悪魔のリズム(イギリス、スペイン合作映画・2007年) |
<ユウラク座>
2008年10月12日鑑賞
2008年10月22日記
アフガン、イラク両戦争で一躍有名になったグアンタナモ収容所では、一体ナニが・・・?それがこの映画のテーマだが、ここで描かれるのは夢、幻それとも真実・・・?抽象画のように描かれる恐怖の連鎖は、一体どこにたどり着くの・・・?不思議なストーリー展開の後に訪れる、ラスト15分間に見る衝撃の真実とは・・・?
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監督・脚本:ヴィチェンテ・ペニャロッチャ
プロデューサー:吉崎道代
イェブ、アリ(名もなき青年)/ルパート・エヴァンス
マヌエラ(クラブのダンサー)/ナタリア・ヴェルベケ
グイド(老紳士)/デレク・ジャコビ
女看守/エリカ・プリオール
スマイル/サイド・エル・マウデン
2007年・イギリス、スペイン合作映画・88分
配給/角川映画
<夢、幻?それとも・・・?>
この映画は、大嵐の中である海岸に流れ着いた1人の青年が、以降現実に体験する物語と、頭の中に染みついた記憶を錯綜させながら展開していくもの。さて、これは夢か幻?それとも・・・?そういう不思議な映画がコレ。といっても、美しいファンタジーではなく、青年の頭に甦る記憶はグアンタナモ収容所での過酷な尋問と拷問の日々。
そう、この青年イェブ(ルパート・エヴァンス)は、9・11テロの後一躍世界的に有名になったグアンタナモ収容所から嵐の海の中へ逃げ出し、ハバナの海岸に流れ着いたのだ。身体に残る傷の痛みはホンモノ。しかし、あの恐怖の記憶はホンモノ?それとも夢、幻・・・?
<9・11テロとグアンタナモ収容所の確認を>
2001年の9・11テロは以降世界の秩序を大きく変えていくことになったが、その直後急に有名になったのがグアンタナモ収容所。これはもともとアメリカがキューバから租借したものだが、キューバ革命によって成立したカストロ政権はアメリカの基地租借を非合法と非難。そんな曰くつきの基地がグアンタナモ基地だ。周囲が地雷原となっており脱走が不可能という特殊事情のため、01年のアフガニスタン戦争以降、アルカイダやタリバンなどのイスラム過激派のテロリスト(容疑者)がたくさんここに収容され、03年のイラク戦争以降は、さらにそれが加速した。
問題は、ここで起きている(らしい)捕虜への虐待。スペインのヴィチェンテ・ペニャロッチャ監督は、この映画でそんな難解なテーマに果敢に挑戦!
<日本人プロデューサーに注目!>
島国のニッポン人は概して世界に広く目を向けるのが苦手だが、例外は必ずいるもの。それは、『悪魔のリズム』のプロデューサーが吉崎道代という日本人女性であることを見ればよくわかる。プレスシートによると、彼女はキューバ革命とフィデル・カストロに焦点をあてた映画をつくろうとしていたが、01年の9・11テロによって状況が一変し、新たに04年にイギリス・スペイン合作としてこの映画の企画が始まったとのことだ。
グアンタナモ基地をめぐるキューバ(カストロ)とアメリカとの確執や、アフガン戦争、イラク戦争以降この基地の中で行われている捕虜虐待の実態は、マスコミの取材不足もあり、その多くが秘密のベールに包まれていた。そんな実態解明への途を1人の女性プロデューサーが切り開いたのは実に立派なもの。日本の多くのプロデューサーたちも、狭いニッポンに閉じこもり、若者受けを狙った似たようなテレビドラマづくりばかりに没頭せず、吉崎道代のように広く世界に目を向けなければ・・・。
<どんなストーリーが? その1>
この映画は、いわば抽象画。したがって、なぜこんなストーリーになるの?なぜここでこんなシーンが登場するの?とよくわからない構成が多い。
そもそも冒頭から、字幕が流れる中で大嵐のシーンが登場し、字幕が切れると海岸に打ち上げられたイェブの姿が登場する。そしてモノローグとともにイェブは動き始め、道路上に出てくるが、それを拾ってくれたのが車に乗った青年。青年はイェブの手首に囚人の痕を発見したから、これはヤバいと考え逃げ出すのかなと思っているとそうではなく、逆に妹マヌエラ(ナタリア・ヴェルベケ)のアパートにイェブを案内し、イェブを眠らせるように指示したからビックリ。病院に連れていけばきっとトラブルになると直感した青年の判断は人道的なものだったが、青年はなぜこんな行動を・・・?そしてまた、いくら兄の頼みとはいえ、いきなり見知らぬ男の面倒を同じ部屋の中で見なければならないことになった妹の気持は・・・?
この映画のストーリーその1はこれ。すなわち、見ず知らずの男女が同じ部屋の中で過ごし始めた後に生まれる不思議な信頼と愛・・・。
<どんなストーリーが? その2>
この映画でキーマンとなる中年男が、マヌエラのパトロン的な存在であり、ハバナではかなり顔の利く有力者のグイド(デレク・ジャコビ)。元気を回復した後、マヌエラの5メートル後を歩くイェブの姿を見て、グイドがメラメラと対抗心を燃やしたことは、私の目には明らか・・・?
あらゆるツテを持っているグイドは、すぐにイェブを当局に突き出すこともできたはずだが、それでは映画としては面白くない。さあ、そこでグイドがとった行動とは・・・?
<キーウーマンにも注目!>
この映画のプレスシートや予告編でやたら目につくのは、グアンタナモ収容所におけるイェブの虐待風景。とりわけ、イェブの顔を布で覆い、大量の水をぶっかけるシーン。これによって、次第に布が縮まってくると、イェブの呼吸が困難になっていくことは明らか。こんな拷問をくり返していると、いつかイェブは「俺はテロリストだ!」と自白を始めるはず・・・。
そんなイェブを監視しているのは実は女。私は最初これが女だとわからなかったが、このサディスティックな女看守(エリカ・プリオール)が再三再四登場し、さまざまな役割を演ずるから注目。それにしても、ホントにグアンタナモ収容所ではこんな尋問(拷問?)の実態が・・・?
<衝撃の真実とは?>
この映画は、グアンタナモ収容所におけるアメリカ兵によるテロリスト容疑者に対する捕虜虐待の実態を暴き、それを告発するもの。もっとも、そう言ってしまうほど単純ではないところが、この映画のミソ。つまり、イェブがグアンタナモ収容所から逃れてハバナの海岸に流れ着いたのは、一体ナゼ・・・?
ストーリー展開の中、グアンタナモ収容所における捕虜虐待の実態が再三登場するが、きっとそれは真実に近いものだろう。だってこの映画は、「キューバではタブーとされるグアンタナモ収容所、収容者とキューバのダンサーのラブストーリーをハバナで堂々と撮影した世界でもはじめての英語映画」なのだから。そんな中、ラスト15分間で明らかにされる衝撃の真実とは?それは、しっかりとあなた自身の目で。
2008(平成20)年10月22日記