳乃は日本を代表する女優の1人であるうえ、鶴田法男監督のハリウッド進出第1作『ドリーム・クルーズ』(07年)で当然のごとく起用された英語ペラペラのバイリンガル女優。したがって、その暴れっぷりがハンパではないのは当然。
それに対して妹の理沙役の中越典子は『夕凪の街 桜の国』(07年)で田中麗奈の友人役として登場したものの、そこではあくまで脇役で存在感は乏しかった(『シネマルーム15』261頁参照)。しかし、『おろち』ではその美しい容姿をふんだんに見せてくれる他、姉一草のいじめ、虐待に徹底的に耐え抜いたうえ、ラストではあっと驚く「しっぺ返し」をする重要な役割を。
<谷村美月もしっかりと!>
他方、谷村美月も『茶々 天涯の貴妃』(07年)や『神様のパズル』(08年)等で近時その存在感を出している若手美人女優。女3人がほぼ同じウエイトで主役として描かれた映画は珍しいが、これはまちがいなくその1本。しかも、29歳を過ぎると、門前家の女はすべてその美が崩壊するというきびしい役を木村佳乃と中越典子がものすごい緊張感を持って演ずるとともに、谷村美月も『神様のパズル』における数学の天才とは全く異質の、クールビューティという表現がいかにもピッタリのおろち役を好演している。
若手女優ながら目立つのは、彼女の目の力。特に佳子役の彼女が父親のギター伴奏に合わせて歌うド演歌『新宿ガラス』の歌いっぷりは絶品!こんな演技を続けている限り、谷村美月への出演依頼は次々と続くはずだ。
2008(平成20)年8月20日記
