天国はまだ遠く(日本映画・2008年) |
<テアトル梅田>
2008年11月15日鑑賞
2008年11月18日記
仕事もダメ、恋もダメ、そして生きていくのにも疲れた。そんな時、加藤ローサ演ずる千鶴が取った行動は・・・?千鶴が奇跡的に助かったのは、一体なぜ?民宿たむらの主人は、そんな千鶴といかに向き会うの?不自然な設定が少し目につくが、今風の若者の生き方を考えるについては、十分な問題提起作・・・?いつの時代でも若者は悩んで成長するもの、と前向きに捉えたい。
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監督・脚本:長澤雅彦
原作:瀬尾まいこ『天国はまだ遠く』(新潮社刊)
脚本:三澤慶子
山田千鶴(OL)/加藤ローサ
田村遥(民宿の主人)/徳井義実(チュートリアル)
沢登正次/河原さぶ
沢登和子/絵沢萌子
真鍋久秋(千鶴の恋人)/郭智博
坂下敏彦(タクシーの運転手)/宮川大助
亀井雅春/南方英二(チャンバラトリオ)
深瀬由香里/藤澤恵麻(友情出演)
堀江隆志/板東英二(特別出演)
2008年・日本映画・117分
配給/東京テアトル
<そんなに絶賛するほどでは・・・>
試写で見逃していたこの映画を映画館まで観に行ったのは、第1にテアトル梅田の支配人がこの映画を絶賛し、「絶対お薦めですよ」と言われていたため。また、チュートリアルという目下売り出し中の漫才コンビの1人でこの映画で本格的に俳優デビューを果たしたという徳井義実が、この映画ですばらしい演技をしていると言われたから。そして第3は、いかにも坂和的な理由だが、予告編やチラシで見る加藤ローサが魅力的だったから。
さて、そんな私の鑑賞後の感想は、たしかにテーマの掘り下げ方は面白いし、主人公2人のキャラには興味があるが、そんなに絶賛するほどでは、というもの。もちろん、これはあくまで私の独断と偏見にもとづく感想であり、評価だが・・・。
<ここが不満 その1>
以下、単なるイチャモンかもしれないが、坂和的なこの映画に対する不満をいくつか述べれば、次のとおりだ。その第1は、加藤ローサ演ずるヒロイン山田千鶴の自殺の動機。千鶴がどこから天の橋立で有名な宮津に向かったのかはわからないが、彼女の言葉や後に宮津までやってくる恋人の真鍋久秋(郭智博)の言葉を聞いていると、どうも関西ではなさそう。しかるところ、関東はもとより、日本国中自殺の名所は至るところにあるのに、なぜ京都府の宮津までやって来たの?
さらに、自殺の場所選びはともかく、その手段は睡眠薬と決めていたことは明らかだから、私が問題にしたいのは自殺の動機。ちなみに、それはその後のストーリー展開の中で明らかになるのだが、それは今ドキの若者によくある理由。つまり、仕事もダメ、恋もダメ。将来への希望もなし。ここまで頑張ってきたがもう疲れた。だからいっそのこと自殺。という極めて短絡的なもの。もちろん、本人はそう考えていないはずだが、ホントにそんな理由で若者は自殺するの?ホントにそうなら、自殺者は毎年10万人、100万人になってしまうのでは・・・?
<ここが不満 その2>
第2の不満は、チュートリアルの徳井義実演ずる民宿「たむら」の主人田村遥の対応の不自然さ。映画の冒頭、宮津駅に向かう夜の列車が映し出され、駅ではタクシーの運転手坂下敏彦(宮川大助)に対してかなり無茶なお願い(要求?)をする千鶴の姿が描かれる。その結果、坂下が案内したのが、民宿「たむら」というわけだ。
私が思うに、客がほとんど来ないとはいえ、民宿のオーナーなら彼女の姿とその雰囲気を見ただけで、何かヤバそうと思うはず。現にその後のストーリー展開の中で、田村は千鶴が自殺するためにやって来たことを見抜いていたことが明らかになるのだから、眠り続けている千鶴にふれて田村は何らかの手を打つのが当然の義務。しかるに、32時間後に起き出してきた千鶴に対して、「今日は食べるやろ・・・」と気楽に話しかけるのは、少し不自然では・・・?
