真木栗ノ穴(日本映画・2007年) |
<東映試写室>
2008年10月6日鑑賞
2008年10月7日記
このケッタイなタイトルはナニ?まずは、そんな疑問から「穴を」覗いてみると・・・?日傘の美女をモチーフとした売れない作家が抱く妄想は、きっとあなたも同じ。1976年生まれの深川栄洋監督と、名優西島秀俊が描くそんな耽美の世界は、江戸川乱歩?京極夏彦?それとも谷崎潤一郎・・・・?とは言っても、M・ナイト・シャマラン監督作品のような、あっと驚く結末が待っているわけではないから、安心してこのミステリーを・・・。
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監督・脚本:深川栄洋
原作:山本亜紀子『穴』(角川ホラー文庫刊)
真木栗勉(売れない小説家)/西島秀俊
水野佐緒里(白い日傘の女、東隣りの住人)/粟田麗
浅香成美(真木栗の担当編集者)/木下あゆ美
沖本シズエ(食堂の従業員)/キムラ緑子
佐々木譲二(西隣りの住人)/北村有起哉
細見貢(置き薬屋)/尾上寛之
森本飽夫(週刊誌の編集者)/利重剛
2007年・日本映画・110分
配給/ビターズ・エンド
<このケッタイなタイトルは?>
試写の案内をもらった時、まずビックリしたのがそのタイトル。「真木栗」って一体ナニ?一瞬誰もがそう思うはずだが、これは、2001年四谷ラウンド文学賞を受賞した山本亜紀子の小説『穴』の主人公である、売れない小説家の姓。それにしても、真木栗勉(まきぐりべん)とはヘンな名前・・・?
『穴』だけでは映画のタイトルとしてわかりにくいと考えて、あえて『真木栗ノ穴』としたのだろうが、むしろ『穴』だけの方がインパクトがあっていいのでは・・・?
<白い日傘の女がポイント>
アパートの壁の穴越しに見る白昼夢を描く官能小説とくれば、エッチな内容であること明らかだから、最大のポイントはその女優。『狼少女』(05年)で注目された深川栄洋監督が主役の真木栗勉役に西島秀俊を起用したのは大成功だが、ヒロイン水野佐緒里役に粟田麗を起用したのは意外。だっていくら『夕凪の街 桜の国』(07年)で好演したとはいえ、田中麗奈と麻生久美子の2枚看板プラス中越典子たちの中では、正直粟田麗は影が薄かった(『シネマルーム15』262頁参照)・・・?
プレスシートには、「ファンを自称する映画監督は多く、“古き良き昭和の匂いのする女優”と絶賛されている」と書かれているから、深川監督は、女優粟田麗のそんな雰囲気を買ったのだろうが、さてその出来は?
白い日傘とお嬢サマ風ワンピースが佐緒里のトレードマーク(?)だが、あえて何度も両足のクローズアップを見せたり、トマトを落とした際の真木栗による彼女の足の拭き方を見ていると、撮影監督を務めた髙間賢治はかなりの足フェチ・・・?
そんな謎めいた美女佐緒里に、なぜ真木栗は心惹かれたの?また、佐緒里が真木栗のアパートの東隣りに引っ越してきたのは、一体なぜ?そんな、粟田麗演ずる佐緒里の妖しい魅力に注目!
<今ドキこんな執筆スタイルってあり?>
この映画は、座敷机に座って小説を執筆している真木栗がラストの数行を書き終えるところから始まり、それと同じシーンで終わる。しかし、今ドキこんな執筆スタイルの小説家っているの?部屋の狭さや汚さは十分納得できるが、パソコンが普及した今、原稿用紙と万年筆というスタイルは、真木栗の年齢を考えるとちょっと不自然。
また、執筆を依頼する週刊誌側も、新たに編集担当者となった浅香成美(木下あゆ美)が毎回手書きの原稿を取りに来ているが、今ドキそんなまどろっこしいことでは週刊誌の連載小説の継続はムリ。今や何でも、パソコン上のデータのやりとりで処理能力をアップしなければ・・・。
<谷崎潤一郎の『鍵』『卍』を彷彿?>
私は山本亜紀子という作家もその小説『穴』も知らなかったが、1968年生まれの女性作家が、谷崎潤一郎の『鍵』『卍』を彷彿させるこんな小説を書いていたことにビックリ。ちなみに、プレスシートには、「小説『穴』は2001年に単行本として、四谷ラウンドより出版され映画化が期待されるも出版社は解散。2004年、角川ホラー文庫編集部が見出し、再び文庫本として出版、話題となる」とのことだ。谷崎潤一郎の描く「耽美の世界」は長年日本人に愛されてきたが、33歳くらいの女性の感性で描く「穴」から覗いた耽美の世界とは・・・?
