レッドクリフ(アメリカ、中国、日本、台湾、韓国映画・2008年) |
<試写会・TOHOシネマズ梅田>
2008年9月4日鑑賞
2008年9月13日記
製作費100億円を投入し、呉宇森(ジョン・ウー)監督が中・香・台・日の大スターを結集して描く「赤壁の戦い」は必見!曹操軍80万に対し、5万の孫権・劉備連合軍はいかなる戦いを・・・?そして、この映画の主役は一体誰・・・?また、天才軍師諸葛孔明を演ずるのは・・・?三国志の知識を総動員し、あるいは再度知識を補充し直して観賞すれば、興味は倍増するはず。もっとも、前編と後編に分かれていることは、宣伝戦略上内緒かも・・・?
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監督・脚本・製作:呉宇森(ジョン・ウー)
周瑜(「呉」の司令官)/梁朝偉(トニー・レオン)
諸葛孔明(劉備に仕える軍師)/金城武
曹操(漢帝国の丞相)/張豊毅(チャン・フォンイー)
孫権(「呉」の若き君主)/張震(チャン・チェン)
小喬(周瑜の妻)/林志玲(リン・チーリン)
尚香(孫権の妹)/趙薇(ヴィッキー・チャオ)
趙雲(劉備に仕える将軍)/胡軍(フー・ジュン)
甘興(周瑜に仕える武人)/中村獅童(特別出演)
劉備(漢の復興を目指し、太平を求める軍主)/尤勇(ヨウ・ヨン)
関羽(劉備の義兄弟、劉備軍の名将)/バーサンジャプ
張飛(劉備の義兄弟、劉備軍の豪傑)/ザン・ジンシェン
魯粛(「呉」の重臣)/侯勇(ホウ・ヨン)
2008年・アメリカ、中国、日本、台湾、韓国映画・145分
配給/東宝東和、エイベックス・エンタテインメント
<レッドクリフとは?赤壁の戦いとは?>
大学を卒業した日本人でも英会話は全然ダメという人が多い。しかし、考えてみれば、彼らは中学校で3年間、高校で3年間、大学の教養課程で2年間計8年間も英語教育を受けてきたのだから、その勉強量は膨大なもの。しかし、そんな彼らに「レッドクリフとは?」と聞いても、そりゃ一体ナニ?と聞く人が多いのでは?レッド=REDは赤、クリフ=CLIFFは断崖や絶壁だから、「RED CLIFF」とは赤色の断崖、絶壁のこと。
他方、赤壁の戦いと聞けば、中国史の好きな人、三国志の好きな人はすぐに、魏の曹操軍VS呉の孫権+蜀の劉備連合軍が戦い、諸葛孔明の知略によって曹操軍をコテンパにやっつけた戦いだとすぐにわかるはず。そう、呉宇森(ジョン・ウー)監督の『レッドクリフ』とは、この「赤壁の戦い」を描いた映画なのだ。
<主人公はダレ?>
「三国志」は、漢帝国(後漢)が勢力を失い、後に建国された魏(曹操)、呉(孫権)、蜀(劉備)の三国鼎立の時代を迎えた紀元2~3世紀の中国の正史を描くもの。しかし、「三国志」が中国人のみならず、多くの日本人に愛され続けているのは、劉備、関羽、張飛が織りなす「桃園の誓い」や、諸葛孔明を迎える「三顧の礼」に始まる男たちの友情物語が受け入れられたことと、そのキャラクターの豊かさにある。したがって、多くの日本人にとって、三国志の主人公は劉備、関羽、張飛の3人+諸葛孔明。とりわけ、日本人が愛してやまないキャラが関羽。
ところが『レッドクリフ』の特徴は、その主人公を周瑜(梁朝偉/トニー・レオン)に設定したこと。周瑜は呉の若き君主孫権(張震/チャン・チェン)の信頼厚い武将で、赤壁の戦いにおいて孫権から大都督=現地司令官を任ぜられた知将だが、なぜジョン・ウー監督は周瑜を主人公に・・・?
他方、周瑜とほぼ同格の主人公となっているのが、劉備玄徳の軍師であり、日本人に大人気の諸葛孔明(金城武)。曹操率いる80万の軍勢に対する、孫権・劉備連合軍は総数5万。そんな兵力差で戦うには当然知略が必要だが、さてここで孔明の知略はいかに発揮を・・・?