<ここが不満 その3>
私の不満の第3は、ヒロイン千鶴に向かうもの。つまり、千鶴がそれなりの覚悟を決めて1人民宿に入り、睡眠薬を飲むについては、どれだけ飲めば確実に苦しまずに死ぬことができるのかくらいはあらかじめ勉強しておくべきということだ。
私がみている限り、かなり大量の睡眠薬を飲んだはずだが、スンナリ死ぬこともなく、さらには苦しんでそれを吐き出すこともなく、32時間後に心地良い目覚めが訪れたのは一体ナゼ?ホントに32時間もぐっすりと眠れる睡眠薬があるのなら、私も1年に1度くらいは飲んでみたいもの・・・。
<静かでスローなつくり方は、大成功>
去る11月11日に観た『007/慰めの報酬』(08年)は104分と上映時間は短かったが、アクションシーンをはじめとするスクリーン展開があまりにも早すぎるため、動態視力の衰えた私としては観ていてしんどかったが、長澤雅彦監督のこの映画はその正反対で静かでスローなつくり方が特徴。ストーリーとしては、自殺に失敗した千鶴が宿泊代が一日1000円と聞いた安心感もあって(?)、そのまま民宿「たむら」に留まって宮津の美しい自然や、田村たちの人情と触れ合い、スロー生活に親しんでいく中で、都会での疲れ果てた心が癒されていく姿を描く単純なものだが、その説得力は十分。
同年代の宮﨑あおいには及ばない(?)ものの、加藤ローサの若さに似合わぬ意外な演技力と、はじめての本格的演技とは思えない徳井義実のぶっきらぼうながら自然な演技によって、いい雰囲気の中で小さなエピソードが次々と積み重ねられていく。再三登場するおいしそうな蕎麦や美しい宮津の自然を千鶴と一緒に味わいながら、私たちの心の中にあるストレスを少しでも発散させたいものだ。
<なぜ仏壇に3人の位牌が・・・>
田村は両親が死亡したため、都会でのサラリーマン生活を捨てて故郷に戻り、一人で自給自足のような生活をしているが、千鶴が調べてみると(?)、なぜか仏壇には3人の位牌があった。すぐそばのタンスの上には田村の恋人もしくは妻らしい女性とのツーショットの写真とその女性が一人で微笑む写真が大切に飾ってあったから、ひょっとして位牌の一人はその女性・・・?
映画は中盤この女性の影がチラつく中、サスペンスタッチとまではいかないが、田村に少し謎めいた雰囲気がつきまとうようになる。そしてハイライトは、宮津の自殺の名所である眼鏡橋。なるほどこの高い橋から真下に飛び下りれば万に1つも助からないはず。したがって起き出してきた千鶴を車に乗せて買い物に連れて行った田村が、「あんた自殺しにきたんやろ」と聞き、「もうしました」との答えに「なんや、もうしたんか?よう助かったなあ」と早とちりしたのも、うなづけるというものだ。
やっと心が癒され、宮津を離れて都会に戻ろうと決心した千鶴が、その帰り道に田村にねだって眼鏡橋にやってきたのはなぜ?それは私にはよくわからないが、まさかここで千鶴が飛び下りることはないはず。田村はもちろんそう考えていたが、つい千鶴の顔があの女性の顔に重なってくると・・・?そこから展開されるちょっと意外なシーンに注目。
<2人は結ばれるの?それとも・・・?>
宿泊開始数日後に、「考えてみれば、1つ屋根の下に若い男と女が生活しているのだからお願いがあります・・・」と切り出してきた千鶴の言葉に田村は驚いたが、なるほど千鶴の言い分にも一理ある。私がみる千鶴は結構ジコチューな女だが、美人だし面白そうだから、至近距離にいても絶対飽きない女。もっとも、こんな女と結婚して四六時中一緒にいると、うっとうしく思えてくるかも・・・?
駅での別れは映画のラストとして最もふさわしいシーンの1つだが、宮津駅でのやりとりにみる2人の距離感のはかり方は絶妙。2人はこのまま別れることになるの?それとも、別の展開が・・・?それは、あなた自身の目でじっくりと。
ちなみに、この映画も字幕が流れ終わるまで決して席を立たないこと。そうしないと、千鶴が泊まっていた部屋の崩れていた壁に田村が千鶴の描いた下手なスケッチを置く1シーンを見逃してしまうから。この1シーンは長澤雅彦監督がかなりこだわったもの、そしてこの映画の味わいを深くするのに大きく関与しているもの、と私はみたが・・・。
2008(平成20)年11月18日記