真木栗の部屋の穴は東西に1つずつ。そして西は高い位置に、東は低い位置にあった。また、西隣りの隣人佐々木譲二(北村有起哉)はボクシングに熱をあげているヘンな奴だが、女を連れ込んでの熱いプレーも時々あるから、真木栗にとってはこれは見モノ。というより、これが新しく連載を依頼された官能小説を書くための大切なネタというわけだ。
他方、東側は今空き部屋。ここに女が住むことになったらいいのに・・・。真木栗がそんな妄想をしていると、何と、あの時すれ違った白い日傘の美女が東隣りの部屋に引っ越してくることに。こりゃ楽しみだが、こんなうまい話ってホントにあるの・・・?
<これは現実?それとも真木栗の妄想?>
真木栗が書き始めた連載小説の主人公は、もちろん「穴」からのぞき見るヒロイン佐緒里。もともと、小説のストーリーの発想は作家の頭の中にあるものだし、ストーリー形成も作家の頭の中で組み立てていくものだから、それはある意味「妄想」。誰だって、夜眠っている時に夢をみた経験があるが、その時はどれが夢でどれが現実かわからなくなっているはず。
すると今、真木栗が万年筆を使って原稿用紙に書いている、あのエピソードこのエピソードは現実?それとも真木栗の妄想?
エピソード1は、いかにも精力旺盛な男性の発想らしく、佐緒里が宅配便の男に襲われるシーン。また、エピソード2は、真木栗の部屋に置き薬を届けているいかにも気の弱そうな男細見(尾上寛之)の客として佐緒里を紹介した後に、期待通り起きる(?)つたない情事。
韓国映画『恋の罠』(06年)における挿絵画家グァンホンはモデルがなければ絵が描けなかったが、李朝きっての名文家であるユンソはいくらでも妄想が膨らみ、淫乱小説の筆が進んだようだ(『シネマルーム19』93頁参照)が、真木栗だって妄想が膨らめばいくらでも・・・?
<これも現実?それともこれも真木栗の妄想?>
あなたはキムラ緑子という女優を知ってる?この映画では真木栗が「穴」から覗く妄想(?)の他、自ら体験する妄想(?)も登場するが、そこで威力を発揮するのが、このキムラ緑子扮する沖本シズエ。沖本シズエは、真木栗がいつも通っている食堂の従業員だが、やけに馴れ馴れしく、「お客さん、一緒に帰ろうか」「お客さん、銭湯に一緒に行こうか」と声をかけてくるから少々気味悪いが、45歳ながら割といい女・・?
そんな女から、「お客さん、私の家すぐそこ。私の家でお風呂入ってく?」と言われたら、ウブな(?)小説家の対応は?シリアスな役柄が多い演技派の西島秀俊だが、狭いバスタブ内での仲むつまじい(?)入浴風景を含めて、真木栗と沖本との面白い掛け合いが見られるから、それに注目!
しかし、白い日傘の美しい女との出会いと同様、こんな年増女とのハプニングも、それは現実?それともこれも真木栗の妄想?
<どんなミステリーが・・・?>
2008年7月23日に見た台湾の俳優兼人気歌手の周杰倫(ジェイ・チョウ)が初監督した『言えない秘密』は予想外(?)の大傑作だった。しかし、その評論を書くについて困ったのが、M・ナイト・シャマラン監督の『シックスセンス』(99年)と同じく、「物語の結末は決して明かさないで下さい」という制約がついているうえ、「タイムスリップの結果・・・」や「時空を超えた恋」などの表現もダメと言われたこと。
古都鎌倉を舞台とした美しい風景、江戸川乱歩や京極夏彦ワールドを彷彿させる耽美な質感の中、おじさんにはちょっと嬉しいセクシーな彩りを加えた、シャマラン監督ばりのミステリー(?)は、さてどのように展開していくのだろうか?
1976年生まれという若い深川栄洋監督のピュアな感性を、じっくりと鑑賞したい。
2008(平成20)年10月7日記