劉備軍を一撃のもとに打ち破った曹操軍の次の標的が呉であることは明らか。そんな中、劉備軍と連合を組むことによってしか曹操による呉征服の野望に対抗できないという諸葛孔明の考え方を呉の周瑜が受け入れたのは一体ナゼ・・・?そして、はじめて出会った周瑜と孔明との間に厚い友情と信頼、互いの尊敬が生まれたのは一体ナゼ・・・?まずはそこらあたりを、この映画でじっくりと・・・。
<ちょっと騙された・・・?>
ジョン・ウー監督が「赤壁の戦い」を映画化!しかも、製作費は100億円というアジア映画史上最大規模!そう聞いて大きな期待をもったのは当然だ。そんな『レッドクリフ』の試写会がやっと実施されたため、何をさておいてもと駆けつけたのだが、上映直前のアナウンスではじめてわかったのは、今回上映される145分の大作は、その前編だということ。つまり、事前の宣伝では『レッドクリフ』が前編と後編に分かれていることを明らかにしていなかったわけだ。
ちなみに、五味川純平原作の長編小説『戦争と人間』を山本薩夫監督が映画化した名作『戦争と人間』(70年、71年、73年)は結果的に第3部で打ち止めになったが、これは製作費が続かなくなったというやむをえない事情のため。しかし私としては、日中戦争の開始から太平洋戦争の終結に至るまでの膨大な原作を、一体何部作で映画化するのかと最初から不安に思っていたもの。
それと同じように、「赤壁の戦い」の映画化がわずか2~3時間でできるのかと私は秘かに心配していたのだが、上映直前に前編と後編に分かれていることを知ってビックリ。そこですぐに思ったのは、するとこれから観る前編は赤壁の戦いのハイライト、つまり曹操率いる2000隻の軍船が孔明の知略によって真っ赤に燃えあがったり、ほうほうの体で逃げていく曹操を関羽が見逃してやるという名場面などは登場しないということ・・・?
そう考えると、宣伝戦略にちょっと騙されたかなと思いつつ鑑賞せざるをえなかったが、前編は前編として十分な面白さが・・・。
<あなたの「三国志」ファンの度合いは? その1ー小喬を知ってる?>
「三国志」ファンは数多いが、姉の大喬と共に「江東の二喬」と呼ばれた絶世の美女小喬を知っている人は少ないのでは・・・?小喬は周瑜の妻。張藝謀(チャン・イーモウ)監督の『王妃の紋章』(07年)では、鞏俐(コン・リー)が王妃の役をしっかりと演じていたが、さすがにベッドシーンは登場しなかった。しかし『レッドクリフ』では、トニー・レオン演ずる周瑜と林志玲(リン・チーリン)演ずる小喬とのベッドシーンもしっかりと・・・。
「世界の三大美女」は、クレオパトラ、楊貴妃、小野小町だが、さて彼女たちに対抗する小喬の魅力度は・・・?それにしても、そんな絶世の美女小喬役に、映画初出演となる台湾のファッションモデルのリン・チーリンを起用するとは、ジョン・ウー監督もさすが・・・。
<あなたの「三国志」ファンの度合いは? その2ー呉征伐の動機は?>
ちなみに、曹操が呉征伐に向かったのは、もちろん天下統一の野望のためだが、それは半分・・・?あとの半分は、一目見た時から恋い焦がれていた(?)周瑜の妻小喬を手に入れるためだったということを、あなたは知ってる・・・?
曹操を演ずるのは、『さらば、わが愛/覇王別姫』(93年)(『シネマルーム5』107頁参照)や『始皇帝暗殺』(98年)(『シネマルーム5』127頁参照)等で抜群の存在感を示す張豊毅(チャン・フォンイー)。軍事面、政治面における冷徹なキレ者曹操像はそんなチャン・フォンイーにピッタリだが、ジョン・ウー監督は小喬に焦がれる曹操の意外な一面もこの映画でしっかりと・・・。
<あなたの「三国志」ファンの度合いは? その3ー劉備玄徳の嫁さんは?>
「英雄色を好む」は、秦の始皇帝や項羽と劉邦などを含む、古今東西の英雄についての動かすことのできない事実・・・?しかし、劉備は英雄でないにもかかわらず(?)、かなりの色好み・・・?この映画の前半、劉備軍の将軍趙雲(胡軍/フー・ジュン)が、曹操軍に攻め込まれ、今や風前の灯となっている劉備の妻甘夫人と糜夫人そして糜夫人との間に生まれた長子阿斗(後の劉禅)の救出に向かう姿が描かれる。そこで、このままでは足手まといになると考えた甘夫人が、自ら井戸の中に飛び込んで命を断ったのは有名なお話。
ところであなたは、その後劉備が妻として迎えた女性尚香(趙薇/ヴィッキー・チャオ)が、孫権の男勝りの妹だということをご存知?尚香は「赤壁の戦い」の前哨戦ともいえる陸戦で立派な功績をあげるのだが、さてそんな尚香と劉備との間にいつ、どんな状況で恋の芽生えが・・・?
<あなたの「三国志」ファンの度合いは? その4ー九官八卦の陣とは?>
「三国志」における英雄豪傑の鬼神のような働きは血湧き肉踊る面白さだが、司令官に仕える名参謀たちがくり広げる戦略・戦術の立て方も知的好奇心をそそるもの。日本では戦国時代に盛んに陣形の研究が行われ、「武田八陣形」が有名。その中でも鶴翼の陣や魚鱗の陣などは特に有名だ。しかして、この映画で諸葛孔明が見せた九官八卦の陣とは・・・?
これは亀の甲からヒントを得た古い陣形だが、一糸乱れぬ統率の下に展開される、九官八卦の陣による戦いぶりはお見事。去る08年8月8日午後8時8分に始まった北京五輪開会式における、チャン・イーモウ演出による出し物も一糸乱れぬすばらしいものだったが、中国人は昔からこういう集団戦法が得意・・・?そう言えば、昔モンゴルが日本に攻めてきた元寇の役(1274年、1281年)でも、日本の武士が1人1人名乗った後に一騎討ちを望むのに対し、モンゴル兵は集団で立ち向かってきたから、モンゴル人も中国人も戦いにおけるモノの考え方は同じ・・・?
『サハラに舞う羽根』(02年)で観た、イギリス正規軍による「角陣」にも感心した(『シネマルーム3』244頁参照)が、『レッドクリフ』で観た、「九官八卦の陣」によって、曹操軍を全滅させた孫権・劉備連合軍の戦いぶりにもほとほと感心。
<英雄豪傑の戦いぶりをタップリと>
「三国志」が多くのファンを持つのは、「九官八卦の陣の戦い」のような迫力ある合戦シーンを堪能することができることの他、キラ星のごとく登場する英雄豪傑たちの戦いぶりの魅力も大きい。「白髪三千丈」は少し誇張が過ぎるが、中国では多少の誇張はオーケー(?)だから、劉備の義兄弟で劉備が蜀の国を打ち立て、死によって別れるまで劉備に忠誠を尽くす関羽(バーサンジャプ)と張飛(ザン・ジンシェン)の2大豪傑の戦いぶりは、小説を読んでいるだけでイキイキとその姿が浮かびあがってくるもの。したがって、「三国志」をスクリーン上で描く以上、英雄豪傑たちの戦いぶりをカッコ良く描くことが絶対に必要だが、ワイヤーアクションをにしてしまうと、それはイマイチ・・・?
そこらあたりが、この映画におけるジョン・ウー監督の腕の見せどころだが、北京五輪の体操競技のように、団体戦は団体戦として華々しい戦いを見せてくれるうえ、個人戦として趙雲、関羽、張飛、そして日本人としてただ1人参加している中村獅童扮する周瑜の武将甘興たちの力強くダイナミックな戦いぶりをタップリと。この映画では、それを大いに楽しもう。
<後編への期待は?>
「柔よく剛を制す」「小よく大を制す」のが柔道の醍醐味。それと同じように、大軍が少数軍に必ず勝つとは限らないのは、日本における源義経の例や楠木正成の例を見れば明らか。しかして、三国志における赤壁の戦いは、中国の戦史において小が大を制した典型例。ところで、赤壁の戦いにおいて、80万の曹操軍に対して5万の孫権・劉備連合軍が勝利を収めることになった最大のポイントはナニ・・・?
それは、三国志ファンのあなたなら、風(風向)にあることはご存知だろう。つまりあの時代、諸葛孔明は気象予報士の資格こそ持ってなかったものの、天気予報の天才だったわけだ。さて、諸葛孔明は天気予報をどのように読み、それにもとづいてどのような戦術を工夫し展開したの?またそれによって、なぜ少数の孫権・劉備連合軍が曹操の大軍を打ち破ることができたの?それが後編最大の楽しみだ。
2008(平成20)年9月13日記